ドラゴンクエストVI 幻の大地(スクウェアエニックス)

dragonquest6
(c)SQUARE ENIX

発売:スクウェアエニックス(2010) 機種:ニンテンドーDS ジャンル:ロールプレイング
評価:★★★☆☆
 有名なドラゴンクエストシリーズの第六作で、当時スーパーファミコンで発売された作品のリメイク版です。おそらくIIIを意識して自由度の高いシステムにしようとしたのだと思いますが、色々集めた挙げ句ばらばらな味がジャイアンシチューのようでオモシロくはあるでしょうか。情報を与えてくれるために絶海の孤島や海底の祠、井戸の底やさびれた小屋で一人暮らしている人がやたら多いあたりに「味をととのえようとした」苦労がうかがえます。

 転職と特技を中心にしたシステム自体はDSリメイク版共通の快適な操作もあってなかなか楽しく、これで過去に覚えた特技や職業を忘れる(消す)方法を用意してくれれば文句がなかったところです。基本的に特技が強力かつ便利すぎて序盤から中盤はメダパニダンス、後半はしんくうはがあればほとんどの雑魚を捌くことができますが時折厄介な能力を持った敵が混じるので侮れません。意外なのは明らかにIIIを意識したシステムなのに仲間を自分で作ることができないことで、個性を職業で区別することができないために仲間たちの存在感が圧倒的に薄くなっています。しかも能力を自由に選べるので欲しい能力を持った仲間を戦闘中に入れ替える必要もなく、レイドックの爺さんには悪いですが馬車の存在価値がボス戦での回復用くらいしかありません。個人的には主人公を王子チャモロアモステリーから選び、仲間をハッさんミレーユバーバラの三人にすれば他の仲間はいらなかったと思います(主人公テリーならガンディーノでゲーム開始とか)。
 おなじみのミニゲームはカジノにカーリングに格闘場、そしてベストドレッサーコンテストが用意されていますがこのうち攻略必須なのがコンテスト。参加者のかっこよさを競うルールですが身につけている装備の組み合わせ次第でボーナス評価がもらえるようになっています。それなりに攻略性もあってつまらなくはないのですが、できれば装備の組み合わせによるボーナス幅をもっと大きくして欲しかったところでしょうか。スライム格闘場は仲間のスライムを参加させてモンスター相手に勝ち抜き戦をしていきますが、これにスライムナイトを参加させるのは何かズルをしている気分になるので是非ホイミンやぶちすけで挑戦してください。ちなみにドラゴンクエストに欠かせないぱふぱふイベント、今作品のそれは過去作品と比べても秀逸だと思います。

 そして天空シリーズの特徴であるらしいシナリオですが、物語が破綻していたのがIVで登場人物の言動が破綻していたのがVだとすれば今回はエピソード毎の整合性が破綻しているという感じで、事件が色々起きて飽きはしませんが伏線がないので何があったか覚えていられません。前作で気になった子供向けでない展開については最初から諦めているらしく、とてもお子様に見せられる内容ではありませんがラーの鏡(かがみ)だけ読み仮名が表示されるのは無駄なあがきが挫折した名残でしょうか。
 まず木彫り細工が名産のライフコッドで、山の精霊に捧げる木彫りの冠をよその町で作ってもらうのはどうなんだと思いつつ出立。魔王ムドー討伐に王様自ら乗り出す頼もしいレイドックを訪れると売っている武器防具が革製品や銅製品ばかりという有り様で、どうも兵士を募集する前にやるべきことがありそうです。ハッさんと一緒に捕まえたあばれ馬ことファルシオンはこの世界の住人なのに、幻の大地でも身体が透けないのはやはり名馬中の名馬だからなのでしょう。その幻の大地にあるサンマリーノの町では本作を彩りまくる色恋沙汰イベントその1が発生、町長の家でメイド女に手を出したドラ息子が売り飛ばされた彼女を追って出奔する事件が起きますが、後に町を訪れるといつの間にか二人家で暮らしていて今度は町長が行方不明になっています。町長の死体もとい行方を探そうとする様子もないので町を離れる前にカジノへ突入、用意されている景品を見るにメダル王の城を滅ぼすならカジノも滅ぼすべきだと思いますが、わずか1000Gを元手にコイン数十万枚をたたきだす人間のクズたちのおかげで数百年後、奴隷の服を着た二人の王子が苦労することになるのでしょう。

 定期船で海を渡った先、下世界のレイドックではゲバンという北斗の拳なみのネーミングセンスを持つ大臣が重税を取りたてて嫌われていますが、この国はムドー討伐に王様がたびたび兵を出したり貴重な船を沈められてどれほど散財しているかギリシア人並みの頭で考えても良いかもしれません。王子を騙る偽物を王室まで連れ込んだトム兵士長は気の毒にも辺境送りにされてしまいますが、この国では辺境よりも井戸の底にはるかに強いモンスターがうろついていることは誰も知らないみたいです。
 そんなレイドックを追い出されて山ひとつ向こうにある水きよき町アモール。はがねの剣や鉄のよろい一式が揃っているなんとも武闘派な観光地ですがどう考えてもレイドックと品ぞろえが逆だと思います。カギのかかっていた月鏡の塔にポカパマズばりに迷い込んでいたバーバラさんと出会い、ラーの鏡(かがみ)を見つけてから上世界のムドーをてきとうに退治するといよいよ下世界のムドー討伐。ドラクエ世界お得意の選民思想たっぷりなゲントの村で、チャモロが仲間になるときの言動が傍目には神からの命令電波を受信した人にしか見えないのが怖いですが、司祭や長老が奇跡を起こして神像はすべて女神像というこの世界でゲントの人たちが何を信じているかは不明です。
 ごてごてした装飾以外サンマリーノの定期船とどう違うのか分からない神の船に乗って、人数合わせのために取り残される健気なバーバラさんを置いていくとプロローグと同じムドーの城への突入場面になりますが、ミレーユさんの笛でドラゴンを呼び出せる理由はけっきょく分からず仕舞いでたぶん開発画面が公開されて使わない訳にいかなかったのでしょう。そもそも船なんか乗らずにゲントの村から空を飛んでいけば良いことですがきっと船が進水する場面も以下同文。魔王ムドーはキングレオ戦以来の定番戦法、回復攻撃スクルト防御で勝てますが問題は直前のイベントで思い出すハッさんの正拳突きがこれといって役に立たないことです。

 もちろんムドーが討伐されて夢の世界のダーマ神殿が元に戻ってもシナリオの整合性は元に戻りません。モンストルの町を襲ってアモスのおしりにしゃぶりついたモンスターの正体があまりにも不明ですが、夢遊病のようなものだから理性のタネで治るという理由は小一時間くらい説明してもらっても理解できないでしょう。そんなことよりもショックなのはアークボルトの兵士が普通にムドーよりも強いことですが、山の北側に抜ける洞窟が塞がれて困っているという割に洞窟の向こうにはさびれた家があるだけで何が困っていたのか分かりません。ちなみにこの家に暮らしているおじさん、近所にある天まで伸びる階段を知らないというなかなかの自宅警備員ぶりを見せてくれます。
 その天まで続く階段(隠語)を上って夢の世界(隠語)にたどり着くと個人的にドラクエ世界屈指のがっかりボスことジャミラスさんが登場。幸せの国に連れていってあげるというすごい甘言で人々をさらっていく悪い奴で、自分の城に集まった部下たちの歓呼を独り占めにしていますがもちろんそこは夢の世界。大人になればガキ大将になれるよと慰めてあげたいところですが、とりあえずムドーと同じ戦法でさくっと退治してあげましょう。

 夢弁慶を倒したら現実に戻ってホルストックの城へ。自分では何もせず主人公の尻に隠れて滝に打たれたら立派になる不思議な王子様が登場しますが、バーバラさんがこれで終わり?と拍子抜けしていたのが開発者自身の代弁にしか聞こえません。とはいえ王子を迎える三つの試練がやはりムドーよりもごく当たり前のように強く、本当はこの子を亡きものにするつもりでいるらしい王家の事情が垣間見えてそりゃあ逃げるよねと思います。
 そしてある意味今作品で最も理不尽さを感じさせるクリアベールのイベント。町に到着した早々に子供がすでに死んでいたという、子供向けの作品ではありえない展開が出迎えてくれますが教会に行くと不憫な両親を神父さんがなぐさめている一方で、話しかけるといつものように「いきかえらせる」の言葉が並んでいるのです。教会でも呪文でも人が生き返る世界でこの手のシナリオは無理があることを再三思わせてくれますが、せっかく手に入れた空飛ぶベッドも魔法のじゅうたんを入手して以降は邪魔なオブジェでしかないのが更に気の毒ですね。

 気を取り直してフォーン城へ行くと色恋沙汰イベントその2となるカガミ(かがみ)姫が登場。何千年も昔に鏡の世界に閉じ込められたお姫様を助けるために、夢の世界で悪い魔法使いを倒すというおとぎ話風のシナリオは決して悪くないのですが姫に恋慕した王様がやっぱり自分では何もせず主人公に魔法使いを倒してもらうのはやはり問題だと思います。それでもこの他力本願な色王の願いを叶えてあげると次なる町で待っているのもまたかよと思わせる人魚と漁師の色恋沙汰イベント。この漁師、魔物が跳梁して漁ができなくなった漁村で愛する人魚のために貴重な魚を買い占めるのは人間としてどうかと思いますが、自分で出迎えておきながら主人公が船に乗っていたのを忘れるあたりたぶん難破したときにどこかが壊れたのでしょう。人魚さんの方は買い占められた魚をぼりぼり食べるケモノだからしょせん何かを期待するのは酷というものですね。
 そしていよいよ外洋に乗り出してここからが冒険の本番、その最初に訪れるだろう雪に覆われた町マウントスノーで待っているのが色恋沙汰イベントなのはいっそ清々しく喧嘩を売られている気分にさせられます。自分のことを人に話さないという約束を破った男に怒った雪女が町を氷漬けにしてしまいますが、同じことを雪男がやったら迷わず討伐されていただろうと思うと今も昔もオンナは得だという教訓を与えてくれるエピソードですね。ちなみにこのイベントの後で伝説の剣を手に入れるべく封印された洞窟に向かいますが、後ろからこっそりつけてきていた青い剣士くんがさも自分が発見者のように振る舞う傍若無人ぶりにちょっと唖然とさせられます。姉さんがきちんとしつけてあげないとタンス漁りの常習者たる主人公のようなクズ人間への道が待っているかもしれません。ちなみに後のチンドンシリーズとなる伝説の武器防具、主人公だけが装備できる理由は何の説明もありませんがいっそ過去に誰もできなかった伝説の剣、盾、兜そしてステテコパンツの伝説スタイルに挑戦してもらいたいところです。

 下世界のライフコッドに行くとすっかり忘れていた主人公の分身を見つけることができますが、アークボルトの兵士も裸足で逃げ出す猛者揃いの村人たちを見るに彼が弱虫と莫迦にされていたのも仕方ありません。分身が石像みたいにならずに女をこましていたのはたぶん主人公特権ですが、女狂いの臆病者で責任感皆無という性格を見せられてしまうとコイツと合体するのは嫌だなあと本気で考えてしまいました。ちなみにこの村、竹槍を売っている武器屋の横でよろず屋がゾンビキラーを売るのはどうかと思います。昔は悪い王様とヤクザがはびこっていたというガンディーノは青い剣士と姉さんの過去を説明するためだけの町ですが、ヤクザとか賄賂とか奴隷とかお子様に見せられないドラゴンクエスト節が全開でこの作品がA指定なのが不思議でなりません。地下牢にいるお爺さんがドラゴンを呼びだす笛を持っていた理由はあいかわらず謎ですが、そんな笛があれば牢屋から女の子を逃がすよりももっと色々なことができますね。
 伝説の鎧があるから魔王に襲われるかもしれないので悪魔を呼びだそうとしているグレイス城。もうこれだけで何の説明もいらないイタさあふれる設定ですが、お城だけが立派で城下町も村もない領土を見るに鎧よりも先に守るものがあるだろうとは思います。そして伝説の剣を求めて出奔した鍛冶職人の家があるロンデガセオの町。錆びついた伝説の剣は見当違いの海底で死んでいる父の志を継いだ娘さんの手で鍛えられますが、遂に手に入ったコイツをさっそくおしゃれな鍛冶屋に持っていくとトンテンカンと更なる業物にしてくれるのです。しょせん井の中の蛙などこんなものよと言いたくなりますが、そのおしゃれな鍛冶屋がカエルのいる井戸に暮らしているのは皮肉ききすぎですお父さん。

 海底で昼寝をしている間抜けなグラコス様をいつもの定番戦法で倒すと夢の世界でよみがえる魔法都市カルベローナ。人々の境遇に同情しながらも実は町が滅ぼされたとき一緒に死んでいたバーバラさんには何のフォローもない仲間の気遣いがむしろありがたいですね。はぐれメタルも覚える究極魔法マダンテを授けた直後に謎の雷で長老が殺されてしまいますが、どうしてバーバラさんがまとめて打たれなかったのかは不明です。そして空に浮かんでいるお城、後の天空城はデュラン様という筋肉はゴリラで脳みそはゴリラという方に守られていますが、この方が素肌にブーメランパンツ姿で回転しながら体当たりをしてくるというなんとも男あふれるガイ。手段を問わず彼を求めてしまった青い剣士テリーくんを見るにお姉さんが泣いていると思いますが、仲間になると能力が激減してしまうあたり彼が失ったモノの大きさが分かろうというものですね。
 天馬の塔に後の天空の塔のデザインを流用しているのは整合性が取れないような気もしますがそこは穏やかに無視しつつ、何の説明もなく実はペガサスだったお馬さんに乗って何の説明もなく王様がペガサスの力を解放してくれて何の説明もなく大魔王が作ったという狭間の世界へ。下りた瞬間に全員の能力値がゼロになる理由は何の説明もないので分かりませんが、もっと分からないのは絶望の町の人々が希望にあふれると全員の能力値がもとに戻る理由でしょう。故郷に帰る希望を抱いては裏切られて絶望していた人々が、抜け道が見つかるも自分たちは通れないのに希望を失っていないのは主人公たちを元気づけるために無理をしてくれているのでしょうか!

 ところでこの狭間の世界、町の名前が絶望の町やら欲望の町と、ドラゴンクエストを遊んでいるお子様からよくぼうってなーにと聞かれればパパスもママスもびっくりのネーミングセンスですね。もちろん小さなお子様にも読めるようにぜつぼうもよくぼうも平仮名で書かれていますが、大賢者の宝を探す主人公が町の人々と殺し合うドグラ星の王子様も喜びそうな展開に大きくなること請け合いです。宝探しを焚きつけていたモルガンさんがおびえて寝込んでしまうのもリンチまっしぐらの印象でなかなか後味が悪く、こいつはもうおしまいだなとか気軽に言ってる場合じゃないですよハッさん。
 大魔王の居城に繋がる地下通路への入り口をわざわざ隠している理由は大賢者にしか分かりませんが、たどりついた牢獄の町では投獄拷問公開ギロチン開催中と重ねてお子様には見せられない展開が盛りだくさん。絶望のあまり井戸に身を投げ出そうとしている女性や井戸の底に散財する死体、果てはシスターに魔物の魂を植えつけるという話題が登場してももちろんドラゴンクエストはA指定の作品です。

 ようやく囚われの大賢者マサルさんとクリムトさんを救出して、旅の扉をつくる能力のために捕まっていたという彼らが見せてくれるのが「賢者キャノン」としかいいようがない莫迦な技でおいおいどこが旅の扉だよと突っ込む気すら失せるあまりの迫力に大笑いです。そしていよいよ突入する大魔王の居城はTDLをほうふつとさせる楽しいアトラクションが満載で、登場する敵も適度に弱いですがおどりふうじだけは覚えておかないとハマること請け合いでしょう。
 最終ボスは前作アルミラージにも匹敵して影が薄いデストラーデ様。いまひとつ彼と彼が率いていた四人の魔王たちとの関係が分かりませんが、爺いの姿では失礼という全国の爺いに失礼な台詞を投げてから現した正体を見て「ハッさん!?」と言いたくなるほどハッさんに似てるのはこちらの動揺を誘う大魔王の策に見事にひっかかってしまいました。とはいえこちらにはホイみんという無尽蔵ベホマズンタンクがあるので苦戦する理由もありませんが、ハッさん似の大魔王が頭と両手だけになる第三形態は攻撃回数が増える一方でパーツ破壊されるごとにどんどん弱くなるので多少なりとも緊迫感があるのは最初の数ターンだけ。前作のルカナニストほど弱くはありませんが、このタイプのボスはパーツがなくなるごとに本体の攻撃パターンを変えないといけませんよ。クリア後のおまけではダークドレアムがデストラーデを退治するという妙なおまけもありますが、それはそれでグレイス城の人たちに何て説明をしたらいいか迷わなくもありません。

 エンディングは印度映画を思わせる前作に比べるとシンプルに仕上がっていますが、イベントが回収しきれず町長やゲバンのその後が不明なのはご愛敬。とはいえ別に思い入れなんかある筈もない天空城とヌスタードラゴンの誕生で締めくくられてしまった瞬間、メガドライブ版エターナルブルーのエンディングをそのまま使えばさぞ美しく終わったろうにと思わせるバーバラさんの健気さが最後まで気の毒ですね。ヒロインらしく振る舞うことなどまるでしていなかったのに、こっそり主人公と同じパーティ離脱不可&バシルーラ耐性を持っているのが個人的にはポイント高いです。
 後のIVやVの世界観に無理矢理つなげようとしたせいであちこちに無茶は見えますが、もともと夢の世界からやってきたものだから多少の理不尽さは許容してねと強引に自分を納得させつつ全体を通してみれば意外と悪くないというのが正直な感想。悪くないからと言って良いとは限りませんが、別にロールプレイングゲームにストーリーなんて関係ないじゃんという正統派のファンには自由度が高めのシステムがけっこうお薦めできる作品です。あとはおまけダンジョンで登場するIVの住人が暮らしている村で、ソロくんとソフィアさんの配置が逆だったらもう少し評価が上がりました。
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