深海の悪魔(社会思想社)

 スティーブ・ジャクソン著 鎌田三平訳
ff19  貴方は七つの海を渡り歩く、勇敢な船乗りです。ある時、ポート・ブラックサンドを出港する商船サンフィッシュ号がおそるべき海賊船トロール号の襲撃を受けてしまいました。船に乗り組んでいた貴方は海賊を相手に勇敢に戦いますが、ついに捕まってしまうと船は焼き払われて他の船乗りたちも皆殺しになってしまいます。
 トロール号の船長、悪名高いブラッドアックスは勇敢な船乗りを無傷で船から下ろしてあげようというと貴方の腰に愛用の剣を吊るし、食料をつめた重い革袋をくくりつけると甲板から海に放り込んでしまいました(もちろん、貴方を縛り上げたままで!)。貴方の身体は海中深く沈んでいきますが、運よく古代都市の残骸に下り立つとそこにあった魔方陣のおかげで魚のようなエラが生えて、人魚のように息ができるようになったのです。信じられない出来事に驚いた貴方ですが、この深海を抜け出して海賊どもに復讐をするべく沈んだアトランティスの遺跡へと足を向けました。

 「サソリ沼の迷路」を描いた米国のスティーブ・ジャクソンによる二作目の作品は、海に沈んだ古代都市アトランティスを舞台にした海底世界の冒険となります。かつて繁栄したこの都市は魔王子マイユールの支配によりアランシアを脅かすと、水の神ハイダナが起こした洪水によって海中に没していました。貴方がこのアトランティスの遺跡に落ちたことは幸運であると同時に、このような幸運こそ中立神ロガーンの気まぐれだとタイタン世界では信じられています。都合のよい偶然が起きたのではなく、それが面白いと思われる事態をロガーンが引き起こすのです!

 この海底の遺跡で貴方は人魚や海底人、イルカや海ドラゴンにクラーケンといった海底冒険ならではの独特の種族や生き物と出会うことになるでしょう。地上の冒険で出会うような怪物や生き物たちも、コウモリ魚や海オーガ、大クモガニといった奇妙な姿で登場します。
 貴方にかけられた魔法は人魚のように水中での呼吸を可能にしていますが、夜がくるか海面に上がればその効果が消えてしまいます。期限はわずか一日、それまでの間に陸地にたどりつかなければなりません。助けになる仲間を見つけ出し、強い魔力を秘めた黒真珠を手に入れてブラッドアックス船長に目に物を言わせてやるのです。

 今作品では米国ジャクソンの作品らしく、エンディングが複数存在しています。「サソリ沼の迷路」のように目的を選ぶのではなく、それまでの探索が成功した度合いによって結末が異なるようになっていますが、命だけは助かる例や貪欲な海ドラゴンに海賊を襲わせる結末、黒真珠の力でトロール号に戦いを挑んだりおそれをなした海賊がブラッドアックスを突き出す結末まで多彩に用意されています。おそらくベストエンディングは貴方がトロール号の船長になってしまう結末だと思いますが、物語としては海ドラゴンによるものか、海賊を戦って倒す結末のほうが爽快感が得られるでしょう。ファンタジー作品としては「海賊船バンシー号」の後になる作品でもあり、極悪非道の海賊たちをこらしめる内容が対照的で面白いところです。
 全体的に戦闘は厳しくありませんが、技術点がそれほどでもない割りに体力点の高い敵が出てくるのでちょっとうっとうしいかもしれません。とはいえ、技術点の初期値がある程度低くても攻略できると思わせる難易度はむしろゲームとしては正しいんだろうと思います。ノーヒントの選択ミスによる突然死もほとんどないので、不条理な難しさはありませんがエンディング条件の一つとなっている黒真珠を多く集めようと思えばかなりの苦労をすることになります。とはいえ、先述のとおり黒真珠を充分に持っていた場合の結末は多少あっけないところがありますので、ブラッドアックス船長を倒すエンディングの方が好みです。

 適度な難易度によるバランスのよさと攻略の達成度がある楽しさ、個性的な舞台背景まで楽しめるタイタン世界のシリーズでもなかなかの良作となっています。ノコギリ鮫にオノ魚、キリ魚にホタルイカという道具魚の存在が面白くて好きです。
>他のを見る