サイボーグを倒せ(社会思想社)

 スティーブ・ジャクソン著 坂井星之訳
ff17  君はジーン・ラファイエット。

 危険な遺伝学的実験によって、生まれつき超人的な力を身に付けた貴方は正義の戦士シルバー・クルセダーとなり、その力を正義のために役立てることを誓いました。四つの超能力である超体力・思念力・超技術・電撃のうちのひとつを身に付けて『恐怖結社』のチタニウム・サイボーグ、ウラジミール・ユトシュスキーを倒しタイタン・シティに平和を取り戻すのです。

 イギリスのスティーブ・ジャクソンによるシリーズ四作目の作品はアメリカン・コミック風のスーパーヒーローもの。貴方は主人公であるジーン・ラファイエットとして無敵のヒーロー、シルバー・クルセダーとなり、タイタンシティを次々と襲う事件や難題を解決しながら『恐怖結社』の会合の情報を探り、ボスであるウラジミール・ユトシュスキーを倒すのが目的です。普段はしがないサラリーマンとして働いているジーン・ラファイエットが持ち前の超能力と正義感で事件を解決していく、スーパーマンばりの活躍が親しみのある格好良さを感じさせてくれるでしょう。
 シルバー・クルセダーが生まれつき備えている能力は四種類のいずれかで、ものすごい怪力と空を飛ぶことができる超体力、他者の心を読んだり操ったりできる思念力、オーバーテクノロジーを自在に操る超技術、そして指先からほとばしる電撃のうち一つを選ぶことができます。

 数多くの危険や野望が潜んでいるタイタン・シティであちこちに隠されている手がかりや緊急情報を受けて変身するシルバー・クルセダーは多くの事件や悪漢に出会うことになります。おそろしい拷問鬼や大頭脳、ドクター死神や火の戦士やヘビ男のような悪漢から、スリやサメや喧嘩といった日常の事件に至るまで飽きさせることがなく、無断欠勤に上司を怒らせながらもあちこちを飛び回らなければなりません。小さな事件の数々に出会う中で、タイタン・シティどころか全世界を狙う巨大な陰謀の根が明らかになっていきます。
 毎回、新しいシステムを提供するスティーブ・ジャクソンですが今作はこれまで以上に洗練された技巧が凝らされており、シリーズを通しても珠玉の作品のひとつになっています。四つの超能力のどれを選ぶかによって展開も難易度も変わるようになっていますが、与えられる手がかりから実際に出会うことになる事件に至るまで一様ではなく、選んだ能力によっては解決できないどころか関わることもない事件があるほど展開が多彩なので、難易度は決して低くない上に一度クリアしても別の超能力を選んで挑戦すると、驚くほど新鮮な展開に出会うことになるでしょう。単純な分岐によらないパラグラフジャンプも駆使されているので、先に選択肢を見てしまう読み方も難しくなっています。

 最初は一番無難でヒーローっぽい超体力が難易度も低くおすすめですが、思念力などは相当苦労するのではないかと思います。これまでの作品とは違って食料による体力回復ができないこともあって、意外に戦闘でゲームオーバーになることも多く、最初のサイコロの出目次第では実質クリアができない難易度になってしまうのは厳しいところです。事件を解決していくことによって、シルバー・クルセダーはシティの住民からの感謝と英雄点を手に入れることができて、クリア時の英雄点を競うこともゲームの目的になっているので、一度や二度挑戦しただけではとても遊びつくすことのできない、手ごたえのある冒険を楽しむことができるでしょう。失敗したときに浴びせられる容赦のない罵声もまたスーパーヒーローの厳しさと、事件を解決したときの達成感を大きくしてくれると思います。
 クリアするためにはルートによって異なる『恐怖結社』の会合の日時を知り、強力なチタニウム・サイボーグを倒すための手段を手に入れて、できれば大統領暗殺計画の阻止までは成功しておきたいところです。ゲームブックとして芸術的なまでに構築されたパラグラフ構造は後の「モンスター誕生」で究極に達しますが、楽しんで遊ぶべきゲームとしての完成度であれば本作品をこそ推しますので、タイタン・シティと世界の平和を守ってください。君の成功を祈る。
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