城砦都市カーレ(東京創元社)

 スティーブ・ジャクソン著 中川法江訳
gb  港町カーレ。カクハバードの内陸部を東西に走る、広大なジャバジ河の上を渡るように建てられているこの町は城砦都市の別名のとおり外周を城壁で囲われています。北のバクランドからシャムタンティを守るためや、海賊から港と船を守るために建てられたとも言われているこの町は、実際にはその海賊やならず者が集ってできたという噂を証明するかのように混沌とした巨大なスラムと化していました。バクランドへ抜ける唯一の道である、このカーレを越えなければマンパン砦があるザンズム連邦へ向かうことはできません。
 カーレを囲う城壁には二つの門があり、シャムタンティからつながる南門とバクランドに向かう北門とが設けられています。ことに北門はバクランドからの混沌と無秩序に対抗するために魔法の力で閉ざされており、これを開ける呪文は四つに分けられてカーレの四人の権力者に委ねられていました。

 ソーサリー!シリーズ第二作となる本作品は、最終巻に次ぐ難易度を誇る内容となっています。タイタン世界でもアランシアの盗賊都市ポート・ブラックサンドに並び称される悪名高い城塞都市カーレですが、慈悲深い領主アズール卿とトロールの衛兵たちによる過酷な秩序が存在しているブラックサンドに比べれば、カーレにはより無秩序が横行していることに気がつくでしょう。
 貴方の目的はこのカーレを抜けて北門を開けるための四つの呪文を見つけることですが、特に本作から単独で挑戦する場合や前作でもフランカーやグランドレイガーといった協力者を見つけていない場合には相当な危険と困難を覚悟する必要があります。もちろん多少の助けがあったとしてもカーレの恐ろしさは変わらず、ジャバジ河を遡上するガレー船のこぎ手を探して奴隷商人が横行している港や雑多な異種族が暮らしているスラム、スライムイーターが徘徊する地下の広大な下水道など枚挙に暇がありません。中でも悪名高いレッドアイは彼らと会って荷物を奪われるだけで済めば幸運というほどですし、おそろしいカマキリ男や殺し屋ヴァンゴーンの存在、何より酒場や宿屋ですらこの町では安心して休むことはできません。眠りに落ちて目を覚ました場所が、以前と同じである保障はどこにもないのです。

 その無秩序さではカクハバードでも大魔王の居城であるマンパンに匹敵するカーレですが、先ほどのレッドアイやスライムイーター、カマキリ男の他にも異様な種族が平然と暮らしていて、時には不用心な獲物を狩る生活を送っています。ハゲタカの代わりにハーピーが死体や腐肉をあさり、死体自体がカーレの不浄な力で動き出す姿を見ればこの町の恐ろしさも分かるというものでしょう。悪意の神として敬遠されるスラングがしごくまっとうな教義として堂々と布教されていることも、この町ではさしたる違和感を感じません。
 この町を無事に抜けるのであればとにかく四つの呪文を集めることですが、いくつかの条件があまりにも厳しいので、できればフランカーやグランドレイガーの友人ヴィックの助けを探し、必要とあればためらわずリーブラに頼るのが賢明かと思います。現れるすべての人間を疑わなければいけないようなこの町で、間違いなく頼れるのは彼らだけかもしれません。自信があれば前作からのデータを使わずに、城塞都市カーレでの単独攻略に挑んでみてもいいでしょう。

 東京創元社から、後に創土社から発刊されるソーサリー!シリーズでは訳文について好みの有無が分かれていますが、旧版となる東京創元社版ではクーガの寺院にかかわる謎解きが多少分かりにくいので注意が必要です。また誇りの神の名前は原文の英語ならではの言葉遊びとなっていますが、原文の雰囲気を損ねないのであればそのまま使うしかないのはちょっとつらいところでしょうか。呪文の順番がノーヒントとなっているのも気になりますが、旅の失敗もまたゲームブックの楽しさですから一度はサルファ・ゴーストの姿を見てもらいたいと思います。

 さあ、いよいよバクランドだ…の末文がとても好きです。
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