電脳破壊作戦(社会思想社)

 ロビン・ウォーターフィールド著 酒坂昭伸訳
ff18  アルファ・ジリディウム航法を確立して宇宙に進出した人類が接触した知的種族であるアルカディア人。彼らはその接触によって得たアルファ・ジリディウム航法で侵攻を開始すると、強大な帝国の下にまたたくまに人類を支配してしまいます。二足歩行をする爬虫類にも似た姿をしているアルカディア人は自分たちの帝国を効率的に機能させるために、きわめて高性能な有機コンピュータを開発し、すべてのアルカディア人の頭脳と連結することによって巨大なアリやハチの集団のような完璧な組織をつくりあげると人類はこれに対抗することすらできなかったのです。人々は奴隷の境遇に落とされると苦難に耐えなければなりませんでした。
 貴方は宇宙探索研究局SAROSの秘密工作員となって帝国の主星アルカディオンに潜入し、彼らを支配する女王コンピュータを破壊しなければなりません。二本指のアルカディア人はコンピュータと同様の二進数を扱いますが、コンピュータが収められている建物に入るためにはその二進数による九桁のコードが必要です。行動どころか自我までも女王に頼りきっているアルカディア人にとって、コンピュータは彼ら全員の頭脳そのものであってひとたびこれを失えば強大な帝国は崩壊することになるでしょう。

 著者は新鋭ウォーターフィールド、タイタンではない、SF風世界を舞台とした作品です。SAROSの秘密工作員として地球を出立し、アルカディア帝国に抵抗するレジスタンスのメンバーを探してトロポス、ラディクス、ハルマリスの各星系を巡り女王コンピュータに接触するコードの断片を求めてまわります。武器の携行など許される筈もない世界で、偽装したレーザー剣とおそるべき格闘術を頼りにアルカディア人の警戒網を潜り抜けなければなりません。
 システムはごく正統派で、いちおう素手戦闘こそ用意されているものの、SF風世界にもかかわらず銃撃戦すらないのがかえって分かりやすくなっています。主星アルカディオンに近づくごとに情報も少なく難易度も高くなり、挿絵を見てのコード探しや合言葉によるパラグラフ・ジャンプといった謎解きがだんだん増えてくるのは上手い構成です。

 複数の星を移動することで飽きさせない描写は「さまよえる宇宙船」でも用いられた手法ですが、それぞれの分量や展開の絶妙さはウォーターフィールドならではでしょうか。これは後刊となる「仮面の支配者」でも同様ですが、飽きさせない展開と見事な描写が魅力である一方でシステムとしては特別新しい手法はとられておらず、致命的な分岐がまま用意されているのは残念なところです。充分ではないヒントの中で、右と左を間違えただけで即死亡となる場面の多さに辟易することもありますが、それだけに巨大な帝国を一人で打倒する任務の厳しさと恐ろしさを感じさせてくれる側面は否定できません。
 ベラトリックス率いる惑星トロポスのレジスタンス、ラディクスの大学内で秘密の活動を行っているザカリアス教授への接触はまだしも容易に達成できると思いますが、アルカディア人の警戒もこのあたりからかなり厳しくなり特にハルマリスでは常に死と隣り合わせの危険を潜り抜けることになります。投獄されて闘技場での戦いに駆り出されたり、コンピュータに接続された精神世界で洗脳に抵抗したりと、潜入工作であるにも関わらず多彩な活劇が用意されているのは魅力です。

 攻略では各星系で必ずコードの断片を見つけることになるため、正解のルートは限られていますが細部の展開ではいくつかの解決方法が用意されています。SF風世界をレーザー剣で戦い抜く主人公だけにその実力は折り紙つきということなのか、戦闘では理不尽に強い相手がいませんが前述の即死分岐や運だめしの結果がより深刻になる場面は多いので注意しましょう。クライマックスとなる主星アルカディオンでは、必要となる情報さえすべてそろえていればさほど苦労する場面も少ないので、コンピュータを破壊するための武器さえ手に入れることができれば任務の達成が見えてくると思います。
 パラグラフの分岐を主体とした正統派のシステムに、展開と描写で見せながらも即死罠が控えるとなるとイアン・リビングストンの作品を思い浮かべてしまいますが、ウォーターフィールド自身はむしろスティーブ・ジャクソンの影響を受けているのではないかと思える謎解きや手法をそこらに見かけることができます。理不尽なほどの難しさもなく、誤った選択に何度か倒れながらも充分にゴールを目指すことができる楽しさはシリーズでも充分に高く評価のできる良作だと思います。

 闘技場は左、そして武器庫ではコンピュータを破壊する武器とパトロール兵を一網打尽にできる武器の二つを手に入れることだけは覚えておいてもいいでしょう。
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