ロボットコマンドゥ(社会思想社)

 スティーブ・ジャクソン著 安田均訳
ff22  恐竜が跋扈する未開の惑星タロス。人類はタロスを開拓するためにこれらの巨大な生き物に対抗する必要から、強力なパワーを持つ巨大な人型機械を建造して扱うようになりました。巨大ロボットを駆るタロスの文明はやがて恐竜を飼いならして家畜とすることにも成功し、開拓地には広大な牧場を築き方々には野生の恐竜を避けて先鋭的な都市を設けます。
 そうした牧場の一つで恐竜飼いのカウボーイとして働いていた貴方はその日も平穏な暮らしを送っていましたが、唐突に訪れた侵略者ミノスとカロシアン帝国によってタロスの平和は破られてしまいます。速やかな侵攻を狙うミノスは世界中に眠り病をばらまくと、人々は抵抗する暇も与えられずに全員が眠り込んでしまい、次々とタロスは制圧されていきました。世界でただ一人、眠り病の影響を受けなかった貴方は巨大ロボットに乗り込むと強大なカロシアン帝国に挑むのです。

 「サソリ沼の迷路」や「深海の悪魔」に続く、米国のスティーブ・ジャクソンによる作品はSF作品というよりも巨大ロボット作品というべき内容になっています。技術点や体力点、運点による従来通りのルールが採用されながらもロボットによる独自の戦闘が用意されていて、貴方が乗り込むロボットによって異なる性能を発揮することが可能です。体力点と同様に用いられる装甲点の他に、特徴的なのが技術点のハンデと逃亡の可否に影響がある速度、戦闘時に与えられる戦闘修正などがあり、個性的なロボットを次々に乗り替わりながら降りかかる危難を潜り抜けていかなければなりません。生命点に比べて操行点を回復させる機会は少なく、ロボットごとに性能や相性が異なるので戦闘でも一方的に勝ち続けるのは難しいでしょう。

 独自のルールやシステムを好む米国ジャクソンですが、双方向性を実現した「サソリ沼の迷路」に続いて意欲的な試みが行われているのが、惑星タロス内の各都市に再訪ができるようにしているシステムです。タロスを開放する手がかりを探しながら、どの都市に向かうかを決めていきますが進め方によって攻略方法が変わるために、従来のゲームブックではほとんどありえなかった「手がかりを見つけないままに攻略する」ことが随所で可能になっています。
 これによって難易度が下がっているように思わせておいて、手がかりを持っていなければゲームオーバーになるという方程式が成立しないために不充分な装備や情報で探索を進める独特の緊張感が得られるようになっているのはシステムの妙でしょう。遭遇したカロシアン軍からたびたび問いかけられる、合言葉への対応もこのシステムでは活きてきます。

 個性的なロボットや恐竜にまで特殊能力が用意されているのも面白いところで、蛇型ロボットであるサーペントの絞めつけ攻撃やアンキロザウルスの転倒攻撃、恐竜にだけ効果のある音波攻撃といった多彩な性能のおかげで幾度か乗り替わるロボットの存在が単調になりません。慣れてくれば自分が乗っているロボットに向いた場所で探索を試みることも可能になる訳です。
 米国ジャクソンらしく制圧された惑星タロスを救う方法は三つ用意されていて、一つは眠り病を無効にするワクチンを見つけ出してこれをタロスの地表にばらまく方法です。実はこの方法はかなり容易な上に戦闘も最小限に抑えることができますが、よりヒーローらしい活躍を望むならばやはりカロシアンの首領ミノスを倒したいところでしょう。それぞれ一騎打ちで戦う方法と、ロボットに乗って戦う方法があって背景やストーリーを考えればやはりロボット戦闘で勝利を収めたいところですが、戦闘そのものの難易度を含めてこの方法が一番難易度が高いのも米国ジャクソン流といったところでしょうか。腕に自信のある人はより劇的な攻略を進めることができるというのは、単純なマルチエンディングではなく物語性まで重視したゲームブックならではの心遣いだと思います。

 タイタン世界以外はどこか敬遠されがちなファイティング・ファンタジーシリーズですが、選択肢の多さと自由度の高さもあってなかなかの良作に分類できる作品です。どうして貴方だけが眠り病にかからなかったのか、そうした疑問はささいなことでしかありません。最新鋭の巨大ロボットにおそろしい恐竜、宗教市で出会う不可思議な力まで緻密なサイエンス・フィクションというよりも豪快なロボット映画といった風情がかえって楽しさを感じさせてくれるでしょう。物語の完成度に重箱の隅をつつくのではなく、貴方が物語の主人公になって悪い侵略者をやっつけようじゃないかという、ゲームブック本来の単純な楽しみ方を思い出させてくれる作品です。
 訳者が安田均というこの手の作品の大御所ですが、「スーパー戦車」など訳文が中途半端にストレートなのは好みが分かれるかもしれません。個人的にはこの手の翻訳ではすべて外来語のままカタカナ表記にしてしまうか、逆に例えば都市名や機械名はすべて漢字に訳して恐竜はカタカナのままにするといった統一性があったほうが違和感を感じにくかったのではないかと思います。
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