-STRIKE SIRIES III-
宇宙空間に設けられた専用のフィールド内で、汎用人型機械同士により行われる対戦格闘競技。ストライク・バックの奇妙な傾向として主催側でも報道側でも、勝敗予想の的中率が低くあまり当てにならないという事情があった。某国で開催されている予想投票でも高配当が出ることが多く、過去にはとある地方自治体の市長が大会連覇を果たした例すらあるのだ。
その原因は競技として限定された機体とルールの中では、組み合わせに依らずある程度の接戦になることがやむを得ないといった事情があるがそれでも強豪と呼ばれるチームは確実に存在した。勝率や撃破率の高さ、或いは試合展開の妙に到るまでそれぞれの対戦を検証すると確かにすぐれた実力を発揮しているチームがある。にもかかわらず勝敗予想が的中しないのはそれこそ予想屋のせいだ、と陰口をたたくのは無論というべきか投票券を購入する人々の無責任な言葉である。
「い、いいんですか?今回も僕がパイロットで」
「大丈夫です!ドーンでガーンと行きましょう!」
いかにも驚いた声を上げているのはゲルフ・ドック。メガロバイソンプロジェクトに所属するパイロットの一人であり、メカニックを務めるザムの孫でもある。VRSと呼ばれる仮想空間大会での優勝経験がある新進気鋭の少年で、機動戦にすぐれたマックや格闘戦が得意なダルガンに比べて砲戦を得意とする攻撃型のスナイパータイプとされている。とはいえ本大会で優勝している両パイロットを差し置いての本戦連続出場に怯みがないという訳にはいかないらしい。
一方いつものナガシマ語で励ましているジアニ・メージは誰もが認める大会屈指の天才オペレータで、彼女に匹敵する名手といえば女王ロストヴァ陣営に雇われているアブとコミューンに所属するテータの両名くらいであろう。職人気質のザムと合わせて、チームの適性と機体の性能が一致した時にこそ最大の力を発揮するのがストライク・バックなのである。
一発勝負のトーナメントではなくリーグ戦として開催されるようになった、通称ストライク・リーグだが第一回大会では生粋の戦闘機乗りたる「ソードフィッシュ」ネスが優勝、第二回大会では北九州漁協の神代進が要塞の異名にふさわしい破壊力を発揮して栄冠を手にしていた。いずれも過去に優勝経験こそあるものの、戦前予想で優勝候補に挙がるチームではなかっただけにメガロバイソンプロジェクトも高評価に安心できるものではないだろう。勢いに任せて一気に勝ち進むか、安定した実力を見せて失点を防ぐべきか、どちらが良いとも言いがたい。
「考えるんじゃありません、感じるんです!」
そういうメージの感性は往々にして知性を凌駕する、ならば正直に彼女の感性に従って自分はパイロットとしての技量を発揮することに専念するべきであろう。すでにコンテナの搬入が始まっている格納庫では、がなりたてる祖父の声が壁に響いてここまで届いてくる。ザムが目を光らせている限り、ミリ単位の狂いすらなく完璧に整備されたメガロバイソンがカタパルトに収められることは間違いない。
コンピュータ制御がここまで発展した宇宙進出の時代になっても、職人の目は時として機械の精度を超える。そうでなければ危険な筈の宇宙空間で、人間が整備した人型汎用機械に人間が乗り組み人間がそれを助けることはないだろう。それは機械の性能が未だ人間に及ばないが故ではなく、人間の持つ特性に機械に代え難いものが存在することの証明である筈だ。
「よし!考えずに感じます!」
「いやそれはちょっとどうだろう」
惜しむらくは会話のセンスがいまひとつなことである、些細な欠点に自分ながら苦笑するとゲルフは搬入されてくる機体のパラメータチェックに取り掛かった。これから宇宙を駆けることになる自分の手足であり、最高のパフォーマンスを発揮させることがパイロットの仕事である。パイロットとオペレータそしてメカニック、彼らがチームとして登録し競技に挑むスタイルはストライク・バックが宇宙空間で開催される以前から変わっていない。
ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =
今大会初参戦となるチーム・さんくちゅあり。極東都市圏某所に存在する、地上84階地下4階を誇る超巨大マンションを経営する天宮財閥が主催するチームである。オーナーたる通称「あてな嬢ちゃん」がオペレータ、パイロットはゲームの戦績で選考された店子の牛山信行という、悪くいえば道楽といえなくもないメンバーだがオーナー自らチームの一員として参加している例は他を見ても決して少なくない。
資金力があれば機体開発コストの面で有利なことは間違いなく、実際に資金で苦労しているチームもあるが単純にカネの力だけで勝てる訳ではなく実力が求められる競技なればこそ挑む甲斐があった。組織としての運営は別にして、参戦するからには条件は平等なのである。機体はメカタウラス拾参號「なんでも揃う」で有名なホームセンター天秤で各種パーツを調達した牛頭巨体が目を引く高出力攻勢機である。
「まあやれるだけやってみるか」
気合いが入らないように見えてパイロットとして能力を十全に発揮することを宣言するが、奇しくもその牛山と同じ言葉を呟いていたのはリーグ初戦の対戦相手となるジムであった。前大会準優勝のチームだが、試験機を名目に今回も当然のように新たに改修されている機体はGM−Fbフルバーニアン。性能テストのためだけにGP−01Fbのブーストポットをくっつけただけの普通のGM機である。連邦というか陣営のGMへのこだわりには頭が下がる思いもするが或いは単に遊んでいるだけかもしれなかった。
「せめてカラーリングはGM仕様に統一すればいいのにねえ」
ブーストポットのカラーリングは旧機体のままという、つぎはぎに見える機体でもいつものことかと乗りこなしてしまう順応力はイハラ技研のケボコリ・ガルナと双璧のタフなパイロットと評されている。バランス型の機体と長期戦に強いパイロットの組み合わせは安定度ならば折り紙付きだろう。
いよいよリーグ初戦の開始。両機射出と同時に中間距離から互いにグレネードマインボムとバルカンをばらまくが、これは挨拶代わりとばかりに双方同時に回避しながら近接格闘戦に移行する。GM−Fbは大型のシールドで身を守りつつビームサーベル、メカタウラスは武装化兵装アームド・アームズを構えると互いに足を止めて至近距離で殴りかかる展開。
「いきなりブーストポットの意味ないじゃん!」
もっともな感想だが百戦錬磨のテストパイロットであるジムはこの程度のハプニングで動揺しない。ビームサーベルで堅実に切りかかりながらメカタウラスの重い一撃を盾で弾いてみせると、一方の牛山も近接戦は望むところとばかりひたすら攻撃を敢行する。ジェネレータ出力で勝る機体性能を最大限に活かすべく積極戦法を図るメカタウラスに、GMはバランスのとれた防御戦術で対応。
開始から早くも10分が経過。両機とも機体整備は万全でありジェネレータの出力低下も見られない。ここまでメカタウラスがわずかに優勢を保っているが、長期戦に持ち込みたいジムは戦況を膠着させながら反撃の機会を探っている。
そのGM−Fbの反撃は16分、アームド・アームズの重い一撃をシールドで弾くとバランスを崩したメカタウラスにビームサーベルで一撃、続けての一撃は相打ちとなるがこれで展開を五分に戻すことに成功する。
だが膠着した状況から相打ち合戦に持ち込まれることは牛山にとって望みの展開でもある。出力全開とばかり果敢に攻撃を続行するメカタウラス、一撃加えれば一撃反撃を受けて、際どいところで追撃をかわすとあくまで防御を無視した攻勢を続行する。残り5分を切って未だに展開は両機互角、ここで一気に勝負に出たメカタウラスが強引な相打ちから追撃となるアームド・アームズを直撃させてGM−Fbを追い詰めた。
「やらせる・・・かな!?」
この状況でも確実なシールドから確実な反撃を図るジムだったがすでに残り2分、追い詰められた状態から起死回生を図るものの相打ち覚悟の攻防であればメカタウラス優位であり、終了間際の一撃で機動停止に成功したチーム・さんくちゅありがリーグ初戦を制することに成功した。
(ダイジェスト)前大会優勝の北九州漁協、準優勝のGM陣営が揃って敗戦という波乱の開幕。優勝候補筆頭のメガロバイソンプロジェクトは攻撃力を活かした得意の短期決戦で幸先の良いスタートを切っている。女王ロストヴァ、強豪クスノテックとも彼ららしい展開で危なげのない勝利を獲得しているが、前大会不振に終わったイハラ技研はまたもスタートダッシュに失敗、先行きに不安を残すことになった。
○メカタウラス拾参號 02 (30分停止08vs-5) GM−Fb 00×
○トータス号キングアラジン02 (24分停止05vs-2) オーガイザーHS 00×
○アルテミス 02 (30分判定34vs20) 大リーグボール2号 00×
○猫ろけっとR9R 02 (30分判定28vs07) 昴・肆拾漆式 00×
○メガロバイソン7 02 (07分停止22vs00) テータ 00×
○ケルビムMk7 02 (30分判定31vs08) アンフィスビーナ 00×
ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =
清和ストライクバックチーム、通称SSBTは自ら大企業のドラ息子を公言してはばからない清和須売流が率いるメンバーであり、さんくちゅあり同様に道楽で参戦していると言われて否定はしないがオペレータを務める彼自身を含めて集めたメンバーの実力には充分な自信があるつもりだった。
「ほんとですかぁ?」
「もちろん。特にパイロットとメカニックは超一流だよ」
「じゃ、じゃあ須売流様ご自身は?」
従順な使用人兼パイロットの質問にはあえて答えない。道楽とはいえ参加するからには勝つために参戦するし、VRS大会で試合感も把握した。メカニックのアルシオーネは美貌も実力も一級品、パイロットの灯乃上むつらは素直すぎるきらいはあるがそれは作戦を疑わずに遂行する真面目さに繋がっている。
であればその作戦を考える自分がキーマンにも弱点にもなるよなあ、とは思っても口に出す訳にはいかないだろう。対戦相手は男の機体オーガイザー、典型的な距離の取り合いになるだろうことは予想できていた。
「セッティングは問題なし。頑張ってね」
メカニックのお墨付きを得てカタパルトから射出される機体をモニター画面で見送る。パイロットも緊張しているだろうが実のところ須売流も心中決して穏やかではない。一日目の初戦はあのクスノテックと対戦、粘りを見せたとはいえ完敗しておりここでの連敗は避けたいところだった。頑張ってというアルシオーネの言葉はパイロットへの激励か、あるいは須売流への言葉でもあっただろうか。
昴・肆拾漆式は無骨なデザインがどこか昔ながらの機動兵器を思わせる、平均的なドラグーン機だがそれは戦術において汎用性が高いことを意味していた。
「まずは距離をとること。接近されても慌てないこと、だな」
「は、はいー」
回線を通じて頼りない返事が聞こえる。もちろん思う通りにことが運ぶのであればこれほど楽なことはないが、相手にも思惑がありそれを理解して指示ができるかどうかがオペレータの腕の見せ所である。対戦相手のオーガイザーは昨今負けが込んでおり、挽回を期して今回はハイスピード仕様での参戦。だが狙うは男らしく接近してからの一撃になることは疑いない。
「ブレイジング・ナッコォー!!」
いきなりの近接格闘戦から開始。砲戦仕様に仕上げてきた昴には反撃の術がないが須売流の指示を素直に聞いていたむつらは回避に専念してこれをかわしてみせる。オーガイザーHSは高機動機ながら装甲の厚さは脅威的、だが攻撃は大振りで序盤をしのげばペースが握れると須売流は踏んでいた。
弾幕を張りながら離脱を図る昴、オーガイザーの加速は想定したほどではなく充分に安全圏に離脱するとセーリングフライミサイルを発射、単発だが威力のある砲撃であり相手も避け続ける訳にはいかないだろう。そこに罠を張るつもりだ。
得意の近接格闘戦を狙うべく距離を詰めるオーガイザーに再び弾幕を張る昴、だがその弾幕に高火力のヘヴィマシンガンを用意したのが彼らの作戦だった。単発のミサイルだけではなく弾幕でも充分な損害を与えることができるのだ。接近すればオーガイザーに主導権を握られることになるが、中距離と遠距離で優位に立てば全体の三分の二を制することができる、とは単純だが間違ってはいない筈である。
「距離がとれたら避けることに専念だ。だが無理に逃げ回らなくてもいいからな」
「わかりましたぁー」
あえて呑気な口調で指示を送る。遠距離戦を嫌って接近するにはヘヴィマシンガンの弾幕に飛び込まなければならず、その時点で昴には有利になる。被弾しながらも二度目の接近戦を敢行したオーガイザーだが守勢を保つ昴を捕らえきれずに、効果的な打撃を与えられないまま距離を離される。
再び遠距離戦になるとセーリングフライミサイルを着弾させて、ここまで完全に昴が主導権を確保。ようやく接近したオーガイザーが男の拳を命中させるが、そのまま近接戦を維持することができず距離を離されるとヘヴィマシンガンに被弾。最後まで相手にペースを握らせなかった昴が作戦通りの展開で逃げ切りリーグ戦での初勝利を手中に収めることに成功した。
(ダイジェスト)前大会決勝戦の再戦となる北九州漁協vsGM陣営の一戦は大リーグボールが完勝、GMは雪辱を果たせずリーグ二連敗。ピンポイントで力を発揮するイハラ技研のアンフィスビーナがメガロバイソン7を正面からの撃ち合いで撃破して貴重な勝利を手に入れる。クスノテックと相性の良い白河工業は今大会ひさびさにSPT以外の機体でトータス号をセッティングしていたこともあってか、猫ろけっとR9Rの超高機動を捕らえきれずに敗退。早くも連勝はクスノテックとロストヴァ陣営の2チームのみという混戦模様の立ち上がりとなった。
○昴・肆拾漆式 02 (30分判定17vs05) オーガイザーHS 00×
○テータ 02 (16分停止06vs00) メカタウラス拾参號 02×
○猫ろけっとR9R 04 (28分停止17vs00) トータス号キングアラジン02×
○大リーグボール2号 02 (17分停止40vs-4) GM−Fb 00×
○アルテミス 04 (26分停止05vs-2) ケルビムMk7 02×
○アンフィスビーナ 02 (10分停止09vs-3) メガロバイソン7 02×
ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =
このままじゃ開発企業から土建機材制作会社になっちゃう!やだー!ということで月産ペースの維持にラインの大半を費やしていたツキノワ生産をナカモト重工業にOEMで出すことに決定したクスノテック。このあたり町工場の事務所で煎餅をほおばりつつさらりと決めてしまうあたりは永遠の女子高生社長山本いそべらしいところだろう。
「じゃあ代わりの開発はどーすんですか?」
「宇宙!!」
まるでアストロ球団がアフリカ!!と口にするような勢いだがようするに次期宇宙作業機の開発に取り組みたいらしい。あとは開発権やら軌道エレベータやもろもろの実験設備の使用権にそのためのコネが必要でヒャッハー!といった割と前段階のところで議論が白熱していたが、幸いなのはストライク・バックに参戦していればナカモト重工業を通じてコネを作ることだけはやりやすいというところだろうか。少なくとも一番難儀なハードルだけは超えることができそうである。
開幕二連勝で勢いに乗る彼らの相手はチーム・さんくちゅありとメカタウラス拾参號。高出力型攻勢機だがいそべにとって重要なのは牛山に自分と同じゲーマー臭がぷんぷんすることにあったかもしれない。
「ジェミニ誘導できるかなー!」
ちょっと年代的に難しい気合いを入れて両機中間距離から対峙。猫ろけっとR9Rは得意の多目的ビット・ユニットふぉーすまるちぽーを展開する。超高機動によるフォーメーションアタックであり、これを捕らえるのが容易ではないのは今更だ。
「こっちは手数、じゃない弾数で勝負なさいー!」
「それはゲーマー好みの選択だねえ」
一方メカタウラスのコクピットでは、オーナー兼オペレータの言葉に牛山が応答しつつ機体制御に専心する。妹のような年齢の我侭娘を相手に、生前の爺さんに頼まれたからと従順に振る舞ってはいるがコクピットで感じる緊張感自体は悪くなかった。弾幕を張りつつ相手の行動範囲を狭めて勝機を狙うという、オペレータの指示も戦法としては悪くない。
グレネードマインボムを連続撒布するメカタウラスを相手に猫ろけっとは機雷の海をかいくぐりながらまるちぽーからの砲撃を図り、火力は低いが単発の砲火がメカタウラスの装甲を一回二回三回と叩く。損害こそ軽微だが展開の早さに牛山は心中違和感を覚えていた。相手はクスノテック、こちらの弾幕を平然と避けてくることは承知していたがそれにしても相手の反撃が適格すぎる。初参戦に備えて主なチームの能力や傾向は一通り調べてきたが、たとえ入神の技量でも超高速機動からの精密射撃など本来ありえる動きではない筈なのだ。
「そうか、しまった・・・」
コクピットに舌打ちの音が響く。砲撃は単発だがまるちぽーによるフォーメーション展開で牽制することによってメカタウラスの行動範囲を制限し、そこに一撃を加える。牛山が企図していた戦法を先んじて取られていたことになるが、弾幕すら使わない牽制がこれだけ見事に成功したのがむしろ牛山の反応が良すぎたためといえば皮肉だろう。
とはいえこのままではジリ貧が目に見えており、状況を打開するには近接格闘戦による火力勝負に持ち込むしかない。メカタウラスの加速性能で猫ろけっとをどこまで追尾できるか、容易とは言いがたいが他に方法はないだろう。
単発の砲撃に装甲を削られながらも接近、アームド・アームズを振り回すが猫ろけっとは当然のように回避、ここまでの展開だけでかなりの損害を受けており状況は最悪に近い。再び距離を取られた瞬間にグレネードマインボムを合わせて着弾させるものの決定打にはほど遠い。
開始15分、焦慮を抑えながら再び接近戦を挑むが逆に至近距離からのまるちぽーを被弾。すかさずグレネードマインボムで相手のセンサー捕捉を断ち切るものの、これで二度目の接近戦も失敗する。対クスノテック戦はわずかな好機を確実にものにする勝負強さが求められるのだ。
「みーみーみー、コアボーナスいただきぃ」
機雷の海を抜ける一本の線がいそべの目には見えている。単発砲火で確実に装甲を削りながら追い詰めたところでとどめの一撃。完勝に近い内容で猫ろけっとが実力を見せつけた。
(ダイジェスト)猫ろけっとR9Rとアルテミスは危なげなく連勝をしているが、各チームも追撃を続けており北九州漁協やイハラ技研も難敵を相手に接戦を制して二勝目を上げる。未だ序盤であり、二敗目を喫したチームも充分に挽回を図ることができる場所にいるといえるだろう。オーガイザーは堅牢さを活かして待望の初勝利。GM陣営は最初の勝ち星が欲しいところだろう。
○猫ろけっとR9R 06 (23分停止36vs00) メカタウラス拾参號 02×
○アルテミス 06 (19分停止13vs00) GM−Fb 00×
○オーガイザーHS 02 (30分判定31vs03) ケルビムMk7 02×
○大リーグボール2号 04 (08分停止02vs-1) トータス号キングアラジン02×
○メガロバイソン7 04 (12分停止16vs-3) 昴・肆拾漆式 02×
○アンフィスビーナ 04 (16分停止03vs-3) テータ 02×
ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =
前大会優勝の実績を残しながらあえてリーグ戦仕様大リーグボール2号機を繰り出してきた北九州漁業協同組合。その対戦相手となるシャル・マクニコルもケルビムのマイナーアップを行っての参戦となるが、チームの一員として尽力しながら狂気のメカニック天使十真の動向が気になるシャルとしては、モラルを逸脱した開発に付き合わされるのはできれば御免被りたいところだった。新機体の設計を点検しながら、密かに取り寄せていた古い資料と比較する。
「間違いない・・・やはりアプラシリーズだ」
ストライクバックが地上戦で開催されていた一時期、不可解な機体を導入して批判の矢に晒されたチームが存在する。人の嬰児に似た機体、姿を見せぬパイロット、非公開の制御機構など数大会参戦した後に姿を消した彼らの機体にはアプラの名が冠されていたが、その開発メンバーの一員に天使十真の名が記されていた。彼らの目的は未だ不明だが、シャルとしては我が身を守る必要を感じながらも組織の論理に従い、何よりも純粋な競技者として目の前の戦いに尽力しない訳にはいかない。
剣天使の本領は接近しての格闘戦にあるが、大リーグボールは中間距離にあからさまな兵装の空白距離を設けておりそこをどれだけ活かせるかが鍵になるだろう。問題は2号と称する相手の機能にどのような罠が設けられているかだった。
開幕はその中間距離から、マインオブパニッシュを撒布して様子を探るケルビムだが大リーグボールは意に介さず後退して離脱を図る。すかさずシャルもブリリアント・ライトを解放して捕捉を狙うが、一直線に走る光条がグラウンドの土煙にかき消されると一瞬で機体が姿を消した。マウンドもとい大リーグボールのコクピットで神代が静かな笑みを浮かべている。
「消える魔球さ」
「キュ」
放たれた筈の攻撃ユニットが相手のセンサーからも、モニターからも失われる。我が目を疑うシャルだが、次の瞬間には至近距離に出現した砲弾がケルビムの装甲を叩いていた。実際の損害よりも何が起きたのかという混乱に意識を奪われるが、同じ機能は新生ケルビムにも搭載されているのだ。
咄嗟にケルビムのウイングを開くと、空間に干渉する天使の翼が通常加速を超える座標変更を行い大リーグボールの至近に機体を移動させる。ゼロブーストの技術を機動性能に応用した空間移動能力だった。
待望の接近戦、だが大リーグボールの脅威は消える魔球そのものだけではなくそれが与えるプレッシャーにある。かつて魔送球を考案した星一徹はそれがバレることを防ぐためにたまにはボールをぶつけてやればいいと言明したが、たとえ格闘戦に持ち込んでも襲いかかるプレッシャーは時に魔球以上のダメージを与えてくるのだ。
「ようするにぶつけちゃうキュね?」
「ああ、ぶつけたまえ」
サイボーグイルカフリッパーに力強く断言する神代だが、新魔球のプレッシャーが至近距離でケルビムの装甲を焼くと虚を突かれたシャルは完全に後手に回ってしまう。高出力を活かしたソードオブパニッシュで切りかかるが相打ちにしか持ち込めず、先制された不利を覆すことができない。
それでも得意距離に賭けてゼロ加速から炎の剣ならぬ光の剣を振っている姿は智天使のそれにふさわしい。一撃が命中すればダメージは小さくないが決め手を欠いたままの攻防は膠着状態に陥ってしまう。開始10分から20分までの間は双方効果的な攻勢に出ることができないままの展開。
「危険だけど・・・ここで狙う!」
長期戦に機体のジェネレータ出力が下がる一瞬を狙ってケルビムがソードオブパニッシュを直撃、だがこれも反撃を受けて相打ちに持ち込まれてしまう。攻撃のタイミングは完璧に近かったが攻勢を得意とする神代に相打ちを狙われて防ぐことは尋常な技量では不可能だった。
後は神代得意の制圧攻勢、そのまま強引に押し切られる恰好で装甲が焼かれるとケルビムは無念の機動停止。初戦を落としていた北九州漁協は連勝で上位陣を追撃する体勢に移る。
「まずはCS進出狙いだな」
「三位じゃ優勝戦に出れないキュよ」
(ダイジェスト)前回大会で猫ろけっとを下したテータが今回の対戦でも最後まで主導権を握られながら、ラスト3分で一瞬の逆転劇を演じるとそのまま逃げ切って快勝。一方でアルテミスが連勝して単独首位に躍り出た。攻撃力を活かしての短期決戦で豪快な勝負を見せるメガロバイソンはメカタウラスを相手に派手な砲戦を展開、これを制して一敗を保ったまま翌日のアルテミス戦に備える。北九州漁協とイハラ技研も星を堅持して首位のアルテミスを一敗の4チームが追う状況になった。
○大リーグボール2号 06 (25分停止19vs-5) ケルビムMk7 02×
○アンフィスビーナ 06 (16分停止01vs-1) トータス号キングアラジン02×
○昴・肆拾漆式 04 (30分判定23vs08) GM−Fb 00×
○メガロバイソン7 06 (08分停止11vs00) メカタウラス拾参號 02×
○アルテミス 08 (30分判定18vs06) オーガイザーHS 02×
○テータ 04 (30分判定16vs09) 猫ろけっとR9R 06×
ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =
いまいち勝ち星から遠ざかっているオーガイザー。類まれなき男の機体だが負けが続いていつまでも高楊枝という訳にはいかず、今回「鬼姉」の異称で無頼兄がこっそり呼んでいる紅刃の意見を受けたハイスピード仕様で参戦していた。
「ちょっと中途半端じゃありませんかえ?」
「あー、えーと、そーだな」
無頼兄らしい男の根性で高機動を確保しているが魂鋼の重装甲は換装せず、パイロットは移動重視でも機体が移動重視に仕上がっていないのである。紅刃の指摘も当然で、今大会でも敗戦が続いているどころかハイスピード機が距離の取り合いで遅れを取っている例すらあった。このままでは市中引き回しのうえ火あぶりになるのは目に見えている。
とはいえ大会が始まっている以上は今更機体の変更などできない。ここは気合い、もしくは気合い、あるいは気合いで乗り越えるのが男というものだろう。何しろパイロットの無頼兄自身は男らしい移動力対応の特訓を積んでいるのだ。
「行くぜ!ガァイ・ダァァァァァッシュ!」
もちろん機体にそんな機能は積まれいないからオーガイザーの加速を無頼兄の男が補う。相手はイハラ技研のアンフィスビーナであり遠距離戦の第一人者、男の拳を試すのにこれほど相応しい相手はいない。
気合いで勝ち取った近距離戦からブレイジング・ナッコーを放つがこれはかわされる。それでも怯まずたじろがずに男の拳を振り回して燃え盛る拳が命中、直撃とは言いがたいが先制攻撃に成功した。
「逃がすかよォ!」
ここで中間距離に移行、このまま遠距離戦になれば危険な砲火に身をさらすことになる。そう思っていたがアンフィスビーナの主砲シンパサイザーが常の遠距離ではなくこの距離に置かれていたことを無頼兄は擦過する砲弾の威力で知る。つまり遠距離まで持ち込まれるのではなく、わずかでも近距離戦から外れればそこに相手の主砲が待っているのだ。
この状況で無頼兄が取るべき選択肢は二つある。一つは絶対優位な近距離戦に移行すべく距離の確保に専念する方法、もう一つは男らしく相手の主砲に身をさらしつつ、敢えて正面から撃ち合う方法である。無頼兄は彼らしい方法を選んだ。
「ガァイ・ブレイザァー!!」
オーガイザーの胸板から放出される熱線がアンフィスビーナを捕らえると、反撃のシンパサイザーも魂鋼の装甲を叩く。男らしく「効かん!」と叫ぶ根性つきAI搭載装甲だが続けての撃ち合いで高火力の弾頭が再び叩きつけられた。
「効いたァ!」
「マ、マジかッ!?」
まさか魂鋼が弱音を吐くとは思ってもいなかったが、それでもここで引いたら男ではない。あえて宇宙空間に両足を踏むと両腕を広げてガイブレイザーを照射する。無防備にも等しいが相打ちであれば魂鋼がこれを防ぐ筈だ!無頼兄の信頼を男で感じとったAI装甲が襲いかかるシンパサイザーを一歩も引かずに正面から受け切ると、数度の撃ち合いで遂にアンフィスビーナの砲火が弛んできた。
千載一遇の好機に一気に至近距離まで詰めたオーガイザーがブレイジング・ナッコーの一撃、これが命中するが実のところ戦況はこれで五分というところである。燃え盛る拳が続けてアンフィスビーナを捕らえると開始14分で逆転、離れた瞬間にシンパサイザーを受けて再び五分に戻されるがこれは魂鋼が耐えてくれた証でもある。互いに致命的な隙を見せないために決定打を繰り出すことができず、ここからは削り合いで逃げ切るしかない。
「今こそ!ガイ・ダァァァァァッシュ!」
開始20分過ぎ、ここで男の接近戦を挑んだオーガイザーの拳がアンフィスビーナを捕らえると直撃こそしないが続けて二発目の拳も命中、たまらず離れた相手に灼熱の熱線が襲いかかり、これも直撃はしないがタフな削り合いに屈服したアンフィスビーナが遂に沈黙した。
ひさびさに「らしい」攻防を制したオーガイザーが貴重な勝利を獲得、だが重装甲をより活かすべきか或いは攻撃力を上げるべきか、今後の機体方針についての課題を与えられる一戦であったことも間違いないだろう。
(ダイジェスト)メガロバイソン7が得意の短期決戦に持ち込んで単独首位のアルテミスを撃破、貴重な直接対決を制してこれで全勝のチームが消える。ここまで一敗および二敗のチームが6つという混戦模様のリーグ戦となっており、各チームとも充分に優勝戦進出のチャンスがあるが今後は星の取りこぼしが戦績に響いてくることになるだろう。後半戦以降、上位陣同士の直接対戦も未だ多く残されているが展望が見えてくるのは次々戦七日目を過ぎるあたりか。
○オーガイザーHS 04 (23分停止12vs00) アンフィスビーナ 06×
○テータ 06 (30分判定14vs08) 大リーグボール2号 06×
○猫ろけっとR9R 08 (29分停止18vs-2) GM−Fb 00×
○メカタウラス拾参號 04 (19分停止20vs-5) 昴・肆拾漆式 04×
○メガロバイソン7 08 (10分停止26vs-2) アルテミス 08×
○トータス号キングアラジン04 (30分停止08vs-4) ケルビムMk7 02×
ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =
リーグ戦の折り返しとなる大会六日目、ここまで上位陣が星を競り合っている中で当然のようにその一画を占めているのがメガロバイソンプロジェクトの強豪たる所以だろう。狙撃に優れるゲルフを更に攻勢主体に専念させているのは天才メージならではのオペレーションであり、短期決戦による撃破率の高さでは他チームの追随を許していない。
「どーですか?バイソン7の反応は」
「あ、はい。いい感じです」
「感謝はワタシよりもメカニックに言うように!」
メカニックがゲルフの祖父であることを承知の上でメージが茶化してみせる。バイソン7はゲルフ専用機を想定してロールアウトされた機体であり、未だ試験配備の扱いだが多砲門系の装備がパイロットと抜群の相性を見せていた。
だが軽口を叩きながらも彼らの表情は固い。これまでの対戦でバイソン7は攻撃主体の短期決戦で優位を得てきたが、この日の対戦相手となるトータス号キングアラジンはその機体コンセプトが極めて彼らと近い。双方がデルタアタックシステムを採用する攻勢機だが、バイソン7が出力と装甲を強化している一方でトータス号は狙撃性能を更に向上させていた。相手の攻撃が激しいほど反撃も激しくなる、位相反撃の特性がどちらに優位に働くかは容易に判断しがたいところだった。
「案じても仕方ありません。産んでください!」
互いに遠距離砲戦を図る、誰もがそう考えたが中間距離から先んじて離脱を図ろうとしたバイソン7に向けてトータス号が冷凍光線を発射、直撃とはいかないが命中させて先制する。
トータス号の積極攻勢はキングアラジンにふさわしい壁抜け男の装備あればこそで、反り返った機体が姿を消すと一瞬で遠距離砲戦に移行した。だがデルタアタックの攻防は双方が望むところでありここでスペクトル破壊機は必要ないだろう。一斉に射出されるリモコン蝙蝠を確認すると、バイソン7も三基のアウトレンジブラスターを切り離す。
「どうせなら位相反撃反撃反撃反撃反撃反撃システムゥ」
残念ながら、SRIのブースで狂わせ屋女史が呟く事象は起こり得ないが双方の攻勢ユニットが同時に砲門を開く。こうもり男が放つ砲火とアウトレンジブラスターが互いに着弾、互いに自動反撃が機能するが、出力ではわずかにバイソン7が勝り初弾の損害を取り戻して戦況を五分に戻した。
位相反撃は反応速度に限界があり成功率はほぼ五割、出力は自分が受けた攻撃の威力に準じるが元を超えることはありえない。であれば得意を活かして積極攻勢に出るべきと考えたゲルフの判断は決して間違えてはいなかったが、このタイミングでトータス号のコクピットに座すコルネリオはあえて回避行動に専念する。賭けではあるが、狙撃性能を上げたトータス号であれば賭けてみる価値は充分にあった。
「闇をひきさくあやしい悲鳴ィ・・・」
こうもり男の砲火が連続して着弾、アウトレンジブラスターの位相反撃を受けるが通常砲撃はすべてかわしてみせる。だが出力に勝るバイソン7はここで一歩も引かず攻撃を強化、あえて相打ち覚悟の正面激突を挑む。
「悪魔が今夜もさわぐのかぁー!」
やはりあなたも知っていますかとばかり、応じているメージの指示を受けてアウトレンジブラスターが砲火を吐き出すと互いの攻撃ユニットが複雑な弧線と直線とを同時に描き、双方の機体が派手な炸裂光に包まれる。
一瞬の後、機動停止ぎりぎりの状態で戦場から離脱したのはトータス号キングアラジン。わずか5分間の攻防は初弾の先制で得た優位を活かしたコルネリオに軍配が上がり、SRI白河重工が激戦を制しての勝ち星を獲得した。
(ダイジェスト)SSBTは理想的な距離の取り合いを展開して北九州漁協を圧倒、トータス号と同じく強敵を撃破して勝率を五割に戻す。上位戦線では積極攻勢策が当たったイハラ技研が猫ろけっとR9Rを圧倒して撃破、メガロバイソン戦に続く殊勲の星を上げた。ロストヴァはチームさんくちゅありを相手に接戦に持ち込まれるが、双方機動停止ながら損害差で判定勝ちを収めると再び単独首位に立ち4チームがこれを追撃する状況に戻る。要注目は地道に連勝を続けているテータ。
○トータス号キングアラジン06 (05分停止02vs00) メガロバイソン7 08×
○GM−Fb 02 (30分判定15vs13) オーガイザーHS 04×
○昴・肆拾漆式 06 (25分停止32vs00) 大リーグボール2号 06×
○テータ 08 (18分停止20vs-2) ケルビムMk7 02×
○アルテミス 10 (22分停止-3vs-7) メカタウラス拾参號 04×
○アンフィスビーナ 08 (11分停止32vs-10) 猫ろけっとR9R 08×
ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =
前回大会では同じ七日目に激突、互いに痛み訳となったロストヴァ・トゥルビヨンと山本いそべが今大会もここで直接対決を迎える。互いが互いを「気に入らない相手」と見なしているに違いないが、その理由は膠着して楽に勝たせてもらえない相性と何よりも許容できない性格の不一致にあったろう。
「あらフィールドが乳くさいわね」
「加齢臭よりいいよ?」
今にはじまった話ではないが、圧倒的な機動力を活かした回避性能を誇る猫ろけっとであれ様々な機体制御を行わない訳にはいかない。制御システムの機構上、同一行動を継続させうるのは80%が限界とされており、30分間の競技であれば理論上6分間は回避行動が不可能になる筈であった。
極論すればクスノテックの苦心はその6分間を生き延びる方策をいかに構築するかにあると言える。何しろ彼らの装甲はゼロに等しく、たった三発の直撃弾で息の根を止められてしまうことすらあるのだ。
「十年で一発ならおばさんは四発ぅ!」
「アブ?競技中の事故なら罪にならないわよね」
どうせ危険なら多少の悪口雑言で今更変わる筈もない。何しろ相手は本気なのである。
開始早々から中間距離の撃ち合い、スィートトゥキスを当然のように避けながらまるちぽーを展開する猫ろけっとだが、狙撃行動を試みていた筈のアルテミスも反撃の砲火を当然のように回避する。隙を見せたのに崩れない、こういう年の功がいそべには気に入らない。
そのまま離脱して遠距離、高出力のエネルギーが集束するとアルテミスから放たれるグレイトデライトの光条が虚空を貫くが猫ろけっとには当たらない。名人芸といえるオペレータの指示に従いながら、優位な距離を決して譲らないのはロストヴァの真骨頂だが開始9分10分と攻勢を続けても猫ろけっとは隙を見せず逆にまるちぽーからの砲火を被弾する。80%理論はどこの世界の話だと、ロストヴァは舌打ちせざるを得ない。
加速するアルテミスの出力がわずかに落ちるが攻防に影響を与えるほどではない。むしろ機体制御に誤差が生じる、この瞬間こそ好機とばかり放たれたグレイトデライトが猫ろけっとに突き刺さった。機体を覆うフォースフィールドは宇宙空間で機構を保護するためだけのものであり、装甲としての効果はまったく存在しない。出力では遠くおよばないが相打ちにだけは成功して、開始15分で双方の損害はほぼ互角となっている。
「みーみーみー!あんずと二人足しても年の差はぁ!」
「それは回答不能です、れでぃ」
妹のあんずが握るオペレータAI、Mii3DSに命知らずの応答を促すが必殺の数値は得られない。その間も両機は互いの神経を削る攻防を続けていたが遂に猫ろけっとがアルテミスを捕捉、フォーメーション展開したまるちぽーの多方向射撃エリアに追い込むことに成功する。
連続砲撃が一撃、二撃、三撃目と着弾。出力に劣る砲撃でもこれだけ当てれば被害は大きい。だめ押しの四撃目が放たれるが三機のまるちぽーと一機の本体による砲撃は猫ろけっとの相対座標を推察させる鍵ともなった。正答率は100%ではないが賭けてみる価値はある。
「弾は三つ、名前に反して甘くはないけどね」
スィートトゥキスの弾道が軌跡を描いて三本が正確に着弾する。二度目の直撃で猫ろけっとの損害率は67%、ぎりぎりの状況だがクスノテックには決して珍しい事態ではない。
残り時間は7分ほど、アルテミスも決して装甲が厚い機体ではなく互いに直撃せずとも一撃を当てればあとは逃げ切ることができるだろう。時間が過ぎていく中で残り5分。
「OBAさんの××見つけたあー!」
「・・・っ!」
理論上の限界値であればそれはアルテミスにも存在する。機体制御の一瞬の隙を捕らえたのは猫ろけっとであり、まるちぽーから放たれる砲火が命中するとこの一撃で逆転に成功。残りわずかの攻防を逃げ切った瞬間、コクピットで会心のガッツポーズを決めてみせたのは山本いそべだった。
(ダイジェスト)首位のロストヴァが敗戦したことにより後半戦が開始して未だ混戦が続く状況、わずか星一つの差で7チームが競り合っており残り四戦の短期リーグとして見るのであれば勝ち点10のチームは全勝または一敗まで、勝ち点8のチームはあと一戦も落とせないといったところだろうか。勢いがあるのはクスノテックと四連勝で首位に並んだテータ。上位陣による直接対決は翌日のアルテミス対テータ戦と最終日の猫ろけっと対メガロバイソンが残っている。
○猫ろけっとR9R 10 (30分判定13vs05) アルテミス 10×
○GM−Fb 04 (25分停止16vs00) トータス号キングアラジン06×
○大リーグボール2号 08 (30分判定20vs19) メカタウラス拾参號 04×
○昴・肆拾漆式 08 (16分停止02vs00) アンフィスビーナ 08×
○テータ 10 (22分停止24vs-1) オーガイザーHS 04×
○メガロバイソン7 10 (11分停止34vs-7) ケルビムMk7 02×
ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =
「さてベッドメイクは完了、後はお前さんがたの仕事だ」
「微力をつくさせてもらいますよ」
コクピットで苦笑するノーティだが、メカニックのハイナーは腕こそ一級品でも性格には問題がありすぎてオペレータ席のシータがこめかみをおさえている様子が容易に想像できる。
「・・・あの男は何とかならないのか」
そう思っていたら当人から苦情めいた通信が届くが、堅苦しいほど生真面目な女性にとってハイナーの言動は許容できる範囲を遥かに超えているだろう。何しろ発言だけではなく多彩な女性関係でも道徳と良識の敵とされているような男なのだ。
だが連勝を重ねてようやく首位に並んだこの状況で、チームの仲が悪いのはどうかといえば実のところノーティはあまり気にしていない。それほど彼らの能力は信頼に値すると考えており、女王ロストヴァとの直接対決であろうともプレッシャーを感じる理由はなかった。
一方でチームへの信頼であればロストヴァも揺るぎないものを持っている。パイロットの影に隠れがちだが、アブの的確なオペレーションがロストヴァの生命線であることは彼女自身が認めていた。優秀なオペレータの条件にはパイロットとの相性を欠かすことができないが、長ったらしい名前を覚える気が起きず「ABU」と呼ぶような女性によくも真面目に従ってくれるものだと思う。
「READY、アブ?相手は厄介よ」
前回大会で敗戦を喫したというだけではない。相手はあのクスノテックを相手に二大会連勝しているチームであり、その理由がゾーンコントロールの上手さとそれを支えるオペレータの技量にあることをロストヴァは知っていた。それは長期戦でペースを握りながら好機を狙う、クスノテックやロストヴァにとって鬼門となる相手なのだ。
開幕早々、初弾のグレイトデライトが着弾するが位相反撃が発動して被弾、むしろ直撃でなかったのが幸いして双方損害は軽微。アルテミスは接近しながらスィートトゥキスを発射、更に距離を詰めてローズオブシャロンまで繰り出すがテータは落ち着いてフォアマシンガンで迎撃する。コクピットのノーティにシータの声が届く。
「ベータ・エックス3・コネクト。離脱しろ」
簡潔な指示は機体だけではなくデルタ・アタックに座標を示すためである。一気に遠距離戦に持ち込みつつ機体の影から躍り出たユニットが角度をずらしての砲撃、これが命中すると相対位置を完璧に把握したオペレータから正確極まる指示が次々と流れ込む。一瞬で変化する指示を的確に捉え、不足は自らの判断で補いつつ相手を着実に追い詰めなければならない。
続けてデルタ・アタックが着弾、たまらず距離を詰めるアルテミスにガトリングガンで牽制。ここまで戦況はテータが支配しておりアルテミスが翻弄されているとしか言い様がない。開始10分を超えてアルテミスの出力がわずかに落ちるが、テータのジェネレータは衰える素振りすら見せていなかった。
「可愛げのない戦いは、嫌いではないわ」
相手への賛辞と自分への皮肉を同時に込めて、反撃覚悟のグレイトデライトを直撃させるが戦況を覆すには遠く、攻勢の隙をついたテータの砲撃が確実にアルテミスを追い詰める。ようやく接近、ローズオブシャロンを命中させると同時に距離を取ろうとしたテータにスィートトゥキスが着弾。だがテータのゾーンコントロールを打ち破るには長期的にペースを握り続けなければ意味がない。
「焦る必要はない。もう一度捕まえるぞ」
「OK、シータ」
再び牽制射撃を繰り返しながら、互いの位置情報を把握してデルタ・アタックを配備する。戦場が構築されていくのに合わせてシータの指示もより精密かつ具体的に変化して、それがコクピットに座っているノーティには何よりも雄弁に戦況の優位を物語っていた。
「アルファ・ヅィー1・ファイア。強引に決めろ!」
多方向から襲いかかる砲火を一撃二撃とかわしてみせるアルテミスに、逆方向から放たれた三撃目が命中。直撃こそしないがすでに負荷限界寸前であった女神は無念の機動停止。快進撃を見せるチーム・コミューンが強敵を相手に連勝して首位を堅持した一方で、連敗のロストヴァは後がない状況に陥る。
(ダイジェスト)テータと猫ろけっとが快勝し、優勝決定戦進出に向けて一歩リード。アルテミスとメガロバイソンは痛すぎる失点だが残り全勝すればまだチャンスは残されているだろう。四敗目を喫したイハラ技研とSSBTは残り三戦での逆転はほぼ絶望的で、優勝戦進出争いは勝ち点12と勝ち点10の計5チームに絞られたといっていいだろう。北九州漁協とメガロバイソンプロジェクトはそれぞれクスノテックとの直接対決を残しており、未だ自力で優勝戦進出を狙うことができる位置。
○テータ 12 (20分停止22vs00) アルテミス 10×
○GM−Fb 06 (30分判定27vs15) アンフィスビーナ 08×
○ケルビムMk7 04 (30分判定09vs01) メカタウラス拾参號 04×
○トータス号キングアラジン08 (07分停止27vs00) 昴・肆拾漆式 08×
○猫ろけっとR9R 12 (21分停止33vs00) オーガイザーHS 04×
○大リーグボール2号 10 (07分停止19vs-1) メガロバイソン7 10×
ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =
残り三戦にして5チームが星一つの差でせめぎ合う混戦状態となっている今大会。上位2チームが優勝決定戦に進出できるが、昨日敗戦を喫したメガロバイソンもこの後の日程で首位を走るクスノテックとの直接対決を控えており、未だ自力突破の芽が摘まれた訳ではない。
「昨日の負けは今日と明日と明後日の勝ちです!」
「優勝戦を含めて四連勝ですね」
分かってきたじゃないですかとメージにお誉めの言葉を頂くゲルフ。この期におよんで迷う必要はわずかもなく、すべての対戦に勝つつもりで戦うべきなのはいつ何時だろうと変わらない。対戦相手は男の機体オーガイザー、重装甲が厄介な相手だがそれを正面から突破する攻撃力をゲルフに期待しても良い筈である。
「ブレイジィング・ナッコォー!!」
無頼兄の叫びに呼応して、燃えたぎる男の拳がうなりを上げるが開始早々の遭遇戦を警戒していたバイソン7は敢えて回避行動に専念、灼熱の拳をかわしてみせる。接近戦は本来オーガイザーの距離だがメガロバイソンであれば正面から撃ち合い一歩も引くべきではないと、すかさずメージの指示が飛ぶと至近距離からバイソン7がハンディバルカンを撃ち放して魂鋼の装甲に幾つもの火花が咲いた。
「バイソン7の出力なら強引に押せます!」
「殴り合い、来ぉい!」
ハイスピード仕様を活かして得意距離の確保を優先するオーガイザーに対し、相手の土俵に立つことを承知で足を止めるバイソン7。元来狙撃のエキスパートであるゲルフにとって接近戦は決して得意ではないが、メージの的確な指示とザムが強化した装甲はそれを補うことができる。
足を止めて放たれる、ハンディバルカンの弾頭が連続して着弾する一方で、移動から攻撃体勢にシフトするタイミングを外したオーガイザーの拳がむなしく空を切る。ようやく後退したバイソン7に中間距離で放たれたガイブレイザーの熱線も、反撃のトライバルカンと相打ちになりペースを掴むことができない。いかに重装甲でもこれだけ連続して着弾すればダメージは蓄積せざるを得ないだろう。
「ぅ当たれぇーい!」
再び接近戦、無頼兄の再びの叫びに放たれた単発の拳が命中するがメガロバイソンの装甲はオーガイザーには及ばずとも厚い。一方で手数と出力であればバイソン7が勝っているが、それ以上に戦況の差となって現れてきたのが得意距離を放棄したゲルフが足を止めての殴り合いに応じている、その積極性で相手に与えている損害だった。少なくともこの戦いにおいてゲルフの男は無頼兄の男を上回っている。
「殴られるのオッケーですよ!」
「りょうかぁーい!」
大人しく見えてけっこう乗せられる性格らしいゲルフを、あまり大人しくも見えず乗りっぱなしのメージが景気よく後押しする。だって殴られるのは自分なのにと、普通なら躊躇しておかしくない状況で素直にオペレータの言葉に従えるのは天才オペレータへの信頼あればこそだろう。
至近距離で放たれる二丁拳銃が厚い装甲を叩く。反撃を狙うオーガイザーの拳はときおり命中するも直撃せず、確実に魂鋼の耐久値が弱められていく。得意距離での攻防であり起死回生も狙えぬまま16分、相打ちとなる殴り合いで遂に鋼鉄の巨人が力つきると機動停止。メガロバイソンプロジェクトが優勝戦進出に望みをつなぐ勝利を手に入れた。
(ダイジェスト)ここまで連勝を続けていたテータがトータス号に足をすくわれて後退、猫ろけっとが魔球のプレッシャーに耐えて大リーグボール2号を下し単独首位を得る。負けた北九州漁協はこれで優勝争いから脱落、残るはテータとメガロバイソン、アルテミスの3チームが首位のクスノテックを追う状況となるが残っているリーグ日程はわずか2日。クスノテックは明日勝ち星を上げれば先んじて優勝戦への進出が確定する。
○メガロバイソン7 12 (21分停止24vs-1) オーガイザーHS 04×
○トータス号キングアラジン10 (10分停止10vs-3) テータ 12×
○GM−Fb 08 (30分判定29vs15) ケルビムMk7 04×
○アンフィスビーナ 10 (30分判定16vs02) メカタウラス拾参號 04×
○猫ろけっとR9R 14 (30分判定37vs23) 大リーグボール2号 10×
○アルテミス 12 (30分判定18vs08) 昴・肆拾漆式 08×
ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =
後半戦まで粘ったものの、八日目の敗戦で残念ながらリーグ戦突破の目を失ってしまったイハラ技研。その起源は町のガス器具屋さんだが実は現在も町のガス器具屋さんであり、機体はすべて千葉県我孫子市内にある某企業から無理矢理送りつけられているとは有名な話である。
「ちゅーっす!シロネコ宅配便です」
言っている当人がフレーム開発を手がけるWDF社長にしてイハラ技研の影の会長を務めるホワイト氏その人なのだが、閑散とした事務所にいたのはメカニックの岩田くんただ一人。
社員全員温泉旅行中または二日酔いで定時になっても誰もいないということらしく、仕方がないから受け取りの伝票に岩田くんのシャチハタを押してもらう。ついでにイハラ技研の取締役就任のサインも書かせてしまい、冗談だと思っていたら役員報酬が振り込まれて家族はびっくりするし登戸さんが急に優しくなってさあ大変とは大会とはまるで関係のない話である。
とはいえ競技は競技である。地域密着を思わせるイハラ技研と北九州漁協の対戦はどちらも優勝戦進出の可能性こそ失っているがここまでは充分な好成績を残していた。ストライクバックの評価基準は勝率五割とされており、両チームともここであと一勝が欲しい現状となっている。
戦前評では相性でイハラ技研有利とされる、中間距離でアンフィスビーナがシンパサイザーを撃ち放つ。一撃二撃三撃と撃つが命中せず、テムウ・ガルナに珍しい狙撃の甘さは二日酔いが影響していたかもしれない。数分間砲撃を続けてようやく精度が上がってくるが、一撃はかわされて続く砲撃も弾かれてしまう。
「消える魔送球キュ?」
反撃を図る大リーグボールが待望の遠距離に離脱、放たれる魔球がアンフィスビーナに命中する。相打ちでガンパラレルも着弾するが位相反撃を受けて充分な効果は出せず。
機動性でわずかに勝るアンフィスビーナは反撃を受けない中間距離に移行するとシンパサイザーを一斉射出、命中すれば一気にペースを掴むことができるが大リーグボールは全弾回避に成功する。好機を逃したアンフィスビーナは連続して砲撃を試みるが、相対位置を見失ってしまい高火力の砲弾はむなしく空を切り続けるしかない。
「おーい」
「んー?何?」
呑気な通信はオペレータからの指示があまりにないのでまた蜜柑でも食べているかとテムウが確認したためである。基本的にパイロットが競技、メカニックが事務処理、オペレータが観戦を行うのがチームとしてのイハラ技研のスタイルだがテムウとしてはせめて観戦ではなく応援をして欲しい。ちなみに登戸さんは蜜柑は食べていなかったがこたつで煎餅を食べていた。
開始12分、遠距離戦に持ち込まれるがガンパラレルを命中させたアンフィスビーナが戦況を五分に引き戻す。低出力の砲撃だが位相反撃のリスクが減るため相性としては悪くない。再び中間距離、シンパサイザーの直撃を狙うがベテラン神代はここぞの一撃を確実に回避してみせる。
「消えたまえ!」
回避と同時に距離を取って消える魔球。これを絶妙なタイミングで命中させて大リーグボールが優位に立つが、アンフィスビーナも単発の砲撃を命中させてペースを奪われずに食らいつく。膠着気味の攻防だがそれだけ実力が拮抗している証拠であり、内容では大リーグボールが押しているがアンフィスビーナにも逆転の好機が度々訪れて双方予断を許されない。
中間距離を保持したアンフィスビーナがシンパサイザーを連続斉射、断続的に三弾を命中させるがすかさず消える魔球が命中して大リーグボールがペースを戻す。膠着状態のまま長期戦となるが、そういえば今回はコクピットに妙な仕掛けがないなと思っていたテムウの頭上に突然バケツの水がぶちまけられると3D映像つき左門豊作の声が大音量で響き渡った。
「消える魔球は!水に弱かとですたいいい!」
開始26分、消える魔球が命中してこれで勝負ありと思われた瞬間、反撃のシンパサイザーが直撃すると高出力の弾頭が続けて襲いかかり、砲撃に機体バランスを崩していた装甲にだめ押しとなる全弾命中。機動停止こそしなかったがわずか三分の攻防で膠着状態を打破したずぶぬれのアンフィスビーナが一気に勝負を決めてみせた。
(ダイジェスト)上位四チームがすべて勝利、これにより単独首位のクスノテックがいち早く優勝戦進出を確定させる。残る一枠を巡る争いは最終戦に持ち越しとなるが結果次第では3チームまたは4チームが同率首位に並ぶ可能性もある。
○アンフィスビーナ 12 (30分判定22vs01) 大リーグボール2号 10×
○オーガイザーHS 06 (30分判定19vs12) メカタウラス拾参號 04×
○メガロバイソン7 14 (11分停止30vs-5) GM−Fb 08×
○アルテミス 14 (15分停止20vs-2) トータス号キングアラジン10×
○テータ 14 (17分停止22vs-4) 昴・肆拾漆式 08×
○猫ろけっとR9R 16 (20分停止26vs-5) ケルビムMk7 04×
ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =
リーグ最終戦。上位4チームがひしめく状況で単独首位のクスノテックはこれを追うメガロバイソンプロジェクトとの直接対決を控えており、テータはGM陣営と、ロストヴァはイハラ技研との対戦が組まれている。
「悪く、思わないでね!」
至近距離を保ちローズオブシャロンで捕捉、反撃を封じて圧倒する。ロストヴァ得意の展開でアルテミスがアンフィスビーナを完璧に押さえ込む様子が各チームが待機しているブースのモニタにも映し出されていた。追い詰められてからの三連勝で早々にリーグ突破を決めてみせる、女王の異称は伊達ではないといったところだろう。
クスノテックは勝敗に関わらず、他のチームは勝利すれば自力で優勝決定戦に進出できる。あとは突破したチーム数により決定戦の形式が決まるだけのことでしかない。他所の戦績に一喜一憂する必要がないことはありがたいが、ただ一戦で結末が決まる状況に相応の重圧がかかることはやむを得なかった。
「向こうは向こう、こちらはこちらだ」
「ああ。分かってるよ、シータ」
モニタを見て軽く息をついたノーティは、オペレータの言葉に答えながら意識をして肩の力を抜こうとする。
最終戦の相手となるGM機には前大会で苦杯を飲まされており、ここまでの戦績で優位を判断することはできなかった。ストライク・バックには機体同士の相性が勝敗に影響する例がまま見られ、どれほど強さを見せても不利を強いられる組み合わせが必ず存在する。攻防を長期化させて相手の動きを封じる彼らのパターンは、安定した守備力を要とするGMに対して決して優位に働くとは言いがたかった。そして機体同士の相性は彼らの対戦相手も当然、意識をしているのだ。
「こうなると昨日の黒星が痛かったよなあ」
フルバーニアンのコクピットでジムが呟く。序盤の五連敗から一転して四連勝、昨日のメガロバイソン戦を勝っていれば最終戦で勝率五割を狙うことができたという後悔はあるが、それだけに最終戦であとひとつ星を稼いでおきたい。GMの高い守備力は長期戦でこそ活きてくる。
機体がカタパルトから射出されると同時に操縦竿を引き込みブーストポットを作動させる。開幕戦ではまだ扱い慣れていなかったゼロ加速も、リーグ戦が続く中で充分に使いこなすことができるようになっていた。
至近距離に出現したGMがビームサーベルの一撃、テータもフォアマシンガンを返して辛うじて相打ちに持ち込むことに成功する。相手の得意距離を避けたいテータは後退しながらガトリングガンを放つがGMはシールドで弾きながらバルカンで狙撃するとタイミングを合わせたゼロ加速で再び懐に飛び込む。
「ブーストポットの性能テストは文句なしだよね」
懸命に離脱を図るテータをバルカンで追撃しながら今度はブーストポットに頼らず通常加速で接近、機体の守備力を信じて被弾承知の強引な攻勢に転じる。この距離であればGMの装甲を貫くことは容易ではなく、ビームサーベルの一撃がテータの装甲を派手に削り取った。
「この距離では不利にすぎる!振り切れないか!」
「やっては、いるけど・・・」
テータのコクピットに響く、常は冷静なオペレータの声に焦慮が含まれている事実が戦況の不利を知らせていた。彼らの勝機は遠距離戦に持ち込んで相手に反撃を許さず一方的に攻めることにあるが、現状ではブーストポットの加速を振り切ることができず思い通りの展開を構築できずにいる。むしろ不利を強いられる近接格闘戦でここまで持ち堪えているノーティの粘りは称賛に値するほどで、圧倒されながら未だペースは譲っていないが状況が打開できなければそれも時間の問題だろう。
開始10分を過ぎても双方の機体性能は充分に維持されており出力の変動は見られない。だがそれは戦況を変えるわずかな契機すら探しづらいという意味でもある。中間距離までは引き離すことができても遠距離戦に移行する前に再接近を許してしまう、ジムの操縦は徹底して隙がなかった。
「これならもう少し今大会、欲を出したかったかな!」
空間に干渉することで通常の力学法則を超える加速を実現する、ブーストポットの加速に合わせた格闘戦は攻撃時の圧力も尋常ではなくそれでも反撃を図るテータだがGMの重装甲が有効打を阻む。
開始15分、ここまで戦況は膠着しているが展開ではGMが圧倒しておりテータは有効な反撃に移ることができない。バルカンの牽制射撃とブーストポットによる接近のタイミングは絶妙で、応じながらも少しずつ装甲を削られていたテータに遂にビームサーベルの一撃が突き刺さった。この状況で至近距離からフォアマシンガンで反撃、相応の損害こそ与えるが堅牢なシールドに追撃を阻まれる。
しつこいほどの粘り強さにジムは舌を巻く一方で、この状態まで持ち込めば逆転される恐れはないに等しい。その後5分以上も膠着状態を続けられるが、少しずつ抵抗力を削いでいったGM−Fbが最後はビームサーベルで決着。テータは最終戦であと一歩が届かず無念のリーグ敗退となる。
◇ ◇ ◇
最終日でテータが敗退、すでにクスノテックとロストヴァが優勝決定戦進出を決めているが、メガロバイソンプロジェクトはここで勝てば三チーム同率でのリーグ突破に食い込むことができる。クスノテックとの直接対決であり、大会屈指の攻撃力で大会屈指の防御力を貫くことができるかが鍵となるだろう。
「攻撃は最大の攻撃です!」
メージの言葉の意味はゲルフにも分かっている。火力と重装甲に特化したバイソン7で猫ろけっとを相手にする以上、攻撃は最大の防御どころではなく最初から防御を捨てて攻撃のみで押し切ることが彼らの勝機であった。多少の被弾損害は承知の上で押し切るしかないが、逆に猫ろけっとにすれば砲火の雨に晒されるのを承知で逃げ切るしかないということでもある。
開幕弾は積極攻勢が吉と出たバイソン7が手に入れる。機体制御をする猫ろけっとのわずかな隙をついて、胴体正面に据えられているトライバルカンが火を吹くと命中。ふぉーすまるちぽーの反撃も受けるが相打ちなら火力でも装甲でもメガロバイソンが圧倒的に優位だった。
「反撃を受けたらすることは!」
「もっと攻撃するっ!」
中間距離でまるちぽーを展開する猫ろけっとは四機がフォーメーションを組みながら襲いかかる。もちろん視認すれば区別は可能だが、どれも攻撃性能を備えている上に超高速で移動するから捕捉は容易ではなかった。であればメガロバイソン7は四機を相手取ってすべて迎撃する心づもりであり、一撃被弾しても臆さず反撃を命中させる。
未だ開始5分、状況はわずかにメガロバイソンが押しているが猫ろけっとの反撃も確実に命中しており一進一退が続いている。短期決戦を得意とするバイソン7の砲火をかいくぐる猫ろけっとの機動力は恐るべきものだが、その猫ろけっとですらバイソン7の砲火をすべてかわしきることはできずにいた。
「シールド制のシューティングは好きじゃないなー!」
降り注ぐアウトレンジブラスターを避けながらまるちぽーが砲撃、自動反撃を受けるが出力が低ければ反撃の威力も抑えることができる。状況は不利だが膠着させて長期戦に持ち込めば猫ろけっと得意のペースであり、いそべ曰く「弾幕避け」に専念して砲撃に空を切らせ続ける。
互いに効果的な一撃を与えることができず15分が経過、猫ろけっとの回避行動が限界に達した一瞬にバイソン7のトライバルカンが命中するが反撃のまるちぽーも命中して互いに致命打とはならず。出力と装甲で劣る猫ろけっとも追撃を命中させるが、序盤に離されたペースを取り戻すには到らない。
ここまではメガロバイソン7が優位、だが超高速で動く猫ろけっとを沈めるにはあと二発か三発の直撃弾が欲しいところだろう。メガロバイソンの攻撃力は一撃必殺ではなく、多弾頭攻撃にあるからこそ猫ろけっとを捕捉できる一方で一撃が機体の三分の一を削り取るという訳にはいかなかった。
尖鋭化されているからこそ優位でも不利でも自分のスタイルは変えない。それは双方にいえるが相性が悪い相手を博打で覆すことはできずとも拮抗した勝負であれば最後まで互いが勝機を掴む可能性に繋がる。猫ろけっとはこの状態でもふぉーすまるちぽーからの砲火を確実に命中させていく。
「かわしボーナスもらえます。れでぃ」
時間にして5分間以上、バイソン7の集中砲火に空を切らせながら単発の砲撃を命中させ続けていた猫ろけっとがここにきて遂に損害率で逆転に成功する。だが次の瞬間、再び論理限界の隙をつかれてトライバルカンが直撃。突き放されて残り時間もわずかだがその差は決して大きなものではない。
この状態で双方のスタンスは明確である。初手からの戦法を一切変えないこと、メガロバイソン7は攻撃を強化して残りわずかの時間にだめ押しの一撃を狙い、猫ろけっとR9Rは残りわずかの時間ですべての砲火をかわしながら相手の装甲を削り続けることである。遠隔距離でアウトレンジブラスターをかわしながら展開するまるちぽーの砲火は命中せず、位相反撃を嫌う猫ろけっとは中間距離まで詰めるとバイソン7の死角を狙う。一弾が命中するが損害は軽微で戦況を覆すには到らない。
「ウインクロンの目玉に入るよー!」
高速綱渡りを実現する、1ドット単位のパッド操作でトライバルカンをすりぬけたまるちぽーが連続攻撃。避けながら命中させる、言葉よりも遥かに難しい離れ業を成功させると残り3分の攻防で一気に逆転。クスノテックが堂々単独首位をキープして優勝決定戦への進出を決めてみせた。
○GM−Fb 10 (26分停止24vs-3) テータ 14×
○メカタウラス拾参號 06 (22分停止14vs-5) トータス号キングアラジン10×
○アルテミス 16 (24分停止40vs-2) アンフィスビーナ 12×
○大リーグボール2号 12 (30分判定12vs07) オーガイザーHS 06×
○ケルビムMk7 06 (30分判定05vs04) 昴・肆拾漆式 08×
○猫ろけっとR9R 18 (30分判定11vs03) メガロバイソン7 14×
STRIKE SIRIES III ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = 猫ろけっとR9Rvsアルテミス
過去二大会、有力候補に挙げられながらも苦杯を飲み干してきた両チームが第三回大会にして初めて優勝決定戦へと進出する。長丁場のリーグ戦で安定した戦績で勝ち残った実力は流石というべきだが、せっかく出場した優勝戦の相手が互いであることによりにもよってという気分があることも容易に想像ができるだろう。
「おばおばおーば、OBAさんが感染るぅ」
ことさらに命知らずな鼻歌を繰り返す、いそべにとってロストヴァが相性の悪い相手であることは今更である。本来、完封して勝つことが求められるクスノテックのスタイルで恐るべきは一撃必殺による交通事故の筈にも関わらず、年齢と年齢で上回るロストヴァには消耗戦に持ち込まれることが多くそれ自体が彼女の本意ではないのだ。
一方のロストヴァにすればそもそも相手が虫の好かない乳臭い小娘であることがまず問題外である。個人的に今大会、軍属時代の友人であるネスが不在なことは別に彼女の不機嫌の原因でないとはロストヴァ自身が証言しているし、まして気に入らない小娘に八つ当たりをするつもりなど毛頭ない筈だった。
「軍との付き合いが切れないのも分かるんだけどね」
あくまで本人に誰かのことを指しているつもりはない。クスノテックとは今大会七日目に対戦しており、その時はぎりぎりの攻防からラスト五分で突き放されて辛酸を舐めている。あくまで理論値だが、アルテミスの出力であれば三回から四回の直撃で猫ろけっとを沈めることが可能であり、リーグ戦では直撃弾を二回しか当てることができなかったことも敗因の一つになっていた。
「事実は理論を超えることがあるけれど、理論を覆すことが難しい事実は幾らでも存在するのよ」
ロストヴァが狙ったのは開幕からの積極攻勢である。リーグ最終戦でメガロバイソンが猫ろけっとに当てた直撃弾、同じ状況をアルテミスのスィートトゥキスで再現してみせるつもりだった。カタパルトから射出された両機が中間距離に打ち出された瞬間、襲いかかる砲火が次々と命中して猫ろけっとを包むフォース・フィールドに火花を散らす。
こうして第三回大会優勝決定戦、猫ろけっとR9Rとアルテミスの激突は早々からクスノテックがハンディキャップを背負わされた状態で開始された。まるちぽーから放たれた砲火も相打ちで命中していたが、出力でも装甲でも不利にある猫ろけっとに相打ちそのものが許されないのは今更だ。
「はなばたけでだれかーぁ、まねいてるぅ」
「ヤバァーイ!」
アドレナリンを吹き出しながら超高速で動きまわる、多少のハンデがあろうともクスノテックの戦法が変わることはなくセンサーと感覚のすべてを駆使しても捉えることは容易ではない。ロストヴァの目論見は残り二十九分で二回から三回の直撃弾を命中させることにあるが、猫ろけっとの高速機動であればすべてを回避しても不思議はなかった。
遠距離に下がってグレイトデライトの光条が走る。命中すれば致命的となる高出力エネルギーだが猫ろけっとは当然のように回避に成功、このタイミングで回避行動が限界値に達するが初弾を成功させていたロストヴァも狙撃行動を取ることができず光条がむなしく虚空を貫いた。尖鋭化された猫ろけっとだからこそ目につくというだけで、行動限界はすべてのシステムに存在する。
「マンボウレーザー、望むところだろー!」
展開したフォーメーションごと旋回させて、高出力の光条をかわしながらまるちぽーからの砲撃。これを連続で命中させて戦況の巻き返しを図る。アルテミスの装甲も猫ろけっとに比べれば厚いというだけで決して頑強なわけではない。三十分間で三回の直撃弾を狙う、クスノテック攻略の計算には同時にその間、こちらが撃破されないことという条件が加わるのは当然だった。
ここまでの攻防で開始6分が経過、序盤に激しい削り合いを展開した双方だが猫ろけっとが前進して中間距離に動くもアルテミスは再び後退して遠距離からグレイトデライトを射出。互いに距離を取り合いながらの砲撃は命中せず膠着した状況が続く。猫ろけっとも決して隙を見せない訳ではないが、アルテミスも上手く狙撃のタイミングを掴むことができず逆にまるちぽーからの砲撃を受けて軽微ながら装甲を削られていく。ここで開始10分、アルテミスのジェネレータ出力がわずかに低下して双方の機動性能差が広がった。
「避けるよ!弾幕避けるよ!」
「かすりボーナス推奨です、れでぃ」
意外と甘い声でコクピットに響くMii3DSが手元に示す、三次元レーダーを認識しながらまるちぽー展開。避けながら相手を捕捉するには入神の技量が必要だが、いそべにとってはそれこそいつものことである。決して精度が高いとはいえない砲撃が一発、二発と空を切るが遠距離に離された瞬間にターゲットを捉えて命中する。気がつけば序盤に引き離されていた戦況も五分近くに迫っていた。
「追いつかれたら、引き離すだけよ!」
このタイミングで猫ろけっとが中間距離に移行、同時に理論限界に達して機体制御が止まった一瞬に合わせてアルテミスがスィートトゥキスで狙撃する。これが全弾命中して二度目の直撃となるが、炸裂した光芒の威力は期待値に遠くロストヴァはコクピットでわずかに舌打ちを響かせる。
コンソールに算定されている猫ろけっとの推定損害率は約65%、初弾で与えたダメージが大きいが総合しての期待値としてはぎりぎりであり、あと一撃を命中させて相手を撃破することができるか、微妙な数字というしかない。開始15分が経過、アルテミスが受けていた損害率もほぼ50%に達しており最後まで持ちこたえることができるか心許なかった。
「さて、計算通りいかないのはどちらでしょうか」
「あんまり難しいこと考えるとシワが増えるよ?」
この状況で平静さを失えば負けるのは双方同じである。アルテミスが放つグレイトデライトの光条は一撃で相手を沈黙させる威力を持つが猫ろけっとは当然のように回避、だが距離確保に優れるロストヴァは遠距離を保ちながらプレッシャーをかけ続ける。
双方持久戦の展開、その中で猫ろけっとは直撃を避けながら単発の砲火で装甲を削り、アルテミスは被弾に耐えつつ一撃を狙う。再びの砲撃は互いに外れ、続けて遠距離で撃ち合うが命中すれば必殺となるグレイトデライトの光条を本人曰く1ドットの差でかわしながら、猫ろけっとが従えるまるちぽーからの砲火が命中する。猫ろけっとの追撃も執拗であり、理論というのであれば理論的にはこのまま被弾せずに逃げ切ることができれば30分直前にはアルテミスを撃破できる計算になる。
「追尾してこないレーザーなんて怖くなぁーい!」
精度でも威力でも脅威的なグレイトデライトが猫ろけっとには未だ一撃も当たっていない。どれほど強力でも命中しなければ損害はゼロ、それがクスノテック流の計算だった。
両機の描く軌跡が自然に流れて相対距離は遠隔のまま維持、充分に狙って放たれたグレイトデライトの光条を猫ろけっとは引きつけながら確実にかわしてみせるが、狙撃体制に合わせているにも関わらずまるちぽーからの反撃をアルテミスも回避する。回避主体はこっちなんだからお前は避けるなよとは、いそべがちょっとだけ言いたいことだが可愛げがないと思ったとしてもロストヴァに可愛げを求めること自体が間違っている。
そのまま中間距離に流れると、タイミングを合わせてアルテミスから放たれたスィートトゥキスが三方から襲いかかるがこれはむしろ猫ろけっとが望んでいたタイミングである。三発の弾で四体の猫ろけっとは狙えないじゃんと自信を見せるいそべのパッド操作に合わせて、まるちぽー編隊が個別の意思を持っているかのように砲火に空を切らせると反撃の砲火を命中させる。これで戦況はほぼ互角。
長期戦になればジェネレータ性能を合わせてこちらが優位であり、残り10分を避けながら削り続けることができる。相対距離を維持しつつ逆転を図る猫ろけっとだが、好位を保つために行動曲線がパターン化した瞬間を狙ってアルテミスがもう一度スィートトゥキスを撃ち放つ。同時に放たれた三弾がまるちぽーを従える本体に的確に着弾、フォースフィールドを包む爆発光が閃くと直撃弾の衝撃がわずかに耐久値を上回って猫ろけっとR9Rがここで起動停止。計算通りの展開を演出し、対クスノテックの三度の好機を完璧に捕まえてみせた女王ロストヴァがリーグ戦では初となる栄冠を獲得してみせた。
「アルテミス。狩猟と月と、そして純潔の女神なのよ」
○アルテミス(20分停止15vs-4)猫ろけっとR9R×
優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン アルテミス 12戦09勝 /通算36戦23勝2分
準優勝 山本いそべ 猫ろけっとR9R 12戦09勝 /通算36戦22勝2分
3位 ゲルフ・ドック メガロバイソン7 11戦07勝 /通算35戦23勝
3位 ノーティ テータ 11戦07勝 /通算35戦20勝
5位 神代進 大リーグボール2号 11戦06勝 /通算36戦25勝
5位 テムウ・ガルナ アンフィスビーナ 11戦06勝 /通算35戦15勝1分
7位 ジム GM−Fb 11戦05勝 /通算23戦14勝
7位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号キングアラジン 11戦05勝 /通算35戦15勝
9位 灯乃上むつら 昴・肆拾漆式 11戦04勝 /通算11戦04勝
10位 牛山信行 メカタウラス拾参號 11戦03勝 /通算11戦03勝
10位 無頼兄・龍波 オーガイザーHS 11戦03勝 /通算35戦11勝1分
10位 シャル・マクニコル ケルビムMk7 11戦03勝 /通算35戦10勝1分
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