七匹の大蛇(東京創元社)
スティーブ・ジャクソン著 成川裕子訳
城砦都市カーレの北門を抜けた目の前に広がる広大なバクランド、バドゥ・バクの平原。大魔王がいるマンパン砦を目指すにはバドゥ・バクを越えて北方にあるスナタ森、イルクララ湖を渡って低地ザメンから高地ザメンへと続くザンズム連邦へと向かうことになります。
冠を奪還すべくバドゥ・バクを進む数日を過ごしていた貴方は、アナランドの遣いであるワシから思わぬ危機を知らされることになりました。アナランドから派遣された貴方の任務がマンパンの密偵である七匹の大蛇に知られてしまい、大魔王に急を知らせるために飛び去ったというのです!彼らを捕らえることができなければ貴方の任務はマンパンに知れ渡ることになってしまい、大魔王は万全の態勢を砦に敷くことになるでしょう。
ソーサリー!シリーズ第三作はマンパンの密偵である七匹の大蛇を見つけ出して倒すことが目的の旅になります。大蛇はかつて大魔王が七つ首を持つ怪物ヒドラと戦ってこれを倒したときに、怪物の生命力に驚嘆して首の一つ一つに命を与え、翼ある七匹の蛇として蘇らせたものでした。更に大魔王はカクハバードの七人の神々の力を彼らに与え、太陽の神グランタンカの力は陽の蛇に、風の神パンガラの力は風の蛇といった具合に魔法の力を授けました。それらの中でも時の神クロナーダの力を得た時の蛇の力は強大で、もっとも恐ろしい怪物と化したと言われています。大蛇はそれぞれの名前に応じた力を持っている反面、必ず弱点を持っているのでこれを探しながら大蛇を追っていくことになります。
シリーズも三作目とあってこれまでよりも扱われる呪文がより高度になり、体力消費の多い基本術以外による攻略が多く見られるようになっています。存在しない呪文の選択も極端に少なくなっているので、まちがえて体力を失う危険は減りましたが実質選択肢が増えているので、きちんと呪文を把握する必要性はこれまで以上に増しています。とはいえ難易度はシリーズ中でも低く、バドゥ・バクを抜けるだけであれば初めての旅でも充分に達成することができるでしょう。大蛇も出会ってしまえば倒さなければ先には進めませんので、七匹すべてを倒すことも決して不可能ごとではありません。すべての蛇を倒すことができれば最終巻では自分がアナランド人だと知られずに行動することができるようになりますが、カーレで見つかる蛇の指輪を持っていればマンパンの情報を手に入れる機会を得ることができるのでこちらの方がより重要でしょうか。
大蛇の探索もあって単調な平原の旅に思えるバクランドでは、より人為的な危険に遭遇することが多く黒エルフの商隊や野蛮で原始的なクラッタマン、平原を駆けるセントールといった輩が思いのほか徘徊している様子を知ることができます。彼らはたいていが無秩序な存在で、気まぐれに襲いかかってくることもあれば思わぬ助けにもなりますが、他にもシャドラックやフェネストラといった賢人や隠者の存在、そして大魔王が送り込んだのか悪意のある存在まで油断することができません。スナタ森の獰猛なスナタ猫やイルクララ湖の飛び魚といった珍しい生き物に出会う機会もあるとはいえ、混沌と無秩序のバクランドでは人為的な存在以上の脅威にはならないかと思います。
前述の通り七匹の大蛇すべてを追うことは決して困難ではなく、弱点さえ見つければ倒すのも容易なので危険というのであれば放棄されたスロフの寺院などいくつかしかありませんし、それすらも充分に避けることが可能になっています。イルクララ湖を渡る手段を見つけることができない例を除けば、おそらく無事にバクランドを突破できると思いますが、このシリーズ最大の魅力でもあるデッドエンドの描写のすさまじさを考えれば、難易度が低くなるとこれらを見る機会が減るのは残念なところでしょうか。特に時の蛇によるデッドエンドはこの蛇が最大の力を得ていることを充分に思い知らせてくれるでしょう。
余談ですが後に創土社から発売される新訳版ソーサリー!で、本作に登場する黒エルフの商隊を相手に貴方が披露するジョークは新訳版が圧倒的に優れていて、訳者の力量に感嘆するしかありません。
>他の本を見る