フリーウェイの戦士(社会思想社・教養文庫)

 イアン・リビングストン著 佐脇洋平訳
ff13  西暦2022年、舞台はアメリカ。人類はすでに大規模な食糧危機も第三次世界大戦の危機も完璧に回避されたと言われており、未来に続くと思われる平和のただなかにありました。それが崩壊した理由は今となっては誰も知る由もありませんが、ニューヨークを起点に突如発生した伝染性の疫病は破滅的なスピードで全世界を席巻すると、あらゆる対応策もむなしくわずか半年の間に、地表にあるあらゆる文明は崩壊し滅亡してしまったのです。理由も分からずに滅び去った文明の残骸の中で、理由も分からずに生き残った人々は小さな居住区をつくると、日々を生き延びることに全力を注ぐしかありませんでした。
 生き残った人類は二種類の人間に分かれました。秩序を望み、再建した町で協力して文明の再興を図ろうとする者たちと、暴力を好み、まがまがしいバイクや自動車を駆って人々から物資や食料を奪おうとする者たちと・・・。

 名手リビングストンがタイタン以外の世界を舞台にした作品は、マッドマックスを彷彿とさせる近未来バイオレンス・カーアクションとなります。主人公である貴方は疫病による文明崩壊を生き残った一人であり、今はニュー・ホープの町で暮らしていましたが、ある日一人の評議員に呼ばれます。それはニュー・ホープに多量に備蓄されている小麦の種子を南方の町サン・アングロまで送り届ければ、見返りとしてタンクローリーに満載したガソリンを提供してもらえるという話でした。
 燃料が貴重なこの情勢で、ニュー・ホープにとってこの話への選択権はありません。無法者たちが徘徊する荒野を抜けてサン・アングロを目指すために、貴方には強力な武装がほどこされた高速戦闘車両、ダッジ・インターセプターが与えられます。マシンガンにロケットランチャー、後続車を破壊するためにオイルや鉄びしまで備えたモンスター・カーを操って遥か南方のサン・アングロを目指すことになるのです。

 システムとしては戦闘方法が三種類用意されているのが特徴で、ダッジ・インターセプターに乗っての車両戦、武器を手にしての銃撃戦、そして素手による格闘戦が設けられていますがルール自体は技術点または火力点を比べて、攻撃が命中したら体力点または装甲点を削るというシンプルなもの。問題は勝敗の判定の厳しさで、格闘戦であれば6点のダメージを与えた時点で気絶となり、射撃戦と車両戦であれば1d6点のダメージを双方が与え、もちろん負ければその場でゲームオーバーとなってしまいます。
 戦闘の多さと難易度を考えれば「宇宙の暗殺者」などと比べても厳しい戦いが用意されていますが、幸いというべきは一部の例外を除くと戦闘相手にあまり強い連中がいないことでしょうか。一方で、射撃戦などである程度のダメージを受けてしまうと怪我の影響で技術点が下がるというペナルティがあり、しかもカー・アクションであるためか要所で技術点の判定を求められる場面があるので初期技術点が低くなってしまうと事実上クリアが不可能になるかもしれません。

 展開はいかにもリビングストンらしい、方角を選んで目的地へと進んでいく途中でさまざまな襲撃や事件に出会うというものです。南にあるサン・アングロへ向かうという目的がはっきりしている一方で、ダッジ・インターセプターの最大の弱点である膨大な燃料消費を補うためには旅の途上でたびたびガソリンを手にいれなければならず、単純に南には進まずにガソリンを探しまわらなければなりません。そのせいでロケットランチャーまで積んだ高速戦闘車両に乗っているにも関わらず、後の「甦る妖術使い」のような疾駆感には欠けるのがカー・アクションとしては残念なところでしょうか。
 文明が崩壊した後の無法者たちの世界らしく、あちこちで打ち捨てられた車やいかれた襲撃者に出会う展開が楽しいですが、中でも一対一で行われるブリッツ・レースの緊張感が秀逸です。サン・アングロ近くにたどりつくと町を包囲している「呪いの野犬」グループを追い払うために、パトロールの女性アンバーと協力することになりますが、このアンバーもバイオレンス・アクションのヒロインらしく銃から爆弾まで使いこなすなかなかパワフルな女性となっています。首領のアニマルを倒して、「呪いの野犬」を退けた後はサン・アングロでの歓待を受けて愛車ダッジ・インターセプターからガソリンを満載したタンクローリーへと乗り換え、ニュー・ホープまでの復路を戻ることになります。たいていの危険は往路で排除している筈ですから、最後まで気を抜かなければ、貴方の任務はきっと無事に達成されることでしょう。

 戦闘の厳しさと緊張感さえ除けば難易度は決して高くなく、途中で誘拐されたというニュー・ホープ評議会委員長シンクレアの救出も含めて充分に達成できると思います。ポイントはロケットをはじめとする装備はそれほど惜しまずに使うことができることで、選択肢次第で危険な戦闘は最低限におさえることができるでしょう。いかにも映画的な、無法者たちの存在が実に魅力的で単なる襲撃者が古代ローマの剣闘士ふうのかぶとをかぶっていたり、赤いシボレーの銃座から身を乗り出す男やカウボーイ風のガンマン、当然のように機関銃や衝角を供えている装甲車など、人物から乗り物まで破天荒で楽しい作品です。
 余談であれば、ネズミのトラップがもう少し劇的な原因によるものであれば、最後のバッドエンドが更に魅力的になったかもしれないと思わなくもありません。あとはサン・アングロに置いてこざるを得なかったダッジ・インターセプターですが、物語であればやはりアンバーが乗り継いでいるのだろうかと思ってみたりもします。

 ファンタジー以外でのシリーズ作品としては、後刊の「サイボーグを倒せ」や「電脳破壊作戦」に継ぐ良作ではないかと思います。
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