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 エターナル俺は社長で女子高生今日も乗り込むねころけっとこと山本いそべ。今日も今日とて仕事と開発とゲームと補習に明け暮れている毎日だが、一見して町工場でしかないクスノテックの工房から世界に向けて発信された技術は数知れず、そもそもフレームと呼ばれる人型汎用機の関節部の基礎処理機構の特許料だけで彼女たちは一生食べていけるとさえ言われている。
 とはいえ彼女を占めているのは彼女自身と男どもをはべらせても一生食べていけること、ではなく宇宙進出まで行われるようになったこの時代に技術屋が新しいモノを作らずにどうするかという職人魂である。職人とゲーマーを足しっぱなしにしてちょっとだけ女子高生をふりかければ山本いそべが完成するのだ。

「それではー新社屋開所記念、立体映像によるテープカットを行うー」
「わー(ぱちぱちぱち)」

 ちょっとだけイカしたデザインをした機能的な建物の前で、いそべが手にしているハサミの位置情報をもとにして、切る動作をすると実際に切られたテープの映像が地面にはらりと落ちてから微粒子状に弾け散ると「呪(誤字)」の文字が空中に描かれる。立体映像の紙吹雪と花火が舞ってチープな音楽まで流れると、建物から飛び出した立体映像の子猫たちがいそべの足下を駆け抜けて行った。こんなくだらない演出にも最先端の技術が使われていて、それは彼女たちに協力しているTeamKKの学生たちにとっても趣味と実益を兼ねた技術者への道を歩む貴重な体験になっているのだ。
 その日は遂にリニューアルされた工場の開所日で、おそなえものの鯛や呼んできた神主さんも立体映像にしようというアイデアもあったが縁起物はリアルにしておこうと本物が用意されている。先の地震で安普請が半壊してからも仕事ばかりしていたせいで、建て替えにもずいぶん時間がかかったが、これで年頃の社長が男どもに混じって作業着姿でごろ寝をしないでも済むだろう。

「あさのときしだ(仮称)!あたしの部屋の片づけよろー」

 周知のとおり、あさのが眼鏡をかけている方できしだがリーゼントの方である。そんなわけで念願の一人部屋を手に入れたいそべはさっそく、技術協力に来てもらっているTeamKKの新人さん二人に最初の仕事をお願いする。あさのときしだ(仮称)も大学生であるからにはいそべより年上のはずだが社長命令はたぶん絶対なので、いまどきの女子高生の私物である山のようなゲームと技術資料と端末やらサーバやら旧ねこたーぼ優勝機のスクラッチモデルやら猫まっしぐら用品やらを二階の私室に運ばなければならない。あと脱ぎっぱなしの作業着を洗濯しとくのも妹に頼んだら断られたのでついでに彼らにお願いしておいた。
 開所式は午前中だけで午後からは通常業務に戻るので、片付けをはじめながら何人かの工員はすでに旋盤や設計台に向かっている。なにしろ新しい工房だから設備も新しいのが入っていて、どうせすぐに使い込まれてしまうのだから今のうちに新品に触れておきたいのは人情である。お昼ご飯はてきとうに買って作業しながら食べればいいからほらもうこぼしてる人もいた。

 とにかくこれで年頃の娘らしい生活がトリ戻せるに違いないといそべは確信していたが、実際にはそれまで工房の一部を占拠していたいそべの仕事場兼生活スペースが二階に移動して仕事場兼生活スペースになるだけだろうとは彼女以外の皆が確信していたことである。

「社長!机の裏に手つかずののり弁が!のり弁が!」


ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =

 こうして心機一転、新しい門出を迎えてさわやか万太郎も青春の旅立ちをしたに違いないTeamKKだが、開幕戦の相手は彼らにとって鬼門ともいうべきSRI白河重工謹製トータス号だった。どれだけ追い詰めてもただ一度の交通事故ですべてをご破算にされてしまう相手であり、ほしふるうでわとあぶないみずぎを装備するねころけっとにとってこれまで何度も煮え湯を飲まされた記憶はそう消えるものではない。

「飲むよ!煮え湯じゃなくて勝利の祝杯を飲むよ!」
「未成年はノンアルコール推奨です、れでぃ」

 本当はもちろん推奨でなくて限定だが、最近ちょっと優勝から遠のいていたこともあってここで一発苦手を克服したいいそべはコントローラのスタートボタンを押してシステムを起動する。オペレータのMii4Uはパイロットのクセと状況を予測、プログラムライブラリにある優先処理順位を変更する機能を備えた優れもので、旧システムに比べても各種反応速度が2フレームくらい早くなっていた。あとはけっきょくあさのときしだ(仮称)が荷物を積み上げただけの部屋の片づけもMiiが手伝ってくれたらなーと思いつつ、小型化された新型エンジンのおかげでコクピットの居住性はむしろ彼女の私室よりも快適になっている。いっそここに住もうかしらん。
 機体射出と同時に二機のとびうおダンパーを展開、それ自体がまるちぽーを搭載した攻撃にも防御にも利用できる多目的装置であり、更に移動用の足場にすることで宇宙空間ではありえない方向転換も実現する。対戦相手は多方向からの砲撃に晒されながら高速で方向転換するねころけっとを捕捉しなければならなくなる、ハードウェアと制御ソフトウェアとパイロットの腕が揃ってはじめて実現できるシステムだった。

「てんてんてててんてん(ちゃんちゃん)、てんてんてててんてん(ちゃんちゃんちゃん)」

 どこかで聞いたようなBGMを口ずさんでいるのはいそべではなくMii4Uの新機能である。これも遊びというなかれ、音楽に高揚した人間の反応速度は通常時の1.2倍に跳ね上がるとも言われていのだ(当社比)。このまま機動力で圧倒して何もさせずに葬り去る、それがねころけっとのスタイルでトータス号は追い詰められてからの一撃必殺を狙うだろうが、どのみち追い詰められる前でも後でも彼らはパーフェクト・プレイを心がけなければならない。
 相対距離は遠距離を確保しながら、相手センサーのロックオンすら振り払う超高速機動を披露するねころけっと。回避に専念して戦況を膠着させるとトータス号の緊急システムをぎりぎりまで起動させず、モニターに遠望する蒼い流星がエネルギー集束を始めて輝き出したのは17分を過ぎてからだった。

「みー!VM−AXきどー!」

 敢えて口にするいそべだがここからが本番である。このまま遠距離を確保している限りねころけっとの優位は動かないが、緊急システムを起動させたトータス号は距離の壁を埋める超加速も手に入れる。蒼い流星そのもののスピードでトータス号が迫り、直撃すれば一撃で機体の半分を削り取られる高密度のエネルギー体が脇腹をかすめるがねころけっとはこれを冷静にかわしてまるちぽーで迎撃する。当たれば死ぬ、ライフ制など排泄物召し上がりませの数分間を集中して逃げ切ったねころけっとは残り時間も完璧に支配して幸先のいいパーフェクト・ショウを演出してみせた。

ねころけっとDOH+  02 (30分判定) トータス号       00
太極師         02 (30分判定) マスター・サーロイン  00
聖人          02 (11分停止) アストロタコボールツー 00
マタドールGM     02 (15分停止) ことり2号       00
ラプンツェル      02 (25分停止) バラクーダ       00
メガロバイソン7    02 (19分停止) オーガイザー      00
テータ         00


ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =

 その日、チーム・さんくちゅありの控室ではオーナー兼オペレータの天宮あてなと年齢不詳の納品業者兼メカニックである仔羊徳兵衛がこたつを挟んで湯呑みを口に運びながら海苔巻煎餅に手を伸ばしていたが、もう一人肝心のパイロットが欠けていて遅刻でもしているのか未だ姿を見せていない。

「これは牛兄ぃがちょっと調子に乗っているみたいね」
「ええ、お茶が美味しいですねえ」

 話し相手がいなくて愚痴をこぼしているのではなく、あてなにとって牛山信行は店子であり店子はオーナーに絶対服従するべき下僕である。来ないなら信兄ぃの煎餅も頂いちゃえと手を伸ばしたところで、控室がにわかに暗くなって脇にあるスライド式のドアが開くと場違いなスモークと明かりが差し込んできた。何だ何だと煎餅を割りながら、二人の視線に迎えられたのは旧世紀の日本のプロレスラーのような出で立ちに、どこぞのダースなベイダーが被っていそうなマスク姿でコーホー言っている男である。マスクで煎餅は食べられないから、あてなの判断は正しかったといえるだろう。

「なんだ信兄ぃ、風邪ひいたの?うつさないでよね」

 これは風邪のマスクではないと思うが、ウォーズなマンを思わせるパイロットはコーホー言いながら格納庫に移動すると今大会用に設計された新機体に乗り込む。段ボール製ちゃんぴおんべると装備仕様マスター・サーロイン。ドラグーン機をベースに近接格闘機のコンセプトは変えないが、フォロー用の全方位攻撃装備を搭載した徳兵衛の意欲作である。

「これで如何に距離を詰めるかがもごもご」
「食べながらしゃべらないでよ」

 対戦相手は超攻撃型遠距離砲撃機であるメガロバイソン7であり、被弾覚悟の接近戦をどこまで貫徹できるかが肝になる。開始早々、その接近戦で対峙するがバイソン7も至近距離でハンディバルカン、離れればデュアルバルカンで弾幕を張って容易に近づけない。サーロインは承知の上でバスターフォースをばらまきつつ前進するとアームドアームズの拳を叩き込み、展開としては互角でも火力と装甲で優位に立つ。だが本格的な砲戦に持ち込まなければ不利になるのはメガロバイソン陣営も承知していて、オペレータのメージからすかさず指示が飛んだ。

「だぁむふっきん・ですとろおおい!」

 このようなスラングを通信回路に乗せながら、センサーを確実にロックオンさせたバイソンのデュアルバルカンがサーロインの装甲を叩く。双方被弾しながら勢いで勝ったメガロバイソン7がここで離脱、満を持しての遠距離に入るとムラクモオロチ・改二の砲門を開く。ここで「被弾覚悟」のコンセプトを神がかり的なタイミングで捨てたサーロインが降り注ぐ光の雨を立て続けに回避、千載一遇の好機に一気に前進して至近距離にもぐり込むと、お肉を細かくたたいて柔らかくするかのようなラッシュでバイソン7を追い詰める。右の一撃がクリーンヒット、離れぎわに放ったバスターフォースがとどめを刺して猛牛対決をさんくちゅありが制してみせた。ちなみに大会に登録されているパイロットが牛山信行ではなく、青空星馬の名前になっていることに彼らが気付いたのは実はリーグが終わりかけてからだったりする。

聖人          04 (14分停止) バラクーダ       00
太極師         04 (14分停止) トータス号       00
アストロタコボールツー 02 (15分停止) マタドールGM     02
マスター・サーロイン  02 (15分停止) メガロバイソン7    02
ことり2号       02 (15分停止) ねころけっとDOH+  02
テータ         02 (24分停止) オーガイザー      00
ラプンツェル      02


ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =

 ザ・ピットは前大会までのパイロットであるフランツを更迭、後任に指名されたのがやはり代表を務めるテオドール卿の親族でフランシスという女性だった。親族といっても何親等かもしれず、卿の身辺は芳しくない噂に事欠かなかったが法的にも手続き的にも問題のないことは確認されている。パイロットの映像も公表されていたが、粗い証明写真のような画像は奇妙なほど特徴に欠けていて印象に薄いことだけが記憶に残っていた。

「手順三十八番。完了しました」
「宜しい。フランシス=ヨハンナ、システムを接続したまえ」

 通信回線を流れている若い女性の声は無機質で原稿を読み上げる機械めいていたが、卿の指示に従いコクピットから伸びたケーブルを身体に挿し込んでいる様子が更に操り人形めいて見える。前任者のときは隠されていたが、ザ・ピットのパイロットは反応速度を上げるために機体と有線で接続するためのコネクタが両手首と首筋に埋め込まれていた。
 彼女のために用意された「聖人」は戦闘機じみた大型スラスターの下に人型の機械人形がまるで吊られたようにぶら下がっており、顔の部分は無表情な人間のそれになっていて前機体の「魔王」同様御世辞にも趣味がよいとはいえない機体である。人形は関節の可動域が広く全身に姿勢制御用のノズルが設けられていて、宇宙空間にあって人間なみの動きができるように設計されている。対戦相手は連邦軍技術開発部の趣味的傑作マタドールGM、名の通り闘牛士を思わせる機体だがおそらく誰が相手であってもフランシスの反応は変わらない。

「手順九十九番、完了しました。戦闘開始します」

 相対座標を確認すると同時に無造作に前進する聖人、というよりも本体であるスラスター部に吊られた人形がGMに接近すると救済と称するエネルギー剣を両掌から放出して切りかかる。剣術も何もないが加速となめらかな動きが尋常ではなく、一瞬で間合いを詰められたGMも辛うじてサーベルを抜くと相打ちを狙うしかできなかった。続く切り合いも相打ち、だがGMのサーベルには熱追撃機構が仕組まれていて命中した箇所に残された高熱のエネルギー体が血を流す牡牛のように聖人の傷口を広げていく。これで相手に出血を強いるのがマタドールのスタイルだった。
 それで怯むどころかわずかの動揺も見せず突進する聖人に、GMのコクピットで辟易するジムは容赦のない攻撃を捌ききることができず削り合いに応じるしかない。消耗戦に活路を探すGMだがそれは聖人こそ望むところで、緊急システムが起動すると直結型AI「ヨハンナ」がフランシスのコネクタから侵入する。無表情だった人形の顔が激しく慟哭する表情に変わり、パイロットは瞳孔が散大、表情も激変してマニュピレータに繋がれた四肢に力が篭る。

「待ちくたびれたわ!でも残念、すぐにサヨナラね!」

 至近距離から更に加速、全身の姿勢制御ノズルからエネルギーを一斉放出して横なぎに振り払った救済がシールドごと装甲を両断する。この一撃でGMは沈黙、勝利した聖人のコクピットでは一つの唇から二つの声が漏れていた。

「戦闘終了。緊急システムシャットダウン、機体回収処理に移ります」
「ちょっと!もう少し喜ぶ時間くらいー(切断)」

聖人          06 (09分停止) マタドールGM     02
ことり2号       04 (30分判定) 太極師         04
メガロバイソン7    04 (03分停止) テータ         02
ねころけっとDOH+  04 (30分判定) バラクーダ       00
ラプンツェル      04 (30分判定) オーガイザー      00
アストロタコボールツー 04 (30分判定) トータス号       00
マスター・サーロイン  02


ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =

 無頼兄・龍波曰くオーガイザーは男の機体であり、つまり男は黙ってオーガイザーということである。その彼らが今大会ここまで勝ち星に恵まれていないことは今まで以上に男が足りない、つまり真っ向勝負に持ち込めず搦め手にはまったことが原因に違いない。無頼兄の分析は理屈はともかく結論としては間違ってはおらず、ならばこの日の対戦相手となるマスター・サーロインは男の真っ向勝負を正面から受け止めてくれるおいしそうな相手というべきだろう。

「ガイ・ミサイルパァァァンチ!」

 男の先制攻撃よろしく、パンチと言いながら腹部から撃ち出された大型ミサイルが空を切るとサーロインが迎撃にばらまいたバスターフォースが命中してあっさり先制されてしまう。せっかく鬼姉こと紅刃の提案で搭載されていたミサイルだが、やはり男は拳で勝負すべきという戒めに違いない。思い直した無頼兄がコクピットで拳を打つとオーガイザーも同じ動作で気合を入れて、牛よりも牛らしい突進でサーロインの懐に飛び込むと肺が空っぽになる勢いで叫びをあげた。

「ガァイ・ブレイカアアアアーッ!」

 難しく考えるのは性に合わない男が、難しく考えず自分のスタイルを貫いたときに彼の実力が発揮される。一撃目が命中、二撃目は弾かれたが守勢に立った相手に遠慮も容赦もなく襲いかかる。多少のダメージは男の装甲、魂鋼で受け切ると倍にして返すつもりでフックだボディだボディだチンだとばかり攻撃、先制した筈が機先を制されたサーロインも防戦一方の状態から細かいジャブを繰り出して反撃を開始する。

「コーホー」
「畜生、やりやがったな」

 近接格闘機同士の殴り合いは装甲の厚さと男らしさでオーガイザーが勝っているが、細かい手数と相手のパンチを弾くパリィングの技術ではマスター・サーロインが優れていた。そのまま至近距離での殴り合いが10分ほども続き、勢い任せのラッシュに慣れてきたサーロインの拳が徐々に当たり出す一方でオーガイザーのパンチは空を切るようになってがら空きのアゴに一撃を食らうと思わず足に来てしまう(?)。これではどちらが嵐を呼ぶ男か分からず、このまま不甲斐なく沈めば鬼姉こと紅刃に火あぶりにもされかねない。それは熱いが熱さの種類が違うとばかり、無頼兄の男にもう一度火がついた。

「レッツ!マン・ファイヤー!」

 たてがみを模した熱排出機構が赤く光り、男のイングリッシュで気合を入れなおしたオーガイザーが再び突進するとガイ・ブレイカーが命中、カウンター気味の相打ちになるが勢いに押されたサーロインのひざが崩れて(?)オーガイザーが一気に優位に立つ。踏ん張りを見せたサーロインがわきを締めた内側からピストン堀口並みのラッシュを仕掛けるが終了間際、やはり相打ち覚悟で振り回したガイ・ブレイカーが撃ち込まれるとそのまま勝負あり。三十分間の殴り合いを制したオーガイザーが待望の勝ち星と男の勲章を手に入れた。

太極師         06 (13分停止) 聖人          06
ラプンツェル      06 (18分停止) テータ         02
メガロバイソン7    06 (07分停止) トータス号       00
アストロタコボールツー 06 (27分停止) バラクーダ       00
マタドールGM     04 (30分判定) ねころけっとDOH+  04
オーガイザー      02 (30分判定) マスター・サーロイン  02
ことり2号       04


ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =

 徳なき知育を武器に戦う、狂わせ屋女史が率いるSRI白河重工はたとえ不適切な用語・表現等が含まれていても作品のオリジナリティを尊重してそのまま放送すべきチームである。その彼らにとって喫急の課題は第三者機関を装いながら内実は関係者だらけのBPOからの勧告などではなく世紀末救世主トルーパーことSPTを扱う新参チーム、ザ・ピットの登場だった。SPTの脅威がリーグ戦を席巻する様は見ていて楽しいが、それは本来SRIが世間に問いかけるべき脅威でなければならないのだ。

「交通事故なら50秒に一件、犠牲者は38秒に一人なのよ」
「だからそれはやめろと」

 たかがパイロットでしかないコルネリオの意見は認められず、スバル360をベースにして未来カー的な独特のフォームを持つトータス号が起動する。このクルマめいたデザインから状況に応じた楽しいアタッチメントが飛び出すのが彼らのスタイルだった。科学捜査研究所の名にかけてザ・ピットの奈落を解析する?
 これまでの対戦と同様、聖人は大型スラスターに磔にされたようにぶら下がりながら無造作に距離を詰めてくる。トータス号の脇から伸びたマニュピレータが南部十四年式拳銃を構えて威嚇射撃をするが、無表情の聖人は動じた素振りもなく両掌から救済を放出して切りかかってきた。緊急システムが稼働していないとは思えない高出力のエネルギーがトータス号を焼くと二分で一撃、五分で惨劇という様で装甲が削られていく。だがSPT同士の戦いにおいて、それは先んじて緊急システムが起動するという意味でもあった。

「レイ!VM−AX起動!」
「だから車は駐車場の整備員にすべてを任せて

 そこで通信が途絶えると蒼い光がトータス号を包んでいく。聖人は構わず狂鬼人間に対しても救済を試みるがトータス号の果てしなき暴走がカウンター気味に命中、SPTらしい常軌を逸した破壊力が撃ち込まれた。続けて直撃、わずか二撃で窮地に追い込まれた聖人も緊急システムが起動するとヨハンナ=フランシスが登場する。

「舐めんなッ!接近戦でアタシに勝つつもりかよ!」
「俺じゃない、車に頼まれたんだ!」

 エネルギー集束と同時に一瞬で方向転換、斬撃まで仕掛ける聖人だが、蒼き流星の操縦に熟達したトータス号はこれをかわすと白い排気ガスをまき散らしながら果てしなき暴走で突進する。この状況で両者一歩も譲るつもりはなく、出力全開の救済と果てしなき暴走が互いに正面から激突して視界が真っ赤に染まり、装甲が吹き飛ぶと両機が同時に機動停止した。判定の結果損害も五分、SPT対決は決着がつかず引き分けが確定される。どちらではなく両者ともに狂気を垣間見せる対決となった。

「東京だけでも200万台の車があるんだぞ・・・」

メガロバイソン7    08 (20分停止) ラプンツェル      06
太極師         08 (30分判定) ねころけっとDOH+  04
聖人          07 (13分引分) トータス号       01
マタドールGM     06 (20分停止) バラクーダ       00
オーガイザー      04 (30分判定) ことり2号       04
テータ         04 (30分判定) マスター・サーロイン  02
アストロタコボールツー 06


ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =

 北九州漁業協同組合の工房ではアストロタコボールの2号機が開発されていて、機体試験でもホームランボールをスタンドから打ち返すほどの高いパフォーマンスを見せていたが大会直前になって無七志の殺人L字投法を受けると再起不能なほどに破損してしまう。だが実はタコボール2号はニセモノだったのだ!初代2号機の無念を受け、雪辱を誓う工房に落雷が落ちると焼け跡には左マニピュレーターの掌にボールのマークがある機体だけが生き残っていて、これが本物のアストロタコボールツーとして改修される。徹夜ミックスジュースは漁協で好評販売中だった。

「さっぱり分からないキュ?」
「理解したまえ」

 超能力イルカフリッパーの疑問に神代進が頼もしく答える。この日は前大会優勝機、今大会もリーグ首位に立っている太極師が相手だが、制圧前進を旨とするタコボールには決して相性の悪い機体ではなく生き残るためにもここでブレーキをかけておきたいところだろう。
 開始と同時に急加速、先んじて至近距離に出現したのは太極師だがタコボールは距離を選ばない戦いに慣れている。正面から打ち込まれる硬気功を弾きながら、ウルトラ大根切りを披露して野手のグローブごと突き指をさせる勢いでマニュピレータに握りしめたバットを叩きつけた。そのまま至近距離でもう一撃、今度は太極師に硬気功で弾かれると反撃の拳を打ち込まれるが更に三撃目、頑なに振り回したウルトラ大根切りが命中して強引にペースを握る。思惑通りの急襲から格闘戦を挑んだにも関わらず、不利を喫した太極師の通信回路にオペレータの動揺した言葉が流れる。

「シャル、さん!どうしますか」
「慌てることはない。こちらの距離なんだ、このまま向かい合う」

 言葉ほどシャルは落ち着いているわけではなかったが、経験の浅いオペレータをわざわざ動揺させる理由はなく多少の演技も許されるだろう。相手の勢いが衰える様子はないが、格闘戦は自分の土俵であり大振りの攻撃にも慣れてくると当たらぬまでも当てられないようになってきた。むしろ距離を取られて狙われる槍投げ打法の方が厄介かもしれない。
 太極師は集中して避けながら反撃の機会を窺い続けると15分過ぎ、もう一度至近距離に飛び込んでようやく零距離での硬気功を命中させる。これを嫌ったタコボールが遠距離に離脱、このタイミングを狙っていた太極師が百歩神拳を連続で命中させて一気に戦況を五分に戻した。格闘戦で先手を取られた意趣返しを遠距離戦で披露してみせた格好だ。

「やるじゃないか」
「やるキュじゃないキュ」

 コクピットでうそぶく神代とフリッパーにも決して余裕があるわけではないが、彼らには自分のスタイルへの揺るがぬ自信がある。三たびのウルトラ大根切りと硬気功は相打ち、加速性能では太極師に分があるらしく距離確保を狙うよりも圧倒攻勢でぶちくらす(殴って倒す)のが北九州らしい。あえて避けようとした太極師を大上段に振り上げたバットが捉えると、あくまでウルトラ大根切りにこだわったタコボールの一撃が命中、力ずくで太極師を撃破した。

メガロバイソン7    10 (12分停止) マタドールGM     06
アストロタコボールツー 08 (24分停止) 太極師         08
ラプンツェル      08 (30分判定) ことり2号       04
テータ         06 (30分判定) トータス号       01
オーガイザー      06 (18分停止) バラクーダ       00
マスター・サーロイン  04 (13分停止) 聖人          07
ねころけっとDOH+  04


ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =

 ネス・フェザードの気まぐれぶりは今に始まったことではない。あいつはスリルが好きなだけよという某友人の評価もあるが、それを裏付けるかのようにリスクの高い機体と戦術を投入しては圧倒的な強さを見せるか盛大に自爆してみせるのが彼の印象だった。対戦相手にとっては幸いなことに、今大会の彼は後者であるらしくここまでリーグ戦の日程を半ば消化して一つの勝ち星も得てはいない。

「ネスさーん、またお叱りメール届いてますよ。いつもの方から」
「いや真面目にやってるよ、真面目に」

 苦笑しながら、心配されているのではなくまさしく叱られているのだろうと受け止める。彼とても負けてよいつもりで参戦しているわけはないが、どうせなら最高に気分のいい勝ち方をするに越したことはないし彼の愛機バラクーダは間違いなくそのポテンシャルを持っていた。問題は機体でも技術でもなくパイロットの性格だが、この日の対戦相手は正確極まるオペレーションと慎重な戦術が売りのテータであり、コンピュータよりも正確と呼ばれる彼らが相手であればこそネスのスタイルを活かすには絶好の相手、かもしれない。いつものように、出撃前の計器類のチェックを終えると不謹慎な歌を口ずさむ。

「こんな夜に、お前に乗れないなんて、な」

 バラクーダは超高速の超高機動機であるという点でTeamKKのねころけっとに近い。だが決定的に異なるのはねころけっとがその機動性を回避に費やしているのに対して、バラクーダは加速性能に特化していることである。結果、雷撃機の名にふさわしく距離を選ばない一撃離脱戦法を実現しているがパイロットの技が追い付かなければ超加速からの攻撃を当てることもできず回避行動も間に合わないという本末転倒な結果が待っているのだ。
 カタパルトから射出されると同時に、襲いかかるデルタ・アタックの砲跡からテータとの相対距離を逆算する。計算した結果がどれだけ離れていてもバラクーダには関係がなく加速と同時に攻撃、アクセルバイトの名前そのままの一撃が装甲を咬み破った。勢いのまま離脱して暴れ回るじゃじゃ馬を無理矢理押さえつけると再び至近距離から加速、この間にマシンガンやガトリングガンの弾幕を浴びせられるがテータの弾頭が届く前にバラクーダは別の場所に消えている。

「予測が追い付かない!一瞬でいい、足を止められないか」
「分かっているが・・・」

 テータの通信回路にオペレータの悲鳴が届くが、弾速よりもバラクーダの加速が勝るのだからまともに当てることができず、予測して迎撃するか相手のミスを待つしかない。バラクーダの攻撃はすれ違いざまに熱エネルギーの牙を当てるだけだから、本体を捕捉するしかなくそれができなければ対処のしようもない。シンプルすぎて双方の選択肢が著しく限られるのがバラクーダ戦なのだ。
 だがフレームの性能限界として同一行動を継続できる時間には限りがあり、バラクーダも例外ではなく加速が途切れる瞬間は必ず存在する。そこを狙うことでテータは逆転を図るがネスは限界に近い状態を機体に強いると加速が止まった一瞬、デルタ・アタックで狙撃された瞬間にもう一度相対座標を読み切ってアクセルバイトで迎撃してみせる。入神の技量でテータを撃破したバラクーダだが、これがこの一戦に限られたことは双方にとって不運だったろうか。

アストロタコボールツー 10 (03分停止) メガロバイソン7    10
聖人          09 (18分停止) ラプンツェル      08
マタドールGM     08 (21分停止) トータス号       01
ねころけっとDOH+  06 (30分判定) オーガイザー      06
マスター・サーロイン  06 (30分停止) ことり2号       04
バラクーダ       02 (29分停止) テータ         06
太極師         08


ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =

 リーグ戦も後半に入ったが、上位陣が拮抗していることもあって現時点ではほとんどのチームに優勝戦進出の可能性が残されている。コミューン陣営も今のところ首位との勝ち点は4しか離れておらず、ことにこの日は首位のチームが軒並み星を落としていたこともあって追いつく余地は充分にあるだろう。

「つまり弱い相手には確実に勝ち、強い相手には確実に勝たないといけない訳ですな」
「善処させてもらうよ」

 冗談めかして言うメカニックのハイナーに苦笑しながらノーティが返す。それがどのような事実や現実でも、意地でも冗談にしてみせるのは彼の本能のようなものらしかった。生真面目なオペレータのシータなどに言わせれば不謹慎だと怒鳴られるところだが、どのような状況でも陽気な素振りで完璧な整備を実行してのけるこの男は得がたいメカニックに違いない。ましてTeamKK、ねころけっとのような相手に勝つとなれば悲観して実現できることではないだろう。

「最初の5分が勝負だ。これで失敗したら相手のミスを待つしかないぞ」

 機械よりも精密で正確と呼ばれるシータのオペレーションは、宇宙空間で高速移動する機体の相対位置を捉えて攻撃と回避の補佐を行うことができる。機体射出直後の一瞬と、そこからセンサーの精度を上げていく5分ほどの間に機先を制するのがシータの提案でノーティはそれを技術レベルで実践してみせなければならない。
 ねころけっとはとびうおだんぱーを足場にした高速機動を開始、初動を抑えたテータは高速で照準を誘導するとロックオンした目標にデルタ・アタックを集中させる。被弾したねころけっとは正確な反撃を放りながら、次の瞬間には足場を移動しているがそれを読み切ったテータも被弾しながら狙撃を繰り返す。どのような形であれ削り合いになれば装甲の薄いねころけっとは不利にならざるを得ず、序盤を制したテータは既に相対距離を維持しながら守勢に移っていた。

「5バックで逃げられます。その前にれでぃ」

 浮遊するとびうおだんぱーの間を高速で飛び跳ねつつ、標的を絞らせないようにしてねころけっとがれっどぱるちぽーを撃ち放つ。これが連続で命中するがテータも被弾しながら相対座標を自動計算して反撃、オペレータの計算と自動反撃システムによる双方の砲撃が混在しているのだから山本いそべの反応速度をもってしても回避するのは容易ではない。それでも高揚したゲーマーは人間の限界を超えるとばかり、襲いかかる砲火をすべてかわしてみせるねころけっとだがテータは初戦の優位を手放さずに両者とも膠着状態になる。

「後はほんの20分だけ逃げ切れば勝ちだ。頼むぞ」
「なるほど、ほんの20分か」

 珍しく冗談を口にしたシータに軽く驚きながら薄氷の綱渡りに挑む。高速機動を繰り返すねころけっととまるちぽーによる砲撃は軌道が読みにくいことこの上ないが、それをオペレータの予測とパイロットの技術でかわし続ける。絶妙のコンビネーションで「ほんの20分」を逃げ切ったテータがねころけっとを退けることに成功した。

聖人          11 (07分判定) メガロバイソン7    10
ラプンツェル      10 (30分判定) アストロタコボールツー 10
マスター・サーロイン  08 (12分停止) バラクーダ       02
オーガイザー      08 (18分停止) 太極師         08
テータ         08 (30分判定) ねころけっとDOH+  06
ことり2号       06 (30分判定) トータス号       01
マタドールGM     08


ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =

 塔上の姫君ラプンツェルの名を冠する機体に乗るからといって、ロストヴァ・トゥルビヨンが童話的なお姫様であるといった声はあまり聞かれない。姫君は魔女の目を逃れて王子様を塔に招いたが、ロストヴァであれば荒野に放逐される前に魔女を討伐してしまうだろうというのがもっぱらの評判である。

「気の利いたメールはないが、気の利いた言葉は大会最終日のラウンジで聞けるだろう、か」

 携帯端末の私用メールに目を通しながら、実際には計器類のチェックと戦術情報のフィードバックに意識のほとんどを奪われている。別に彼女が無粋なわけでも淡白なわけでもなく、首位を僅差で追走している状況でパイロットが目の前の対戦に集中していない筈がないというだけだ。敵を圧倒せず圧倒されず、それでいて勝ち残るロイヤル・ガードのスタイルに安心できる対戦相手というものは存在しない。ましてSRI白河重工謹製トータス号が相手となれば、綱渡りの足を踏み外せばすぐに奈落に落ちかねずどれだけ注意しても足りるものではなかった。
 いざ対戦ではロストヴァが得意の中間距離を維持しつつ、姫君の金髪を思わせるチェインシューターで相手を捕獲するとそのまま撃ち合いに誘う展開になる。ロマンスを理解しない友人がチェーン・デスマッチに例えた戦法だが、捕らえた相手は王子様でも魔女でもなくトータス号であり脇から伸びるマニュピレータに構えた南部十四年式拳銃を撃ち放ってくる。逢引をした姫君を嗜めるには物騒な代物だが、魔女ならぬ科学捜査研究所が相手ではそれも致し方あるまいか。

「もっとも、こちらも深窓の姫君というには物騒な娘だけどね」

 魔女に突き立てる剣の如く、捕獲したトータス号にめがけてチェインシューターの弾頭が撃ち込まれる。トータス号も南部十四年式拳銃を発砲して応戦するが、自らを縛る鎖から抜けることができず攻撃にも回避にも不利を強いられるしかない。ロストヴァ・トゥルビヨンを相手にペースを奪うことのできる相手など数えるほどしか存在せず、トータス号に乗るコルネリオも器用な類のパイロットではないが無論、彼らには彼らの戦い方があった。
 一見して戦況は膠着しているように見えるが実際には互いに装甲を削り合い、しかも確実にトータス号が損害を蓄積させている。気が付けば開始15分、トータス号の損害がちょうど五割を超えるがそれは緊急システムVMーAXが起動する限界値でもあった。蒼い輝きがトータス号を包み、同時にコクピットに吹き出す白い煙を吸い込まされたコルネリオが果てしなき暴走へ続くペダルを踏みしめる。至近距離まで加速、交錯した一瞬でラプンツェルを直撃した衝撃が激しく機体をきしませた。

「−−−!」

 これあるを期していたにも関わらず、不覚を喫すると思わず呪いの言葉を言い放ったロストヴァだが冷静さは失わずに距離を詰めてきたトータス号に正面から抜き放った大剣で切りつける。これで相手を弾き飛ばして、再び中間距離に戻すとチェインシューターを撃ち放つが、暴走したトータス号の勢いは止まらずに撃鉄まで蒼い火を吹き出した南部十四年式拳銃が命中すると、鎖が断ち切られたところで続けての一弾が直撃してラプンツェルの装甲が破壊される。交通事故に見舞われたロストヴァが終盤戦を前にして痛恨の敗戦、不機嫌を押し殺して帰還すると端末に手を伸ばした。

「姫君は極めて機嫌が悪く、早々に気の利いた言葉を用意されたし(送信)」

アストロタコボールツー 12 (10分停止) テータ         08
メガロバイソン7    12 (18分停止) バラクーダ       02
マタドールGM     10 (23分停止) 太極師         08
ことり2号       08 (10分判定) 聖人          11
ねころけっとDOH+  08 (30分判定) マスター・サーロイン  08
トータス号       03 (21分停止) ラプンツェル      10
オーガイザー      08


ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =

 前大会に参戦した機体は鋭角的な鳥めいて見えるデザインで名称が「ことり号」だった。だがたかが毛ボコリ系のパイロットのくせにそれに文句を垂れようとしたテムウ何某とかいうのがいたので、今大会では「ことり2号」の名称にふさわしくもっと小鳥めいて見えるデザインにすべきであるーーシステムを起動するとまずそのようなメッセージが画面に表示されて、テムウ・ガルナは平静を保つふりをしながらご親切に説明ありがとうよと呟くが、もちろん音声認識機能を備えている両AIズは律儀に回答してくれた。

「文句あるならいつでもこいやオラ m(゚Д゚m)」
「えーと今回も機体設計には彼の希望が反映されて」

 これでシステムをシャットダウンしてしまうとテムウは大会に参加できなくなってしまい、それではパイロットではなく御用聞きの毛ボコリ系お兄さんに戻ってしまうからここは寛大な心を持たなければならなかった。この程度で心を揺らしてはならないと、快適生活空間を目指すコクピットに据えられているサーバから徹夜ミックスジュースを取り出す。本日の対戦相手である北九州漁協からの差し入れらしいが、そもそも機体に据えられているサーバとはこのようなものではないのではなかろうか。
 ともあれミックスジュースで元気が出たのか、開始早々に得意の砲戦距離まで後退したことり2号が撃ち放ったことりショットがアストロタコボールツーに命中して幸先よく先制する。更に離れてことりダイブ、高速でことりが飛来するがタコボールはやり投げ打法でこれを迎撃した。小鳥めいて見える機体に超人のバットが突き立てられそうになるが、ことり2号に搭載されているEDシステムは小鳥に危害を加える者を許さない。100%自動迎撃システムが巨大な電撃を放つとタコボールに襲いかかってこんがり焼いてしまおうとする。

「ことりをいじめるやつは56す」
「おーい?」

 なんかパイロットではなくてEDシステムが戦ってくれているような気がしなくもないが、オペレータが戦闘を支援しているんだからそれはそれで正しいのかもしれない。アストロタコボールは攻撃の手を弛めずやり投げ打法を繰り出してくるが、被弾すればするほどEDシステムが怒って反撃も激しくなる。なにしろ理論上反撃ダメージは元ダメージを超えない筈なのだが、理論の限界値を出しまくっているのだから大したものである。もちろん相手の攻撃に反撃するだけで勝つことはできないから、そこはテムウがサポートしなければならずそういえばどちらがパイロットでどちらがオペレータだったっけ。
 激しい撃ち合いは開始わずか7分まで互いの装甲を激しく削り合うが、さしものタコボールも勢いが弱まったところでシステムを切り替えたことり2号が改めてことりダイブシータを敢行。やり投げ打法で迎撃を図るタコボールのバットをかいくぐって一転、二転、三転と相手のお株を奪う魔球めいた突入を成功させたことり2号が堅牢な装甲を破壊した。終盤戦を前にひとつの黒星も許されない状況で、イハラ技研がリーグ突破に望みをつなぐ貴重な勝利を獲得。

「ことりを傷つけた無能なパイロットも56す」
「え」

聖人          13 (07分停止) オーガイザー      08
ラプンツェル      12 (30分判定) ねころけっとDOH+  08
ことり2号       10 (11分停止) アストロタコボールツー 12
マスター・サーロイン  10 (26分停止) マタドールGM     10
太極師         10 (30分判定) テータ         08
バラクーダ       04 (28分停止) トータス号       03
メガロバイソン7    12


ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =

 リーグ終盤、三試合を残してどのチームも負けが許されない状況になっている。前大会優勝したチーム龍は総合順位では5番手となっているが、首位のザ・ピットは残り試合数が少なくロイヤルガードやメガロバイソンプロジェクトとの直接対決も控えていたから自力でリーグ突破をする可能性も充分に残されていた。いずれにしてもまずは目の前の相手であるバラクーダを倒さなければならないが、相手がここまで戦績不振であることを除いても高速近接戦闘はシャル・マクニコルの十八番であり、相性的にも決して悪くはない組み合わせである。

「足をすくわれません、よろしく任せてください」
「まあ、やるだけやってみようか」

 二大会連続での優勝戦進出を目指すプレッシャーは新参チームの新人オペレータには相当なものらしく、受け答えが妙になっている夏秋蘭にシャルはわざとらしく笑ってみせる。緊張するなといっても無理だろうが、いっそ気を弛めるよりいいかもしれず上手くいけば緊張を集中力に変えることもできるかもしれない。すべて勝つしかないという状況はある意味では分かりやすく、余裕がなければ余計な計算に浮き足立って足下をすくわれることもないだろう。
 太極師の基本性能はシャルが得意とする高機動型の近接格闘機をベースにしている。これに対して一撃離脱の雷撃戦を狙うバラクーダは必ず太極師の至近距離に飛び込まなければならず、近づいた一瞬を捕まえることができるかどうかが勝負の分かれ目になるだろう。シャルには自信はあったがそれで必ず成功するとは限らず、オペレータに宣言したとおりやるだけやってみるしかない。

「相対距離・・・見失いました!たぶん至近ですすすみません!」

 戦況も状況も構わず、シンプルに一撃離脱を狙い続けるのはバラクーダのスタイルである。どれほど遠くても近くても彼らには関係がなく、一瞬で加速するとすれ違いざまにアクセルバイトを擦過させてレーダーから消えてしまう。動揺している秋蘭だが自分なりの予測と推測は続けているのだから、シャルはそれを疑わずに機体を制御する。
 バラクーダの攻撃は損害こそ微小でも失血が蓄積すれば無視できなくなるが、超スピードを前提とした攻撃と回避に反応速度が追い付かず自滅する場合も多い。だが相手がミスをしなければそのまま圧倒されかねず、すべて勝つしかないという状況で消極的な者が勝てる道理がなかった。四回五回とかする中で数発、深くえぐられる傷も増えてくるが太極師は捕捉と迎撃を試みながら闇雲に動こうとはせずにオペレータが正答を引き当てる瞬間を待っている。はたして六度目のトライで脇腹を掠めようとするバラクーダの魚影が光学レーダーに映し出された。

「よし、お見事!」
「恐縮です!」

 見事どころか芸術的なタイミングで高速接近するバラクーダの鼻面に太極師の硬気功が命中した。これで動きを止めたところにもう一撃硬気功を直撃、アクセルバイトと相打ちになるが攻撃力では太極師が圧倒的に勝っている。千載一遇の好機を逃さず強引な攻めに転じると三度目の硬気功、再び相打ち覚悟の四撃目も命中してバラクーダの加速が完全に停止した。結果以上に内容まで理想的な勝利を収めた太極師がリーグ突破へ一歩前進してみせる。

聖人          15 (18分停止) テータ         08
ラプンツェル      14 (30分判定) マスター・サーロイン  10
メガロバイソン7    14 (02分判定) ことり2号       10
太極師         12 (10分停止) バラクーダ       04
マタドールGM     12 (11分停止) オーガイザー      08
ねころけっとDOH+  10 (30分判定) アストロタコボールツー 12
トータス号       03


ストライク・シリーズ十二日目 = Days 12th =

 一部関係者たちの間では今大会、連邦軍技術開発部の機体に大きな注目が集まっていた。通称Gシリーズ、禁断の果実とされる機動武闘伝なカスタムGMがいよいよ投入されることになったのである。別に冗談ごとではなく、性能は飛び抜けているがあまりにも癖があるGシリーズは本来量産機であるGMには見合わない「趣味的な開発」になるのではないかという懸念は以前から挙げられていた。それが着手されたことはGMベースのプロトタイプ開発が手がけられたということで、より性能が特化された機体が登場しうるという意味を持っている。

「つーか今までが趣味的でなかったとでも!?」

 そのようなジムの発言は丁重に無視されている。闘牛士を模した電磁シールドで相手を誘導する、マタドールGMの名にふさわしい機体だが胴体部が巨大な牡牛のそれになっていてこれでは闘牛士なのか闘牛なのか分からないじゃん!という彼の発言もやはり丁重に無視されていた。何しろこのマタドールがここまで奮戦して総合4位の戦績、残り二戦とも勝利すれば充分に優勝戦進出を狙える位置につけている。相手のテータといえば真面目な人たちが揃っているチームだとジムは勝手に考えていたから、申し訳ないような気にもなるがいざ対決となれば話は別だった。
 まずは闘牛士というよりも闘牛を思わせる突進、胴体部の角を突き出した重量級の体当たりを成功させてマタドールが先手を取る。口では文句を言いながら勝つために最善の方法を確実に選択する、テストパイロットとしてのジムの真骨頂だがこのような人物はまず確実に便利使いされて面倒事を背負い込まされるのも常だった。機先を制されたテータは牛または闘牛士との接近戦を嫌い、後退するとデルタアタックを浴びせるがマタドールは大布めいて見える電磁シールドをはためかせて砲火を捌いてしまう。

「レッドフラッグ・カモン!」

 途端、たなびく電磁シールドに引き寄せられるように、抗い難い力でテータがマタドールに吸い寄せられる。時空操作技術の応用だが、近づいた無防備な背にGMがサーベルを突き立てると高熱の流体エネルギーが傷口を流れる血のように飛散した。好機に一気呵成の突進を仕掛けるマタドールGMは懸命に距離をとろうとするテータにガトリングガンを撃ち込まれるが、ここまで完全に主導権を握っている。
 これは思ったより行けるんじゃないかと、コクピットでジムはマタドールの思わぬ性能に感心する。遠距離戦に持ち込まれたGMには攻め手がなく、テータはデルタアタックを放つがジムはこれを落ち着いて回避しながらレッドフラッグを振り回す。両者を隔てる空間を歪めて相手を強引に至近距離まで引き寄せることで、機動力に劣る重量機で近接戦闘を仕掛けることができるのだ。赤い大布に引き寄せられたテータは至近距離からマシンガンを浴びせて後退、更にガトリングガンで弾幕を張るが相手の意図を認めないマタドールは再び電磁シールドを振って強引にテータを手繰り寄せる。

「レッドフラッグ・カモォン!」

 いつの間にかノリノリになっている、順応性の高さを見せたジムが終了間際にもサーベルを突き立ててそのまま優勢勝ち。リーグ戦突破の可能性を残す総合3位で最終日に臨む。

メガロバイソン7    16 (05分停止) ねころけっとDOH+  10
太極師         14 (30分判定) ラプンツェル      14
マタドールGM     14 (30分判定) テータ         08
ことり2号       12 (30分判定) バラクーダ       04
トータス号       05 (17分停止) マスター・サーロイン  10
オーガイザー      10 (30分判定) アストロタコボールツー 12
聖人          15


ストライク・シリーズ十三日目 = Days 13th =

 最終日を迎えて、優勝戦進出の可能性は5チームに残されている。ここまで総合首位のメガロバイソンプロジェクトはすでに二位以上、優勝戦への進出が確定しており、その後ろをザ・ピットとほか3チームが追っていた。連邦軍技術開発部とロイヤル・ガードはメガロバイソンプロジェクトとザ・ピットによる対戦の結果待ちにはなるが、まずは目の前の相手を倒して望みを繋がなければならない。

「これは相手がマーメイドでなくてよかったな」
「塔上の姫君は人魚姫ほど我が身を耐え忍ぶ娘ではないのよ」

 闘牛士と牡牛の姿を使い分けて勝ち残ってきたマタドールGMは重量級の突進、ラプンツェルの大剣を弾き返すと強引な一撃で主導権を握ろうとする。牡牛の角を打ち付けられたラプンツェルは押されながらも至近距離を離れず、再び振り下ろした大剣でマタドールの装甲に亀裂を穿つ。軽量機でも高機動機でも重装甲機でもないラプンツェルは、弱点がないのが最大の強みであり、牡牛の正面から剣を打ちつける様は姫君よりも魔女を倒した王子を思わせながら、この場面ではあろうことかマタドールを剣技で圧倒してみせた。

「あらあら牛さん逃げないで、もちろん逃がしはしないけどな!」

 牡牛の角をチェインシューターで捕まえると機体を振り回すように相対位置をコントロールしながら狙撃、分厚い装甲に突き立てられる刃が一本、二本と増えていく様はどちらが牡牛でどちらが闘牛士か分からない。ペースを握るつもりが完全に制されてしまったマタドールもレッドフラッグ・カモンで相手を引き寄せるがサーベルと大剣の打ち合いで押されてしまい、そのまま装甲を突き破られて機動停止、これでラプンツェルが優勝決定戦進出に望みを繋ぐ。
 続いてザ・ピットの登場、勝てば自力によるリーグ突破が決まる聖人はねころけっとDOH+と対戦。あまりにも薄い装甲のせいで交通事故に弱い印象があるねころけっとだが、実際にはなぜかトータス号と相性が悪いだけでむしろ聖人にとっては苦手な機体ですらあった。ありていにいえば聖人には「ねこ対策」がとられていないのである。

「手順九十九番、完了しました。戦闘開始します」

 フランシスの無機質な声に続き、聖人の大型スラスター部から受難が一斉放出されるがねころけっとはこれをごく当たり前に避けてみせるとれっどまるちぽーで迎撃する。続けてまるちぽーが命中、破壊力は小さく聖人の装甲をわずかしか削ることができないがそれはそれで緊急システムの起動が遅れることになる。対SPT戦の理想は相手にわずかな手傷を負わせて判定で逃げ切ることであり、ねころけっとが聖人の装甲を削りきることはもともと難しかった。

「愚かな娘が、身の程をわきまえんか」

 聖人の弱点を理解しているウォルフガング卿がモニタを見ながら呟く。聖人には最初から防御プログラムが投入されておらず、それで緊急システムの起動を早めるつもりでいるがパイロットがなまじ健闘すればそれだけヨハンナの登場が遅れるし機体の性能低下も避けられない。フランシスは献身的でねころけっとを相手に優勢に動くことすらあるが、卿に言わせれば無意味な健闘だった。10分を過ぎて失速するとそのまま膠着、空を切る砲火が時間だけを浪費させてようやくヨハンナが投入されたのは残り5分、システムが切り替わった一瞬にまるちぽーを撃ち込まれるとそのまま逃げ切られて聖人は最後の最後でリーグ戦から脱落、ラプンツェルの優勝決定戦進出が決まる。
 残る一戦、リーグ最終戦はメガロバイソン7と太極師の一騎打ちで、バイソン7が勝てばそのまま首位でリーグ突破が決まるが太極師が勝った場合は3チームが勝ち星で並ぶことになる。バイソン7には前大会の決勝で勝利、今大会でも前日にラプンツェルを撃破している太極師であれば、ここで勝てば連覇に向けて大きく前進するだろうことは疑いない。一方でメガロバイソンプロジェクトは結果の如何に関わらずリーグ突破が決まってはいたが、ここで相手を勢いに乗せる必要もなければ苦手をつくるつもりも毛頭なかった。

「彼らは前回のスタイルそのままで来るハズです。砲戦を嫌って接近戦を試みる、短期決戦を嫌って長期戦を狙う、それが彼らの方針ですが、ではそれに対抗するワタシたちはどうすべきでしょうか?」

「何も考えずに撃ちまくれ、だね」
「Exactly(そのとおりでございます)」

 それは戦術や作戦の確認ではなく、すでに人事を尽くした者が本番を前にしたセルフコントロールの一環である。俺は誰よりも強い、誰にも負けない、なぜならば俺は強いからだ。そう言い切ることができる人間こそ本番でストロングなパフォーマンスを発揮できるので、むつかしい根拠や理屈は大会が終わってから考えればいい。もともとメガロバイソン7は相手を蜂の巣にする勢いでひたすら砲撃する機体であり、ストロング・ポイントが明確だからそれで押し切る以外の選択肢を持っていない。ならば彼らにとって迷いとは自分に枷をはめることで、相手の思惑など知ったこっちゃなく自分を貫いたときに最大の力を見せることができるのだ。
 双方が互いのスタイルに従ってメガロバイソン7は遠距離を、太極師は近接格闘戦を狙う。最初にばらまかれたムラクモオロチ改は気が急きすぎたのか命中せず、急速接近する太極師がデュアルバルカンの弾幕をかいくぐって懐に飛び込んだ。硬気功とハンディバルカンが相打ち、どちらも一歩も退かずにもう一度、更にもう一度と三度続けて至近距離からの接近短打と弾幕が正面から命中すると互いに拮抗するがわずかにバイソン7が押されている。

「何も考えずに撃ちまくる!」
「ハニカム!ハァニカァァァァンム!(蜂の巣にしてやんな)」

 多少のスラングなど愛嬌のうちですとばかり、至近距離からハンディバルカンを撃ちこむとそのまま後退してデュアルバルカンをブッ放す(スラングで)。これで膠着状態を打破、離れて一斉砲撃に持ち込むことができれば完全にバイソンのペースになるが、太極師も相手の思惑には乗らずに再接近すると全身に弾幕を浴びながら硬気功、平然と被弾しながらもう一度硬気功を打ち込んだ。近接格闘戦は彼らの距離であり、たとえ相手に優位をとられても必ず挽回できるつもりでいる。
 一方で格闘戦でも至近距離から弾頭を撃ち込むのがバイソン7のスタイルだが、太極師はそれを承知で弾幕を相手にして格闘戦を敢行する。銃口から延びる直線を空間に想定すると身をひねりながら接近、ハンディバルカンを避けながら硬気功を打ち込んでみせた。この離れ業で再び形成を逆転、互いに装甲強度の限界が近い状態で12分が経過。ここまでバイソン7はほとんど自分の距離を取れていない。

「ハニカァァァァム!(蜂の巣にしてやんよ)」

 不利を承知でひたすら撃ちまくるを選択したゲルフに呼応して、至近距離でありえない数のポインターがロックオンされるとハンディバルカンでの「狙撃」が行われる。会心の当て身で格闘戦を制した筈の太極師も、まさかそれで相手が更なる攻勢に出るとは思わず後手を踏んでしまう。新人オペレータの秋蘭に、天才ジアニ・メージのオペレーションを求めるのは無理があり、戒めるならば勝負の最中に勝利を確信した慢心だった。
 襲い掛かるハンディバルカンをそれでも次々と回避してみせたのはシャル・マクニコルの面目躍如だが、散発的に命中した弾頭に装甲を削られると無念の機動停止。リーグ突破を目前にして足をすくわれた太極師が脱落し、これで優勝決定戦はメガロバイソン7とラプンツェルによる一騎打ちとなる。

メガロバイソン7    18 (19分停止) 太極師         14
ラプンツェル      16 (20分停止) マタドールGM     14
ことり2号       14 (13分停止) テータ         08
マスター・サーロイン  12 (22分停止) アストロタコボールツー 12
ねころけっとDOH+  12 (30分判定) 聖人          15
トータス号       07 (14分停止) オーガイザー      10
バラクーダ       04


STRIKE SIRIES VII ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = メガロバイソン7vsラプンツェル

photo photo  前大会に続いて優勝決定戦への進出を決めたメガロバイソンプロジェクト。相手のロイヤルガードはリーグ戦でも直接対決で撃破した相手であり、得意の短期決戦に持ち込むことができれば相性も決して悪くない。だが間違っても侮れる相手ではない、というのは単なる戒めや精神論ではなくオペレータのジアニ・メージが珍しく「とにかく撃て」以外のアドバイスをゲルフ・ドックに伝えたことからも明らかだった。

「重要なのは当てることではありません!当て続けることです、よろしいですか?」
「了解!」

 距離を選ばず圧倒できるバイソンなら、距離確保を主眼に置くロイヤルガードに対して不利を強いられることはないように思える。それは事実ではあったが同時にロイヤルガードが狙う中間距離から彼らが逃れることもほぼ期待できないということでもあり、そしてラプンツェルは中間距離で、かつ戦況を膠着させればメガロバイソンを攻略できる性能を備えていた。そのことにメージもゲルフも気づいていたし、無論ラプンツェルを駆るロストヴァも心得ている。

「OK、アブ・アブ・アブ?今日が本番、貴方が頼りよ。宜しくね」

 パイロットの存在が際立って見えるロイヤルガードのメンバーだが、幾度もの大会で彼らの編制が変わることがないのはそれだけ全員の力量が信頼されているからだった。中間距離を主体にするバランス型の戦術、と単純に評されることの多い彼らだが実際には中間距離を活かした多彩な戦術と機体を駆使しており、その戦術と機体にオペレータとメカニックが常に対応しているからこその強豪なのだ。リーグ戦の結果は短期決戦を避けて膠着戦に持ち込めば優位に立てることを彼らに確信させている。ポイントはただ一つ、メガロバイソンの圧倒攻勢を連続して回避できるか否かだった。
 塔上から解き放たれたラプンツェルは宇宙空間に設けられたフィールド内を疾駆するが、それはバラクーダのような超加速でもなければねころけっとのような高速機動でもない。正確な予測と行動曲線だけできっちりと中間距離を確保するとチェインシューターの刃で襲いかかるが、メガロバイソン7も迷うことなくデュアルバルカンで迎撃する。続けての撃ち合いも双方が命中、単発の威力ではラプンツェルが勝っているがバイソン7のデュアルバルカンは名の通り連装砲であり、防御を捨ててスナイピングを続けるスタイルは命中精度でも勝っている。

「当て続ける!」
「ヘドブチハキナァー!」

 スラングも辞さず勢いのままに撃ちまくるバイソンが開始3分で戦況優位を確保、だがここでチェインシューターの不規則な軌跡を駆使したラプンツェルがデュアルバルカンの弾頭に空を切らせる。相手を捕捉する能力と相対座標を失わせる、条件が揃えばこの装備は唯一、相手の攻撃を避けるのではなく「当てさせなくする」ことができるのだ。
 反撃に出たラプンツェルの刃が命中、天才メージのオペレーションすら追いつかない動きで、姫君の長髪が飛び交うとチェインシューターを立て続けに命中させる。これで再び戦況を逆転するが、ロストヴァの狙いは単に相手に損害を与えることではない。

「さて無粋なお客様、お姫様の寝室へようこそ。お帰りの際は棺桶をご用意いたしますわ!」

 してやったりと言わんばかりの、嗜虐的な笑みがコクピットに浮かぶ。チェインシューターで相手の攻撃も防御も阻害しながら、オペレータがセンサーの精度を上げて完全に動きを封じていく。防御を捨ててスナイピングを続けるメガロバイソンの砲撃が命中しなくなれば、あとは射撃の的になるしかないだろう。
 この状態になればラプンツェルの目的は相手に攻撃を当てることではなく相手の攻撃を命中させないことになる。複雑極まるチェインシューターの軌跡を制御することはロストヴァにも容易ではなく一撃が外れ、二撃目も命中せず三撃目も直撃はせずにダメージ軽微、だがバイソン7のデュアルバルカンはまるで相手を捕捉することができず弾頭がむなしく空を切るばかりだった。相手を蜂の巣にする彼らのスタイルにすれば、ねころけっとのように弾をすべて避けてくる相手はいても攻撃そのものが当たらないなどありえなかった。

 オペレータ・コンソールにメージの指先が高速で叩きつけられているが、ラプンツェルに翻弄されて一つのロックオンも成功させることができずにいる。ゲルフもオペレータを信じてデュアルバルカンを撃ちまくるがただの一発すら命中せず、偶然捕捉に成功した一弾も絶妙のタイミングで回避行動に移ったラプンツェルに避けられてしまう。動揺したところにチェインシューターが直撃、心を折られても不思議はない一撃だが、シンプルだから迷わないというスタイルを頑なに貫いたバイソン7が開始13分、ようやくデュアルバルカンを命中させた。命中したのはわずか一弾、威力も小さいがこれで相対座標を捉えたメージのセンサーが回復する。

「頼んだメージ!ヘドブチハカセナ!」
「フッキング!フゥゥゥッキィィィィング!(FU○KING村で会いましょう)」

 状況は振り出しに戻っただけで損害はメガロバイソン7が不利、ならばラプンツェルは削り合いを承知で襲い掛かってくる筈であり、ゲルフとメージの選択は首尾一貫して撃ちまくることである。チェインシューターとデュアルバルカンが相打ち、続けての撃ち合いも相打ちで損害がレッド・ゾーンに突入するが一撃の破壊力ではわずかにバイソンが勝っている。迷わず撃ちまくった連装弾が二発とも命中、フォローの一弾も当たってついに逆転、ここでふざけるなとばかりラプンツェルから反撃の刃が直撃して再逆転されると機動停止寸前に追い込まれるが、それでも彼らは撃ちまくる。

「タヒにさらせエー!(しになさい)」
「タヒにィー!」

 最後の撃ち合いでチェインシューターをかわしながら撃ち込んだデュアルバルカンが命中、これでラプンツェルを沈めたメガロバイソンが再再逆転するとリーグ大会では初となる優勝の栄誉を獲得した。若い連中のコンビネーション・プレイを見守っていたメカニックのザムが苦笑しながら孫のゲルフに祝いの言葉をかける。

「あー。仲がいいのは結構だが、スラングはほどほどにな」

メガロバイソン7(21分停止2vs-5)ラプンツェル

優勝  ゲルフ・ドック      メガロバイソン7       13戦10勝  /通算84戦53勝
準優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン ラプンツェル         13戦08勝  /通算85戦52勝
3位  フランシス=ヨハンナ   聖人             12戦07勝  /通算36戦17勝
4位  ジム           マタドールGM        12戦07勝  /通算71戦42勝
4位  テムウ・ガルナ      ことり2号          12戦07勝  /通算82戦38勝
4位  シャル・マクニコル    太極師            12戦07勝  /通算83戦32勝
7位  山本いそべ        ねころけっとDOH+     12戦06勝  /通算84戦50勝
7位  神代進          アストロタコボールツー    12戦06勝  /通算83戦47勝
7位  青空星馬         マスター・サーロイン2号   12戦06勝  /通算58戦25勝
10位 無頼兄・龍波       オーガイザー         12戦05勝  /通算82戦32勝
11位 ノーティ         テータ            12戦04勝  /通算82戦43勝
12位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号          12戦03勝  /通算82戦30勝
13位 ネス・フェザード     バラクーダ          12戦02勝  /通算62戦28勝

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