抜忍伝説(ブレイングレイ)

nukenindensetu
(c)BRAIN GRAY

発売:ブレイングレイ(1988) 媒体:FD ジャンル:ロールプレイング
評価:★★★☆☆
 抜忍伝説にラストハルマゲドン、そしてロードス島戦記といえばMSXでも群を抜いてディスクアクセス時間の長さを誇る作品のトップ3ではないかと思われますが、そのうち二つがブレイングレイの作品であるというのも流石というべきでしょうか。そのブレイングレイが第一回記念作品として世に送り出したのがこの抜忍伝説となります。

 時は天正九年。織田信長に攻められた伊賀の里で、壊滅したと思われていた伊賀忍軍はその命脈を保っていましたが厳しいおきてに背いて里を抜け出した三人の男たちがいました。体術使いの邪鬼丸に毒使いの小源太、幻術使いにして水使いの幻妖斎はそれぞれの事情に従い、互いに関わりを持ちながら物語を進めていくというシナリオとなっています。
 ゲームはディスク四枚組で、オープニングを除けば邪鬼丸、小源太、幻妖斎の三つのディスクが用意されていてそれぞれがまったく別の三本のシナリオになっているのが特徴。選んだ主人公のシナリオを進めていくと、互いの事件や消息が時系列で関わっていくという構成になっています。いわゆる「ザッピングシステム」の前身を思わせなくもありませんが実際には三本のシナリオでデータを共用することができないので邪鬼丸編、小源太編、幻妖斎編の三本のシナリオを別々に遊ぶという以上のものではありません。それでも斬新さを覚えるシステムと引き込まれるストーリーの妙は怪作と呼ばれるにふさわしいものがあるでしょう。

 とはいえたいていの人が辟易するだろう点がシステムの複雑さとゲームの難易度の高さで、冗談抜きでコメの一粒から手裏剣の一本、薬や道具の一つまで拾ったり買ったり作ったりできるシステムが面白い反面で初心者を冷然とはねかえす敷居どころか壁の高さを感じさせます。抜忍らしく手元には金も道具もほとんどない、という状態で追手や無頼の輩と戦っても迂闊な戦い方をすれば手傷を負うだけであり、腹をすかせれば食事をかき集めて傷を負えば薬で癒さなければなりません。その上、ゲームを開始したばかりでは自分が何をすればいいのかも判然とせず、オープニングやシナリオを思い返しながら目的を探していかなければならないのです。
 これ自体は海外のロールプレイングゲーム作品を思わせる、不親切ではあれプレイヤーが自分の遊び方を自分で選ぶ楽しみとなっていますが、一方で自分とは別に他の二人の主人公も行動していますので、気がつけば何も分からないままに他の二人が現れなくなってイベントにも出会えないといった事態になりかねません。マップ自体は決して広くはないので、基本的には次にどこに行くべきかを考えてそこでイベントを起こすことを繰り返すことでシナリオが進んでいきます。時折他の主人公に出会ったり、共通するイベントが起こったり、ある時以降は彼らが現れなくなる、その理由が三人のシナリオを進めていくうちに明らかになっていくストーリーは見事なものでしょう。

 戦いでは多彩な戦法を駆使することができますが、基本的に手傷を負わずに完勝しなければ薬や装備が失われていく一方ですので、どれだけ優位な場所や状況で戦えるかと、それができない状況でどれだけ戦いを避けることができるかが攻略の鍵となります。例えば邪鬼丸なら屋外、特に森の中では無敵に近いですが町中や建物内ではほとんどの特技が封じられてしまうため、なるべく逃げるか手裏剣でしのぐ必要がありますし、幻妖斎は中盤以降強くなる一方で序盤は水の上(!)以外ではほとんど優位に戦うことができません。小源太はとにかく毒が強力なので、これを駆使することができれば相当強いですが数に限りがある上に、風向きによっては効果が弱まるので使い方に慣れが必要です。慣れれば慣れるほど面白くなる、ですが慣れるまでは日々を生き残ることすら難しく経験値稼ぎのような軟弱な攻略は不可能で、三人の主人公それぞれに個性や特技が異なるのですから序盤に投げ出してしまったという人も少なくないのではないでしょうか。
 ですが逆に攻略方法さえ分かってくると影に潜み危険を避ける忍者らしい緊張感に、好機があれば一気に敵を蹴散らすことのできる豪快さが心地よく、複雑で思いがけないシナリオに驚きながら他の主人公たちの行く末を思う、存分に物語にのめり込まされていく作品です。システム先行のデータゲームらしいきらいはありますが、実際にはいくつかのポイントさえ抑えれば複雑なルールをすべて用いる必要もありません。好きな人には存分におすすめができますが、苦手な人であれば手すらつけない方が無難という、なんとも人を選ぶゲームです。

 保存したところからゲームを続けないようにする、というネタは後に新鬼ケ島でも使われていましたね。
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