ドラゴンクエストV 天空の花嫁(スクウェアエニックス)

dragonquest5
(c)SQUARE ENIX

発売:スクウェアエニックス(2009) 機種:ニンテンドーDS ジャンル:ロールプレイング
評価:★★☆☆☆
 ファンタシースター時の継承者と並び称されるドラゴンクエストシリーズ第五作。話によれば前作IVの数百年後が舞台らしいですが、地名はともかく地形がまるで異なっているのはよほど天変地異が起きたに違いありません。
 とにかく最初に不満点として挙げておきたいのが地形やマップの不親切さ。町の施設の配置がまるで考えられておらず、教会が奥まった場所にあってゲームの保存にやたらと不便な点や視点変更をしないと見えない扉の存在、ちょっとした地形の出っ張りにいちいちひっかかってしまう点がなにしろ致命的につらいです。例えばポートセルミの町にルーラで飛んできて、十字キーの上を押して町に入ると何故か町の上に現れるのでそのまま上を押しているとなんと外に出てしまいます。港に向かえばドックの扉が視点変更をしないと見えない上に、桟橋からまっすぐ続いてもいないのでふつうの建物にふつうに入ることができません。ひとむかし前の作品を思わせる海や平地が異常に少ないマップにも不自然さを感じますが、そのせいでせっかくの空飛ぶじゅうたんがストレス満点の乗り物になっているとなれば容量不足やセンスの悪さで済ませられる問題ではないでしょう。こうした不親切さに加えて歩きにくい部屋や階段、やたらとひっかかる橋やリフトにとにかく辟易させられます。ためしにグランバニアの城を出てひたすら右に歩いてみればこのゲームの何が不親切かが分かるでしょう。

 そして細かいことに見えてかなり疑問に思ったのが会話ほかのテキスト文。おどろくほど漢字が多い上に難しい単語がふんだんに使われていて、ドラゴンクエストが子供向けの作品ではないことをつくづく思い知らせてくれました。教会で仲間を生き返らせるときの台詞ひとつをとっても「命の息吹をあたえたまえ」では、漢字が読めない子供にはなんのことだかさっぱり分からないのではないでしょうか。六歳のときにさらわれて以来、十年間奴隷労働に使役されていた主人公のためにもやさしい言葉で書いてほしかったところですね。
 一方で戦闘のバランスやテンポは悪くなくひたすら繰り返しても飽きないのは良い点だと思います。範囲攻撃武器や特技が充実しているせいで攻撃呪文があまり役にたたないのはご愛敬ですが、かわりに補助呪文や特技を有効に使うことができる点は好印象で、スクルトが弱体化しているもののルカナンやラリホー、マヌーサメダパニマホトラなんかが敵味方ともに強力になっているのも魅力です。

 今作品の売りである仲間にできるモンスターは、スライムやスライムナイトといった初心者向けになんでもできる仲間が用意されている一方で、その他能力と好みで選ぶ余地が多くなっているのは良いと思います。惜しむらくは早いうちに成長が打ち止めになってしまうモンスターがいることで、気にいって連れて歩いても後半には弱過ぎて使えなくなるのはやはり残念なところですね。人間であれば親子四人の組み合わせがバランスよく使いやすいのも無難で良いと思いますが、一方でピピンに比べてサンチョの能力が中途半端でまるで使えないのは気の毒かもしれません。彼は世界でただ一人ステテコパンツを履くことができる人間だというのに。
 そんな人間よりもいっそ個性的なモンスターたちですが、ドラゴンクエストを代表するモンスターデザインは前作ですでに破綻していましたが今作では輪をかけて別物という印象になっています。明らかにデッサンが変わったスライムやドラキーを皮切りにして、かわいらしいデザインをとりそろえたアコギさがほんのり窺えるばくだんベビーやプリズニャンの追加、一方でやっつけデザインぶりがうかがえるマムーや焼き直しデザインのメッサーラにアウルベアなどいったいどこのバードスタジオが描いたんだろうかと思わせてくれますが、それ以上にヤバイと思ったのはどうしても人間にしか見えない「とつげきへい」でしょうか。彼らがモンスター闘技場に参戦して殺し合いを披露する姿は大神殿の存在よりもよっぽど問題のような気がします。

 殴り倒されたモンスターが仲間になりたがる、という設定は色々と突っ込みたいところですがしょせんはケモノの考えることと割り切ることもできるでしょう。それよりもモンスターを引き連れて町中を闊歩しても誰に何も言われることがなく、店にはごくふつうにモンスター用の装備が売っている様子にこの世界における人間とモンスターの関係のテキトウさを窺わせずにはいられません。獣や悪魔を宿屋に泊めることができるフランクさはポリンさまが願わずともとっくに人間と魔物が共存しているように見えますし、くさったしたいを生き返らせてくれる神父さまにはマスタードラゴンよりもよほど慈悲深い寛大さを感じさせられます。単にモンスターの治療や装備はモンスターじいさんにさせればよかったろうにと思いますがこのへんはつくりこみの甘さなのでかんべんしてください。

 そして天空シリーズと呼ばれているらしいシナリオですが、前作ほど破綻してはいないものの細かいところで首を傾げたくなる点が多く、煮え切らないのは前作以上という実に微妙な出来になっています。四歳の息子を伝説の勇者探しに同行させるパパス父さんはその筆頭格ですが、こんな父親だからこそ六歳になった息子が鉄のよろいに鉄かぶと、鉄のたてを持ってモンスターと戦う姿を見ても無邪気に感心していられるのでしょう。サンチェ(違)に預けた息子が大きくなってパパスの行方を探しにいく、ドラクエ3と同じ展開ではどうしていけなかったのか疑問に思わなくもありませんがそのサンチョもまともな大人とは言い難い人ですから無理もありません。
 何よりそれはどうだろうかと思ったのがパパスの最期で、おもりを頼まれた王子が誘拐されたことを知ったパパス、騒ぎになるからみんなに知らせるなと口止めするという保身っぷりを発揮した挙げ句に息子を人質に取られると無抵抗のまま殺されてしまいます。誘拐の事実を隠ぺいした上に息子の安全も王子の護衛も放棄して死ねる神経に愕然ですが、任務をまっとうするなら王子だけでも、父としてなら息子だけでも助けて逃げるべきだったでしょう。いい人なのは分かりますが戦士としても父親としても、もちろん王様としても失格です。この父親の愚行を繰り返さないためにも、子供たちを連れて冒険に出るのはせめて嫁さんを助けて以降にしたいものですね。

 ちなみにパパスの最期が愕然であるとすればママスの最期は唖然という感じで空いた口がふさがりません。息子たちの前でいい格好をしようと無茶をした挙げ句あっさり殺されてしまうのですが、力がないから捕まっていた筈のママンが勝てる訳がないし命を賭けて封印できるなら最初からやってろよと、起き上がっては倒されるマヌケっぷりを見ながら思わず突っ込んでしまいます。その心意気だけは買ってフォローの言葉をかけてくれるデボラさんの優しさが身にしみました。

 シナリオの展開では少年時代のビアンカとの冒険で、夜中のオバケ退治に何泊もすることができるという不思議設定を知らず頑張って一晩でクリアした人は少なくないのではないでしょうか。戦闘とシナリオをバラバラにつくってしまうとこういうことが起こるという好例ですが、レヌール城前半の楽しさを見てもそもそも子供時代の冒険は戦闘なしで進めた方が子供らしくて良かったろうにと思います。後味の悪さがこの手のゲームでは珍しいカボチ村の事件でも、飢きん寸前だった村人たちの主人公への反応は決して理不尽ではありませんが、どうしてお金を受け取らないまたは返すことができないんだと思った人は多いですよね?
 他にも細かいことをいうと本当にきりがないですが、オーブが落っこちる穴をどうして天空人はふさがないんだろうかとぞんざいな柵を前に考えつつ、入口を岩でふさがれた洞窟の中に20年間トロッコでまわりつづけていた人がいることよりも、その洞窟に人が暮らしている理由はどうしても思いつきません。そもそもトロッコや機関車がお城に通じている時点でこの洞窟で遊んでいた誰かが意図的につくったものとしか思えませんが、塔をこわしててっぺんに杖を置いた誰かさんと合わせてクリエイタードラゴンの思惑が透けてみえてしまいます。

 ですがそんなパパスのダメっぷりや神様の思惑を差し置いてもやはり強烈なのが主人公。天空の盾を手に入れるために結婚を申し込む卑劣さや子供のオーブをすりかえる姑息さ、カンダタこぶんから奪った宝箱を着服する賤しさなど奴隷あがりにふさわしい人間のクズっぷりを披露してくれます。幼い頃にパパス父さんから「タンスのなかみはしらべたな?」と言われたのはこういう理由かと薬草のたばを手に納得するしかありませんが、自分を奴隷としてこきつかった教団の本を読んで信仰心を深めているあたりただものではありません。たぶん字が読めない主人公のためにきれいな宗教画でも描かれていたのでしょうが、豪華な装丁を思わせる3000Gの値段設定にも納得です。
 そしてこの主人公を語る上で欠かせない結婚イベント。シナリオを重視するならビアンカさんを選ぶという声を聞くこともありますが、個人的にはフローラさんを選ぶ理由がないだけでまともに考えればビアンカさんを選ぶ神経も理解できません。十年前に死んだ父親の言葉を信じて会ったこともない母親を助けるために、伝説の勇者を探して魔界に行こうとしている人が嫁さんを迎えるなんて正気の沙汰ではないでしょう。ついでにいえば結婚後のビアンカさんの会話がいかにも新婚らしく浮かれているのはいいとしても、旦那につくすのが当たり前みたいに考えている点がうっとうしいと言えば世の女性に失礼でしょうか。

 で、個人的には「どちらも選ばない」のが自然なストーリーだと思っていた中でおもしろかったのがDS版で新しい結婚相手として登場するデボラさん。フローラさんの姉という触れ込みで何の脈絡もなく主人公の前に現れるとあんたと結婚してあげてもいいわと言い放ち、父親には正面切ってデボラには困っておったのだと言われる厄介者で、何年も行方不明になったところで実の妹すら心配してくれません。主人公を「しもべ」と呼んではばからず、俺より先に寝てはいけない俺より後に起きてもいけないと公言するような人ですが、よくよく言動を見るとたんなるいい人にしか見えないという何とも楽しい人です。たぶんフローラさんやビアンカさんだったら主人公となら不幸になっても構わないわと献身的に言ってくれるでしょうが、デボラさんなら不幸になるならあんた一人でなりなさいと言いながら主人公についてくるのでしょう。人間のクズと厄介者が町を出るならさほど心を痛める必要もなくカジノに通いつめることもできますが、そんな細かいことは置いてもほしふるうでわとまじんのかなづちを持たせて見ればこの人がアリーナ姫に匹敵するメタルハンターであることに気づかされるとは思います。

 ついでにせっかくなのでカジノ通いのすすめですが、まずオラクルベリーに行けるようになったら軍資金としてコインを五十枚ほど調達します。1000G必要ですが、これはマリアさんにもらったお金を惜しげもなく散財するといいでしょう。五十枚はモンスター闘技場で賭けられる最大額で、一回当てれば二百から四百枚くらい稼げますから、これをこつこつ繰り返して二千枚くらいのコインを貯めたいところです。もちろんこまめに教会で祈ることを忘れずに。
 元手を貯めたらスロットマシンに挑戦。狙うは十コイン台の左端で、7が二列ずらりと並んでいるのですぐに分かると思います。スロットの基本はとにかく百倍のアタリを出すことで、ひたすらコインをつぎこんで百倍未満のアタリだったらそのまま続け、千から千五百枚程度使いこんでも勝てなかったら素直にリセットしましょう。777が出れば三千枚、7777なら三万枚、77777なら三十万枚なのでこれ一発でグリンガムです。感覚では三十分くらい繰り返せば二回か三回は当たりますから、これでコインを二万枚くらい貯めたらいよいよ百コイン台に挑戦、やはり百倍狙いですがこの台ならスイカ四つかスイカ五つが目標です。一度のアタリでコイン三万枚稼げますから一気に三十万枚貯めてグリンガムのムチとはぐれ剣まで手に入れてしまいましょう。主人公にふさわしい人間のクズっぷりですが、デボラさんと二人で仲良くスロットに並ぶのも悪くありませんし、ヘンリー王子とお揃いでどれいのふくを着てチャレンジするのもいい感じです。

 もともと微妙な展開が更に雑になるのは伝説の勇者が登場して以降で、それまで強制的に一本道で用意されていた行き先が急にあちこち選べるようになりますが、手がかりがほとんどない上にシナリオを進める前提条件だけは設けられていて、しかもその理由がよく分からないという流れは不親切を通り越してちょっと呆れてしまいます。百五十年前に呑みこまれたカギを使って開けた洞窟の奥にある宝物を身につけると大神殿であやしい奴と思われる、という文章にしてもよく分からない流れですが、もしも大魔王とやらが目端のきく存在で、壺の封印が解けないようにしておけば最後のカギは誰の手に渡ることもなかったでしょう。子供時代以来の妖精の国も、時間がゆっくり進む妖精の世界を通って過去に行くというのは定番ですが、だったらオーブは少年時代の主人公が発見する前にすりかえていればよかったのではないでしょうか。

 物語もいよいよ佳境に入り、母親に会うべく魔界に向かいますがここで愕然として気づかされるのがアルミラージとかいう大魔王の影の薄さ。というか自分と嫁さんを石にした奴に対してはしばきたおすモチベーションがありますし、すべての元凶もとい原因である母親に一目会おうというのもまだ理解できますが、唐突に現れる大魔王とやらを倒さなければならない理由がどうしても見つけられません。これがハーゴンやバラモスなら周囲の城や村を滅ぼしたりもしている悪い奴ですが、神様になろうとしたら悪い奴だから魔王になりました、というのはそもそも討伐されるべき理由ですか?
 そんなことを思わせるのも魔界にある何とかいうけったくその悪い町があるためで、主人公の母親のおかげで人間になることができたという魔物たちが平和に暮らしているという天空人に匹敵する選民思想たっぷりの人々が暮らしています。さぞ主人公がひきつれているモンスターたちを蔑んだ目で見ていることだろうと思いつつ、魔界が地獄であるなら確かにこの腐れた町は天国に違いありません。強力な武器防具を売ってもらうためにせいぜい愛想よくふるまっておくのがオトナの対応というものですが、もしかしたら今回のラスボスは自分の母親かと疑ってしまうもドラゴンクエストでそれはありませんね。

 ちなみにそのミルクセーキとかいうラスボスですが、必ずしも戦闘バランスが悪くはない今作品でよりにもよってこいつが飛びぬけて頭が悪く戦闘がツマラナイという致命的な欠陥を持っています。劣化版ゲマみたいな第一形態はまだマシな方で、シドーのできそこないみたいな正体を現してからはそのトホホぶりを如何なく発揮。攻撃呪文の効果が薄い今回のシステムでマホカンタを使ってくるのはまだ許せるとしても、ルカナンを唱えながら火を吐いてくるのは頭がおかしいとしか思えません(意味ないじゃん!)。しかも追いつめられると痛恨の一撃を連発してくるようになりますが、このときも守備力無視の一撃なのにルカナンを唱えてくるので行動を無駄にしまくっているのです。よほどルカナンが好きで好きで仕方がないのでしょうが、こんなチリメン雑魚くんなら伝説の勇者くんがフバーハを唱え続けていれば楽勝ですね。
 思いつくかぎり微妙な点をあげるときりがありませんがゲームの出来自体は悪くなく、シナリオも前作ほど破綻してはいませんし噂の結婚相手も三人の中で誰かを選ぶことができる奇特な人であればそれほど気にならず、デボラさんがいない版で主人公の言動をどうやって受け入れていたんだろうかという疑問もなくはありませんが、あまりに不憫ではある生涯に同情しつつそのクズっぷりを楽しむ余裕があればそれも悪くありません。だからこそなおのこと、本来悪くない筈の操作性が不親切さのせいで失われている点はつくづく残念なところです。歩けばあちこちにひっかかり、絨毯には乗れない降りられないと言われ、馬車の仲間も回復させる賢者の石が戦闘のテンポを阻害して、ホルンを吹けば長ったらしい曲を聞かされた挙げ句に何も起こらなかったと言われてしまう。ピンポイントで襲いかかってくるストレスに気分をそがれて評価を下げざるを得ないという、徹底した中途半端さがなんとも気の毒な作品です。エンディングが手抜きにしか見えませんが別にエンディングはゲームではないので評価の範囲外にしておきましょう。

 ドラゴンクエストって家庭用機でもできるかんたんさがウリだった筈なんですけどね。
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