ナイトメアキャッスル(社会思想社)

 ペーター・ダービル=エバンス著 柿沼瑛子訳
ff25  捕まってしまった!網にからめとられた体は宙に浮いたまま身動きもできない。君は自分の軽率さを罵らずにはいられなかった。

 ペーター・ダービル=エバンスによる本作品は暗黒大陸クールにある城塞都市ニューバーグが舞台。主人公である貴方は旧知の親友であるトールダー男爵が治めるこの町を目指していましたが、丘から見下ろす城の情景が見えたところで突然、南国人が仕掛けた罠に捕らわれてしまいます。
 頭を殴られて意識を失った貴方は手足を縛られたまま塔の一室で目を覚ましますが、謎の声の主によって助けられるとニューバーグが南国人のものになっていることや、男爵が女魔法使いセニャカーズと彼女の手下の怪物たちによって支配されていることを突き止めました。ニューバーグの地下にはかつて封印された不死身のザカーズが眠っており、貴方は町と男爵を救い出してザカーズの復活を阻止しなければならないのです。

 ファイティング・ファンタジーの主軸であるタイタン世界を舞台にしながら、むしろホラー作品として仕立てているのが本作の最大の特徴で、描写でもシステムでもかの「恐怖の館」に勝る恐ろしさを体験させてくれるでしょう。海外作品ならではの挿絵も恐ろしさを助長していて、町を徘徊する血猟獣の描写をはじめとして全編を不気味に彩っています。狂気がうずまくニューバーグの探索では、貴方には通常の技術点と体力点、運点のほかに意志力点という能力が用意されています。「恐怖の館」の恐怖点に似ていますが、貴方が恐怖や絶望的な状況に出会うごとに意志力だめしを行い、意志力点が六以下になったときにこの判定に失敗するとその場で狂気に陥って冒険は失敗となってしまいます。
 この意志力だめしや、運だめしの判定が失敗したときの描写の恐ろしさがこの作品の真骨頂になっていますが、そのせいで判定失敗が致命的な結果につながる例が多く本作の難易度を上げている感は否めません(意志力点の初期値7での攻略はかなり難しいかと思います)。一方で分岐はほぼ一本道に近く、相応のヒントも散りばめられているので何度も挑戦すれば攻略も決して不可能ではないでしょう。個人的には運だめしを使う機会が決して多くはないので、意志力だめしにすべて代えてしまっても良かったのではないかと思います。

 捕らわれの身から脱した貴方は、町を支配する女魔法使いセニャカーズの正体を突き止めて封印されたザカーズの復活を阻止しなければなりませんが、真の道と呼ばれる正しい選択肢を外れると随所に即死かそれに近い分岐が用意されているために注意しなければなりません。ニューバーグの町中には南国人やおぞましい血猟獣が姿を現しますが、城に入れば更に恐ろしい罠や狂気が待ち構えていることを知るでしょう。中でも地下室に幽閉されている鎧の少女などは、邪悪で残酷なセニャカーズの責め苦に耐えがたい気にさせられます。
 ニューバーグを救うにはスカルロスの三又槍の頭とその柄、更にオイデンの僧侶が作ったロースの護符などを手に入れる必要がありますが、このあたりは探索こそ厳しいものの真の道さえ踏みはずさなければ見つけることができると思います。リビングストンと米英のジャクソンを除くファイティング・ファンタジー作品の中では「死神の首飾り」や「電脳破壊作戦」、「恐怖の幻影」に並ぶ良作ですが、惜しむらくは女魔法使いセニャカーズが圧倒的な存在感があるわりにあっさりと倒せてしまうことと、ザカーズの存在が強力ではあっても恐ろしさに欠けるせいで最後の戦いが蛇足的に感じられてしまうことでしょうか。ホラー作品であれば、例えば最後の戦いはザカーズではなくザカーズが取り付いたセニャカーズを相手にするとか、あるいはトールダー男爵を黒幕にするなどの手もあったのではないかと思います。

 余談ですが、石投げゲームの描写がしっかりと描かれているのはタイタン世界らしくて好みです。
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