ある探検家の記録と記憶 太陽の神殿を求めて(セガサターン版)

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 今日から遺跡調査を始める。鬱蒼とした森の中に開けた土地に点在している、石造りの建造物跡。名高い「太陽の神殿」を求め、私は古代アステカ文明に挑戦するのだ。
 そんな私の手元には小さな絆創膏が一枚、これが全ての持ち物になる。おそらく小学生の昆虫採集でも、もう少しましな装備をそろえて探索に望むであろう。しかし私は違う。ほぼ身一つに近い形でこの遺跡に戦いを挑み、そして攻略してこそ私は真の意味で勝利を得る事になるのだ。私をこの地に送り込んだ者の意思など知ったことではない。
 さっそく遺跡の探索を始める事にする。意味も無く時間を費やすのは、私の趣味ではない。それにしてもだだっ広い森の中に遺跡群が点在しているものだが、これでも昔に比べてずいぶん歩きやすくなったとは言われている。さて、どこから手をつけるべきだろうか。
 額の汗を腕で拭いながら、まず最初に目についたのは、この遺跡で最も大きな建造物の一つである尼僧院だった。一つ深呼吸をして、中に立ち入ると三体の像が並んでいるが、その造形に感動しているようでは私はただの観光者と変わらない。
 私の気を引いたのは、中央の老人の像の胸にはめ込まれている奇妙な円盤だった。円盤の中央部にある宝石をよく見ると、驚いたことに時が経つにつれて刻一刻とその輝きを変えていくではないか。こんな宝石の発見だけで大変な事だと思わなくもないが、この程度で浮かれるのは凡人にまかせておくとしよう。凡人ではない私は像の胸から円盤をむしりとると他の遺跡をまわる事にした。そういえばこの円盤を手にする時、力をこめたせいか縁の所が壊れてしまったが大丈夫だろうか?
 尼僧院の北、カラコルと呼ばれる奇妙な場所に立ち入った。カラコルとはマヤ文明の都市の名前だったと思うが、何か関係があるのだろうか。現地の人にそう呼ばれている理由をけっきょく私は理解できなかったが、私のような探検家は知識の欠如を足で補うものである。
 カラコルは円形の部屋の中央に円い柱のような台座が立っていて、壁には小さな小窓があるだけの変わった部屋だ。おそらく何かの儀式に使われたのであろうが、調査に訪れたからには、その謎も解く必要があるだろう。小窓の向こうには、遺跡でも最も奇観を誇るという千柱の間と呼ばれる広場が見えているが、さて・・・。
 尼僧院、カラコルのさらに北に足を進めて、私は高僧の墓を見つける。探検家にとって墓はあばかれる為にこそ存在するのだ。玄室の入り口は巧妙に隠されていたが、この程度のカラクリは私のようなベテラン・アドベンチャラーにとっては自動ドアを開けるにも等しい作業だ。簡単に奥に入ると、そこには石造りの棺が安置されていた。棺の蓋には鮮やかなタイルがはめ込まれているが、探検家たるもの蓋よりもやはりその中身をこそ気にすべきだろう。
 棺には当然のごとくと言ってよいのだろうか、遺体がおさめられている。だが、私の気をひいたのは既に白骨と化している遺体そのものよりも、それが被っていた片目の仮面だった。おそらくこれを被った状態で血を浴びると、仮面から触手のような角が飛び出し、古代の力が発動するのだろう。冗談だ。石仮面を手にした私の探検家の勘では、まだここには何かありそうな気がするのだが、今は他の場所へと歩みを向ける事にしよう。調査はまだ始まったばかりなのだ。
 それから私はカスティーリョと呼ばれる場所を訪れた。カスティーリョとはククルカン、彼らが崇めていた羽の生えたヘビを指している。余談だが私は探検家だがヘビはあまり好きではない。最低でも一本くらい足が生えていて欲しいと思う。
 カスティーリョの入り口もやはり閉ざされているのだが、私のテクでここを開けるのは高僧の墓よりも更に容易だった。石造りの通路の先、開いた扉の向こうには見事な彫像や美しい宝石の輝きが見えている。ただし、ここで慌てて飛び込むのは自らを罠にかけて下さいと言っているようなものだ。こういった宝物が収められた場所にはたいてい、盗掘を恐れて様々な仕掛けが施されているものなのだ。もっとも私は盗掘などする気はないのだが、今はもういない古代の人間に崇高な調査と野蛮な盗掘の区別をつけろと言っても無理な話だろう。
 緊張しながら慎重に中に立ち入ると、祭壇には陶磁器の壷や金粉の小山など、たくさんの財宝が山積みにされていた。銀の香炉や金の台座、美しい宝石。これだけで一財産が築けそうに見えるが、私の目的はあくまで「太陽の神殿」だ。こんな財宝に本当は用は無いのだが、手に入れられる物は手に入れておくべきだろう。それにしても、一枚のバンソウコウを持ってきただけでこれほどの財宝を見つけてしまうあたり、私は自分自身に恐れ入ってしまう。
 せっかくだから手に入った財宝はよくチェックしておこう。皮袋に入った香料コパル、先端に砂鉄を付けた杖、そして汚れた紙片。こういったちょっと変わった物にこそ重要な意味が含まれているものなのだ。何故だって?おいおい、それじゃあ君は意味もないのに汚れた紙片を財宝の部屋に放り込んでおくのかい。二つあった薬壷の中身も、分析すれば興味深い事実が発見される事は充分ありうるだろうが、それにしても片方の壷は私の指先くらい小さい。こんな小さな壷を作れる古代人の技量に感嘆を覚える。
 この遺跡の近隣には二個所の泉がある。その内の片方、南にある泉は水もきれいで、水面が太陽光を反射してまぶしく輝いている程だ。ちなみに北にある泉はいけにえの泉と呼ばれているらしい。昔は本当にこの泉にいけにえを投げ入れる習慣があったらしく、なるほど濁った水はその名にふさわしい不気味さを感じさせている。
 いずれにしてもこのような場所に立ち入るならば、細心の注意が必要だろう。私は遺跡の調査と探索に来たのであって、泉に溺れる為に来たのではない。南の泉では沈んでいる金の笛も手に入れたが、壊れて音が出ないのが多少残念だ。古代の音色と私の芸術的センスが融合したメロディーを君に聞かせてあげたい所だったが・・・。
 そういえば、このいけにえの泉を探索している途中で神殿跡を見つけた。崩れた壁に囲まれて、石造りの炉台が置かれている。ここは古代の儀式を再現してみるのも一つの手だろう。私は銀の香炉を炉台に置き、先ほど手に入れていたコパルをさっそく焚いてみることにする。貴重な発掘品を燃やしてしまうことに非難する声があるかもしれないが、今も記したように私は古代の儀式を再現しようとしているのだ。
 香を焚くとあたりに幻想的な煙が立ち込め、だんだんと景色が二重に見えてくる。今まで見えなかった物が見えてきそうな感覚に、私は古代アステカ文明の歴史を感じる事ができた(訳者註.良い子は真似をしないで下さい)。しばらくすると不思議な感覚も消え去り、私の頭脳もふたたび鋭利さと犀利さとを取り戻したようだ。それにしても不思議な体験だった。
 遺跡で最も奇怪な場所と言えば、やはり先程カラコルの小窓から見えていた千柱の間だろう。その名の通り、精密な文様の凝らされている何本もの柱が広場を埋め尽くしている。少なくとも、先のカラコルとここが密接な関係にある事だけは間違い無いようだ。この謎を解いた時こそ、私の目の前にこの遺跡の真の姿が浮かび上がってくるのだろう。
 千柱の間に並び立つ柱の向こうに見える、戦士の神殿には三体の像が安置されている。女性の像、ジャガーの像、そして盾を抱えた戦士の像だ。その中で気になったのはジャガー像の額にある青い宝石だが、先程カスティーリョで手に入れた赤い宝石とちょうど同じくらいのサイズに見えるのは偶然だろうか。何気なく宝石に手を触れてみると、なんと像が動き出して、私の目の前に本物のジャガーが現れたのだ!先程の煙の影響がまだ残っているのだろうかと一瞬我が目を疑ったが、目の前にある事実から目をそらしているようでは一流の探検家とは言えない。
 ゆっくりと後ずさるようにしてその場を離れる。時間を置いて恐る恐る神殿に近づいてみると、ジャガーもどこかへ行ってしまったようだ。しかしまだ付近をうろついている事は明らかであり、すぐにでも捕まえるなりなだめるなりする方法を考えておくべきだろう。やれやれ探検家はサーカスの調教師もやらなければいけないかと、私は苦笑する。それからジャガー像の後ろに、小さなくぼみに入った鉄鍵があった事も付け加えておこう。こんな些細な事でさえも、ベテラン・アドベンチャラーは見逃したりしないのである。
 この遺跡には球技場と呼ばれる場所があるのだが、一体どんな球技を行っていたというのだろう。古代の文化に思いを馳せつつ、石造りの建物に挟まれた通路を直進して行く。突き当たりには首の無い戦士の像が一体、まるで遺跡の全てを見守るかのように立っていた。残念な事に見守る為の首はついていないのだが、ここまで辿り着いた私は当然のようにその首を手にしている。問題は私の手にある二つの首の内、どちらがこの戦士の首であるかという事だけだろう。本来あるべき物は本来あるべき所に戻されるべきなのだ。
 首の無い戦士の像に到る道。その両脇にある建物には、地下通路へと続く道が穿たれている。高尚な学術的調査を続ける私にとって衝撃的だったのは、地下通路の壁面にある石の歯車の存在だった。古代文明の意外な技術水準の高さに感嘆するが、重要なのはこの歯車がどういった目的でどういった機構を動かす物であるかという事であろう。
 目の前にある歯車を止めている歯止めを外せば、その実態はすぐに明らかになるだろうが、不用意な行動が自殺行為に等しい事は、私が常に口を厳しくして言っている通りだ。分かった分かった。そんなにも君がこの歯止めを外したいというのなら、ぜひ私がいない時に試してみてくれたまえ。
 案の定と言うべきであろうか、地下通路の奥に私は隠し部屋を発見する事ができた。岩肌に囲まれた無骨な部屋の中央には、やはり岩でできた台座に乗せられた、大きな銀の鍵が置いてある。いよいよ私の探索も佳境に近づいてきた、そんな予感が胸をよぎるが、ちょっと待った。さっきも言っただろう、不用意な行動は自殺行為にも等しいのだ。
 一見無造作に置かれたこの銀の鍵をいきなり手にする事は、ヤングボーイズが行いがちな大きなミステイクだ。もし君が経験豊富なオールドタイマーであったなら、行儀の悪いヤングボーイに伝えておいてくれたまえ。部屋というのは入り口から入って出口から出るものなのだ、と。
 先程の地下通路で青いブロックを見つけたが、このブロックがどこかで見た形であるのを私は思い出した。ようやくもう一つの歯車の仕掛けを見つけ出す私。遺跡の中枢に近づいている感がいよいよ高まってくる。今こそこの仕掛けを作動させる時だろう。むろん私の手元にはこの遺跡を踏破するためのマニュアルなど存在しないが、この仕掛けを動作させる事自体はさほど難しい事ではない。遠くから聞こえてくる作動音を耳に、私の胸の鼓動は高鳴るばかりだった。探検家にとって、遺跡とは正しく恋人のようなものであるのだろう。
 石造りの扉。扉を守るように左右に石像。この石像が扉を開けるごく簡単な仕掛けである事は、おそらく素人にも分かるだろう。しかし私のような一流の探検家にとっては、寧ろこういった仕掛けの方がはるかに恐ろしい。石像が二体あるという事は、簡単に言えばどちらかが「当たり」でどちらかが「外れ」なのだ。まず失敗した時の事を考えてしまうのは、往々にして素人にプロが遅れを取る要因になる。
 右か左か迷った末の選択だが、結局は運を天に任せるしかない。私は決断を下した。ゴゴゴゴ・・・と音を立てて開く扉。フゥー、やれやれ。どうやら私に取って、運命の女神はまだ素敵な笑顔を見せてくれているようだ。
 そして私は「本当の」高僧の墓に辿り着く。いよいよ後少しだ。目の前に横たわる美しい棺と、往時の容姿を残したままミイラ化すらしていない遺体。私の目の前に古代の叡智がある。さあ、古代の高僧よ。私に最後の道を示してくれ!
 石造りの建物。地下に広がる迷路。行き止まりの壁は今の私にとっては障害にもならない。そして、ついに私の目の前に姿を現した太陽の神殿と、その祭壇に置かれた伝説の「太陽の鍵」。これを手にする事が、私に残された最後の謎であり、勝利への最後の障壁なのだ。
 呼吸と脈拍が速くなるのを感じる私の目の前で、突然世界が明滅し、一面の闇が訪れた・・・これは、遺跡の呪い!?まさか、何か間違った事をしたのか!

 既に目の前の世界だけでなく、意識も闇に包まれつつある。非常に残念だが、どうやら私の人生の探索はこれまでのようだ。最後の最後で、運命の女神は意地の悪い年老いた老婆になって、私に嘲笑を浴びせかけた。これが私が生涯で初めて、そして最期に受ける嘲笑になるのだろう・・・。

(訳者註.彼の手記はここで終わっている)

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