甦る妖術使い(社会思想社・教養文庫)

 イアン・リビングストン著 多摩豊訳
ff1  長き眠りから覚めた恐るべき妖術使い、ラザック。アランシアを訪れようとしている災厄の噂を聞いた貴方は旧友である大魔法使いヤズトロモのもとを訪れ、来るべき災厄の存在と、それを倒すことができる呪われた骸骨の戦士クールの剣にまつわる伝説を教えられます。アランシアを救うべく、クールがさまよう湖を目指して貴方は月岩山地へと旅立ちました。

 迷宮探検競技以来となる、リビングストンの作品はかの「タイタン」でも語られている妖術使いラザックを打倒する冒険となります。百年前に妖術使いを倒した後、その呪いによって骸骨と化してしまった哀れな戦士クールから剣を受け取り、妖術使いの息の根を止めるといわれている魔獣ガーガンティスの角を手に入れなければなりません。狩人のシャムとドワーフのボーリーを仲間にして、山や森や洞窟を抜けてラザックを倒すための品々を集めてまわります。
 大魔法使いヤズトロモの助けを得て、邪悪な存在を倒すためにあちこちを移動してまわるという内容は同氏の「恐怖の神殿」に近い物語になっているかもしれません。ダークウッド近くのヤズトロモの塔から月岩山地に到る、広々としたフィールドを駆けまわる疾駆感が魅力で、特にクールの剣を探す前半部は馬に乗って探索する描写の見事さによって他作品とは異なる独特のスピードを感じさせる展開となっています。剣を手に入れてからは二人の仲間、シャムとボーリーとともにガーガンティスの角をはじめとする品々を集め、終盤はいよいよラザックを倒すために彼の本拠へと乗り込みます。

 世界観の紹介や演出、物語の展開で見せるリビングストンの作品の中でも特に描写に力を入れている傾向があり、限られたパラグラフ数であちこちを駆けまわって様々な怪物や亜人たちに出会っているにも関わらず、強烈に印象強い展開が多いのは流石リビングストンといったところでしょうか。悪くいえば詰め込みすぎといえるほどの、ノンストップアクションといいたくなるほどのこれだけの展開をよくも一つの冒険に収めることができるものだと感心させられます。ことに前半部、クールの剣を手に入れてヤズトロモに会いに戻るまでの展開が秀逸で、ボーリーに会って以降の展開はそれまでの疾駆感こそ薄らいでしまいますが、かわりに仲間との掛け合いが物語に楽しさを加えてくれるでしょう。
 一方で、ゲームブックとしてのシステムはある意味流石リビングストンといいたくなる単純な選択肢選びで、しかも基本的には分岐中に散りばめられている様々なヒントや品々をほぼすべて集めておかないとクリアができないという作りになっているために、べらぼうに難易度が高いにも関わらずそれを解く楽しみがほとんどないのは残念なところ。これだけ冒険が多いにもかかわらず、戦闘は少ない上に無理な強さを持つ敵も出ないためにそれこそ「死のワナの地下迷宮」のように戦いで殺されて終わりということはほとんどありませんが、ボーリーとの無駄話をひとつ聞き逃しただけでラザックに会えなくなるといった意地悪さはどうしても気になってしまいます。

 攻略としては正しい分岐を選んで必要そうなものはすべて集めなさい、としかいいようがないので、正直なところゲームを解く楽しみとしては厳しい作品。ですが、それこそアランシアを救う英雄になって各地を駆けまわる、冒険活劇の主人公を存分に楽しむには見事な作品となっています。倒れた老人を助けるか助けないかで、彼を襲ったオークを避けることができるとか偽の手紙に乗せられたことで魔奴隷の待ち伏せを受けるとか、選択肢によって展開が変わるゲームブックらしい演出をあちこちで味わうことができるので、最後のラザックの部屋を守護している骸骨の君主の質問と、その後のラザックとの戦いこそが一番無駄な謎解きを感じさせてしまうのがやはりもったいないところでしょうか。
 冒険者を攻め立てている三人の野生の女エルフというのが、日本のライトファンタジーとかいうのに慣れた人にはインパクトが強いかもしれません。
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