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 宇宙は広大で果てしなく感じられるが、人類が足跡を記している範囲は地球と呼ばれる星の周囲、ごく狭いものでしかない。地表にへばりついていた人々がようやく鋼鉄の翼を得て空に浮かび、そびえたつレールシャトルに打ち上げられて衛星軌道上にある多目的宇宙ステーション「アストロボーイ」に到達できるようになった、それすらもちっぽけな太陽系のほんの一角で営まれている出来事に他ならなかった。
 人の営みは古代から大きく変わってはおらず、手にした棍棒が青銅の剣になり今ではストライク・フレームと呼ばれる汎用人型機械に変わったとしても人は原始的な闘争に興味を見出している。突き、殴り、蹴り上げる。それが炎の矢や光の槍に変わる、そうした戦いを野蛮だと嫌う声は昔も今も存在していたが、戦いによる研鑽や何よりも純然たる闘志と興奮の存在を否定することはできないだろう。それが事実であれば、事実に従うほかはないではないかと言わないばかりに。

 中本重工業主催ストライク・バック、限定された宇宙空間を舞台に汎用人型機械同士が争う、大会の参加者たちは一様に常とは異なる期待と雰囲気に支配されているようだ。これまでトーナメント形式で行われてきた同大会が、今回はストライク・シリーズと称して総当たり形式による開催を予告している。すでにエントリーは終えて総勢14チームが参加する、長期ロードを前に関係者は古代から変わることのない闘志と興奮に緊張した面持ちを浮かべていた。
 地上で機体開発や調整、補修用の予備パーツ確保に奔走しているチームもあればシミュレーションや戦術の研究に余念がない者、衛星軌道にあって訓練に勤しむ者などそれぞれである。中には宇宙から見える景色のほうが気分がいい、という理由でステーションの通廊から窓外モニタを眺めているパイロットもいたかもしれない。

「地球は青いヴェールをまとう花嫁のようだ、とでも呟くつもりかね」
「今の気分が最初の人類のそれであるならば、ね」

 当意即妙で返すロストヴァの言葉に、ネス・フェザードは苦笑してみせる。彼らもまた大会に備えた衛星軌道上での訓練に勤しんでいる者だった。互いに知らぬ仲ではなく、軍属のパイロット経験がある両者が特に親密にする理由はなかったが、姿を見て声をかけぬ理由もあった訳ではない。「アストロボーイ」は多目的施設であり、通廊からバーを併設したラウンジへ行くこともできるが、パイロットスーツ姿で酒に誘うのも礼に失するだろう。ごくありふれた会話で充分ことは足りた。

「どうだい、準備は万全か」
「知っていれば教えないし、知らなければ教えられないわね」

 冗談めかした回答に苦笑を返す。その表情が移るとロストヴァは何事もなかったように窓外に浮かぶ星のまたたきに視線を戻し、ネスは長い足を伸ばして通廊を後にした。背中越しに手が振られて、おざなりな挨拶が交わされる。この程度の交流を指して交流というのであれば、ともに軍の記憶を共有する仲間同士の邂逅であると言えたかもしれない。

 トーナメント戦が総当たり戦になる、それは単純に考えれば苦手な相手と対戦することによって早期に脱落する不運が減るということだが、その苦手な相手を他のチームが倒してくれる幸運が期待できなくなるということでもあるだろう。全14チームによる対戦では勝ちが2点、引き分けが1点、負けは0点として数えられて公式戦が終わった後で得点上位の2チームによる優勝決定戦が争われる。同率のチームが3チーム以上あればトーナメントが組まれるということだが、今の時点でそれを気にしていても仕方がないだろう。
 つまり全日程を終えて失点が2以内であれば決定戦進出が確定するのは無論だが、実際には思わぬ星を落とすこともあるだろうから一概には言えない。上位陣が星を落とす可能性を考慮すれば失点6から失点8、三敗から四敗あたりが決定戦進出のボーダーラインではないかと囁かれていた。過酷なリーグ戦を抜け出すには安定した戦績が必要な筈であり、過去大会の勝率を考えれば「女王」ロストヴァ、メガロバイソンチーム、イハラ技研、KUSUNOTECの四強が優勝候補として挙げられているのも頷ける。十三日間におよぶ公式戦では毎日七試合が行われて、全チームが出場するからその日の得点数がそのまま順位へと反映されることになるだろう。


ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =

 大会初日、いよいよストライク・シリーズ開幕戦となるが注目はその四強による直接対決、ロストヴァ・トゥルビヨン駆るスカーレットレディとダルガン・ダンガル騎乗のメガロバイソン5、そしてイハラ技研のストームコーザーとKUSUNOTEC猫ろけっとFSの激突である。
 メガロバイソンチームはメインパイロットのマックが負傷療養からの退院を果たしたばかりであるが、前大会で優勝したダルガンがいわば捨て駒的に使われていたことを知るとマック自身の申し入れによってダルガンの連続出場が決まっていた。そのためオペレータは天才メージ、メカニックはザムと前回と同じメンバーでの参戦となる。

「そういう訳だから、観戦させてもらうぜ」
「・・・ああ」

 無愛想な中にも感謝があるのだろうか。ヘルメット越しのダルガンの顔は相変わらず窺えないが、マックは人好きのする笑みを浮かべると関係者用のブースに向かう。彼とても単なる事前事業のつもりではなく、これまで対戦のなかった各試合やチームを客観的に見ることができるとあって、得がたい機会と考えているようだ。
 視線を「アストロボーイ」の競技用フィールドに転じてから、改めて頭上を見ると透過式モニターの向こうに観覧席がありそこにはプロジェクト予算委員会の重鎮四人が珍しくも顔を揃えている。特にライトアップされている訳でもないのに、赤青緑黄と光って見える様子にマックは軽く肩をすくめるような仕草をしてみせた。

 対戦相手となるスカーレットレディは中距離汎用機でブースター・スラスターに主な出力が振り分けられている。女王ロストヴァ得意のセッティングに対してバイソン5は典型的な重武装を重視した攻勢機だ。典型的、とはいえこのスタイルを確立したのは彼ら自身でありそれはすでにメガロバイソン・スタイルと呼んでもいい水準に達しつつある。
 注目の一戦、初弾はそのバイソン5がムラクモオロチ・改を解き放って緋色の魔女を囲うと四方から着弾させて先制、すぐに距離を縮めたレディがカップオブゴールドを射出、反撃を図るが猛牛は構わず自然な動作で相対距離を広げてみせた。

「上手い・・・」

 バイソン5の動きにモニターを見るマックが呟く。自機の優位を活かすには攻勢あるのみとばかり、ムラクモオロチの光条が輝くと連続着弾、メガクラッシュ効果が起こりスカーレットレディの装甲を一気に弾き飛ばした。そのまま接近、先ほどの中距離戦時に散布しておいたグレネードマインボム・改の機雷原に追い込むと追撃にも成功。開始わずか4分で一方的に優位な状況を確保することに成功する。

 意地を見せるロストヴァもこれで終わらず、補足されないように目まぐるしく距離を変えながら隙を窺うがダルガンは無理に勝ちを急がず、焦ることもなく相手の装甲を削ることに専念する。反撃に移ってからの戦況ではスカーレットレディが優勢に進めているが、突き放された状況で逆転の決め手がなくバイソン5は一手ずつ駒を進めていけば良い。
 15分を過ぎてスカーレットレディの放つレッドビーストが直撃するが、メガロバイソン5は確実な反撃を続けて相手の負荷限界を誘うと緋色の魔女も遂に起動停止する。攻勢にも守勢にも落ち着いた手腕を見せたダルガンにマックは素直に感心し、観覧席にいる予算委員会の面々も満足げに顔を見合わせていた。

「なかなかやるじゃないか」
「さよぉ」

(ダイジェスト)メガロバイソン5vsスカーレットレディはメガロバイソンが快勝。もう一方の四強対決では猫ろけっとFSがストームコーザーを撃破、得意の圧倒的な回避性能を利して強敵相手に完封勝利を見せている。やはり回避主体の戦術を取ったガー・フィッシュもツヴァイファルケンを相手に完勝、初参戦となるノースカントリーはどんきほーて自律神経完全破壊を相手に力の差を見せつけられて敗戦、ラテン娘ベアトリス・バレンシアが先輩の意地を見せた。

○メガロバイソン5    02 (16分停止21vs-2)スカーレットレディ   00×
○猫ろけっとFS     02 (30分判定40vs18)ストームコーザー    00×
○てきぱきフォーチュナー 02 (30分判定34vs22)オーガイザー      00×
○ガー・フィッシュ    02 (30分判定40vs13)ツヴァイファルケン   00×
○ドン・エンガス     02 (30分判定27vs10)トータス号死神の子守歌 00×
○漁協タコボールブラック 02 (30分判定26vs08)ケルビムMk6     00×
○どんきほーて      02 (18分停止23vs00)ノースカントリー    00×


ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =

 総当たり戦、リーグ戦の影響は各チームにとって必ずしもよい方向にばかり出ていた訳ではないが、ことに山本いそべが率いるKUSUNOTECには頭を悩ませる問題が多々生まれていた。優勝候補の一角、強敵相手の初日を無事に突破して技術屋集団としての実力を見せた同チームだが、母体は中小企業と工科大学の研究チームの集まりでしかない彼らにとって長期シリーズにおける資金繰りの面で重大な問題が持ち上がったのでである。

「このまま参加したら間違いなく倒産する!」
「えー?どうするのー・・・あ、焼けた焼けた」

 大会が開催される前、月島のもんじゃ焼き屋で行っていた共同会議はもんじゃと焼きそばと鉄板焼きとアルコールと、それ以上に重要な問題で紛糾していた。何しろ参加各チーム中でも最軽量を誇るフレームを更にカスタマイズし小型軽量化しているのが猫ろけっとであり、連戦を勝ち抜くとなればとにかく耐久性が足りないのだ。試合ごとに換装するセンサー装甲はもちろん関節系や潤滑系、更に競技フィールドから直接供給される大電力をチャージするためのコンデンサ等、必要となる消耗品を挙げればキリがない。これまでは多くても三試合か四試合に耐えれば良かったのが総当たり戦となればその三倍、単純に考えて猫ろけっと三機分の部品を調達する必要がある筈だ。

「ルナティックの4面のボスが抜けれないんだけどどうしたらいい?」

 いまいち関係のない会話を混ぜながら、たどり着いた結論が先行投入となる新機種の導入だった。調達コストでも耐久性でも問題が少ない汎用フレームを採用することは技術屋集団KUSUNOTECのプライドが許さない、であれば新技術を使うしかないではないか。

「もうバリア搭載しようぜバリア!」

 という発言があったとかないとか。ストライク・バックの規約を見るとセンサー装甲の規格は「メインフレームの外に装備されて全身どの方角からでも有効、かつ大会側で提供される判定システムを搭載」すれば良いとあるから物理的装備でなければいけないという制限はない。さっそく携帯端末を手に取ると島本製作所に問い合わせた彼らはスペースデブリ対策に研究開発されていた、世界初の超電磁反発フォールド「フォースフィールド」を新型機に搭載することを決定した。もともとストライク・バックは技術アピールの側面が強く、主催者企業スポンサーとも最新技術の導入を否とする理由はない。製作所でもこれを宣伝にしてJAXAと提携の話を進めていくということである。
 開発コードは「翡翠」、正式採用されれば斑鳩の後継機となる機体の登場に場内から歓声が漏れる。これまでKUSUNOTEC系の機体はずんぐりしたものが多かったが、フィールドに射出された猫ろけっとFSはスマートなフォルムに空間機動用の二本尻尾は健在、全身を覆うエネルギー・フィールドが質感のある輝きを返している。これに比べれば対戦相手となるガー・フィッシュ、ネス・フェザードが乗る無愛想な機体はいかにも旧式に見えるがいちいち気にする理由もない。

「新しい女よりも古い女ってね」

 開始早々、近接戦闘に持ち込んだガー・フィッシュは英雄の剣アロンダイトを振り回す。無論、超高速機動を駆使する猫ろけっとにそうそう当たるものではないが、この距離では反撃の手口がなく当然のように離脱を図る必要があった。
 初動で生まれる一瞬の隙、それを的確についたニードルガンが放たれると展開するフォース・フィールドがこれを弾く。フィールド発生装置にセンサーが取り付けてあってエネルギーの損耗をダメージとして算出、MiiLLとともにオペレータを務める妹あんずの声が猫ろけっとの浴槽風コクピットに響く。

「お姉ちゃん。もしかして設定がやばいよ?」

 展開するフィールドには実体はないが、もちろん命中判定は存在する。通常であれば攻撃が機体をかすってもダメージを受けずに済む場合もあるがフォースフィールドはそれを律儀に着弾したと判定してしまうのだ。ネスは明らかに機体にかする程度の狙撃でも遠慮なく放っているし、いそべはゲーマーの本能か機体すれすれで攻撃を避けることに慣れてしまっている。感覚的には猫ろけっとが当たり判定のデカい自機になってしまっており、しかもかすりボーナスは存在しないのだ。
 新技術ならではの違和感に相手が慣れる前に勝負を決める必要がある、ガー・フィッシュは容赦なく攻勢に出るとアロンダイトで斬りつけた。これが直撃して光と光のフィールドが激しく衝突すると宙空に華麗な火花が舞う。ここまでで開始10分、猫ろけっとは悪魔的な機動性こそ保っているが圧倒的な攻撃力には欠けざるを得ない。距離を変えながら度々の反撃を試みるが序盤のアドバンテージを挽回するには至らずそのまま時間切れ、思わぬ敗戦を喫することになった。ネスにすれば改心の勝利だが、KUSUNOTECは思わぬ落とし穴をすぐには挽回できずシリーズ序盤の星を落としていくことになる。

(ダイジェスト)女王ロストヴァがノースカントリー搭乗の新人キリン、ヨシノ、ミドリ三姉妹を相手に貫禄の勝利。一方でメガロバイソン、イハラ技研、KUSUNOTECと三チームが揃って敗戦を喫しておりリーグ戦は開幕早々から波乱の様子を見せている。超鋼魔神オーガイザーはその強敵イハラ技研をほぼ完封して会心の勝利。

○ガー・フィッシュ    04 (30分判定32vs12)猫ろけっとFS     02×
○スカーレットレディ   02 (28分停止28vs-4)ノースカントリー    00×
○漁協タコボールブラック 04 (23分停止12vs00)メガロバイソン5    02×
○オーガイザー      02 (13分停止36vs-3)ストームコーザー    00×
○てきぱきフォーチュナー 04 (24分停止10vs-1)トータス号死神の子守歌 00×
○ツヴァイファルケン   02 (26分停止16vs-1)どんきほーて      02×
○ドン・エンガス     04 (26分停止24vs-2)ケルビムMk6     00×


ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =

 優勝候補の一角ながら、初日から手痛い敗戦が続いてしまったイハラ技研。研修先でエビにあたって休職していた登戸さんは今回応援担当、メカニックの岩田くんが急遽オペレータに入ることになった。ではメカニックはどうしようかと前任のおじさんの姿を探してみると、ストーブを前に雑種犬と戯れながらビール缶片手にいい感じで酔いつぶれており、ちょっとお願いできそうにない。

「あらじゃあ私がやろうかしらね」

 井原オーナー自ら今度はメカニックとして登録。もちろんKUSUNOTECやチーム・レプラコーンのようにオーナーがスタッフとして登録参戦しても不都合はないが、イハラ技研のオーナーはごく物腰の落ち着いたふつうの老婦人にしか見えないし、実際物腰の落ち着いたふつうの老婦人でしかない。とはいえ前メカニックのおじさんだって事務所のなじみのお客さんだし、岩田くんも普通免許しか持っていないお兄さんである。
 実のところイハラ技研のフレームは千葉県我孫子市にあるWDF社から毎回送られてくるだけなので、メカニックの仕事といえば受け取り伝票にハンコを押すことと説明書に沿ってコンセントをつないだり電源を入れたりすることだった。黄色いケーブルが画像で白いケーブルが音声、といった声が呑気に聞こえてくる。カタパルトから打ち出される機体はストームコーザー、可変兵装の限界を越えた宇宙を行くオニキンメである。

 対するノースカントリー陣営も未だ白星には恵まれていない。キリン、ヨシノ、ミドリの田舎貧乏三姉妹、負ければ借金が増えるし勝てばささやかにご飯が一品増えるというかつかつの暮らしを送っている。リーグ戦ともなればシリーズは長期になって予算も厳しい一方で、負けても終わりではないから長いシリーズの間だけ露出と宣伝になるからスポンサーだって見つけられるかもしれない。諦めず前向きに元気よく、でいくしかないだろう。

「いっきまーす!」

 ボロは着てても心は錦、球けがれなく道けわしとばかりに汎用レーザーショットから先制攻撃を図るノースカントリー。全距離対応、動き回って距離をとって、相手の攻撃をしっかり避けて反撃を狙う。言うは易しだが相対座標を把握しながら相手の攻撃を予測して、しかも攻撃を命中させるとなれば必要とされる技量は並みでない。ストライク・バック初心者が最初にぶつかる壁がこの「相手にどうやって攻撃を命中させるか」なのだ。攻撃行動をとれば命中率が上がるが回避や移動が疎かになる、だが抜き撃ちの攻撃を当てるのは相当な技量なり機体の性能が必要で、しかも相手だってその攻撃をかわそうとする。
 空を切る光条、だがストームコーザーから放たれるデッドリィクレッセントは容赦なく襲いかかると的確にノースカントリーを補足した。私服はスウェット、制服はツナギ、燃える瞳は原始の炎というテムウ・ガルナだがどんな悪辣な機体でも乗りこなすというクレイジーモンキーばりの名パイロットである。反撃を図るべく、すかさずノースカントリーが撃ち返したレーザーショットも当然のように回避してみせる。

「クレッセント・フォース。そのまま押し切るつもりで行けるッスよ」

 臨時オペレータ岩田くんの指示を受けて次々と襲いかかるデッドリィクレッセントの刃。反撃を狙えば避けられてしまい、相対距離を変更する余裕もなく隙を見せれば三日月の刃に削られる。手も足も出ないまま実力と経験の差を見せつけられたノースカントリーがそのまま押し切られて機動停止。待望の一勝を得たストームコーザーはここから本格始動といったところか。

(ダイジェスト)チームSMARTにネス・フェザード、チーム・レプラコーンの三チームが好調ぶりを発揮してここまで全勝をキープ。剣天使シャル・マクニコルが猫ろけっと相手に貴重な勝ち星を上げてリーグ戦初勝利を獲得している。新規参戦のノースカントリー三姉妹とSRI白河重工チームがここまで勝ち星なしという状況。

○ストームコーザー    02 (12分停止35vs-2)ノースカントリー    00×
○スカーレットレディ   04 (30分判定27vs20)漁協タコボールブラック 04×
○てきぱきフォーチュナー 06 (12分停止04vs00)メガロバイソン5    02×
○ケルビムMk6     02 (30分判定38vs12)猫ろけっとFS     02×
○オーガイザー      04 (24分停止28vs-9)どんきほーて      02×
○ドン・エンガス     06 (30分判定40vs14)ツヴァイファルケン   02×
○ガー・フィッシュ    06 (30分判定23vs17)トータス号死神の子守歌 00×


ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =

 総当たり戦として開催されているストライク・シリーズ。優勝候補と言われるチームの多くが思わぬ転倒と苦戦を強いられているがイハラ技研にKUSUNOTEC、そしてメガロバイソンプロジェクトは三日目までを終えて一勝二敗と敗戦が先行している状況となっている。

「ここからがっつり勝って反撃の狼煙を上げまくりです!」

 天才メージの激励を受けてダルガンのヘルメットが光を返したように見える。がっつり勝つというのがどんな勝ち方なのかダルガンにもいまひとつよく分からないが、初戦に難敵を撃破しているメガロバイソン陣営としてはここで反攻のきっかけを掴んでおきたいところだろう。相手はノーティ搭乗のツヴァイファルケン、やはり黒星先行しており戦績を五分に戻したい。

 開始と同時に散布機雷グレネードマインボム・改をばらまくメガロバイソン。これで戦場を限定しておいてダルガン得意の接近戦に持ち込むのが狙いだが、離れた状態でも高出力を利用して攻勢に出ることができるのがメガロバイソン・スタイルである。それを理解しているノーティとしては、自分が経験に劣ることも自覚しており可能な限り相手の思惑に乗らないように、自分の戦場で戦う算段を立てなければならなかった。

「シータ、指示頼むよ」
「分かっている」

 オペレータのシータは手早く両機のスペックを把握すると、敢えて細密な相対座標を無視してただ双方の相対速度とベクトルだけを一定に保つことに専心する。メガロバイソン相手であれば装甲は互角、出力では不利だがもともとツヴァイファルケンはランサーフォース一本で勝負することに拘った機体である。シータとしてはただ一つの兵装を最大限に活かすオペレーションを考えるつもりだった。らしくないかもしれないが、ここは強引に攻めるべきだ。
 散布機雷の海を泳ぐ危険を承知で、機雷原ごと撃ちぬくランサーフォースの光条がほとばしる。反応したグレネードマインボムがツヴァイファルケンを追尾するが、構わず発射される光の槌が撒布機雷ごと猛牛の横腹に突き刺さった。思わぬ攻勢に激しく機体が揺動し、予想以上の衝撃にバランスを崩すメガロバイソンのコクピットにメージの声が飛ぶ。

「接近は無理です!ひたすら攻めて攻めて攻めてください!」
「・・・」

 おそらく指示としてはメージのそれが正しかったろう。得意の近接格闘戦を狙わずその場で強引な撃ち合いに応じろ、ツヴァイファルケンは自機の特性を充分に理解した上で相対距離の確保だけに集中しているが、敢えてそれに乗れというのだ。

 多少の損害は承知の上、メージの判断に従うダルガンだがこの状況で相手の思惑に乗れというのは理解しがたかったのかもしれない。最後の勝敗を分けたのはそのわずかな迷いであったか、グレネードマインボムを全身に浴びながらも次々と撃ち放たれるランサーフォースが遂にバイソンの装甲を貫くと機動停止、強引な積極戦法が功を奏したツヴァイファルケンが貴重な勝利を収めた。

(ダイジェスト)注目の一戦、女王ロストヴァと山本いそべの世代抗争はスカーレットレディが久々に猫ろけっとを下してさんざOBAさん呼ばわりされていた溜飲を下げた模様。ノースカントリーは初のSPT機との対戦、トータス号死神の子守歌を相手に互角の攻防を演じてみせるがVM−AXが起動すると飛来する蒼い流星の直撃を受けてただの一撃で逆転負けとなった。総合得点ではここまで無敗の三チームがこぞって敗退、全勝のチームが消え去っている。

○ツヴァイファルケン   04 (12分停止11vs-1)メガロバイソン5    02×
○スカーレットレディ   06 (30分判定35vs32)猫ろけっとFS     02×
○ストームコーザー    04 (30分判定22vs16)ドン・エンガス     06×
○オーガイザー      06 (30分判定32vs07)ガー・フィッシュ    06×
○ケルビムMk6     04 (30分判定19vs14)てきぱきフォーチュナー 06×
○トータス号死神の子守歌 02 (11分停止16vs-1)ノースカントリー    00×
○漁協タコボールブラック 06 (15分停止18vs-1)どんきほーて      02×


ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =

 ふわふわほえほえおねーさん、静志津香とチームSMARTはここまで快調に星を重ねてトップ戦線を維持。バランス調整に苦慮していたカウンターソードも最近では存分に性能を発揮するようになっている。相手はここまで戦績が振るっていないKUSUNOTECと猫ろけっとFS、強豪であるにも関わらずチームSMARTにとっては奇妙に相性がよい相手だがそれも前機体での話であり一概に有利不利とは言い切れない。

「今回は荒野の決闘なのだ〜」

 いつものように小柄な天使型AI、ホリィ・エンジェルがフォーチュナーのコクピットを飛び回っている。このサイズで完全な無線自律制御を実現している最先端AIだが、志津香向けのパーソナル・リンクが強すぎて傍目には会話が理解できないというちょっとした欠点は残しているようだ。この点ではかの毒舌AIレプラコーンが「誰にも通じるスラングマシーン」としてより高く評価されており、チームSMARTでもライバル視しているとかいないとか。

 両機の対戦は長期戦の中でただの一撃を巡る攻防となった。どちらも防御に重点を置いた機体だが猫ろけっとは超高機動による回避を、フォーチュナーは剣撃を利用したガードとカウンターを主体にしたスタイルである。双方慎重に様子を窺いながらもフォーチュナーがエーテルソードとマジックフレイムで攻撃、そのことごとくを猫ろけっとが回避する。

 一方で猫ろけっとも近接戦闘を図るフォーチュナーに対して手数のある攻勢に出ることができず、欺瞞映像装置まるちぽーを機動させてただ一撃の好機を窺うという状況だった。緊張感のある攻防が開始から終了まで続いてなお両機攻撃をかすらせることすらできずにいたが終了間際の29分、猫ろけっとFSから撃ち放たれたとびっこランチャーの一発が遂にフォーチュナーの座標を捕捉する。これで決着と思われた一瞬、着弾すると同時にフォーチュナーもエーテルソードの軌跡が閃いた。

「魅せますよ〜」

 その一撃がまさかのカウンターとなって猫ろけっとに命中、わずかの差とはいえフォースフィールドのセンサーがとびっこランチャーよりも大きなダメージ値を算出して最後の一撃でまさかの勝敗が決した。てきぱきフォーチュナーが芸術的ともいえる剣技の冴えを見せて貴重な四勝目、KUSUNOTECは開幕戦こそ勝利を上げたものの思わぬ敗戦が続く苦難のリーグ戦となる。

(ダイジェスト)開幕から好調の三チームが揃って勝利、総合得点でトップ3に躍り出た。特に新鋭アラン・イニシュモアは女王ロストヴァを堂々と正面から撃破して実力を証明。ストームコーザーやツヴァイファルケンもそれぞれ貴重な勝利を得ており、トップグループを追走する動きを見せている。

○てきぱきフォーチュナー 08 (30分判定39vs38)猫ろけっとFS     02×
○ドン・エンガス     08 (21分停止21vs-1)スカーレットレディ   06×
○メガロバイソン5    04 (18分停止27vs-3)オーガイザー      06×
○ストームコーザー    06 (21分停止18vs-2)どんきほーて      02×
○ツヴァイファルケン   06 (30分停止10vs-6)ノースカントリー    00×
○ガー・フィッシュ    08 (30分判定18vs10)漁協タコボールブラック 06×
○トータス号死神の子守歌 04 (20分停止18vs00)ケルビムMk6     04×


ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =

「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「ヒャッハァーッ!」

 チーム・レプラコーンの正式名称が「ティル・ナ・ノーグ」であることは実は大会関係者のほとんどに知られていない。前大会で奇跡の準決勝進出を決めたとして近くの立ち飲み屋で祝賀会を催したという彼らだが、十人に聞けば九人が「チーム・レプラコーン」、一人が「ヒャッハーズ」とでも答えたことだろう。
 そのドン・エンガス<<ヒャッハー>>もとい<<イルダーナ>>が登場。零細メーカーからの参戦として彼ら自身は気が付いていないようだがいつの間にか戦績も安定し、今回のストライク・シリーズでもここまで堂々とトップ戦線に食らいつく実力と実績を見せるようになっている。オーナ社長兼パイロットのアラン・イニシュモアもこの円高不況下にも関わらず毒舌AIの売上げは依然好調であり、資金繰りも悪くないようだ。

「さあユー、感謝してマイ・アスにキスをしたまえ」
「やかましいぞこのポンコツ」

 相手は北九州漁業協同組合謹製タコボールブラック、前大会でこんがり黒コゲに焼けたボディもそのままにタコスミ商品宣伝中。焼けたボディーで食べた浜焼き、涙の塩味が忘れられない。とはいえ地方代表のタコボールがたびたびコンセプトを変えながらもとんでもない超攻勢機であるのは周知の事実であり、今回も白河重工と並ぶSPT機の一翼としてその威容を見せている。
 油断すればただ一撃でこんがり黒コゲにされてしまうのはこちらだろう、圧倒的なプレッシャーに対峙するドン・エンガスは典型的な守戦防衛の機体であり、オペレータの毒舌AIにどれほど罵られようとも鉄壁の守りを見せて相手を確実に削るのがアランの戦法である。

「フッキング!フゥーッキィーング!」

 一部で有名なFucking村の名前が連呼されるコクピットで、襲いかかる圧縮タコスミの鞭をひたすら避けながら魔弾タスラムを当てていく。威勢のいいオペレータとしては慎重で堅実なチキン・イニシュモアの戦いは決して満足できるものではないが、パイロットとオペレータは強固な信頼関係をもとに勝利のため協力と連携が欠かせないのは無論である。

「そこで臆病なチキン野郎のアスホールはキャンディのようにべとべとしているからキミに相応しいダムファッカー通りを右に曲がってからスマックダウンホテルにチェックインするといいよ」
「ちゃんとオペレートしやがれこの野郎ォー!」

 罵倒と毒舌が飛び交うコクピットで、基本的に防御主体で出力に劣るエンガスだがここではそれが吉と出た。タコボールのベースとなっているSPTを象徴する緊急システム、VM−AXが起動するには相応の被ダメージ量が前提となっており、そこに達しないだけの損害を与えながら確実に相手の攻勢を避けることができればこれを封じることができるのだ。
 巧妙なSPT封じ策を前にタコボールのコクピットで神代進とサイボーグイルカのフリッパーも反撃の手を探しているが、相性の悪い組み合わせの存在は否定しようがなかった。こうなると強化メンテナンスを施した装甲までもがVM−AXを阻害する要因になってくる。

「認めたくないものだな」
「キュ」

 試合時間いっぱいまで、オペレータにさんざ罵られ続けるというタフな神経戦を制したドン・エンガスが判定でタコボールを下して早くも勝ち点10に到達、前半戦首位の折り返しを目指して七日目に臨む。

「ヒャッハー!ヒァウィゴー!」

(ダイジェスト)てきぱきフォーチュナーとスカーレットレディの一戦は最後までフォーチュナーが圧倒していたが29分、意地の反撃を見せたロストヴァのレッドビーストが直撃して双方痛み分け。猫ろけっとは相性最悪の元祖SPT、トータス号を相手にVM−AXこそ封じたもののハチに刺されて4人目が砲の高出力を防げず直撃を受けて敗戦。ガー・フィッシュがケルビムを相手にやはりぎりぎりの接戦となるも薄氷の勝利を収め、ドン・エンガスと2チームで首位に立った。

○ドン・エンガス     10 (30分判定38vs27)漁協タコボールブラック 06×
△てきぱきフォーチュナー 09 (30分引分19vs19)スカーレットレディ   07△
○メガロバイソン5    06 (10分停止16vs-4)どんきほーて      02×
○ストームコーザー    08 (23分停止40vs-8)ツヴァイファルケン   06×
○トータス号死神の子守歌 06 (30分判定34vs20)猫ろけっとFS     02×
○オーガイザー      08 (19分停止23vs-7)ノースカントリー    00×
○ガー・フィッシュ    10 (25分停止02vs00)ケルビムMk6     04×


ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =

 ちょうど折り返し点となる大会七日目、ここまでトップを走っているのはアラン・イニシュモアのドン・エンガスとネス・フェザードのガー・フィッシュの両者、これをチームSMARTのてきぱきフォーチュナーが追う状況となっている。大会前の予想を覆す結果だが、他のチームにも充分逆転のチャンスは存在していた。追走を振り払ってトップ通過を狙いたいネスの相手はロストヴァ・トゥルビヨン、「女王」としてはここで自らトップチームを引きずり下ろして後半戦に勝負をかけたいところだろう。

「まったく、気分屋の男は始末に悪いわね」
「さて、どうなりますことやら」

 通算戦績を見ればネス・フェザードのそれはロストヴァに遠く及ばない。だがこの男はストライクバック地上戦の時代から参戦を続けているだけではなく、その両大会で優勝する実力も見せている。間違えても侮ってよい相手ではなかったが、それでも彼が何を考えているかは容易に測りがたい。

 開始と同時にそのガー・フィッシュが一気に間合いを詰めてくる。本質的にネスは格闘戦主体のパイロットであり、予測したロストヴァもテン・オブ・ホーンズを抜き放って迎撃を図るがこれが続けて回避されると、距離を離したところでニードルガンを撃ち込まれて先制攻撃を許すことになった。大したダメージではないが狙えるチャンスはすべて狙っていかなければならない。
 双方が隙を窺いつつここぞという場面で互いに攻撃をかわす展開になり、接近したスカーレットレディのテン・オブ・ホーンズをネスが背筋を汗で濡らしながら回避、一気に間合いが広がったところでガー・フィッシュがスナイパーガンを合わせるがバビロンの大淫婦もこれをかわしてみせる。距離が離れれば本来近接格闘戦に優れるネスには鬼門となるだろう。

「ところが、そうもいかない」

 コクピットでわずかに口元を上げたネスがダンスのリズムを取るようにして小刻みに機体を制動、スナイパーガンで捕捉すると二本の弾道が虚空を走り、二本ともが続けて命中する。単発では大したダメージではないが、続けて命中すれば充分に損害を負わせることもできるだろう。
 神経を削る攻防はここまで開始10分、相手も苦虫をまとめて噛み潰していると思いたいところだが双方のジェネレータ出力がわずかに落ちた一瞬、これを狙っていたロストヴァが正確きわまる狙撃でレッドビーストを解き放った。二発が直撃、だがこれあるを読んでいたネスも相打ち承知でスナイパーガンを乱射すると数発を着弾させる。この場の攻防は互角、だがガー・フィッシュには先制のアドバンテージがあり相打ちならば望むところであった。

「じゃじゃ馬に咬まれるのは承知の上だよ」
「かわいくない、戦い方ね!」

 ここに至ってロストヴァの表情が僅かに曇る。この状況になれば相手の思惑は完全に相打ち狙いであり、ロストヴァが攻勢に出る瞬間だけを狙って反撃を重ねようとしていることが分かる。そして、それをできる実力がネスに備わっていることをロストヴァは知っていた。
 相手は全距離対応機であり、安全距離を維持して反撃を封じる戦術は使えない。そして攻防のバランスを重視するロストヴァは、人が彼女をどう思うかはともかく無謀な賭けで突破口を開く術を得意としてはいなかった。

「残念だな、お前さんのことはよく知っているよ」

 コクピットでうそぶくネスも表情と言葉ほどに余裕がある訳ではなかったが、白刃の綱渡りを堂々と渡り切るとそのままタイムアップ、女王ロストヴァの弱点をついて逃げ切ったガー・フィッシュが改心の勝利を収め、この時点で単独首位に躍り出ることに成功した。

(ダイジェスト)てきぱきフォーチュナーとドン・エンガスによる、トップグループ同士の直接対決はフォーチュナーが制して中間時点での総合得点二位、ドン・エンガスが単独三位となる。他のチームも横並びで拮抗する状況となっているが猫ろけっとFS、どんきほーて自律神経完全破壊、ケルビムMk6、ノースカントリー陣営は戦績が振るわずこの時点での優勝戦進出はほぼ絶望的だろう。

○ガー・フィッシュ    12 (30分判定22vs11)スカーレットレディ   07×
○メガロバイソン5    08 (16分停止13vs00)ストームコーザー    08×
○猫ろけっとFS     04 (30分判定27vs18)どんきほーて      02×
○トータス号死神の子守歌 08 (30分判定22vs11)オーガイザー      08×
○てきぱきフォーチュナー 11 (30分判定21vs03)ドン・エンガス     10×
○ツヴァイファルケン   08 (16分停止30vs12)ケルビムMk6     04×
○漁協タコボールブラック 08 (30分判定24vs13)ノースカントリー    00×


ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =

 毒舌AI機能つきオペレータ、ザ・「クール」ことレプラコーンが率いるドン・エンガス<<イルダーナ>>。前日こそ星を落としたもののここまで総合三位の活躍を見せている。防御と回避を中心にバランスの取れた機体にXiフォース機の特性を応用した変幻自在の武器変化システムには周囲の注目も高く、オーナー社長が自ら謙遜して言うよりもよほどその技術力は高く評価されているようだ。

「オペレータは一流、メカニックも注目ならオーナーがシットマンでも気にすんなよテメー」
「あーあー、ありがとーよありがとーよ」
「さあ感謝の証にマイ・アスにキスをしたまえ」

 対するはラテン娘ベアトリス・バレンシアとどんきほーて自律神経完全破壊。参戦暦が長いにも関わらずどうしても戦績が振るわない、にも関わらず底抜けに明るい様子が独特のフェスティバルを表現しているチームである。大型兵器による一撃を得意としているようにも見えて、パイロットが集中力にでも欠けるのかどうにも有効に活かすことができていないようだ。

「イーッツ!たーいむ!」

 直訳すればさあ時間だよ、だが何の時間なのかはよくわからないあたりにベアトリスらしいアバウトさを感じてしまう。両機対峙から開始と同時にゲイボルグIIを振り回すエンガスだが、基本は防御と回避に専念して相手の隙をついて一撃を狙うという得意のスタイルである。だが隙というのであればベアトリスは隙だらけのように見えて、旋回する槍先から伸びたエネルギー波が続けてどんきほーての装甲を削り取った。先制に気をよくするエンガスだがどんきほーても接近、ゆうしゃのつるぎを振り回すとこれがタイミングを合わせて命中する。高出力のレーザーがエンガスの装甲を切り裂き、ダメージを与える双方の情況は互角といったところか。

「ねえシットマン、キミってヘタクソだよね?」
「やかましい、こっからが本番だ」

 相手の得意である近接格闘戦を嫌って中間距離を維持する。まだ開始してから5分程度しか経過しておらず、無謀な攻勢に出る必要はない。そのまま安全距離を維持しながらゲイボルグを振り回し、相手がたまらず動いた瞬間を狙って槍先を命中させていく。これで再び逆転、すかさずどんきほーても接近攻撃を図るが危険な一撃を落ち着いてかわしてみせた。何といってもドン・エンガスは防御と回避を重視した機体なのだ。
 ここまで単純な被ダメージであればわずかにドン・エンガスが優位という状況。戦術ではどんきほーてが反撃のできない中間距離を確保しながらゲイボルグIIでプレッシャーを与え、時折踏み込んで襲いかかるゆうしゃのつるぎを確実に回避してみせるという戦況が続いている。双方ともジェネレータにチューニングを施しており、長期戦になっても出力が落ちる心配はなかった。それでもペースを支配しているドン・エンガスは15分に一撃、24分に一撃、そして25分に連続攻撃を命中させてここで一気に突き離す。アランにすれば先の試合でネス・フェザードが見せた戦法の応用のつもりかもしれないが、これで残り5分、ドン・エンガスが完全に優位に立つ。双方の装甲と出力を考えれば剣撃の直撃を二発は受けなければ逆転の恐れもないだろう。むろんアランも油断せずにすかさず後退して安全距離へ移行、あとは逃げ切るだけであった。

「敬え!これがお前のマイ・ロードの実力だ!」

 次の瞬間、最後まで前向きに間合いを詰めてきたどんきほーてが振り回したゆうしゃのつるぎが命中、すかさず離脱を図ったエンガスに移動攻撃で接近した二度目の剣撃がこれも命中するとここでタイムアップとなる。顔面からアスホールまで蒼白になった零細社長の見守る目の前で、モニタースクリーンには文句のつけようもなく見事な逆転勝利を見せたどんきほーての勇姿が躍っていた。パイロットの失策(シット・サック)としか言いようがない展開に、最後まで諦めなかったラテン娘が意地を見せる勝利。コクピットで呆けているパイロットは受け入れがたい現実にただ呟くばかりだった。

「マァイ・・・マァム・・・ママン」

(ダイジェスト)首位を走るガー・フィッシュがメガロバイソン5に敗退、一方でてきぱきフォーチュナーがストームコーザーを抑えたことによって総合首位が交代する。メガロバイソン5、ツヴァイファルケン、そしてスカーレットレディが後半戦からの戦績を挽回すべく貴重な勝利を獲得、ノースカントリーもケルビムMk6を下して嬉しい大会初勝利を上げた。

○どんきほーて      04 (30分判定27vs25)ドン・エンガス     10×
○スカーレットレディ   09 (25分停止12vs-3)トータス号死神の子守歌 08×
○メガロバイソン5    10 (22分停止33vs-8)ガー・フィッシュ    12×
○てきぱきフォーチュナー 13 (30分判定31vs20)ストームコーザー    08×
○猫ろけっとFS     06 (30分判定40vs33)漁協タコボールブラック 08×
○ツヴァイファルケン   10 (30分判定36vs20)オーガイザー      08×
○ノースカントリー    02 (22分停止35vs-3)ケルビムMk6     04×


ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =

 リーグ戦も後半戦に入っているが、ここまで深刻な不振が続いているのが剣天使シャル・マクニコルの陣営。先の大会八日目には新人ノースカントリーにも星を献上する状況であり、優勝争いこそ脱落しているとはいえ少しでも復調の芽をつかんでおきたいところだった。メカニックの天使十真などは口角に泡を浮かべながら神の試練を罵っているが、シャル自身は幸か不幸か、敬虔ではあっても狂信的な性格まではしていない。

「軽量高出力による接近攻勢、明らかにその対策が取られているか・・・」

 現在のところ、ストライク・バックにおいて決定的な優位は存在しないと言われている。どのような機体セッティングであろうと戦術であろうと、必ず苦手や弱点は存在するのだ。
 特に有効と思われた方法は研究され対抗策が編み出されることも珍しくはなく、各チームはそれを承知で得意の戦術を追及する。シャル自身が軽量高出力による接近攻勢戦術の開祖のような立場にあったが、近年ではメガロバイソン・スタイルのような距離を置いての高出力機も台頭しつつあった。

 だがそうした中でもチームSMARTのように新機種新戦術を考案する者もあれば、女王ロストヴァのように孤高の実力を保っている者もいる。シャルにしたところでこのまま自分のスタイルを埋没させるつもりもないだろう。対戦相手はイハラ技研のストームコーザー、やはり長期にわたって遠距離戦術を追求しているチームであり、安全距離を取られてしまえば反撃の手も打てず一方的に破壊されかねない。
 開始早々、ホイール・オブ・オファニムを放つとこれを連続着弾させるケルビムMk6。すかさず接近、ソード・オブ・パニッシュは一撃目こそかすったのみだが続けての斬撃で命中、攻撃接近攻撃というシャルらしい速攻でケルビムが先制する。近接格闘戦であればむしろケルビムの安全距離であり、離脱を図るストームコーザーにこれを許さず再接近、ソード・オブ・パニッシュで連続攻撃をかけてここまで一方的な展開。

「駄目ッスね、粘りましょう」
 一方でストームコーザーのコクピットでは、オペレータの岩田くんがのほほんとしたアドバイスを送っている。開始10分、積極的な移動攻撃を繰り返してきたケルビムのジェネレータ出力がわずかに落ちてストームコーザーもここでようやく反撃の好機を窺うことができる。
 少しずつ、少しずつ相対距離を広げることに成功しつつありリスクストレイジが一撃二撃と命中するが、ダメージは軽微でケルビムのセンサー装甲にはほとんどほころびすら見られなかった。

「でもいいッスね、このままクレッセント・フォースまでいっちゃいましょう」

 先ほどと今とどこが違うのかと聞けば岩田くん自身何となくだと答えたろう。開始20分を過ぎてケルビムのジェネレータ出力が更に低下した瞬間、絶妙のタイミングでストームコーザーがリスクストレイジを一斉放出、着弾させる。ダメージが目的というより、散布機雷の衝撃で更に相対距離を広げようという目論見だった。
 そのまま遠距離まで離れると同時にXiフォースフレームの可変兵装が起動して変形、雷を帯びたデッドリィクレッセントの刃が次々と襲い掛かりケルビムの薄い装甲に一撃、二撃、三撃と突き刺さっていく。終盤の一気攻勢だけで戦況を逆転する、テムウ・ガルナ面目躍如のラッシュであった。

(残り5分、まだ諦めない。諦められない!)

 次々と襲いかかる三日月の刃を紙一重でかわしながら、極限まで神経を研ぎ澄ましたシャルが急速加速、思い切った移動攻撃は直撃こそしなかったがストームコーザーの装甲をわずかに削り、勢いのまま離れるが振り向くように旋回して強引なホイール・オブ・オファニムを投射。これが命中して時間切れぎりぎりで戦況を引き戻して引き分けに持ち込むことに成功する。勝利こそおぼつかなかったがストームコーザーにとっては痛すぎる結末、剣天使にとっては貴重な引き分けとなった。

(ダイジェスト)堅牢さを発揮した漁協タコボールブラックがVM−AXを使わずしててきぱきフォーチュナーに勝利、ガー・フィッシュがどんきほーてを下したことで再び総合首位が入れ替わる。ドン・エンガス<<イルダーナ>>も含めトップ3は変わらないが女王ロストヴァが不気味な連勝を続けて追走、総合順位を四位にまで伸ばしてきた。

△ストームコーザー    09 (30分引分18vs18)ケルビムMk6     05△
○スカーレットレディ   11 (22分停止24x-10)ツヴァイファルケン   10×
○トータス号死神の子守歌 10 (13分停止02vs-3)メガロバイソン5    10×
○猫ろけっとFS     08 (30分判定34vs19)ノースカントリー    02×
○ドン・エンガス     12 (30分判定38vs19)オーガイザー      08×
○漁協タコボールブラック 10 (30分判定22vs01)てきぱきフォーチュナー 13×
○ガー・フィッシュ    14 (30分判定40vs14)どんきほーて      04×


ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =

 漢の機体、超鋼魔神オーガイザー。この時点で負け星が先行しておりすでに決定戦進出も厳しくなっているが、放浪の宇宙サムライ無頼兄・龍波は漢であり漢たるものそのような瑣末な事柄をいちいち気にしてはいなかった。ほとばしる熱い魂のまま、目の前に立ちはだかる相手を貫くだけだが無頼兄の懸念は前方よりも後方、コクピットで彼のすぐ後ろに控えている笑顔の鬼神、姉の紅刃の存在にある。
 前大会と同様、座席後部に腰を据えた紅刃が鋭いヒールの踵で無頼兄の後頭部に指示を与えることによってオーガイザーを遠隔操縦するマグネマンスタイルで参戦。だが前門に虎、後門に狼がいる程度の試練は漢に決して珍しいことではない。

「まあほらな!そうは言っても前回一回戦負けだったしな!」

 前大会、その姉が一回戦で負けたことがよほど嬉しかったのだろう。しばらくは彼らしくもなくやけに陽気でフランクな仕草を見せて他のパイロット仲間たちと親しく接していたらしい無頼兄だが、翌日顔面がブドウのようにボコボコになっていた理由は誰も知らないことになっている。
 オーガイザーの相手は漁協タコボールブラック、漢を試すに相応しい海の漢と宇宙の漢による一騎打ちであり、彼が待ち望んでいたこの戦いだけは後ろに控える紅刃も介入しないように無頼兄は強く言い聞かせていた。

「すんませんすんません姉上、そこを何とか・・・」

 漢の請願に対する紅刃の条件は「負けたら火あぶり」という過酷なものだったが、試練あってこそ漢というではないか。その悔しさがお前をデカくするのだ。迷いを振り払うように右の拳を左の手のひらに強く打ち付けた無頼兄は、その音に気合を入れて漢の一騎打ちに挑む。

 初弾はタコボール、目からビームが飛び交うがオーガイザーの頼りになる装甲魂鋼が「効かん!」の叫びとともにこれを弾く。互いに離れて圧縮タコスミが虚空に伸びるとオーガイザーの装甲を焼くが、正面からの削り合いに高揚する無頼兄が彼の精神のままに力の解放、歓喜の雄叫びが全身から放出されてタコボールの機体ごと揺るがした。
 堅牢なタコボールが相手でも無頼兄の精神、オーガイザーの叫びはすさまじい威力を秘めている。タコボールの反撃も命中するが魂鋼は敵に胸をさらして決して背を見せることがない。

「磨けば磨くほど味が出るのだよ」
「キュキュ?」

 相手の堅牢さにも自らのペースを崩さず、オペレータのサイボーグイルカフリッパーに向けてよく分からない台詞を呟く神代だが、強化された装甲を真正面から叩くべく突進するオーガイザーの猛攻は疑いなくすさまじい。だがそれは同時に、VM−AXが起動してあの力が訪れる瞬間がより早まるということでもあった。
 開始わずか8分、圧倒されたタコボールが搭載する裏AIが緊急システムを通知すると全身を黒く染めたタコボールの機体が輝いて全身が蒼い輝きに包まれた。

「レイ!VM−AX起動キュ?」

 サイボーグイルカフリッパーのオペレートが流れた次の瞬間、蒼い輝きを帯びた圧縮タコスミが熱と光のムチとなってタコボールから解き放たれるとオーガイザーの装甲に打ちつけられる。続けて極太の、重い一撃。奔騰するエネルギーの塊がさしもの魂鋼すら叩きのめしてわずか二撃でオーガイザーの分厚い装甲に甚大な存在を与えた。

「偉そうに!偉そうに言っても一回戦負けだったじゃねえかこのクソババアァァァァァァァァーッ!

 どれほどの強敵が相手でも退けばそれは無頼兄ではない。無頼兄の魂からの叫びが奔騰する雄叫びとなって、輝くオーガイザーの全身から解き放たれるとタコボールの蒼い輝きを炎を思わせる赤い輝きが包み、荒れ狂うエネルギーの奔流がタコボールの強化装甲すら焼き尽くしてこんがり焼きダコに変えてしまった。
 短時間にすさまじいエネルギーが正面から激突する、激戦を制した無頼兄だったがコクピットから出てきた彼が粉みじんになっていた理由を思えばそれほどの激闘だったのだろう。

(ダイジェスト)ストームコーザーが首位のガー・フィッシュを圧倒して快勝、決定戦進出に望みを繋ぐ。更にてきぱきフォーチュナーがツヴァイファルケンを下してまたも首位交代。ドン・エンガス<<イルダーナ>>も猫ろけっとFSを相手に逃げ切って上位三チームが接戦する状況、連勝を続けるスカーレットレディがこれを追う展開となっている。

○オーガイザー      10 (14分停止14vs-3)漁協タコボールブラック 10×
○スカーレットレディ   13 (30分判定14vs04)ケルビムMk6     05×
○メガロバイソン5    12 (10分停止23vs-2)ノースカントリー    02×
○ストームコーザー    11 (30分判定32vs07)ガー・フィッシュ    14×
○ドン・エンガス     14 (30分判定35vs28)猫ろけっとFS     08×
○てきぱきフォーチュナー 15 (30分判定26vs15)ツヴァイファルケン   10×
○トータス号死神の子守歌 12 (25分停止24vs00)どんきほーて      04×


ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =

 大会も佳境に入って十一日、残る日程は三日間。今大会新規参戦となるキリン、ヨシノ、ミドリの三姉妹は残念なことにここまでわずか一勝のみで、充分以上にストライク・バックの洗礼を浴びたといった風情で競技の困難さを味わっていたが「負けたら塩ぶっかけご飯」を合い言葉に前向きな奮闘を続けている。
 多額の借金を賄うには相応の戦績か、せめて相応の将来性を見せて物好きなスポンサーを獲得できる程度の活躍は見せておきたいところだった。その意味では試合数が多いリーグ戦は彼女たちにも願ったりだがそれも残り三日間、相手は現時点で首位を走る強豪てきぱきフォーチュナーである。

「マジックフレイムぅ〜」
「武器から火の玉ぁ〜」

 呑気に聞こえるが息が合っている、志津香とホリィ・エンジェルの先制攻撃が飛ぶと開始早々ノースカントリーに着弾。出鼻をくじかれる展開にそれでも前向きに機体を制動して距離を離そうとするノースカントリー、前向きに離れるというのも妙な話だなとコクピットで苦笑しながら、操縦竿を握るキリンの耳に通信回線を通じて叱咤の声が届く。

「離れて離れて!そんでもってもっと離れよう」

 どれほど離れたところでフォーチュナーには反撃の刃、カウンターソードがあるとはいえ相手の得意距離に合わせることはないだろう。少しでも離れて射程外からレーザーショットを放つが回避にも防御にも優れるフォーチュナーはこれを悠々と回避する、それでも彼女たちには当座この戦法しか思いつかないのだから迷う必要はない。
 無論、フォーチュナーにしたところでどれだけパイロットが呑気に見えても呑気に相手の思惑に乗り続けるつもりはなく、エーテルソードの射程距離に踏み込むべく前進すると二本一対の青い剣を抜き放った。

「キターッ!」

 それは三姉妹誰の言葉であったろうか、接近戦に合わせてノースカントリーの頭部に搭載されていたフォアマシンガンが放たれるとフォーチュナーに命中、この至近距離ですら弾幕を弾き返すカウンターソードの精度も圧巻だがノースカントリーも相応の損害を与えることに成功した。相手が強く、自分が未熟でも戦えることは間違いない。条件は双方同じであり自分に向いた戦いができるかどうかと、相手に必ず存在するだろう弱点を突くことができるかどうかが勝敗の分かれ目だった。
 すかさず離脱を図るノースカントリー、もう一度エーテルソードの間合いに入れば次の幸運は期待できないと、ぎこちない動きで近接格闘戦を回避して遠距離まで一気に離脱する。加速性能に優れる全距離対応機がノースカントリー本来の機体特性であり、それをせいぜい活用すべく遠間からレーザーショットを狙う。数発が着弾、弾き返されるカウンターの光弾を受けるがこの間合いなら唯一ノースカントリーが優位に立つことができる筈だ。接近を図るフォーチュナーを止めようとマインレイヤー撒布、落ち着いた攻めを見せるがこれはガードされてしまう。

「出力下がってるよー」
「えー!?なんでなんで!」

 何でも何もないが気がつけば開始すでに20分を経過、チューニングが施されたフォーチュナーの勢いは変わらないが、ノースカントリーのジェネレータ出力は開始時のパワーを維持できていない。不利が増す一方だがこのまま逃げ切ることさえできれば番狂わせも夢ではないだろう。
 残り10分、戦況は押さたまま状況が不利に傾いていることは志津香もホリィ・エンジェルも理解しており、執拗に接近を図るが撒布するマインレイヤーと的確なレーザーショットでこれを阻まれている。フォーチュナーはそれを弾き、時に打ち返すこともできるが完全でない以上はあくまでこちらが不利なのだ。

「まずいですね〜」
「まずいのだぁ〜」

 どこまで深刻なのか、他人には想像もできないが志津香とホリィ・エンジェルにも焦りが隠せない。芸術的なカウンターソードの軌跡が相応の反撃こそ実現しているものの、究極的にはノースカントリーの高機動戦法の前に得意のエーテルソードがほとんど封じられていることには変わりないのだ。

 さしものフォーチュナーもこの状況は如何ともしがたく、決め手を欠いたまま逃げ切られてタイムアップ。首位争いを続ける中で手痛い敗戦となりノースカントリーには殊勲に等しい勝利となった。単純な勝ち星以上に、機体の特性を活かせば強敵にも勝つことができるというストライク・バックの競技性そのものを体験したことは彼女たちにとって大きな成果だろう。

(ダイジェスト)同率二位同士の対戦はガー・フィッシュがドン・エンガス<<イルダーナ>>を抑えてめまぐるしく首位が交代する。だが総合トップ3が星を落としている中で連勝を続けているスカーレットレディが遂にフォーチュナーと並ぶ総合二位へと姿を現した。トータス号死神の子守歌とメガロバイソン5も意地の勝利を見せてトップ戦線に食らいついているが、ストームコーザーはタコボールのVM−AXにこそ耐えたものの堅牢な装甲を破り切ることができずに敗退、決定戦進出争いから無念の脱落となった。

○ノースカントリー    04 (30分判定33vs23)てきぱきフォーチュナー 15×
○スカーレットレディ   15 (22分停止02vs-1)どんきほーて      04×
○メガロバイソン5    14 (18分停止31vs-5)ケルビムMk6     05×
○漁協タコボールブラック 12 (30分判定16vs11)ストームコーザー    11×
△オーガイザー      11 (30分引分29vs29)猫ろけっとFS     09△
○トータス号死神の子守歌 14 (09分停止26vs-7)ツヴァイファルケン   10×
○ガー・フィッシュ    16 (30分判定19vs07)ドン・エンガス     14×


ストライク・シリーズ十二日目 = Days 12th =

 初のリーグ戦開催となるストライク・シリーズも残る日程は二日間。リーグ戦終了後に総合得点上位2チームによる優勝決定戦が行われる、現在決定戦進出の可能性を残しているのはネス・フェザードとチームSMART、女王ロストヴァとこれに続くメガロバイソンチームにSRI白河重工、チーム・レプラコーンといったあたりとなっており、六チームが得点わずか二点の間をひしめき合っている。

「優勝が無いからって手は抜けねーぜ!」
「無論!」

 コクピットで気合いを入れる無頼兄の言葉にAI・鬼刃が答える。一度は粉みじんにされた宇宙サムライだが宇宙の漢はへこたれない、そのオーガイザーの相手はロストヴァ・トゥルビヨンとスカーレットレディ、後半戦破竹の四連勝で一気にトップ戦線に躍り出てた実力は「女王」の二つ名に相応しい。決定的な長所がない一方でこれといった弱点もなく、だが確実に勝利を重ねてくる無頼兄としては戦いにくい相手である。漢の世界を標榜する宇宙サムライでも、相手が女性だからと油断することはできそうにない。
 開始は中間距離から、スカーレットレディが放つカップオブゴールドがオーガイザーに着弾して先制するが漢の装甲、魂鋼はこれをしっかり弾いてストライクフレームの命綱であるセンサー装甲を守っている。続けて接近、燃える男のガイブレード、ブレードガイを抜き放った無頼兄が突進を図るがこれは気負いすぎたか命中せず、だが反撃のテンオブホーンズも余裕を持って回避してみせた。もともと近接戦闘はオーガイザーの庭であり、攻防にも慣れている。

「燃えるぜ!ガァイ・ブレードォ!」
「下品ですえ」

 背後から聞こえる突っ込みも打ち込まれるヒールも気にせず男の刃を振り回すオーガイザーに、緋色の魔女はこれをいなして離脱、カップオブゴールドを掲げてほとばしる光条にまたも魂鋼が削られる。やはり損害こそ軽微だが、この調子で攻め込まれれば気が付けば圧倒されていたということにもなりかねないだろう。離れて悦楽の心のままに歓喜の雄叫びを解き放つ手段もない訳ではないが、相手も高出力兵器を控えているし何よりも無頼兄は武器で、拳で殴り合うことこそ男の戦いだと信じているのだ。

「グァァイ・ブレェードォォォ!」

 斬りかかるというよりも殴りかかってぶっ飛ばすといった風で、突進するオーガイザーの機体ごとガイブレードの刃が打ち込まれると、男らしく重い一撃にスカーレットレディの機体が激しく揺らぐ。
 ここで10分経過、気合いに溢れるオーガイザーと無頼兄は疲れを知らず衰えも見せることはない。そのまま攻勢に出たいところだがロストヴァも女王どころか魔女を思わせる手腕を発揮して相対距離を測ったような中間距離に保ち続ける。オーガイザーの間合いを外した上でカップオブゴールドを散発、かすかに損害を与えるものの魂鋼を相手にダメージはないに等しい。ここまで戦況は完全に互角、だが無尽蔵のスタミナを誇るオーガイザーに比べてスカーレットレディの出力は確実に落ちている様子が見てとれる。

「成長は欲望、変化は災厄。私はそれを取り除くことができる・・・」

 流れる時間と同時に掲げられる黄金の盃から光条がほとばしり、オーガイザーの装甲を叩く。出力低下にも関わらずむしろ積極攻勢をかけてくる手腕に無頼兄も感嘆するが、オーガイザーにとっては待望の接近攻勢を図る好機でもあった。相手は膠着状態から終盤の短期決戦だけで勝負を決めるつもりでいるらしいが、であればこちらも同じ好機を活かさせてもらおう。急加速、一気に間合いを詰めてガイブレードを抜き放つ。この距離こそ無頼兄のフィールドであった。
 突き刺さる勢いで突進する黒鋼の機体が緋色の魔女に激突する、だが襲いかかる獣を罠に落とし込むかのように構えられていたテンオブホーンズがこれを迎え撃つと魂鋼の装甲を激しく削り取った。オーガイザーの勢いが逆用された形となり、続けて容赦のない一撃が突き刺さる。終盤の短期決戦で勝負を決める、まさにロストヴァの思惑はその通りであった。しかもそれを無頼兄得意の近接格闘戦で受けて立とうというのである。

「畜生!やらせるかよォ!」
「貴方は祈る必要もない!ただ受け入れなさい」

 高揚するままに突き出される剣を避ける素振りもなく、反撃の刃を突き刺し返す。互いに防御を無視した苛烈な削り合いは長くは続かずにそのまま時間切れとなるとタイムアップ、双方の損害が算出されるとわずかな差でスカーレットレディが勝利を奪い取った。五連勝を重ねた女王ロストヴァが最終戦を前にして遂に総合首位に躍り出たのである。

(ダイジェスト)決定戦進出を目指す各機だがメガロバイソン5が猫ろけっとFS得意の膠着戦に引き込まれて無念の敗退、トータス号も恐怖のVM−AXハチに刺されて4人目が砲を炸裂させながらも、ストームコーザーのデッドリィクレッセントに貫かれるぎりぎりの攻防を制することができず機動停止、ともにリーグ戦脱落が確定した。てきぱきフォーチュナーとガー・フィッシュ両機による注目の直接対決はフォーチュナーが勝利、チームSMARTとロストヴァが同率首位で最終戦に臨む。

○スカーレットレディ   17 (30分判定22vs21)オーガイザー      11×
○猫ろけっとFS     11 (30分判定37vs35)メガロバイソン5    14×
○ストームコーザー    13 (23分停止06vs00)トータス号死神の子守歌 14×
○てきぱきフォーチュナー 17 (30分判定23vs04)ガー・フィッシュ    16×
○漁協タコボールブラック 14 (30分判定27vs14)ツヴァイファルケン   10×
○ドン・エンガス     16 (23分停止25vs00)ノースカントリー    04×
○ケルビムMk6     07 (21分停止29vs-3)どんきほーて      04×


ストライク・シリーズ十三日目 = Days 13th =

 いよいよストライク・シリーズも最終日、優勝決定戦進出の可能性は得点17のスカーレットレディとてきぱきフォーチュナー、それを得点16で追うガー・フィッシュとドン・エンガス<<イルダーナ>>の四機に絞られている。四チームともこの日の直接対決はなく、得点17のチームが勝てばそのまま決定戦進出、得点16のチームは自分が勝利した上で得点17のチームが片方でも負ければ決定戦に進出することができる。
 最終日第一試合はある意味注目となるSPT対決、北九州漁業協同組合所属タコボールブラックと「怪奇を暴く科学の光」SRI白河重工のトータス号死神の子守歌。一応退院してきたコルネリオが搭乗するトータス号、世紀末救世主トルーパーことSPTのコクピットで何かを諦めたような表情に哀愁を感じさせるが狂わせ屋女史曰く、

「大丈夫、窓の外にあなたの強い味方が待っているから!」

 蒼い流星と蒼い流星の対決は装甲では船大工源さんが強化したタコボールが堅牢さを見せているが出力ではトータス号が勝っている、双方がほぼ互角の状態で削り合う激突は17分、タコボールが先んじてVM−AXを起動させると目からビームを直撃、これでトータス号のVM−AXも起動してコルネリオと神代の二人にあの力が流れ込む。だが一手先んじていたタコボールが圧縮タコスミと目からビームを立て続けに叩き込んでトータス号をこんがり焼いてしまうと一気に勝負を決めた。
 続いてガー・フィッシュとノースカントリーは全距離対応を活かした削り合いとなり、ノースカントリーが終始戦況を優位に運ぶがベテランの妙味を見せたネス・フェザードが終了2分前にスナイパーガンの一撃で逆転、決定戦進出に望みを繋ぐ。てきぱきフォーチュナーはどんきほーてと対決、高出力のゆうしゃのつるぎとエーテルソードが正面から斬り合う激突となるが開始11分の剣撃の交錯をガードしてみせたフォーチュナーが近接間合いからのカウンターソードで押し切り決定戦進出を確定させた。オーガイザーとケルビムMk6の対戦は開始からオーガイザーが強引な攻めで圧倒、中盤からはケルビムも粘りを見せるが距離を開いた無頼兄が聞くに耐えない歓喜の雄叫びを上げて快勝、見るに耐えない無惨な様子でコクピットから放出される。猫ろけっとFSとツヴァイファルケンの激突は理論上存在する猫ろけっとの20%の盲点をついたノーティが超高出力のランサーフォースをただ二回、命中させてそのダメージのみで押し切って快勝した。

 残る二試合、ドン・エンガス<<ヒャッハーズ>>はメガロバイソン5と対戦。決定戦に勝利するには最低限勝利が必須条件だがバイソン5は遠慮のない接近戦を挑むとダルガン得意の近接戦でハンディバルカンを叩き込む。軽快な装備に見えるが攻勢主体のメガロバイソン・スタイルで更にアランの鬼門となる接近戦の攻防となれば不利は避けられない。チキンならチキンらしく逃げろよテメーと罵るレプラコーンのアドバイスも虚しく終始圧倒されると無念の脱落、ダルガンは同率での総合4位に残る粘り強さを見せつけた。ドン・エンガスは重ねて八日目の失策(シット・サック)が響いた恰好。
 そしていよいよ総当たり戦最後の公式戦、ロストヴァが勝てば優勝決定戦進出、負ければ脱落という分かりやすい状況で相手は難敵イハラ技研のストームコーザー。シリーズ後半五連勝と悪魔がかった快進撃の勢いを見せつけるように開始から積極戦法を展開、接近してテンオブホーンズを閃かせると連続攻撃で圧倒する。離れたところにカップオブゴールドで追撃、ようやく遠距離戦まで離脱に成功したストームコーザーがデッドリィクレッセントを放つがスカーレットレディも相打ち承知でレッドビーストを叩き込む。得意距離での撃ち合いにストームコーザーも黙ってはおらず、積極攻勢でデッドリィクレッセントを撃ち込むとリスクストレイジで追撃、戦況を互角に戻すが緋色の魔女は休まずレッドビーストを解き放って虚空を行くオニキンメの鱗をはぎ取ろうとする。

「ロクでもない魔女なら、手段は選べないわね」
「クレッセント・フォース、もっぺん行けそうか?」

 身を削る正面からの撃ち合いはデッドリィクレッセントとレッドビーストが互いの装甲を咬み合い閃光を散らす。リスクストレイジとカップオブゴールドの光条が機体を叩き、それでも双方の損害はまったくの互角。開始15分、ジェネレータ出力が落ちている筈のスカーレットレディだが勢いは微塵も落ちず、近接戦闘に持ち込むとテンオブホーンズで強引な攻勢を図る。騒然とする場内、だがモニター席でそれを目にしていたネスはもと同僚の様子に腕を組んだまま呟いていた。

「女王ロストヴァ。だが、あれでは魔女でしかない」

 連戦を勝ち抜いた彼女にも限界が訪れていたのかもしれない。圧倒攻勢はもともとロストヴァの戦法ではなく、遂に失速すると襲いかかる砲弾をそれでも回避するが残り2分になって遂にデッドリィクレッセントが直撃、機体を揺るがせながら最後まで攻勢を止めない魔女は牙が折れるまで反撃のレッドビーストを撃ち込むがタイムアップ。魔女の猛攻を突き放したというよりも、突き落としたテムウが最終戦の勝利を獲得した。優勝決定戦はチームSMARTのてきぱきフォーチュナーと、ネス・フェザードが乗るガー・フィッシュの両機で争われる。

○ストームコーザー    15 (30分判定12vs02)スカーレットレディ   17×
○メガロバイソン5    16 (30分停止17vs-4)ドン・エンガス     16×
○ツヴァイファルケン   12 (30分判定30vs19)猫ろけっとFS     11×
○オーガイザー      13 (22分停止21vs-7)ケルビムMk6     07×
○てきぱきフォーチュナー 19 (15分停止08vs-2)どんきほーて      04×
○ガー・フィッシュ    18 (30分判定18vs15)ノースカントリー    04×
○漁協タコボールブラック 16 (20分停止17vs-2)トータス号死神の子守歌 14×


STRIKE SIRIES I ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = てきぱきフォーチュナーvsガー・フィッシュ

photo photo  ストライク・シリーズと冠して総当たり戦で開催されることになった今大会、優勝決定戦への進出を決めたのはチームSMART率いるてきぱきフォーチュナーに、対するはネス・フェザードが搭乗するガー・フィッシュ。優勝候補と目されていた戦績上位四強をすべて退けての組み合わせであり、戦前はほとんど予想されていなかっただろうカードとなっているが彼らの活躍が偶然でも幸運でもなかったことは他の誰よりも大会に参加した当事者たちが知っていることだろう。

 二振りの万能剣エーテルソードを携える、てきぱきフォーチュナーはパイロットの静志津香とオペレータのホリィ・エンジェルによる絶妙の連携による鉄壁の防御を誇り、剣撃の軌跡は人型汎用機ストライク・フレームの動きを超越しているとさえ評される。ガー・フィッシュは大型剣アロンダイトによる近接戦闘を主軸にする、軍用機を思わせるいかにも実用的な機体だがパイロットのネス・フェザードによる相手の弱点を突く戦いぶりは練達の域に達していた。
 リーグ戦における両機の直接対決では、てきぱきフォーチュナーのエーテルソードとガー・フィッシュのアロンダイトによる斬り合いとなったが正面から押し切ったフォーチュナーが勝利を収めている。再戦となる優勝決定戦ではネス・フェザードが雪辱を図り、静志津香が返り討ちを狙う様相となっていた。

「そういや緋色のお嬢さんは無事だったかい」

 照明が落とされたままのコクピット、最終の計器確認が行われているシートに座したネスの声が、通信回線を通じて冗談口のように流れている。オペレータを務める中年男、カーネルから医務局の通知が転送されてくると、気の利いたことだと苦笑しながらも感謝する。競技が云々ではなく、個人的な友誼が云々でもなく、戦闘機乗りというものには彼ら独特の仲間意識や親近感といったものがあるものだ。

「サンキュー、カーネル。アンド、OK・ロヴ。こちらはオールグリーン、いつでも行けるぜ」

 対するチームSMARTの陣営ではいつものように、あるいはいつにも増してのほほんとした穏やかな雰囲気が漂っている。大舞台を前にどこかあわただしく、だが緊張感を感じさせることは決してない。勝ってもにこにこ負けてもにこにこ、だが得てしてそういう人間こそどのような状況でもプレッシャーを帯びずにベストのパフォーマンスを発揮する。静志津香がパイロットとして選ばれた理由は伊達ではなく、過酷なリーグ戦を生き残り優勝決定戦を前にしてのほほんとしていられること自体が驚異なのだ。

「志津香さーん!カウンターソードの反射フィードバック、数値に問題ないですかー?」
「はぁーい。こちらは今日も元気ですよお」

 端から聞くと通じているように聞こえないが、彼らにはこれが普通だった。もともとチームSMARTのメンバー自体が能力一流、性格問題ありの連中が集められたと言われており多少の変わり者の存在には慣れている。そのスタッフに支えられているパイロットの志津香もオペレータのホリィ・エンジェルもそれぞれ戦闘機乗りとしての腕前や自律式AIとしての性能としては「よくいって平均的」という程度の数値しか示したことがないのだが、にも関わらず彼らは数値以上の実力を発揮して難敵を堂々撃破することができた。

 優勝決定戦の基本ルールはそれまでの公式戦と同様、30分間に相手を起動停止させるかタイムアップの時点で装甲の損耗が少ない機体が勝ちとなる。唯一異なっている点があるとすれば、判定で引き分けになればその場で再戦が行われるということだけだ。だがよほどのことがない限りそのルールが用いられることはないだろう。
 戦前の予想は両機互角、公式戦で勝利しているフォーチュナーはその再現を図ってエーテルソードでの近接格闘戦を狙うだろうが、ガー・フィッシュも機動性を発揮しながら全距離対応による攻勢で優勢を図ろうとするだろう。どちらも近接戦を得意とするがその間合いであればフォーチュナーが有利、だが総合力ではバランス面でガー・フィッシュが勝る。あとはどちらが自分の望む展開に持ち込むことができるかであろう。

 多目的宇宙ステーション「アストロボーイ」に接続されているストライク・バック専用フィールドを囲う観客席は先程から期待感に満ちた熱狂に支配されている。最終日13日目の公式戦を終えてそのまま機体セッティングに入り、今はどちらも準備を万全に終えてカタパルトからの射出を待つだけとなっていた。
 タイムカウントに合わせてフィールド表面をカタパルト・ユニットが滑り、時間になれば射出される。慣性を全身に感じながら電子音と機械の駆動音だけが耳に届く静謐の中、照明が落ちて計器類が光っているだけのコクピットが自然にパイロットの集中力を高めてただの一秒を永遠にも感じさせていた。あとは戦うだけだ、その瞬間、それまでGに耐えていた身体が唐突に無重力に放り出されて、彼らは同時に自分たちが宙空の世界に撃ち出されたことを知る。いよいよ優勝決定戦、決戦の始まりである。

「先制攻撃、行くぜ」

 中間距離で開始、カタパルトから撃ち出された姿勢で自然に流されるままに抜き撃ちのニードルガンを放ったガー・フィッシュが、これで牽制しつつ急速接近するフォーチュナーを迎撃するようにアロンダイトで斬りつける。だがフォーチュナーは小剣側のエーテルソードで弾頭も剣先も弾いてしまい、容易にネスの思惑に乗ろうとはしない。まともな斬り合いになれば堅牢さでフォーチュナーが勝るだろう、チームSMARTが計算した剣撃の軌跡の細密さと滑らかさは常軌を逸している。

「仕方ない、やり直しだ」

 一旦離脱して再び接近、もう一度離れて遠距離戦を狙うネスだがフォーチュナーはそれを許そうとはしない。射程距離ぎりぎりまで前進してマジックフレイムを放つがガー・フィッシュも落ち着いてこれを回避してみせる。だが次の瞬間、神憑り的なタイミングですかさず再接近するフォーチュナーがエーテルソードを構えると同時に、コクピットのホリィ・エンジェルが彼女の存在意義である相手の致命点を算出した。

「ひとつふたつみっつよっつ、あとはめんどくさいのだ〜!」
「魅せますよぉ、剣の舞い〜!」

 懐に飛び込んで、至近距離から芸術的な八本の軌跡がガー・フィッシュの装甲を削るが強引に切り込んだアロンダイトの一閃もまたフォーチュナーに命中、双方損害を受けて戦況は互いに譲らず五分のまま。
 距離を置いてフォーチュナーのマジックフレイム、ガー・フィッシュのスナイパーガンは双方とも回避してここまで開始10分が経過する。ネスはわずかなジェネレータ出力の低下を感じるがまだ戦況に影響が出るほどではないだろう。冗談めかしてコクピット脇の集中制御装置ユニット近く、テム・レイ回路が差し込まれたスロットを軽く叩く。

「ま、おまじないにな」

 相手の土俵を嫌って急速後退、相対距離を遠隔状態に確保したガー・フィッシュはスナイパーガンで抜き撃ち、わずかな損害を与えると続けて中間距離まで詰めてニードルガン、これも命中させるが同時に閃いたカウンターソードの一閃が弾道を弾き返して命中する。正確極まる反射フィードバックのプログラムにより、被弾したエネルギー剣によるダメージがニードルガンのダメージを勝り、奪いかけたペースをまたも互角に引き戻されてしまった。

 より厳密に比較すればごくわずかにフォーチュナーが優位を確保しているが、両者膠着しながらも技量を駆使して互いに削り合う展開から離れてガー・フィッシィが狙うスナイパーガンはフォーチュナーが余裕を持って回避、接近して迎え撃つアロンダイトもエーテルソードの軌跡で弾かれてしまう。
 フォーチュナーの堅牢さは尋常ではなく、ここまで突破するきっかけすら得られないが隙を見せればカウンターソードの餌食になるだけだろう。戦況と自機の状況を示している複数の計器やモニターに視線を滑らせながら、双方のパイロットが同時に呟く。

「狙うなら次に出力が落ちる直後・・・」
「狙うなら出力が落ちるぅ〜」
「直後ですねぇ〜」

 奇しくも、ではない。ジェネレータの性能は有限で時間が経てば出力は低下する、であれば今は距離を離すことができているが出力が落ちればフォーチュナーは待望の近接格闘戦を挑むために接近してくるだろう。長期に渡って斬り合えばフォーチュナーを相手にガー・フィッシュに勝ち目はないが、短期決戦であれば賭けてみる価値はある。ネスの目論見は一瞬の博打で勝敗を決する腹積もりだったが、それは志津香やホリィ・エンジェルにも望むところだった。

 開始20分過ぎ、ガー・フィッシュの出力低下に合わせてフォーチュナーが前進する。迎え撃つネスはニードルガンの照準を合わせて狙撃、これがわずかに着弾するが意に介する損害ではなくそのまま両機加速して接近、エーテルソードとアロンダイトが抜き放たれ双方が暗黒の虚空に輝く剣を構える。
 ごく瞬間の後に訪れるだろう、攻防の刹那がパイロットの両者には永遠にも思えるスローモーションのように長くゆっくりと感じられていた。互いに流れる剣撃の軌跡は相手の装甲を正確に捉えているが、エーテルソードの軌跡がガードかカウンターに成功すればそれまで、そうでなければ後は互いの一撃がどれだけ相手の装甲に深く食い込むかの勝負で決まる。

「これで最後・・・」
「行きますよ〜!」

 一瞬の交錯、激しい光エネルギーの火花が散って互いの装甲に突き刺さる。そしてその瞬間、勝敗は決していた。パイロットには追撃を行う余力も集中力も残されておらず、慣性のまま自然に流れる両機の相対距離が互いに離れていく。タイムアップの表示が出ると同時にコクピットで小さく拳を握った者の名はネス・フェザード。一瞬の攻防を制したガー・フィッシュがストライク・シリーズ優勝の栄冠を手に入れた。

○ガー・フィッシュ(30分判定22vs17)てきぱきフォーチュナー×

優勝  ネス・フェザード     ガー・フィッシュ       得点18
準優勝 静志津香         てきぱきフォーチュナー    得点19
3位  ロストヴァ・トゥルビヨン スカーレットレディ      得点17
4位  ダルガン・ダンガル    メガロバイソン5       得点16
4位  アラン・イニシュモア   ドン・エンガス<イルダーナ> 得点16
4位  神代進          漁協タコボールブラック    得点16
7位  テムウ・ガルナ      ストームコーザー       得点15
8位  コルネリオ・スフォルツァ トータス号死神の子守歌    得点14
9位  龍波紅刃/無頼兄     オーガイザー         得点13
10位  ノーティ         ツヴァイファルケン      得点12
11位  山本いそべ        猫ろけっとFS        得点11
12位  シャル・マクニコル    ケルビムMk6        得点07
13位  ベアトリス・バレンシア  どんきほーて自律神経完全破壊 得点04
13位  キリン          ノースカントリー       得点04

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