3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!(チュンソフト)

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(c)CHUNSOFT

発売:チュンソフト(2004) 機種:プレイステーション2 ジャンル:アドベンチャー
評価:★★★★☆
 ロールプレイングドラマとうたう、チュンソフトがサウンドノベルシリーズから派生させたアドベンチャーゲームです。題材はいわずとしれた「3年B組金八先生」で、療養のために一年間の長期入院をすることになった金八先生に代わってサクラ中学3年B組の生徒たちを導いていくという内容です。全編テレビドラマ仕立てになっており、通常テキストで表記される会話や描写をすべて音声で行っているのが最大の特徴。会話が続いている最中に背後で放送が聞こえたり、サウンドノベルでは実現できない演出にも挑戦している意欲作です。
 ゲームとしては場面を指定して移動しながら、事件が起こるたびに手に入る「イベントカード」を集めてこれを他の人に見せることでストーリーを進めていくというもの。適切な時期に、適切な人にイベントを進めることができないとバッドエンドシグナルが点灯してゲームオーバーとなってしまいます。使えるカードの種類やイベントを進めるルートに多少の幅が設定されているために、様々なリアクションを楽しみながらB組の担任教師としてストーリーを体験していきましょう。2004年に発売された版ではシナリオが二つ、削られていますが翌年に発売された完全版では全話が収録されています。

 なんといっても最大の魅力はそのストーリーで、一話が一時間程度で完結するそれぞれの物語がどれも秀逸で泣けるほど感動するだろうこと。個性的な生徒と教師たちを主役にした、小さな事件からドラマならではの破天荒なお話までしっかりと描かれているシナリオには引き込まれずにいられません。音楽と声を中心にアニメーションを合わせた演出も見事で、ごく自然にドラマを楽しむことができるように考えぬかれた作りには脱帽ものです。数枚の静止絵にまばたきと口が動くだけのアニメーションにもかかわらず、台詞に合わせて実にテンポよく人々が語りかけてくる動きの自然さは必見でしょう。メッセージとはなめらかな動きではなく、メリハリある動きによって伝えられるものであることを証明している、といえば大げさでしょうか。
 物語は一話から十話までを経て最終話の卒業式となりますが、これを終えると0話から話が再開されて二週目のシナリオとなり、平行して起こっていた全く別の物語が展開されます。合計して二十話ほどの話があって、単純にすべてのストーリーを見るだけでも四から五週程度は遊ぶ必要がありますし、すべての話のつながりを読んで同時攻略をしようとすればゲームの難易度も一気に上がるようになっています。いちおう一度見たお話や会話はスキップできるようになっているので、それほど冗長さは感じません。

 いくつか欠点をあげるなら、ドラマを見せることが主体になっているためにシステムが犠牲になっている面があり、ゲームの難易度がかなり低く感じられること。生徒たちに感情移入しやすくバッドエンドシグナルが与える焦燥感が強いだけに、例えば野々村病院の人々のようにゲームの難易度を上げるかわりにバッドエンド時に攻略のヒントが得られるようにすればよりゲーム性を上げることができたのではないでしょうか。
 他にはぼう大に収録されている会話データがシナリオの進行に追われて聞いている余裕がないことも難点で、特にザッピングシナリオで複数のお話の同時攻略をはじめてしまうと行動の余裕がなくなって「無駄な会話」を楽しむことができなくなってしまいます。最初はドラマを楽しみながら九話十話の真のエンディングに挑み、それからパズル的に攻略するザッピングシナリオやシグナル無しシナリオを遊ぶという構成になっている点は理解できる一方で、作品としてはドラマとゲームの要素をもっと融合して欲しかったところは残念な点です(シナリオがものすごく複雑になってるでしょうが)。

 ただ、ゲームシステムの完成度を重視するなら欠点の見られる作品ですが、担任教師として生徒たちを導いていく、良質なドラマを追体験するのであればこれに勝る作品は少ないだろうと思います。ゲームであればすべてのメッセージを見てみたいという欲求がある一方で、ドラマとしては教え子たちのバッドエンド場面など見たくないと思うのであればこのシステムこそがもっとも「金八先生」に相応しいのかもしれません。転入生を加えた二十一人の生徒たちに、教師陣の誰もが魅力的で、彼らとともに過ごす一年間自体が目的となっている作品です。ハッキリ言うと金八先生のゲーム、というだけで食指が伸びにくい作品ですが見事な演出と感動のシナリオを存分に味わうことができる名作でしょう。
 様々なジャンルのシナリオがあるために好みは分かれますが、珠玉は「連弾」と「鉄ちゃんの恋」のザッピングシナリオに、ビルド計画書と決めシーンが感動的な「星に願いを」あたりでしょうか。クライマックスとなる九話十話は、個人的には真エンディング版が見事なので0話が発生する二週目から遊べるようになっていても良かったかもしれません。メインシナリオのヒロインとなる中島ヒカルさんがその筋の人にもそうでない人にも人気爆発なのはしごく当然のことですが、彼女の才能開花が「校長先生」になっているあたりは赤毛のアンが好きな身としては意味もなく嬉しかったりします。
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