恐怖の神殿(社会思想社・教養文庫)

 イアン・リビングストン著 浅羽莢子訳
ff14  ダークウッドの闇エルフに育てられた、邪悪な「闇の子供」マルボルダス。古代の悪しきエルフの魔法を得るために、アランシア南方どくろ砂漠にある失われた都ヴァトスで五つの龍飾りに命を吹き込もうとしているマルボルダスの計画を知った魔術師ヤズトロモは、旧知のドワーフたちが暮らしているストーンブリッジの町へと赴きました。過酷な旅を終えたばかりで、たまたまそこに居合わせていた貴方はヤズトロモの言葉に不安そうな顔を見せているドワーフたちの視線を受けて、マルボルダスに先んじて龍飾りを破壊すべく旅立つことを志願したのです。

 しばらくタイタン世界からは離れていたファイティング・ファンタジーシリーズですが、今回は久しぶりに舞台をアランシアに戻しての冒険となります。「運命の森」にも登場していた善の魔術師ヤズトロモの警告を受けて、邪なマルボルダスの計画を阻むべくいくつかの魔法を教わった貴方は、砂に埋もれたヴァトスの都市を探して五つの龍飾りを破壊しなければなりません。
 過去の作品に登場した町や舞台がたびたび登場することで、タイタンの世界観を感じさせてくれるのはリビングストン作品の特徴ですが、本作ではドワーフの町ストーンブリッジを出立してダークウッドにあるヤズトロモの塔を訪れ、ナマズ川を下って以降は道を選ぶことができますがポート・ブラックサンドを経由して南方のどくろ砂漠へと向かいます。

 アランシア地方を縦断し、時にはマルボルダスの刺客をやりすごして目的地へと向かうことになりますが、幸いというべきか残念というべきか、悪名高い盗賊都市ブラックサンドはそれなりに穏当に抜けることができるので冒険の多くはどくろ砂漠と失われた都ヴァトスの探索が中心となるでしょうか。道中で水を求め、オアシスや商人の天幕を見付け、日差しから身を守ったりしながら時には大砂蛇や砂漠の触手といった奇妙な怪物に出会ったりと、砂漠らしさを感じさせる展開が魅力です。一方でリビングストン特有の厳しいゲームバランスは健在で、魔法をはじめとする体力消費の多さもあって戦闘やちょっとした選択ミスで失う体力がかなり貴重になることでしょう。
 冒険の助けとなるヤズトロモの魔法ですが、十個ある魔法の中から四つを授かりそれぞれ体力点を消耗することによって唱えることが可能です。鍵のかかった扉を開ける「開門」や攻撃に用いる「魔法の矢」、危険を警告する「罠探し」や「絵解き」などそれぞれ有効に用いることができますが、「水」を除けば魔法ごとに定められた体力点を消費しなければならない上に、たいていは魔法を使わずとも他の方法で攻略ができるようになっているので、かの「バルサスの要塞」に比べれば実用よりも好みで選んでも問題はないと思います。とはいえ、冒険に必要な幾つかの道具や事件を逃した場合に、その魔法を知っていれば解決できるという例が多いので、体力消費量を見ながら「開門」のように無難な魔法を揃えておくのが現実的ではあるでしょうか(魔法で解決する場合には体力点を消費する点には重ねて注意)。

 他のリビングストン作品と比べても格別厳しい戦いがある印象は薄い作品ですが、にも関わらず探索の厳しさと体力点消費の恐ろしさがあるのもリビングストンならではで、充分に技術点や体力点などが高くないと生き残ることが難しい一方で、単純な剣や魔法の力だけで生き残ることがほとんど不可能に近い難易度はあいかわらずです。砂咬みや変異オークのような単純に強い怪物から、にらみ針や風の精のように特別な力を持っている敵もいるので、随所に隠されている謎や道具を見付けておかなければあっという間に命を失うか、でなければ気が付くと体力も食料も失って野垂れ死にということにもなりかねません。
 マルボルダスの野望を阻むための正しい道のりが、実際にはほぼ一本道になっているのは悪い意味でリビングストンらしいところですが、秀逸なのは五つの龍飾りの存在と死の使者の存在。ヴァトスの都で龍飾りを探そうとする貴方に、マルボルダスが遣わした死の使者の呪いは探索の最中に「D」「E」「A」「T」「H」の五つの文字をすべて見付けてしまうとそのまま死に至るという恐るべきもので、しかも一つを見付けただけで体力と運を失ってしまいます。つまり手当たり次第に龍飾りを探しながらも、呪いの文字の発見は可能な限り避けなければならず、冒険や探索を行う者にとってはこれほど恐ろしい存在は少ないかもしれません。

 厳しい難易度とノーヒントの謎の多さがどうしても気になってしまうのは難点ですが、砂漠と失われた都の舞台が楽しく、異教の大神女リーシャに率いられているアラビア風のヴァトスの衛兵たちの存在が独特の雰囲気を感じさせてくれる作品。個人的には、どうせどくろ砂漠にいるのだったら蛇人カアスを出して欲しかったというのは正直なところです。と、後にガスコインの「最後の戦士」で、実際にカアスに出会うまではそう思っていました。
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