-STRIKE SIRIES VI-
いかにも中華風と呼ぶべきか、緑地に黄金の龍が描かれたエンブレムがパイロット・スーツに映えていた。シャル・マクニコルはストライク・バック地上戦時代に活躍したことはあったものの、その後は戦績に恵まれずにスポンサーも徐々に撤退、替わって参入した企業も「アプラ・シリーズ」と呼ばれる生体デバイス研究で倫理禁則に触れる機関であったらしく、現在では関係者も姿を消してしまいその後が知れずにいる。
「シャル・先生。戦術ミーティングの時間ですが・・・すみません、何やるんですか?」
「機体特性を確認してパイロットとオペレータが戦術をすりあわせるのが主だね。あと、名前は呼び捨てでいいよ」
言いながら、どこか緊張を隠せずにいるオペレータに笑ってみせる。実年齢はともかく、戦歴を考えればシャルはすでに若手と呼ばれるパイロットではない。過去の戦績を酷評されることもあるが、新鋭チームにとはいえ彼が移籍できたことはその技量が評価されてのことである。彼自身は高速格闘戦の第一人者だが、一方で戦術的な理解度には欠けていると自任しており、この新天地で自分の不得手を克服しなければならなかった。経験の浅い皆がシャルに頼らず、互いに補えるようにならなければ新参チームである龍ーRONの飛躍はありえないだろう。
ミーティング・ブースではメカニックのタオが忙しそうに端末機を操作して、三次元モニタ上に設計した機体の映像を映し出している。縮地装置と称する時空移動システムを装備したのはありていに言えば前大会優勝したバラクーダにあやかってのことだったが、機体コンセプトはまるで異なるから活かせなければただのガラクタになりかねない。
「シミュレータでは何度も試したけど、正直かなり癖がある。七割、制御できればいいところかな」
「オペレーションは補正情報を送り続ればいいんですか?それ以外できる自信は、ないですけど」
夏秋蘭の言葉は謙遜ではなく、経験の浅い彼女にマルチタレントを求めるのは無理があるが、計算は速く分析は正確で才能ならば及第点を充分越えている。それは機体設計に携わるマイケル・タオも同様であり、開発者よりも技術屋に類する性格は、フォーミュラ・マシンを思わせるチューンナップには向かないがわずかの狂いもない整備は信頼できた。能力さえ噛み合えば上位を狙うポテンシャルは持っている、それが新しい仲間たちへのシャルの評価だった。
「格闘戦ならセブンフォースの攻撃力はイプシロンに匹敵する。問題は攻防のバランス、永遠の課題だけどね」
前大会に続いてロールアップする機体、太極師は大きな仕様変更は行わず、可変式スラスターに先の時空移動システムを搭載した設計になっている。近接格闘戦になれば負けない機体に尖鋭化して縮地装置でその好機を得る、言うだけなら簡単だが至近距離では積極的に攻撃、それ以外では確実に防御に専念しつつ距離確保を図るとなればパイロットに求められるものは多かった。
「だけど、今はそれが楽しくてしようがないな」
「え?何か仰りましたか?」
思わず漏らした言葉をてきとうにごまかしながら、戦術調整のミーティングに戻る。確認すべきことは多く、冷徹な目で見れば太極師の設計思想に穴はあるし弱点を補い切ることはできそうにない。だが100%完璧なセッティングなどそう実現できるものではなく、彼の「乏しい」経験に照らしてみればこのチームが完璧を目指す必要はどこにもない。各々が力を発揮すること、それを互いに活かすこと、挑む価値は充分にあるだろう。
自信なんてものは以前から無かった。今は以前にはなかった充実感はある。
あとはそれに応えてみせることだ。
「それじゃあチームRON、行ってみるとしようか」
ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =
初日の対戦相手がロイヤルガード、前大会準優勝のロストヴァ・トゥルビヨンであることは他人が思うほどシャルに厳しい条件ではない。強い相手ということならば、誰もが自分よりも強く挑戦する立場は変わらない。だが相性というなら決定力よりも削り合いに長けるロストヴァは自分の戦術のバランスを確かめるのにこの上ない相手でもあった。最悪でも何もできずに終わることはあるかもしれない、だが何があったのか分かる間もなく終わることはない。試金石には大きいが乗り越えればチームも自信をつけることができるだろう。
「さて、相手は勇敢な戦士だけれどパルミラの女王も戦士である筈ね」
一方で古代オリエントの女王、ゼノビアの名を冠する機体を駆るロストヴァも言葉ほどに自己の優位を確信してはいない。本来の彼女は極めて安定した技量で相手の弱点を突く戦いを得意とするが、近年主流の砲戦機に対応する設計を意識したせいで格闘戦への対応が甘く、正面きっての殴り合いになれば分が悪いだろう。もっとも、ロストヴァが相手に付き合って殴り合いをするなどあり得ることとも思えなかった。
両機対峙、距離確保に長けるゼノビアが当然のように中間距離を確保するが、太極師は縮地装置で距離を詰めると更に至近距離までとびこんで硬気功を打ち込もうとする。ゼノビアもウォーリアクイーンで迎撃を図るが、時空移動する機体が互いを確実に捉えるのは難しく、開始8分に一瞬の攻撃に転じて攻撃を命中させたのは太極師だった。
「しんどいだろうけど位相補正、頼むよ」
「りょ、了解です!」
コクピットからの通信に頼りなく応えるが、至近距離の格闘戦で位置情報を更新して送り続ける秋蘭の腕は悪くないどころか上出来だった。一撃被弾するがこの距離なら太極師は負けない、もう一撃硬気功を打ち込み優位を得る。膠着しながら削り合う攻防はすでに15分が経過しており、タオのセッティングは長期戦にも耐える仕様だった。だが不利を自覚しながらも、戦いが終わる瞬間までロストヴァの自信が揺らぐことはない。
ここまで単発の攻撃を当てられて不利を強いられているが、戦況自体は膠着が続いている。ならば敢えてこの状態を続けて一瞬の好機を狙う、単なる理想論を実際にやってのけるのが彼女が女王たる所以だった。縮地装置で接近する太極師の攻撃をかわしながらウォリアークイーンで斬撃、相手の装甲は厚く損害は軽微だがなおも粘り続けると回避行動が遅れた一瞬を狙って連続の斬撃、残り3分で戦況を覆すことに成功する。そのまま逃げ切るを図るゼノビアだが膠着状態を続けて一瞬の好機を狙っていたのはシャルも同様だった。
「10分待てど来なかったチャンスが、11分待てば来るものさ!」
終了間際、硬気功を命中させて再逆転した太極師が殊勲の勝利。強豪相手の接戦を制した自信を得てリーグ戦に挑む。
オーガイザー 02 (16分停止) バラクーダ 00
ねころけっとDOH 02 (23分停止) テータ 00
ことり号 02 (09分判定) フルバレット・GM 00
魔王 02 (10分判定) アストロタコボールワン 00
トータス号 02 (28分判定) MT拾参【増刊号】 00
太極師 02 (30分判定) ゼノビア 00
メガロバイソン7 00
ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =
初日を逆転負けで落としたロイヤルガードの第二戦はTeamKKとの対戦、ロストヴァと山本いそべの因縁?の対決である。しわがどうとかたるみがこうとか、通信回路ごしにことさら挑発してくるいそべを相手にしても、そんなものは子供の戯れ言ねと平然と聞き流してしまうのが大人の女というものである。
「串刺しにしてやるわ!」
まれにはそうでないこともあるらしく、開始と同時に抜き撃ちされたゴールデンチェーンが、ねころけっとの薄すぎる装甲を貫いた。ロストヴァらしからぬ、とはいえない。戦況を膠着させて粘り強くしのぎながらも、機会さえあれば一撃をためらわないのが彼女のスタイルだった。このまま近接装備を持っていないねころけっとに格闘戦を挑んでくるのは間違いなく、本当におばさんはいやらしいと心中いそべは悪態をつく。
「並列みー!演算よろ」
急速接近と同時にウォリアークイーンの連続攻撃で派手に削られるが、とびうおだんぱーずを複数配置すると宇宙空間を「跳ねる」ように急速後退、同時に放たれたぶるーまるちぽーを直撃させる。状況は優位とは言い難いが、距離確保を生命線にするロストヴァを相手に時空加速装置はプレッシャーをかけることができた。一方でロストヴァの不機嫌の理由は初戦に不覚を喫したことやクソガキが生意気なことやクソガキが生意気なこと(二回言った)もあるが、最たるものは前大会で注目された時空加速装置の影響だった。それが必ずしも効果的に活きるとは限らないが、初日の太極師のように距離確保戦術を根本から覆しかねない時空移動が彼女のプレッシャーにならないといえば嘘になる。
「もっとも、プレッシャーに負けるようでは大人の女なんてやってられないけどね」
ことさら自分を鼓舞するつもりでうそぶいてみせる。遠距離に逃げたねころけっとがぶるーまるちぽーで砲撃、接近するゼノビアをれっどまるちぽーで迎撃して立て続けに命中させる。ゼノビアも至近距離に飛び込ぶが、瞬間、タイミングを合わせたように跳躍されると再び相対座標を見失う。コクピットで舌打ちをするロストヴァだが、時空移動後に座標を失うのは相手も同じだから最初からやり直せばいい。執拗に接近を繰り返すゼノビアを相手にして、プレッシャーを受けているのはロストヴァだけではないことを彼女は知っていた。
「初撃の被弾があるわよね?追い詰められているのは誰かしら」
この状況で、双方の損害率は未だゼノビアが優位に立っている。高速戦を仕掛けながら追撃するねころけっとだが、戦線を膠着させて粘るのはロストヴァの真骨頂だった。10分を超える持久戦をしのぎ切ったロイヤルガードが薄氷にして会心の勝利を決めると、コクピットに座す女王も会心の笑みを見せる。
太極師 04 (11分停止) トータス号 02
バラクーダ 02 (13分停止) 魔王 02
MT拾参【増刊号】 02 (19分停止) ことり号 02
ゼノビア 02 (30分判定) ねころけっとDOH 02
アストロタコボールワン 02 (20分停止) フルバレット・GM 00
メガロバイソン7 02 (06分停止) テータ 00
オーガイザー 02
ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =
開幕したばかりとはいえ二連敗でのスタートとなったコミューン陣営。戦況を膠着させるほど強い、長期戦になるほど強いという独自のスタイルを持つチームであり、その意味では初日のねころけっと戦を落としたことは彼らにとっては痛恨事だった。他チームにとっては悪魔のように厄介な相手がいい標的になり、むろんその逆もあり得る。確実に相性が存在するストライク・バックならではだが、トーナメントならばまだしもリーグ戦は相性だけで乗り切るわけにいかない。
「おい!大会が終わり次第あの破廉恥なメカニックをクビにしろ!」
シータの怒り具合から見るに、メカニックのハイナーが何を言ったかおよそノーティには想像できる。生真面目にすぎるオペレータを、いっそどこまで怒らせるか試しているのではないかと思えるほどハイナーの言行は品行方正からほど遠い。しかしそれを問いただしたところで、返ってくるだろう回答も予想できてしまうのだ。
「別に俺は彼女をからかってなどいない、ただ心から下品なことを言うのが好きなだけさ」
ことさら紳士めいた外見と口調で言ってみせる、この男が優秀なメカニックであるから始末に悪い。とはいえ大会が始まれば彼らはチームの勝利のために全知全能を尽くしてくれる、ノーティがすべきは彼らの間を無駄に取り持つことではなく、パイロットとして彼ができる最大のパフォーマンスを発揮することだった。相手はオーガイザー、言動は派手で単純だがスタイルは堅牢でハイプレッシャーからの一撃を得意とする。
格闘戦を挑む相手に堅実に遠距離確保を狙うテータは砲撃を当てるよりも相対座標を計算して捕捉を図る。コンピュータ並みに正確なシータのオペレーションだが、オーガイザーに搭載するオペレータAI・鬼牙も今大会では演算機能をフルスペックで発揮するチューニングを組んでいた。
「熱く計算しろッ!計算しても俺たちの熱さは変わらないぜ!」
熱くたぎりっぱなしの無頼兄に応える計算された角度とタイミングで、ほとばしる魂が熱線となってオーガイザーから解き放たれるとガイ・ブレイザーの超高温がテータを炙り装甲の一面を紅に染めた。膠着した戦況で重装甲の相手に重い一撃を受ける、テータにすれば致命的にも思える状況だが、これでリスクを承知で積極攻勢にシフトするか、あくまで一撃を狙うべきかはパイロットが決断しなければならない。
「博打をするなら、自分が一番信じているものに賭けるべきかな」
あえて膠着状態を維持したテータは15分、20分、25分と砲火を宙に切らせ続けるが、残り3分で命中させたデルタ・アタックがオーガイザーの魂鋼のわずかな隙を正確に貫く。そのままタイムアップ、一撃戦闘を制したのはチームのバランスとメンバーの技量を最後まで信じたテータだった。
太極師 06 (30分判定) ことり号 02
ねころけっとDOH 04 (11分停止) メガロバイソン7 02
バラクーダ 04 (30分判定) MT拾参【増刊号】 02
トータス号 04 (30分判定) アストロタコボールワン 02
魔王 04 (08分判定) フルバレット・GM 00
テータ 02 (30分判定) オーガイザー 02
ゼノビア 02
ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =
徳なき知育は悪魔を作るという言葉がある。これを白河数学的に解釈すれば(知育ー徳)=悪魔であるから知育=(悪魔+徳)という結論になり、そして大辞林によれば徳とは「富・財産・裕福・財力」とある。つまり知識の究極に到達するには神をも恐れぬ所行に加えてカネが必要で、地獄の沙汰も金次第とはここから生まれた言葉であった。結局何が言いたいかというと彼らはマッポー的な世紀末救世主伝説を体現すべきチームであるということだ。
「すまん、何が言いたいかさっぱりわからんのだが」
「君の発言は認めない」
狂わせ屋女史の力強い返事にコルネリオ・スフォルツァは黙るしかない。この日の彼らの対戦相手はTeamKK、だが一撃必殺の「交通事故」がある白河重工にとって意外と相性は悪くない相手である。
開幕と同時にサンビーム的な何かを放つトータス号だが、こんなものはねころけっとにとって避けて当たり前の一撃である。すかさず距離をとってぶるーまるちぽーを発射、左腕から放たれる砲弾がブリキの装甲を叩く。互いに散発的な砲戦が続く中で、確実に当ててくるねころけっとだがトータス号も青い血の女が執拗に位相反撃を図って放されないよう食らいついていた。攻防としては想定内、だが思いのほか命中するねころけっとの砲撃が確実にトータス号の装甲を削り続けており、開始わずか11分で緊急システムVMーAXがにゅるりと起動する。
「入ってくるッ!入ってくるゥ」
「いや、もう少しパイロットの意向にそった作戦や機
そこで唐突に言葉が切れた原因は不明である。オーバーロードしたジェネレータからほとばしる蒼い光がトータス号を包みこむが、相手にすればこれも想定内だろう。今大会、攻撃力にも自信があるねころけっとであれば膠着して相手に好機を与えるよりも、その前に沈める選択肢が取れるかもしれなかった。
ぶるーまるちぽーが立て続けに命中して、ここまでねころけっとが圧倒するがVMーAXによる超加速を得たトータス号を捉えきれなくなってくると戦況が膠着する。スリリングだが無為な攻防が続いた21分過ぎ、オーバーロードした青い血の女がねころけっとを深々と貫くが、同時に配置しておいたとびうおダンパーのかたまりを衝突させる変則位相反撃が命中、追い詰められたトータス号も構わず青い血の女が襲いかかる。双方撃ち合い、動きでも損害でもねころけっとが優位だがトータス号は一撃ですべてをひっくり返すことができる。
「ナムアミダブツ!」
「イヤーッ!」
終了マギワの一撃、これが同時に命中して両機機動停止すると損害比率も並び双方痛み分け。これが勝ち点1になるか失点1となるかは翌日以降の戦績を見るしかない。
太極師 08 (29分停止) 魔王 04
トータス号 05 (30分判定) ねころけっとDOH 05
アストロタコボールワン 04 (26分停止) バラクーダ 04
オーガイザー 04 (16分判定) メガロバイソン7 02
テータ 04 (30分判定) ゼノビア 02
フルバレット・GM 02 (10分停止) MT拾参【増刊号】 02
ことり号 02
ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =
そろそろ新参とは言えなくなるチーム・さんくちゅあり。戦績は決してよいとは言えないが、テクニカルで堅牢だが決定力に欠けるというどこぞのフットボールチームのような評価もちらほら聞こえている。扱いが難しいイプシロン機でテクニカルな堅牢さを発揮できるのは実はパイロットの技量を示しているのだが、それが認められているとは言い難い。というか、チーム内で彼の地位が低いのは気の毒だがもっとパイロットの地位が低いチームもあるから安心したまえ。
「ってか信兄ぃ店子だし、たなこ」
とオーナー兼オペレータたる天宮あてなに言われれば、店子兼守り役である牛山信行に嫌も応もない。なんだかんだと言いつつ大人の牛山としては、人間関係なんて上手くいってるならそれでいいだろという思考の持ち主だった。テクニカルと称される彼の操縦に、あてなのサポートは意外に欠かせず例えるなら必須のパワーアップはオプションでもレーザーでもなくスピードアップということである。
「つーか今日はマジでお嬢が頼りだ、頼むぜ」
「わ、わかってるわよ!誰にモノ言ってんの!?」
正面切って言われるとかえって戸惑いを隠せないこともある。MT拾参【増刊号】の相手はここまで無敗の太極師だが決して穴がない相手ではなく、牛山の思惑さえ当たれば拮抗どころか優位を得ることもできるかもしれない。
その自信の通りか分からないが開始と同時に両機格闘戦に移行、アームドアームズの武装装甲で殴りかかったMT拾参が先制する。足を止めて拳を握り、重量級のボクサーを思わせるフォームで左から右から武装装甲を打ち込み太極師を棒立ちにしてしまう。格闘戦では軽視されがちだが至近距離でもセンサーは有効で、相手を捕捉すれば攻撃にも防御にも大きな助けになる。そして遅まきながら牛山の意図を察したシャルも、思わぬ不利を悟って唇を咬んだ。
「単純だけど、だからこそ厳しい!」
奇をてらった作戦は何一つ存在しない。ただMT拾参は太極師と同様に近接格闘戦を主体にしつつ、出力でも装甲でも太極師を上回るというだけである。性能を上げればバランスが崩れるのが道理だが、彼らは攻撃力を機体性能で、防御力はパイロットの技量に預けて特化するスタイルを取っていた。その分オペレータの負担も大きくここまで不覚を喫した対戦もあるが、同じ近接格闘機が相手であれば単純な殴り合いの指示に専念することができる。
「メカタウラスの性能を信じる!ついでに信兄ぃも信じたげる!」
武装装甲のラッシュを一時も休めず、リアルタイムで更新される情報を凝視して的確にパリィ&アタックの指示を与える。太極師も一撃こそ返すが有効な反撃は封じられたまま、押し切ったMTが首位の太極師にストップをかけてみせた。
ねころけっとDOH 07 (30分判定) オーガイザー 04
魔王 06 (24分判定) トータス号 05
MT拾参【増刊号】 04 (14分停止) 太極師 08
ことり号 04 (19分停止) テータ 04
フルバレット・GM 04 (21分停止) バラクーダ 04
メガロバイソン7 04 (14分停止) ゼノビア 02
アストロタコボールワン 04
ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =
連邦軍技術開発部の格納庫、一部の関係者には通称して「スクラップ・ハウス」と呼ばれる一画でジムが呆然とさせられるのは過去に何度もあったし今回もそうだった。端末機に収められている設計仕様書には、実弾火器を多量に搭載して全弾発射による目標破砕を行うとある。ビーム兵器が使用できない場合を想定した設計らしいが、
「いや、それぜってーないから。っていうかどう見ても武器積み過ぎだから」
そもそもGMはビーム兵器搭載が前提のような気もするしフルバレット・GMの名前も絶対用意したヤツの趣味だよねと口の中で呟きながら、いざ操縦する身としては積み過ぎなほどの武器というのはちょっと惹かれなくもない。ざっと見ただけで三連マシンガンに高速破砕砲、三連ミサイルポッドに磁力式ビッグガンがずらりと砲身を並べているのだ。
とはいえこれだけ分かりやすい機体だけに、対戦相手もいっそ正面から撃ち合おうとするらしく競り負けて三連敗を喫したのが痛いといえば痛かった。それでもジムがくさっていないのはこの癖のありすぎる機体に慣れてきたことと、全弾攻撃の爽快感がなかなか病みつきになるからだった。ここまであのメカタウラスやバラクーダを退けた攻撃力が、この日の相手にも通用すればホンモノといっていいだろう。
「難易度設定はどのくらい?」
「ゲイングランド4ー8くらいです、れでぃ」
ネットワークプレイ友達の牛山を撃破されて、こっそりおかんむりの山本いそべ。開始と同時に名前にふさわしい砲弾の雨を降らせるGMだが、ねころけっとはこれをごく当然に回避しながらとびうおだんぱーの配置を始めていた。足場にも障害物にも、反撃用のユニットにも使えるエネルギーフィールド塊である。無数の砲弾を平然と避けられ、障害物の隙き間から砲撃を受けながらもGMは頑なに己のスタイルを崩さずばらまいた砲弾の数で勝負する。相手は弾幕シューティングなどおやつ代わりにクリアしてしまう猛者(もさ)だが、弾幕は相手を本気で殺そうとはしないのだ。
「そっちが超高機動ならこっちはあくまで弾丸・・・」
コクピットでノリノリに呟くジムが構えた無数の武器から一斉に解き放たれる無数の軌跡が美しさすら感じさせる。互いが交錯して誘爆しないように、自動計算と手動操作を駆使して完成される曲線と直線の芸術だが、だからこそ多量の弾頭ですべて一点を狙うこともできれば一部を陽動に使うことも、回避先を想定して追撃に使うこともできた。
「お前の名は全弾丸(フル・バレット)だ!」
反撃など最初から承知した上で全弾攻撃、実弾兵器ならではの衝撃と硝煙が機体を包むと、さしものねころけっとも機動停止。フルバレットの名にふさわしい派手な一斉攻撃でGMが勝利を上げた。
アストロタコボールワン 06 (18分停止) 太極師 08
フルバレット・GM 06 (16分停止) ねころけっとDOH 07
メガロバイソン7 06 (03分停止) トータス号 05
バラクーダ 06 (14分停止) テータ 04
ことり号 06 (30分判定) オーガイザー 04
ゼノビア 04 (30分判定) 魔王 06
MT拾参【増刊号】 04
ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =
もともと宇宙空間という特異な環境で汎用人型兵器を動かすとなれば、充分な試験や訓練が欠かせない。無重力や低重力環境におけるパイロット技能の育成には専用のシミュレータが必要だが、機体やコンピュータ・システムの試験は仮想空間で実現できるから電脳世界で競技を開催することもできる。そして電脳世界であれば演算性能に応じて24時間を数十倍に早めた仮想訓練や教育も可能になる理屈であり、昨今の急速な人工知能AIの性能向上に起因していた。
「でも12フレームで右右上で避けられるじゃん」
「それは詰みます。右右で2フレームニュートラルにしてから上が確実かと、れでぃ」
この場合のフレームとは汎用人型兵器の総称ではなく、システムが入力処理を受け付ける単位時間を指している。山本いそべがコンピュータと対等の処理速度で対話できることはゲーマーならば当然だが、TeamKKに参加している学生諸君はシステムには詳しくてもシステムと同等の性能を持った人間ではないから唖然とするしかない。コンピュータにできることは人間にもできる、果たしてアストロタコボールを相手にそれが証明できるだろうか。
もう機体名だけで不穏なふいんきがぷんぷんするアストロタコボール、勢いよく蹴り上げた足を回転させながら右手のボールを左手にドッキングさせるスカイラブ投法が打ち込まれるが、こんなボールに正確どころか精密に反応してみせたねころけっとがとびうおだんぱーずの背後からまるちぽーで狙撃する。
「今の失敗はドッキングのタイミングを誤っただけのことさ」
「気をつけないと腰を脱臼するキュよ」
超能力イルカフリッパーがフォローともつかぬフォローをしてくれるが、反撃はあくまで相撃ちだから攻防自体は互角である。ここから膠着、ねころけっとが配置したフィールドの陰からぶるーまるちぽーを放つが、かすらせるのがせいぜいで直撃にはほど遠い。今大会、安定した攻撃力を発揮してきたねころけっとだけに「移動要塞」タコボールが相手でも決して競り負けることはないだろう。
「そろそろ一試合完全燃焼できなくなるキュ」
遅まきながらねころけっとの目論見を察したフリッパーが警告する。宇宙空間に配置したとびうおだんぱーずは足場であり盾であり武器である、だがTeamKKのスタイルが本来超高機動にあるのは変わらない。ばらまいた障害物の間を高速で駆けながら、結果として攻撃力が高かろうと彼らはいつもの戦い方を捨ててはいないのだ。
「ここで2フレームニュートラル!」
膠着させて逃げられるなら遠慮なく逃げる、確実な勝利を選んだTeamKKがリーグトップに躍り出る。
ねころけっとDOH 09 (30分判定) アストロタコボールワン 06
メガロバイソン7 08 (15分停止) バラクーダ 06
フルバレット・GM 08 (03分停止) トータス号 05
オーガイザー 06 (30分判定) 魔王 06
ゼノビア 06 (30分判定) ことり号 06
テータ 06 (30分判定) MT拾参【増刊号】 04
太極師 08
ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =
人口知能AIの性能が急速に向上して、自我と呼ぶしかない反応を見せるようになった例が見られる。究極的には人間の反応はすべて電気信号に置き換えることができるのだから、人間の自我すらもそれがただの電気信号、反応でないという保証はどこにもない。イハラ技研に機体を納品しているWDF社ではそれを称して「電霊」と呼んでいた。
「で、どうして機体名が『ことり号』なのかな」
「たかがパイロットのくせに偉そうにオレに意見すんな 凸(`皿’)」
いや意見じゃなくて単に質問のつもりだし別にパイロットの方が偉いなんて考えたこともないしそもそもなんでAIにそんなコト言われなきゃなんねーんだよ、などとほんのちょっぴりだけ理不尽な扱いを受けているテムウ・ガルナだが相手が人工知能であっても主義主張は尊重すべきということをメカニックのEDシステムが教えてくれているのである。前大会からオペレータとメカニックが互いに入れ替わっての参戦で、確かに機体はメカニックが用意するし命名しても構わないし鋭角的なシルエットが確かに鳥めいて見える機体だけどでもなんで『ことり号』なのかと。
「ε=(´Д`)」
血管が切れそうになっているテムウには構わず対戦が始まってしまい、アストロタコボールのスカイラブ投法から放たれた魔球がバットを砕きミットを突き破る破壊力でことり号に命中した。だが口の悪いメカニックをフォローするのに忙しいHFシステムがすかさず座標計算、浮遊しているカゴめいたユニットから飛び出すことりダイブシータが的確な反撃を命中させる。
「相対距離は固定した!こっちは任せていいよ」
「まあテメーなりにがんばれ」
オペレータ役のHFが頼もしく断言し、EDも激励?しているが、メカニックが用意した遠距離完全位相反撃システムを前提にしてオペレータが戦術を組み立てる、互いに相性のいいAIが用意されてはいるのである。であればテムウは彼らのサポートを信頼しつつ、彼自身は距離確保に専念してそれが活かされる状況を維持すればいい。別にAI任せなのではなく仲間が能力を発揮できるように戦うのはチームであれば当然なのだ。
心の中ではいつかコンセント抜いてやんぞコノヤロウと思いながら、仕事はきちっとこなしてAIに頼り切りにならず回避と狙撃を行って確実に相手を追い詰める。こうなると位相反撃で消耗戦に持ち込まれながら削られるタコボールは分が悪く、先制した優位もすぐに追いつかれてそのまま逆転されてしまう。最後はスカイラブ投法のタイミングに正確に合わせたことりダイブが命中、混戦模様のリーグ戦でイハラ技研が貴重な勝利を手に入れた。
「だからなんでことり号(以下略)」
メガロバイソン7 10 (14分停止) 太極師 08
フルバレット・GM 10 (30分判定) ゼノビア 06
ことり号 08 (22分停止) アストロタコボールワン 06
テータ 08 (20分判定) 魔王 06
バラクーダ 08 (23分停止) トータス号 05
MT拾参【増刊号】 06 (30分判定) オーガイザー 06
ねころけっとDOH 09
ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =
電脳仮想空間上で開催されたVRSトーナメントで優勝、勇躍してリーグ戦に乗り込んだチーム・PITだがここまで戦績が振るっているとはいえない。緊急システム発動後の攻勢を受け持つオペレータAI「ヨハン」の魔的な破壊力は健在だがパイロットのフランツが足を引っ張っている、それは偏見が混じった評価だがここまで8戦して4回が両機機動停止による判定決着という戦績は攻勢よりも守勢に難があると言われて反論はできないだろう。
「単純な引き算さ。僕がどれだけ優秀でもフランツがそれ以上に無能なら仕方がない」
半ば呆れているヨハンの愚痴に、ウォルフガング卿は苦笑しながら心中で舌打ちを禁じ得ない。それは不本意な戦績の故ではなく、ヨハンに好きに振り回されているフランツの自我の脆弱さに対してだった。フランツのパーソナル・データから構築したAIをSPTの緊急システムを利用してパイロットにダウンロードする、つまり「ヨハン」とはフランツの潜在能力が解放された状態なのだが、当人がそれに耐えることができずにいるのだ。卿のため息が通信回路に響く。
「まったく、お前も少しは役に立ってもらわねば困るのだがな」
「ああ・・・うあああ・・・」
言葉にならない言葉は先ほどまでヨハンであったフランツの口から漏れている。焦点の合わない目にはおそらくろくなものが映っていないのだろうが、ウォルフガング卿にはどうでもいいことだった。対戦相手のメガロバイソンは極めて高い攻撃力を誇る機体であり、よいデータが採取できるに違いない。
開始と同時にメガロバイソン7はムラクモオロチ・改二を連続発射、降り注ぐ矢のような光条が襲いかかると魔王はこれを懸命に避けながら反撃するが、攻撃も回避も中途半端という最悪の立ち上がりを見せる。一方で迷いなく連続攻撃に出るメガロバイソンはムラクモオロチを次々と命中させて、わずか3分で魔王の緊急システム「ヨハン」が起動する。
「やってられない!フランツノコトナンカ知ッタコトカ!」
苦悶の表情をしていた魔王の顔が昂揚した笑みに変わり、全解放されたエネルギーの束が機体性能ではありえない本数飛来すると次々にメガロバイソン7を貫いていく。だが襲いかかる魔王の光に、正面から撃ち合いを選んだバイソン7のムラクモオロチも全弾が命中して双方が機動停止。双方同時の一撃が互いに損害率90%超をたたき出したのは過去にも例がなく、もともと先制して優位にあったメガロバイソンが魔王を奈落の底に沈めてみせる。競技用のフレームは理論上の最大ダメージを被ってもパイロットの安全が確保されるように装甲と兵器が設計されているが、回収された魔王のパイロットは拘束されるとそのままチーム・PITの私設医療班に引き渡された。医療班に指示を出しながら、ウォルフガング卿はとにかく残りの日程は消化できるように「調整」することを言い添える。
「役立たずのきちがい奴、せめてもう少しデータを提供してから壊れればよいものを」
メガロバイソン7 12 (04分停止) 魔王 06
テータ 10 (09分停止) フルバレット・GM 10
ことり号 10 (30分判定) ねころけっとDOH 09
太極師 10 (28分停止) バラクーダ 08
オーガイザー 08 (30分判定) ゼノビア 06
MT拾参【増刊号】 08 (27分停止) アストロタコボールワン 06
トータス号 05
ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =
大リーグボールに続く新シリーズとして投入された北九州漁協の機体は、左肘にボール型のマークがあるアストロの名を冠したボールである。噂によれば昭和29年9月9日に設計が開始されたともいい、真偽のほどは定かではないが一試合完全燃焼を志す恐ろしい相手であることには変わりない。
「だってアストロですよ!ジャコビニ流星打法とか絶対使ってきますよ!」
「ジャコ・・・?」
盛り上がっているのはこの日の対戦相手メガロバイソンプロジェクトの天才オペレータ、ジアニ・メージだが、どうして彼女が超人野球のことを知っているかといえばたぶん天才だからでパイロットのゲルフ・ドックにはいまいちピンと来ていない。遠距離主体の多弾頭砲撃を主軸にするバイソンに対して、北九州漁協は変則的な攻撃を含めた圧倒攻勢が得意なチームであり新しい機体はともかく今更知らない相手ではなかった。
「ああ、使ってくんじゃねーかな。ジャコビニ」
などとメカニックのザムまで言っているがゲルフには何のことだかさっぱり分からない。とにかく相手に撃ち負けずに火だるまにするつもりで積極攻撃、彼自身のよさを出せばメガロバイソン7は強さを発揮する筈である。攻勢機同士によるファースト・アタックはスカイラブ投法とムラクモオロチ・改二が交錯するが、アストロタコボールは超人守備で数弾をガードに成功。だがゲルフは構わず攻勢を強めると追撃弾が連続命中して強引にペースを戻す。この迷いの無さが彼の真骨頂とばかり、被弾覚悟の遠慮のない攻撃で戦況を優位に進める。
開始7分、すでに双方が被害甚大の状況で接近したタコボールが三段ドロップ投法、故沢村栄治ばりに二回ドロップしてからシュートがかかる不自然もとい不規則な軌跡が命中。メガロバイソン7は怯まずハンディバルカンで迎撃するとこれを命中させるが、至近距離で振り上げたアストロタコボールのバットが振り下ろされると同時に砕けてボールと区別がつかなくなった。
「これがジャコビニ流星打法さ」
「黒部ダムで特訓した成果キュ」
迎撃するハンディバルカンと相撃ちになるが、ボールとバットの二弾を命中させたタコボールが破壊力で勝り削り合いを制することに成功した。僅差での敗退よりも、得意の正面からの削り合いを制されたことよりも、だからジャコビニ流星打法っていったいなんだろうというのがゲルフにはとても不本意だったかもしれない。
「だから言ったじゃないですか!ジャコビニ流星打法使ってきますよって」
「・・・」
太極師 12 (30分判定) フルバレット・GM 10
ねころけっとDOH 11 (30分判定) バラクーダ 08
オーガイザー 10 (30分判定) トータス号 05
MT拾参【増刊号】 10 (30分判定) ゼノビア 06
アストロタコボールワン 08 (11分停止) メガロバイソン7 12
魔王 08 (15分停止) ことり号 10
テータ 10
ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =
前大会優勝戦の組み合わせであるNVフォースとロイヤルガードの対戦が、この時点で両者ともにリーグ突破の目を失い消化試合になると予想した者がいるだろうか。ロストヴァ・トゥルビヨンは気分屋のネス・フェザードがそのような戦績を残す可能性は考えていたが、自分が不本意な状況に陥るとは夢にも考えてはいなかった。それは自信を通り越した過信なのかもしれないが、そのくらいのメンタルがなければ女王と呼ばれる戦績は残せないだろう。
「悪いけど、女王様が調子を取り戻すための生け贄になってもらうわ」
「畏まりました、と言われて満足する女王様ではないとお見受けしますがね」
言われるまでもなく、貴方を力ずくで生け贄にすると言い放つのがロストヴァらしい。戦いにも女性にもスリルを求めすぎる、気まぐれな男に剣を向けた戦士女王は高速雷撃機を相手にして至近距離に戦いの場を求める。バラクーダは作戦も戦術も無視した時空移動で強引にチャンスを作り、相対位置の把握すら難しいその一瞬にパイロットの腕だけで攻撃を成功させるというのがコンセプトである。これをまともに捕捉しようとすれば至難極まるが、あえて受けて立つことで少なくとも条件を同じにすることはできる筈だった。
「そうするだろうとは思ったが、本当にやる度胸は流石だよ」
コクピットで息を吐きながら、ネスは戦慄と昂揚を同時に感じている。時空移動を捉えることはできずとも、相手が近接戦を狙うタイミングに応じて仕掛け続ければ距離条件だけは五分になる。だがロストヴァの流儀は本来中間距離を軸に置いた汎用性の高さにあり、近接戦闘に特化した機体でも戦術でもないことを承知で殴り合おうというのである。別に舐められているのではなく、彼女にすればあくまでベターを選んでいるだけなのだ。
至近距離でウォーリアクイーンの斬撃とアクセルバイトの突進が交錯するが、超高速移動をするバラクーダの初撃は当たらずゼノビアの反撃も空を切る。ここから相対距離を離さずに格闘戦、女王の斬撃が連続で命中してバラクーダの薄い装甲を割く。バラクーダのアクセルバイトも命中するがゼノビアの勢いが勝り開始10分でロストヴァが優位に立つ。
「ダンスホールで女性にリードさせるわけにはいかないな」
「あら、ブレイド・ダンスに付き合ってくれるというわけね」
至近距離で構わず時空移動、センサーが切れた瞬間を狙ってアクセルバイトが三連続で交錯し、オニカマスの牙が戦士女王のドレスを削り取る。絡みついた火閃が流れ落ちる血のしずくを思わせ、これを力ずくの斬撃で振り払ったところで20分が経過、双方の損害はほぼ互角。その後も双方が一撃を狙う展開が続くが24分過ぎ、完璧なタイミングでウォリアークイーンを直撃させたゼノビアがバラクーダを撃墜、「負けられない戦い」を制してみせた。
「血まみれでよろしければ、女王からのキスを与えてあげましょう」
メガロバイソン7 14 (10分停止) MT拾参【増刊号】 10
太極師 14 (30分判定) テータ 10
ことり号 12 (09分停止) トータス号 05
オーガイザー 12 (20分停止) アストロタコボールワン 08
魔王 10 (09分停止) ねころけっとDOH 11
ゼノビア 08 (24分停止) バラクーダ 08
フルバレット・GM 10
ストライク・シリーズ十二日目 = Days 12th =
残るリーグ日程は二日、勝ち点わずか2差で首位のチーム龍RONと直接対決するとあれば、チーム龍波のエースパイロットにして唯一のパイロットたる無頼兄・龍波に気合いが入らないわけがない。もちろんそうでなかっとしても、天駆けるサムライこと無頼兄はいつ何時でも気合いが入っていないわけがなかった。
「ホンモノの龍がどちらか教えてやるぜ!」
「そんなんどっちでもええわ」
鬼姉(弟曰く)紅刃の呆れた言葉は彼の耳には入らない。なぜならば本当に必要な言葉というものは溶かした鉛のように耳から注ぎ込んでくるに決まっているからで、今は目の前の相手に勝てば勝ちだし負ければ負けてしまう、それこそが重要なことであった。勝ち点とかそういうむつかしいことはオペレータAI・鬼刃が計算してくれるだろう。
「その程度の計算は我でなくともできるだろう」
AIどころか電卓でできるがそれも気にしないとばかり、勇んで出陣するオーガイザーだがカタパルト離脱と同時に時空跳躍で目の前に出現した太極師の硬気功が命中して先制される。機先を制されて、だがオペレータからもメカニックからも慌てた言葉は入らない。太極師は格闘戦を挑むつもりであり、オーガイザーは格闘戦を受けて立つつもりでいる。つまり純粋な男と男の勝負に慈救宇宙なんちゃらは関係ないのだ。
「ガイ・ブレイカァー!」
鋼鉄(はがね)の拳が叩き込まれて、硬気功と相撃ちになるが男の装甲魂鋼にこれを受けさせるともう一撃、ワンツーパンチの容量で右左左と軽快な拳を打ち込んでみせると一撃どころか連続攻撃を成功させる。得意のスタイルにさえ持ち込めば無頼兄の戦闘能力は屈指であり、鋼鉄(はがね)のごとく重厚な攻撃力と堅牢な防御力を発揮する。その信頼がなければチームのメンバーも筋肉はゴリラで脳みそはゴリラともいうべき彼に機体を託したりはしないだろう。
戦況を安易に膠着させず、格闘士を思わせる滑らかな動きで間合いを測りながら的確な拳を命中させて、序盤は完全にオーガイザーが主導権を握る。開始10分、ガイブレイカーを被弾しながら強引に連続攻撃で硬気功を打ち込んだ太極師も戦況を五分に戻すが無頼兄はそれを許さず再びガイブレイカーを命中。残り10分で更にラッシュを仕掛けたオーガイザーが依然として優位。格闘戦の不利を認めた太極師も、あえて奇策に逃げず自らのスタイルを貫くことを決断する。
「火中の栗を拾う、その程度の覚悟はあるつもりだ!」
足を止めての殴り合いに応じたオーガイザーと太極師が相撃ち承知の積極的な攻防、捨て身の勢いに終了間際に押し込まれるが、優位を保ちながら最後まで背を向けなかったオーガイザーが大きな勝ち星をつかみ取った。
オーガイザー 14 (30分判定) 太極師 14
ことり号 14 (18分判定) バラクーダ 08
ねころけっとDOH 13 (30分判定) MT拾参【増刊号】 10
フルバレット・GM 12 (06分停止) メガロバイソン7 14
アストロタコボールワン 10 (14分停止) テータ 10
ゼノビア 10 (30分判定) トータス号 05
魔王 10
ストライク・シリーズ十三日目 = Days 13th =
今大会は最終日の時点で勝ち点が並んでいるのが4チーム、更に追走する1チームを合わせた5チームがリーグ突破の可能性を持ち、しかも上位同士が直接対決するいわゆる「日程さん」が大きな仕事をする展開となっている。傍観者は無責任に楽しむことができるが当事者にはたまったものではない状況、そのはずだがこの状況を無責任に楽しめる者こそ難局すら陽気に乗り越えることができるのかもしれなかった。
「男が倒れるとき!それはダウンしたときだッ!」
「それおんなじ意味ですえ」
GMを相手にして熱く叫ぶオーガイザーは彼らが信頼する鋼鉄(はがね)の拳と装甲に任せた格闘戦を試みるが、愚直な直進を中間距離に配備されたフルバレットの弾幕に阻まれる。壁を突き破って攻撃、離されてはまた接近を果敢に繰り返すが損害を隠すことはできず力尽きると玉砕、首位争いから脱落した。追走するTeamKKには願ったりの結果であり、対戦するチーム龍RONを撃破すればリーグ戦を自力突破することが叶う。展開したとびうおだんぱーずの林の中を不規則に跳ね回って太極師を翻弄、開始28分まで優位を保ち続けていた。
「二手反応遅れ。詰まされます、れでぃ」
「意地でもボムは使わねー!」
残り3分で太極師の硬気功が命中して逆転、TeamKKはあと一歩届かずシャル・マクニコルがリーグ戦では初であり地上戦でも久しく遠ざかっていた決勝戦への進出を決める。残るは一枠、メガロバイソンプロジェクトとイハラ技研の勝者がやはりリーグ戦初となる決勝進出の切符を争うが、両者ともに遠距離砲戦を得意としながら手数でも破壊力でも圧倒的な攻撃力を誇るバイソン7に対して、ことり号は100%位相反撃で相手の攻撃力を逆手に取るのが狙いである。
「位相反撃への有効な対処方法、覚悟はいいですか!」
「できてるッ!」
相手が必ず後手を踏むなら構わず攻める。頼もしい問いに頼もしい返事を返されて、積極攻勢を仕掛けるバイソン7は開始と同時にためらいのないムラクモオロチを発射。エネルギーが集束して破壊力が上がれば当然、ことりなんとかデルタの威力も上がり正確に追尾する狙撃がバイソン7の装甲を彩ると、派手に舞う閃光の隙き間をかいくぐるように一本の軌跡が命中する。
「ことりダイブ! <(・)彡」
気合いの入ったメカニックのメッセージがわざわざ顔文字入りでモニタに表示されるが、100%反撃に加えて追撃で優位を得るのがことり号の戦術である。メガロバイソンがこれを覆すには、この反撃と追撃の双方に耐えてみせるしかない。続けてムラクモオロチの第二射が放たれるとこれも連続命中、ことりなんとかデルタから飛来する反撃の砲火も直撃するが、再び影から飛んできたことりダイブシータは寸でで回避に成功。わずか2分の攻防、わずか1撃の差が明暗を分けてメガロバイソン7が決勝戦進出の権利を獲得した。
メガロバイソン7 16 (02分停止) ことり号 14
太極師 16 (30分判定) ねころけっとDOH 13
フルバレット・GM 14 (24分停止) オーガイザー 14
ゼノビア 12 (30分判定) アストロタコボールワン 10
MT拾参【増刊号】 12 (06分停止) 魔王 10
トータス号 07 (18分停止) テータ 10
バラクーダ 08
STRIKE SIRIES VI ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = メガロバイソン7vs太極師
疑いなく強豪と認められながら、リーグ戦以降決勝進出の機会がなかったメガロバイソンプロジェクト。ゲルフカスタムともいうべきバイソン7は砲戦を主軸にした多弾頭兵器による積極攻勢が売りの機体であり、これがジアニ・メージの天才風サポートとザム・ドックによる職人肌セッティングで支えられている。
「距離が取れたらすぐ撃つ!距離が取れなかったら!」
「すぐ撃つ!」
倒したらすぐ刺す、それが鉄則だと言わんばかりの勢いだが、ぎりぎりの攻防で重要なことが迷いのない行動であることを彼らは知っていた。スナイピングに優れたゲルフにむつかしいことをさせるくらいなら、ストロングポイントを最大に活かして弱点は他がフォローすればいい、そのためのチームである。対するシャル・マクニコルはチーム移籍後2大会目にして決勝進出、これまで不本意な戦績を強いられてきたが本来グラディエータとしての能力は一級であり、なによりメンバーが彼をサポートしてくれる。シャルがすべきはその当たり前の恩に報いることである。
「ステータス・オールグリーン。ジェネレータの具合がいいね、感謝する」
「で、でも相手は短期戦を仕掛けてくるんじゃないでしょうか」
「そうさせないのが僕の役目だよ」
緊張を隠せないでいるオペレータに、ことさら余裕があるように見せるが強敵を相手にして自信も成算もあるわけではない。事実リーグ戦では善戦しながらも敗れている相手であり、得意の格闘戦に持ち込んでもメガロバイソンはその距離で攻撃の手を緩めることがないだろう。
スペースコロニーに設けられている戦闘用フィールド、そこは厳密には無重力ではなく、惑星やコロニー自体の影響を受ける低重力の世界である。宇宙空間での活動は慣性と重力が「地表とは異なる」ことが重要であり、パイロットはそれを計算に入れて機体を操る必要があった。射出用のカタパルトを疾走して得られたスピードが空気抵抗も惑星重力の影響も受けずに維持される、その中で彼らは砲弾を当てなければならず接近して拳で殴らなければならない。機体の性能がどれほど向上して、人工知能AIがどれだけ進歩しても人間の手を介さずに人間の性能を超えることは未だに成功していない。だからこそ彼らが競い合う意味があった。
「縮地装置はスピードではなく、認識の速度の勝負・・・!」
カタパルト離脱と同時に時空移動をした太極師は、メガロバイソン7の至近距離に出現すると硬気功を直撃させる。体軸の駆動部を連動させて攻撃用のマニュピレータを打ち出す、これを相対位置の捕捉すらできていない状態で成功させるのはシャル・マクニコルならではだろう。一拍置いて姿勢制御、今度は左腕を打ち出すが距離を問わず積極攻撃を試みるバイソン7は相撃ち覚悟でハンディバルカンを撃ち放った。この距離なら破壊力でも装甲でも太極師が勝っているが、それを承知で攻撃するゲルフの厄介さをシャルは充分に知っている。
「右左右上左右、それから左下!」
「シュート・ヒム!」
メージが連ねる言葉をわずかも遅れることなくなぞり、それが正確に相手を捕捉し続ける。ゲルフの真骨頂は常人には追いつけるはずもない情報の羅列だけで攻撃を成功させてしまうこの能力であり、メージがその情報を流してザムはそれを活かす機体を用意すればいいのである。相対距離に応じて持ち替えられるハンディバルカンとデュアルバルカンの銃口が、まるでそれ自体に意思があるように太極師を追尾して弾頭をたたきつけた。相撃ちを気にせず五連続で仕掛けた砲撃がすべて命中して、先制された利を取り返したバイソン7が戦況を五分に戻す。
ここまでで開始10分、メガロバイソンのジェネレータ出力がわずかに低下するが、ゲルフは構わずハンディバルカンを撃ち放って命中させる。すかさずデュアルバルカンに持ち替えようとしたところで縮地装置を起動させた太極師が硬気功を打ち込むが、バイソン7は手放したはずのハンディバルカンを構えていて相撃ち、双方の装甲に限界が近づいている状況でわずかにメガロバイソン7が優位。
「秋蘭、ひとつ大切なことを教え忘れていたよ」
「なんですか、シャル・・・さん?」
追い込まれたその状況で、シャルは勝つために必要なことをすべて試みている。それは今に限った話ではなく、これまでどれだけ不本意な戦績を強いられたときも彼は勝つため以外の方法を行ったことはない。たったひとつを争う者が矛を交えるときに、それを持たない者が勝つことは決してありえないだろう。
「一番必要なことは、信じることなんだ!」
絶妙のタイミングで縮地装置を起動、至近距離に出現すると同時にハンディバルカンの弾道に交叉させて硬気功が打ち込まれた。このまま押し切らんとばかり、ハンディバルカンに装甲を叩かれながら逆腕から打ち出された二撃目の硬気功を直撃させるとメガロバイソンも遂に機動停止。チーム龍RONが初優勝を飾り、シャル・マクニコルは地上戦以来となる十八大会ぶりの栄冠を手に入れた。
太極師(15分停止3vs-7)メガロバイソン7
優勝 シャル・マクニコル 太極師 13戦09勝 /通算71戦25勝
準優勝 ゲルフ・ドック メガロバイソン7 13戦08勝 /通算71戦43勝
3位 テムウ・ガルナ ことり号 12戦07勝 /通算70戦31勝
3位 無頼兄・龍波 オーガイザー 12戦07勝 /通算70戦27勝
3位 ジム フルバレット・GM 12戦07勝 /通算59戦35勝
6位 山本いそべ ねころけっとDOH 12戦06勝 /通算72戦44勝
7位 ロストヴァ・トゥルビヨン ゼノビア 12戦06勝 /通算72戦44勝
7位 牛山信行 MT拾参【増刊号】 12戦06勝 /通算46戦19勝
9位 ノーティ テータ 12戦05勝 /通算70戦39勝
9位 フランツ=ヨハン 魔王 12戦05勝 /通算24戦10勝
9位 神代進 アストロタコボールワン 12戦05勝 /通算71戦41勝
12位 ネス・フェザード バラクーダ 12戦04勝 /通算50戦26勝
13位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号 12戦03勝 /通算70戦27勝
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