王たちの冠(東京創元社)

 スティーブ・ジャクソン著 高田恵子訳
gb  低地ザメンから高地ザメン、そびえたつザンズム連邦に威容を見せている大魔王の居城マンパンの砦。王たちの冠を奪還すべくアナランドを発った貴方の旅もいよいよ終局を迎えます。砦には邪悪で無秩序な大魔王の臣下たちが徘徊し、アナランドの王城に忍び込んだバードマンをはじめとする恐るべき衛兵たちをかわして本丸を目指さなければなりません。ある意味では城砦都市カーレ以上の悪徳の町でもある、陣営にはこれあるを待ち構えている罠の数々が用意されています。探索の旅を克服した技量と呪文、祝福と助けを携えてスローベン・ドアと呼ばれる四つの魔法の扉を潜り抜ければ、いよいよ大魔王との対決となる筈ですが・・・。

 ソーサリー!シリーズ最終作となる四作目はいよいよ大魔王の居城であるマンパンが舞台となります。原文では「Archmage」とある大魔王は新訳版では大魔法使いと訳されている通り、おそるべき呪文を使う人物とされていますがその正体は誰も知りません。
 パラグラフ数でも難易度でも最終巻に恥じない内容で、直接的な戦いが驚くほど少ないにも関わらず不用意な行動はすぐにも死に直結する上に、隠された多くの謎や手がかりを探していかなければ冠の奪還どころではないでしょう。本作だけでも単独での攻略はもちろん可能になっていますが、前作「七匹の大蛇」ですべての蛇を捕らえていれば貴方の任務は衛兵たちには知られておらず、蛇の指輪で情報を得ていればいくつかの罠を避けることも可能です。シャムタンティで手に入れた意外なカギや道具が役に立つ場面もあり、シリーズを活かした構成になっています。一方で正義の女神リーブラへの信仰を捨てていると、探索は絶対に成功しないので異教徒の方はカーレかバクランドからやり直すしかないでしょう。

 高地ザメンを抜けて砦にいたるまでの旅では、峻険な山岳地帯に暮らす多くの生き物と出会うことになります。珍しいジブ・ジブやスカンク熊、シーサテュロスや悪名高いバードマンなどが徘徊していますが、かつて大魔王に挑み逃れたという盲目の聖人コレタスを探して祝福を得ることができれば大いなる助けになるでしょう。マンパンではリーブラの加護も届かず、これまでのように女神の助けを求めることができないので注意が必要です。
 砦の中は無秩序な陣営地になっていて、門や詰め所には衛兵こそ控えていますが貴方が冠を探すアナランドの人物だと気づかれさえしなければ、いきなり襲い掛かられることも少ない筈です。雑多な無秩序と混沌の中で商店が営まれていることもあれば、拷問部屋や食料の貯蔵庫が置かれていることもあります。ブラックエルフやレッドアイといった残酷で傲慢な連中が居住する中を、手がかりを探しながら進むことになるでしょう。些細なミスが致命的な結果につながることもありますが、それは貴方がアナランド人だからではなくこの砦に暮らしている者は誰も安全ではないのです。

 本丸にいたるための難所となるのが四つのスローベン・ドアの存在で、大魔王がスローベンの魔術師に作らせたという魔法の罠はそれぞれに用意された方法を用いなければ潜り抜けることができず、このおそろしい扉の餌食となってしまいます。眠れぬラムや粘液獣マカリティックのような無作為な危険、砦を守る衛兵、危険な罠の数々に挑む貴方にわずかな救いがあるとすれば、サマリタンと呼ばれる抵抗勢力の存在でしょう。彼らを見つけ出すことができれば、いくばくかであってもこの地では貴重な助けを得ることができる筈です。
 ソーサリー!の魅力である複雑な魔法の呪文、単純な戦闘によらない探索と難解な謎解き、雑多で無秩序な種族や怪物たち、そして志半ばで倒れたときの凄惨な描写のすべてが揃った、クライマックスにふさわしい作品です。襲来するバードマンやカーレで見たレッドアイとの再開に緊張を覚え、マカリティックや姿なき暗殺者に戦慄し、眠れぬラムやスローベン・ドアに絶望する。探索の果てに出会う大魔王の正体や、禁断の呪文ZEDの秘密にいたるまですべての謎が明らかになったとき、貴方は王たちの冠を取り戻すことができるでしょう。ZEDについては当時、最終巻が発売されるまでに多くの噂が飛び交っていたものです。いくつかのデッドブロック、立ち入れば死が確定する区画に限定された事件が存在していることが残念に思えるところもありますが、そうした避けられなかった死まで含めて楽しむのもゲームブックではないかと思います。

 それでは貴方に女神リーブラの加護があらんことを。
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