3年B組金八先生伝説の教壇に立ってみました。


pic の評判では、チュンソフトといえば中村光一氏の名作ドアドアやニュートロンを思い出す方が多いことかと思います。そのチュンソフトが一連のサウンドノベルシリーズから派生させた、ロールプレイングドラマととして学園ものゲームを作ったのですが、その作品にかの有名な学園ドラマである「3年B組金八先生」の名を冠したのがこの作品なのでした。2004年に全年齢対象でプレイステーション2から、その翌年には15歳以上推奨となる二本のシナリオを追加した完全版が発売されていますが、後に携帯アプリとして金八先生の名前をはずした「伝説の教壇に立て!」というタイトルで再販もされています。
 舞台はサクラ中学(ドラマでは桜中学)で、療養のために一年間の長期入院をすることになった金八先生に代わって、その教え子であったという主人公が3年B組の生徒たちを導いていくというお話。一年の間、様々な事件に巻き込まれながらも担任教師として個性的な生徒たちを導いていきましょう。
 いわゆるサウンドノベルとの違いは会話や情景に文字表示を一切行わないことで、すべてが音声と画像だけで行われる演出。会話や楽器演奏シーンなどにプレスコと呼ばれる音声を収録してから映像を作成する方式を取っていることもあって、数枚の静止絵が動くだけのアニメーションが驚くほど自然に、テンポよく感じられる点が魅力です。他にも会話の最中に背後で放送が流れたり、ある場面の会話が途中から次の場面に切り替わるといった、映画やテレビ番組ではふつうに行われている手法がゲーム中に表現されている工夫は感心ものだと思います。ちなみにそのアニメーション、原画を「猫の恩返し」の森川聡子さんという方が担当されていますが金八先生の外見が妙に似ているのが何ともいえません。でも入院中の金八先生、病院に行くと色々なヨタ話を聞かせてくれますが、残念ながらハンガーを手に戦ってはくれないのです(それは金八先生ではありません)。


pic 品はドラマ仕立ての一話完結方式で、主題歌「贈る言葉」のオープニングやスタッフロールに次回予告まで入る演出が必要以上にドラマっぽく用いられているところが楽しいです(もしこれでCMまで入っていたらさすがにやりすぎというものですね)。で、あまりゲームシステムについて説明してもわりとしかたがないので、この作品の魅力のひとつであるシナリオや登場人物についての紹介です。およそ二十人の魅力的な生徒たちと、個性的を通り越してアブナイ人が揃っている教師たちによって引き起こされる小さな事件や破天荒なドラマで構成された物語。存在自体がセクハラの体育教師や学生運動まっさかりの社会派教師、ヒゲ顔で貫禄ある声の中学生や、この手のドラマではおなじみの現役アイドル女子生徒まで登場しますが、こんな奴はいないとかこんな展開あるわけがないとか思う人は、まずは中村雅俊主演の「われら青春!」を見ることからはじめましょう。
 導入となる最初のお話は学園ドラマっぽい不登校をテーマにした内容で、引きこもりの少年桧山太陽くんと「5点の女」月山美咲さんのお話。学年トップクラスの成績ながら試験のとき以外は学校にやって来ない不登校児の太陽くんと、学力さっぱりながら気のいい女生徒美咲さん、まったく異なるように見えて「何のために学校に来るんだろう」という同じコンプレックスに悩んでいる二人が主人公です。とある事件をきっかけに、教師をクビだと脅されるという学園もの定番のピンチに陥った新任先生がそんなことはどこ吹く風と、太陽くんや美咲さんの悩みを解決すべく学校や町中を駆けまわります。頼りない子供たちが主人公先生の後押しで学校に来る理由を見つけるようになっていく、そんな陳腐な物語がとても愛しくて、実はけっこう熱血漢の太陽くんと、うっとおしがられるほどに明るく屈託のない美咲さんのコンビにも親しみを覚えずにはいられません。

pic の太陽くんと美咲さん、最初の一話から三話くらいまでメインで登場してくれます が、お話の中で欠かせない存在として存在するのが亡き金八先生(死んでません)に代わって学園主任をしている高峰先生です。学力至上主義で「趣味は成績の良い生徒を更に良くすることです」と言い放ち、学校を工場に例えて平然としている人ですが、片寄ったところはあっても実はこの人こそ誰よりも生徒のことを考えているんじゃないかと思わせてくれる先生でもあります。先の自己紹介で「じゃあ成績の悪い生徒はどうなんですか」と聞かれた高峰先生、意地悪そうな顔でふふんと笑うだけなんですが、そんな先生が時間を作って美咲さんに個別補習をしてくれているのです。学生時代に美咲さんの母親と知り合いだった、という先生の本心はエンディングを前に聞くことができますが、でもこの人が担任をするA組はB組とは違って落ちこぼれの生徒が一人もいないのですね。
 余談としてちょっと気になるのは、毎日個別補習を受けているのにテストの点数は一桁が当たり前という美咲さん。この人、頭が悪いのではなく、根本的に勉強の仕方をまちがえてるんじゃないでしょうか。授業も補習もまじめに楽しく受けている彼女、それこそ赤毛のアンではありませんが、どこかものすごい認識の違いがあるよう思えます。ちなみに赤毛のアンのアン・シャーリー曰く、「先生が数字の順番を並べ替えたりしなければ幾何も覚えられるのに」ということですが。

pic 編を通じて珠玉のお話だと思うのが同時攻略する「鉄ちゃんの恋」と「連弾」。鉄道マニアで萩本欽一似の黒部鉄郎くんと成績優秀、眉目秀麗で女子生徒の人気者という高千穂誠くんのお話。クラスでも浮いている鉄ちゃんこと鉄郎くんをたいせつな友達だと言う誠くんが、突然の転校が決まったことを誰にも言えないままにその日を迎えてしまいます。鉄郎くんを中心にした「鉄ちゃんの恋」がもどかしくもよいお話なのですが、同じお話がもう一度体験する際には「連弾」という別のシナリオになって、語られなかった誠くんの視点を見ることができるようになります。
 誠くんがどうしても鉄ちゃんに転校のことを伝えることができなかった理由、その鉄ちゃんが恋した同級生の天城あずささんが言ったように「ああ、友達っていいな」と思わせてくれるお話です。ただ鉄郎くん、いくら鉄道マニアでもあずささんを「スーパーあずささん」と呼ぶのはちょっと人としてどうでしょうか。もう少し人として人と出会い人として人に迷い人として人に傷つき人として人と別れてもいいのではないかと思います。

pic 園ものらしいテーマが揃っている中でやや異色の話が「星に願いを」。もと宇宙工学の研究員という、相沢先生のお話です。校庭で夜空を見上げる謎の少女、あやめさんのために宇宙に向けてロケットを飛ばそうとする生徒たち、チビ太と光夫にタロPの三人が相沢先生に協力を頼みます。子供たちに触発された相沢先生、夢中になってロケット製作に取りかかるのですが、多量の水を電気分解してできるエネルギーをロケットに利用すべくプールに突撃、水泳部顧問ということで管理をしている高峰先生に直談判。

「プールを貸してくれ。夢とロマンを追うんだ!」

 人付き合いが苦手で大学を追い出された相沢先生ですが、常人とはレベルが違いますね。ちなみに高峰先生ですが、相沢先生に代わって主人公先生がお願いに行くと、協力をお願いされているとは思えなかったというまっとうな感想に続いて先生の頼みならいいですよと快諾してくれます。高峰先生いい人ですねというか普通の人ですよ!

pic れていたテレビ番組、カミナリバードになぞらえてサクラ中学宇宙センターを設立して、生徒たちを隊員、自らをロケッティアと呼ぶ相沢先生ですがロケッティアというと背中のロケットで飛ぶヒーローを思い浮かべてしまいます。二年前のシャトル事故で亡くなった父にメッセージを届けたいというあやめさんの願いをかなえるべく、自作ロケット「カミナリバード」の打ち上げは果たして成功するのでしょうか。

 一介の理科教師と中学生がロケットを飛ばそうとする、破天荒さにドラマらしさを感じるかもしれませんが、打ち上げ実行を決意する決め台詞があまりにかっこうよすぎる感動のお話です。ちなみにこのロケッティア、鉄ちゃんに通じる鉄道マニアである上に自前の撮影器具まで備えた映画マニアでもあり、壊れたバイクだってちょいちょいと直す多芸すぎる人でもあります。先生になら爆弾をつくってあげてもいいという感謝の仕方もちょっと危険ですね。

pic 弾を手に入れた(手に入れてませんよ)主人公先生。実はサクラ中学に来る六年前にとある事件がきっかけで教職を離れていたのですが、三学期になってその事件の当事者であった大塚明夫声の桐谷先生が赴任してきます。クライマックスとなるこのお話、一転してサスペンスな展開となりますがこのシナリオ、なんと最初は事件を解決できず二度は体験しないと攻略することができません。うさんくさい真学受験会によって引き起こされる裏口入学疑惑と、意外な黒幕による生徒や教師を巻き込んだ事件に翻弄されることになりますが、高峰先生が昔の思い出を美咲さんに語る場面や、落ちこぼれと思われていたB組の生徒たちが主人公先生のもとでどれだけ成長していたかを見せてくれたりと印象強い展開が用意されているのです。

 全編からクライマックスにつながる、メインシナリオでヒロインとなるのが女子のクラス委員長である中島ヒカルさん。最初はメガネでお下げ髪のマジメな委員長という程度の印象しかない彼女ですが、公式のキャラクター人気投票でもダントツの一位を誇るほどの活躍ぶりを見せてくれます。下町育ちで世話好きな人ですが、コワモテの同級生を一喝する気風のいい性格もしている、怒らせると粉微塵にしてくださるタイプかもしれません(たまに主人公先生にも啖呵きってくれます)。
 ちなみにこのゲーム、おまけ的な才能開花モードというのがあってヒカルさんの場合は主人公教師と同じ「国語教師」が用意されているところにもこっそりとヒロイン扱いを感じるのですが、個人的には「校長先生」の才能開花があるところが赤毛のアンが好きな身としてはちょっと嬉しくなるのでした。生徒全員の事件や悩みを解決しての卒業式、がゲームとしては完全なエンディングになりますが、そこまで行かずともメインシナリオでのエンディングまでは一度体験してもらいたい作品です。はじめてその真エンディングを迎えたときの感想。

「そうか・・・僕は金八先生になりたかったんだ」

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