トカゲ王の島(社会思想社・教養文庫)

 イアン・リビングストン著 松坂健訳
ff7  アランシア西方の沿岸にある小さな漁村、オイスターベイ。この地を訪れた貴方は旧友マンゴに会い、近隣の火山島に君臨するトカゲ王の軍団と、彼らが奴隷を調達するために設けているトカゲ兵たちの前線基地の存在を知りました。マンゴと共に前線基地に乗り込んで、囚人たちを救い出すために海に乗り出した貴方たちは上陸して早々に、怪物に襲われると不幸なマンゴは命を落としてしまいます。友人に代わり、トカゲ王を倒すべく貴方は島の奥へと足を踏み入れました。

 火山島はアランシア西方の海に浮かぶ孤島ですが、そこは大陸のはるか南方にある湿地帯に居住するトカゲ兵の前線基地となっており、ヴィモーナの王国と並んでこの恐るべき種族と人間との不幸な接点になっています。トカゲ兵はタイタン世界のあらゆる種族の中でも、特にその社会性や組織、統率力の強さで知られており、蛇魔人イシュトラの代理であるトカゲ王の一族によって支配されたトカゲ兵団は狂信的なまでに統一された集団によって人々に恐れられています。貴方は旧友のマンゴの不慮の死を受けて一人熱帯の火山島へと足を踏み入れ、危険な首狩り族や湿地帯を徘徊する怪物たちから逃れて、トカゲ王を倒す助けとなる島の呪術師を探さなければなりません。トカゲ兵の支配に抗する反乱勢力と協力して、反撃の狼煙を上げるのです。
 温暖多湿の気候と隔絶された地勢にある火山島では大陸とは異なる種族や文化が存在しており、中でも密林小人と首狩り族は有力な勢力となっています。縄張り意識が強く、侵入者にはためらわずに襲いかかるために彼らの集落には可能な限り近寄らないことが賢明でしょう。他にもケーブ・ウーマンのように武器を持って狩猟を行う女性など、原始的な種族や部族が多く見らます。彼らの勢力はトカゲ兵の支配地域とは未だ区別されているらしく、その中でもこうした勢力圏から離れた場所に隠れ住む呪術師を見つけ、彼の助けを得ることができれば狂信的なトカゲ王と彼の兵団に対抗するための知識と手段を授けてもらえるでしょう。

 火山島は大きく三つの地勢に分かれ、南部にある原始的な種族が多く暮らしている密林地帯、北部にあるトカゲ兵の前線基地を中心とした火山地帯、そしてそれらの間に湿地帯がまたがっていますが、南から上陸した貴方は広大な湿地帯を越えるために更なる危難を乗り越えなければなりません。湿地には鉄砲ガエルやスライムサッカーといった危険な生き物が多く棲息しており、それらのおこぼれにあずかろうと沼跳びが目を光らせています。
 トカゲ兵の集落は王が居住する石造りの城の他には、トカゲ兵たちが駐屯している草や泥で作られた住居と、奴隷や囚人が押し込められている鉱山から成り立っています。オーガやトロール、ホブゴブリンが傭兵や歩哨として歩きまわり、大トカゲや改造トカゲ兵が哨戒を行っている中で奴隷として苦役に従事させられている人々を見つけ出し、彼らの助けを借りてトカゲ王を倒すことができれば狂信によって支えられているトカゲ兵の軍団は瓦解するでしょう。側近である双頭のトカゲ兵や番犬である黒いライオン、そして怪物ゴンチョンと炎の剣によって守られているトカゲ王を倒すことが貴方の使命なのです。

 タイタン世界を舞台にした作品では意外に珍しい、主人公が正義感によって冒険に挑むお話ということもあって痛快な冒険活劇ものの印象が強い本作ですが、リビングストンの作品でも「死のワナの地下迷宮」のような極悪な罠こそないものの、怪物の強さと戦闘の厳しさはあいかわらずとなっています。おそらく初期能力値で充分な技術点がなければ、黒いライオンや改造トカゲ兵のような避けられない戦闘で倒されることがあるかもしれません。密林から湿地帯、トカゲ兵の前線基地へと移動する中で舞台が様々に変わる一方で、展開としては戦闘が中心になっているのでとにかく多彩な怪物との戦いを味わうことができますが、呪術師の試練を克服してトカゲ王を守護する力を打ち破る方法さえ見つけることができればあとは大きな危険を伴う謎に出会うことは少ないのではないでしょうか。
 作品としてはややパワーゲームの感があるものの、アランシア西岸の漁村であるオイスターベイや火山島様子といった、これまでとは毛色が違った舞台と多くの種族や怪物が紹介されている点が魅力です。特にタイタン世界で最大の勢力のひとつであるトカゲ兵団の文化の一端を知ることができる点で、価値が高い作品。彼らトカゲ兵についてはかの「タイタン」や「最後の戦士」でも詳しい様子が伝えられていますが、蛇魔人イシュトラと炎の剣、その具現化としてのトカゲ王への狂信は彼らの圧倒的な支配力の源泉となっていると同時に、王が倒れると同時に瓦解せざるを得ない弱点ともなっているのです。
>他のを見る