野々村病院の人々(シルキーズ)

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(c)SILKY'S/ELF

発売:シルキーズ(1994) 機種:PC98 ジャンル:アドベンチャー
評価:★★★★★
 アダルトゲームで有名なエルフの姉妹ブランド、シルキーズ制作による探偵ものアドベンチャーゲームです。当然、この作品もアダルトゲームとなっていますが、同ブランドによる前作「河原崎家の一族」に続く複雑に絡み合ったシナリオと謎解きの見事さと、年齢制限があるからこその戦慄するほどに緊迫した展開が味わえる作品です。主人公は天才にして紙一重の一線を超えてしまっている探偵、海原琢麻呂。不慮の事故によって足を骨折し、入院先となった野々村病院で数日前に起きていた院長の死の真相を探るべく、美貌の院長夫人の依頼を受けるとギプスのついた足を引きずりながらも恐ろしい事件に立ち入っていくことになります。

 当時のこの手のアダルトゲームのお約束として主人公の琢麻呂が常軌を逸した変態で探偵としては優秀であるらしいのですが、天才の自分を誰もがひれふして崇めるほどに敬愛し、女性は進んで自分に身体を捧げたがっていると確信しているすさまじい性格をしています。一方、主人公のこの性格のおかげでプレイヤーがこのゲームに挑むことができる面も否定できず、なまじまともな主人公であれば感情移入した挙げ句、事件の背景に渦巻いている狂気にプレイヤーが耐えられなくなってしまうのではないでしょうか。アダルトゲームだからこそ許されている陰惨なほどのストーリーは、海原琢麻呂だからこそ挑むことができるのではないかと思います。
 ゲームとしてはごくまっとうな、コマンド選択式のアドベンチャーゲームですが複数の出来事や登場人物が時間と場所を移動しながら刻々と変化していくことが特徴で、例えばある場所で話し込んでいる間に出会うべき人物や事件が過ぎ去ってしまったり、逆に自分の言動によって他人のその後の行動や展開まで変わってしまうために思わぬ危険に晒されることも珍しくありません。その複雑に構築されたシナリオは絶妙というしかなく、それでいて理不尽さを感じさせないので推理によって危難を避けることも可能になっているところがゲームとして見事です。主人公が片足を骨折しているため、スーパーマンでありながら肉体的な危険に弱いという状況も緊迫感と恐怖感を高めてくれます。

 院長の死とそれにまつわる事件を解決するためには、驚くほど複雑な謎を解きほぐしていかなければなりませんが、バッドエンド時に登場人物によるヒントを聞くことができるのでどれほど難しくても充分にクリアは可能だと思います。ライバル役のお坊っちゃん探偵があまりにいい加減な存在であるところは気になりますが、個性的ながらどこか欠けている登場人物たちも秀逸で、彼らや彼女たちの心を解きあかしていくうちにおぞましい事件の全容が明らかになっていくでしょう。
 18禁のアダルトゲームにも関わらず、いわゆるいかがわしい行為に及ぶと「ほぼ確実に」バッドエンドが待ち受けているという構成も見事ですが、事件解決を目指すと同時にいくつも用意されている凄惨な結末のすべてを見つける楽しみもあって、やり込むことが好きな人は全エンディングを制覇して野々村マスターの称号を目指してみるのもいいかと思います。コマンド選択式のアドベンチャーゲームとしては到達点の一つを示してみせた作品ですが、個人的には家庭用機向けに一部展開や画像が規制されているセガサターン版のほうがより好みです(画像はセガサターン版です)。
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