宇宙の連邦捜査官(社会思想社・教養文庫)

 アンドリュー・チャップマン著 久志本克己訳
ff15  辺境にあるアレフ・シグニ星系に横行しているという不法な麻薬「セイトフィル−D」の大量密輸。上級捜査官として麻薬組織を摘発してこれを排除し、事件を解決すべく銀河連邦犯罪局に任命された貴方は一介の星間セールスマンに扮してアレフ・シグニ星系に潜入、調査を開始します。

 タイタン世界におけるヒロイック・ファンタジーを除くファイティング・ファンタジーシリーズには正直いまいちな作品が多いですが、これも残念なことにどちらかといえば駄作に類する一冊です。内容はタイトルの通り、宇宙の連邦捜査官である貴方がアレフ・シグニ星系に潜む麻薬組織の所在を捜索する前半部と、見つけ出したアジトに潜入して組織を率いるゼラ・グロスやブラスター・バペットを追う後半部に分かれています。基本的に選択できるルートの分岐が少なく、しかも分岐そのものに意味がないことが多いというゲームブックとしてはその姿勢そのものを問いたくなる構成をしているのが欠点で、場面によっては三つの選択肢すべてが同じ結果になる箇所すら存在しています。
 難易度を下げてストーリーを追わせるつもりでいるのかもしれませんが、例えば前半部の麻薬組織のアジト捜索でも、序盤からほとんどすべての調査や捜査に失敗してから最後の調査にさえ成功すれば(運だめしこそ一回ありますが)発見することができるので、序盤の捜索自体に意味がないと思わせてしまいます。もちろん捜査には危険が伴うので、下手な行動をまったく行わずにこの最後の捜査にだけ成功するルートを選べば所持金も減らずに宇宙船を撃墜されることもなく、確実に麻薬組織のアジトを発見できるでしょう。

 一方で、よくいえば自由な捜査が認められた上で様々な事件に出会う楽しみが存在するので、衛星にある僧院に侵入してカイスのスヴァルドに出会ったり、ゼラ・グロスに捕まったりその部下とのカーチェイスに挑むなど多彩な展開を味わうことは可能です。それでも基本的には一本道で、入手できる道具も打撃力の上がる熱戦銃くらいなので物足りない感は否めません。SF作品らしくいくつかの戦闘ルールも用意されていて、銃撃戦や素手による格闘戦、宇宙船による戦闘とありますが実際のルールはほとんど変わらない上に、先述の通り最短のルートで捜査を進めれば宇宙船戦闘などは発生させずに攻略することも可能です。

 厳しい評価が多い作品ですが、それでも良い点を挙げてみるならまずは挿絵が抜群に良いことでしょうか。アメリカン・コミックでは珍しくない手法ですが、人間と機械や背景を絵柄が異なるのでかえって独特の迫力があります。ストーリー自体の描写や方々にある台詞回しも痛快で、SF活劇としての雰囲気も悪くありません。同作者の作品である「宇宙の暗殺者」のように、何でもありにしすぎてSF世界の雰囲気を壊してしまっているようなこともなく、それだけにゲームとしての出来が同作品に劣るのは残念なところです。
 とにかく難易度が低い上に展開が一本道に近いこともあって、攻略もなにもないですがそれでも気をつけるのであれば、麻薬組織を捜す前半部では所持金と宇宙船を大事にすること、アジトに潜入してからの後半部は分かれ道を見つけたらまずは寄り道することでしょうか。いちおうマルチエンディングになっていて、ブラスター・バペットを捕まえるエンディングが真になっていますが個人的には麻薬組織のアジトを爆破するエンディングの方が派手で好みです。
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