シェンムー一章横須賀(セガ)
(c)SEGA
発売:セガ(1999) 機種:ドリームキャスト ジャンル:FREE
評価:★★☆☆☆
セガが70億円もの開発費用を投じ、故大川会長に大目玉をくったというエピソードに信憑性を覚えずにはいられない超大作ゲームです。舞台は1986年の横須賀。武道場の一人息子である芭月涼は、突然道場に現れた藍帝という男に父を殺されてしまい、仇を討つために香港への渡航を決意します。手がかりは藍帝が探しているという二枚の青銅鏡でした。
FREEという新ジャンルを名乗ってはいますが、実際には3D視点のアドベンチャーゲームで随所に格闘ゲームやミニゲームが挿入されるというもの。日々刻々と過ぎていく時間の中で、暮らしている全ての人々が個々の生活を営んでいて朝になれば出かけて夜になれば家に帰るといった日常を送っています。クリスマスになれば町をサンタが歩き、受験時期には同級生の姿が消えたりと時期や日によって町の姿も変わり、横須賀の町を歩き回って彼らと言葉を交わしたり店で買い物をしたり広場で修行をしたりしながらシナリオが進んでいきます。父が残した青銅鏡の一枚を見つけて香港に渡るまでが本作の内容ですが、春までにクリアすることができないと鏡の在処を知った藍帝が現れてゲームオーバーになってしまいます。
随所に挿入されているミニゲームが実に多彩で、実際にスペースハリアー等のゲームが遊べるのもご愛敬ですが、主となるのは多対一の格闘ゲームに、QTEと呼ばれる往年のLDゲームを彷彿とさせるボタン操作イベント。後に「龍が如く」で大幅に改善されることになりますが、正直なところではアドベンチャーモードはテンポが悪く、格闘ゲームは機会が少なく、QTEは唐突なだけで緊張感が乏しいという厳しい評価をせざるを得ない出来映えとなっています。一方で世界観の作り込みもそれほど徹底してはおらず、事前に発表されていたプロトタイプ版に比べても人々の動きが中途半端に不自然なのがむしろ致命的かもしれません。状況をいちいち独り言で説明してくれる主人公はもちろんですが、特に町の人々がきちんと歩き過ぎていて例えば主人公が近付いても話しかけるまでは視線すら変えないので暴走車を華麗に避ける「クレイジータクシー」の住人のほうがよほど自然に見えてしまいます。
個人的には期間をクリスマス前の一週間程度に限定してしまい、舞台も思いきり狭くしてその分町の人々の行動や謎ときを複雑にすればよりゲームらしくなったのではないでしょうか。格闘ゲームも用意されている場面があまりに少なく、修行も一人でしかできないので組み手やランダム戦闘を設けても良かったと思います。あとはやはりQTEですが、失敗しても同じ場面からやり直しになってしまうと緊張感も何もないので容赦なくゲームオーバーにするか、展開が分岐するといった工夫はして欲しいものです。この辺りの不満点は後に「龍が如く」で改善されることになりますが、それだけこの作品の未完成ぶりが際だっているといえるでしょう。
話題性に対する完成度のトホホぶりと、妙に味のある不自然さが強烈なインパクトを与えてしまった作品ですが、一方で用意した材料があまりにも無駄に調理されてしまったので、本当に完成されたシェンムーを遊んでみたいとけっこう本気で思わせてしまう不思議な魅力を持っていることもちょっとだけ否定できません。できれば「龍が如く」よりも任天堂の「ゼルダの伝説ムジュラの仮面」を開発したスタッフにこのゲームを作ってもらいたかったと、なかなか失礼なことを考えさせてくれる怪作です。
>他の記事を見る