logo -STRIKE SIRIES VIII-
 HDYLW。とある番組企画で「できるかな」「何でもやってみよう」とばかり結成されたチームだが、試しに参加したバーチャル世界でのストライク・バック大会で思いのほか好成績を収めることができたので、いっそ本戦にも登録してみようと勢いのままに参戦が決定してしまった。
 キレ芸に定評があると売り出し中のアイドル塩追津みひろ(しおおいず・ー)などは、それで作戦は考えてんのかよこのヒゲとばかり無責任なスタッフを問い詰めるが、プロデューサーの不治村(ふじむら)は普通に参加するだけじゃ番組として面白くないと言い放つしディレクターの熟死野(うれしの)は装備はサイコロ振って決めようとかぬかしてましてこいつら56していいよね。

「きゅーんきゅーん♪」「きゅーんきゅーん♪」
「わたーしじぶんで、パイローッ・・・じゃなくてアイドルだっつってんでしょうがぁああっ」

 こんな番組だが彼らがどこまで本気かといえばスタッフは本気で無茶振りを楽しんでいるし、みひろは本気でキレながら抗議しているが残念ながら騎士以外の発言は認められていない。

 そしてバーチャル世界であれば主催者から専用の端末ブースが届けられて半分ゲーム気分でもなんとか大会までこぎ着けることができてしまったが、本戦では本当に武器を積んだ人型汎用機が納品されて宇宙ステーションまでレールシャトルで搬送されて耐圧耐G訓練まで受けさせられてアイドルって本当に大変なのねと大わらわになりながらそれなりにパイロットとしての適性を見せてしまったのは彼女にとってはたぶん不幸でしかないだろう。
 売り出そうとしたアイドルが戦闘機のパイロットにもオモシロ適性を持っていましたというのは事務所的にも番組的にもスポンサー的にもおいしいから「そのまま行け、何度でもしくじれ」の精神であれよあれよという間にリーグ戦の出場まで決まるどころか新曲を作ってもらえる約束まで取り付けてもらえてそれはそれで悪い話ではないのだが、

「じゃあ1勝できれば新曲出すってことでひとつ」
「それって勝てなかったら」
「もちろん新曲でません」「でません」

 とりあえず彼らをグーとチョキで殴っておいて、知ってるー!こういう分かりやすいご褒美があるときって死亡フラグなんだよね!と開き直りつつもそんじゃあいっそアルバム出せるまで勝ってやんよと意気込んでみせるあたり不幸なことに彼女はたいへん真面目な性格をしてしまっているようだ。振り付けの合間にシミュレータを使った練習も欠かさず、真面目な奴は莫迦を見るんだよねとは戦闘機乗りよりもむしろ芸能界で聞かれそうな言葉である。

「新曲でたら次の企画はミンメイアタックだよね?」
「イノセントウェーブのほうがよくない?」

 などという会話をディレクターとプロデューサーが交わしていたことを彼女はまだ知らない。


ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =

 昨今、北九州漁業協同組合で投入されているアストロタコボールのシリーズは当初からそのように計画されていたのではなく、度を超したとしか思えない超人開発の成果がそこに辿り着いただけである。その日もサーキットでテスト中に事故を起こすと機動停止した機体が漁協に搬送されてくると、すでに心臓が停止していたが何を思ったのかこの機体を飛行機からパラシュートで落下させたら衝撃で再起動、ロールアウトされた機体の足の裏にはボールのマークが刻印されていたという。これが美しいアストロタコボールスリー、通称ボールの貴公子玉三郎だ。

「でも落下の衝撃でメインモニターがぜんぶ潰れたキュ」
「構わないさ」

 超能力イルカフリッパーの説明に神代進はたのもしそうに断言する。目の光を失ってもそれを補う心眼がある、具体的には漁協謹製の高性能ソナーを搭載していたからこれで相対位置の把握はできるだろう。対戦相手は連邦軍技術開発部のナデシコGM、玄人好みのファンには垂涎のGMとボールの一騎打ちである。
 遠距離戦を狙うナデシコGMはモビル座布団を展開すると花吹雪の舞を披露するが、タコボールはバット型のマニュピレータを水平に構えると襲いかかる弾頭をビリヤード打法でカットしてみせる。吊るした日本刀を振り子のようにして打ち返した特訓を思えば雑作も無い腕前を披露して、そのまま接近すると飛燕活殺円法、暗闇の宇宙空間で飛び蹴りを試みるがボールがどのように飛び蹴りを披露するのか、文章にしても難解な攻撃は残念なことにナデシコGMのビーム扇子で弾き返されてしまう。ここまでは互いに膠着、撃ち合いながら相手の装甲にはかすり傷ひとつ負わせていない。

「一試合完全燃焼するキュ!」

 フリッパーのゲキに応えるように戦況が動いたのは開始5分、タコボールがビリヤード打法で弾いた弾頭が命中するとナデシコGMも花吹雪の舞から飛び交う熱線が装甲を炙る。ボールは鋼弾と重装甲、GMはビームとシールドで互いの攻略を図るが破壊力と防御力が拮抗して双方被弾しながら更に10分が経過。

「にげることこそ一試合完全燃焼に反するからね」
「キュ!」

 ここで中距離から心眼打法に切り替えたタコボールが重い鋼弾を立て続けに命中、これで優位に立つがナデシコGMもすかさず花吹雪の舞を散らすと何本ものビームがボールの装甲を叩く。さしもの心眼、高性能ソナーも下関海峡の魚群を探知することはできても宇宙空間で襲いかかる熱線をすべて捉えるのは難度が高いと言わざるを得なかった。
 こうして一試合完全燃焼に相応しい互角の削り合い、奥の手を試みたタコボールはバラの花をくわえると鋼弾を発射する刹那にバラを飛ばして弾頭に突き刺した。取り立てて意味はないが花吹雪の舞の熱線に炙られながらも打ち出された弾頭がナデシコGMに命中するとそのまま競技フィールド外縁、スコアボードまで飛んでいって激突した電気ショックにより難敵をようやく沈黙させる。スコアボードへのレクイエムとも言うべき一撃でタコボールが勝利した。

「つまり美しい顔だけがとりえじゃあないということさ」

アストロタコボールスリー02 (17分停止) なでしこGM      00
メガロバイソン7    02 (17分停止) オーガイザー      00
聖人          02 (11分停止) スペースキセキレイ   00
ねころけっとMTA鶺鴒 02 (30分判定) DiceTravelerVer福助 00
バラクーダ       02 (30分判定) テータ         00
吉祥天女        02 (30分判定) 太極師         00


ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =

 テムウ・ガルナがイハラ技研のパイロットをさせられていることには理由がある。彼がスウェットが似合う毛ボコリのような青年だということ、どんなコクピットに押し込んでもがまんしてくれること、最近Amaz○nで腰痛ベルトを購入したことなどもそうした理由の一つだが、普通の感覚では見ることができないAIを感覚で視認できるらしい能力もその一つである。

「腰痛(*≧∀≦)ノ彡☆バンバン」
「いいよ、笑えよ」

 だからこのようなやり取りも彼の目には見えているようだが、EDシステムにさんざん莫迦にされた後でフォローするようにHFシステムからようかんが届いてむせび泣いていたのは秘密である。ちなみにどのくらい泣いていたかといえば漁船に拾われたバーン・バニングスくらいだろうか。
 それはそれとして今回もEDシステムが自ら設計、デザインしてくれたことり型フレームの自信作スペースキセキレイで出撃。対戦相手のテータは長期戦に無類の粘り強さを誇る機体だが、キセキレイであるからには尾羽がゆっくり上下に動く動作も再現されている。開始早々にヘビーボム(16t)を頭上から落として先制するが、テータがデルタアタックを展開すると後手を踏まされて慌てて自律式ユニットを起動、ことり挟撃陣を敷く。

「右がハクセキレイ、左がセグロセキレイなρ(・д・*)」
「ご教授どうも」

 こんなオペレータAIの指示に従えるのもテムウならではで、たびたびデルタアタックに押されて包囲されそうになりながらもことり挟撃陣で挟み返せないかと試行錯誤を繰り返す。碁石を打ち合うかのような頭脳戦と思えば正直感性で生きているテムウの得意な分野とは言い難いが、そこはコンピュータの端くれであるAI野郎が何とかしやがれと全幅の信頼を寄せていた。

「なに?それがヒトにお願いする態度?┐(´-`)┌」

 誰がヒトだコノヤロウと手袋を投げ付けてやりたくなるが、ぐっとこらえるとことり挟撃陣の展開をオペレータに一任するモードに切り替える。EDシステムによる誘導は意外に正確かつ堅実で、出力の小さい砲撃を確実に命中させるとそれまでの不利を少しずつ埋めていって開始20分には遂に戦況を逆転してしまう。
 このままではパイロットの立つ瀬がないと考えたかどうかは分からないが、ことり挟撃陣を厳しくしてとどめを刺しにかかったところにテータの反撃を受けてこれが直撃、せっかく優位に立った戦況を五分に戻されてしまう。それでもEDシステムは左右に展開することりを自在に操ると再び挟撃陣を完成して、左右から砲撃を交互に打ち込むとテータの装甲を削り切って時間切れ間際に機動停止に成功した。

「はい、ありがとうは?o(・д・。)」
「あんがとよ」

吉祥天女        04 (30分判定) バラクーダ       02
メガロバイソン7    04 (09分停止) DiceTravelerVer福助 00
アストロタコボールスリー04 (19分停止) 太極師         00
聖人          04 (26分停止) なでしこGM      00
オーガイザー      02 (30分判定) ねころけっとMTA鶺鴒 02
スペースキセキレイ   02 (28分停止) テータ         00


ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =

 ハンガーに吊るされているナデシコGMの機体を見て、いったい連邦軍技術開発部は何を考えているのだろうかとジムは思う。両腕には振り袖型のユニット、ビーム番傘を差してビーム扇子を手にビーム帯を垂らしている姿は一見して撫子というよりも花魁をベースにした機体であることが分かる。自分の機体を照らすためのスポットライトまで装備されているのは単に的になるだけではないかと思いつつ、まあG計画も囮計画だしなーとか考えるが一番の問題は、

「こんな機体を用意するならパイロットもいっそ美少女にしようよ!」

 そう思う彼はしょせんジムとしか呼びようのないもっさりした青年士官である。とはいえ正直なところ機体そのものは癖があって扱いやすいとは言えず、自分のように何でも乗れるパイロットが向いているんだろうと考えてしまうのも懐の深さでは大会屈指と呼ばれる彼ならではだろう。
 相手は前大会優勝機のメガロバイソン7。言わずと知れた超攻撃機を相手にしてナデシコGMはファンネル仕様のモビル座布団を展開して迎撃の構えを取る。降り注ぐムラクモオロチの雨をかいくぐりながらモビル座布団と連携してビームフィールドを発生、これで相手のエネルギー兵器を打ち返してみせるのがナデシコGMのコンセプトである。

「機体はすげーけど、パイロットの性能はそんなに高くないから」

 これは謙遜ではなく機体とパイロットの相性を嘆いた言葉のつもりだが、元来は質実な腕前を持っているジムはこの機体で舞うように動くと完璧にはほど遠いビーム反射をバイソン7に打ち込みつつ、反応が遅れた弾頭は振り袖部のシールドでしっかり弾いてみせる。弾きながら盾の隙き間から狙撃、損害を与える技術も機体のコンセプトからは外れているがこれがあるから開発部も安心して無茶な機体を彼に押しつけることができた。つまり因果応報ということだ。
 メガロバイソン7は相手のコンセプトを考慮せず自己のパフォーマンスを最大に高めて正面から相手を圧倒する、これを迎撃するナデシコGMは最初から防御を捨てている相手に遠慮のない砲撃を打ち返すと、華麗に舞いながら地味な狙撃を忘れない。花吹雪の舞と称する迎撃システムだからこそバイソン7に拮抗するが、ジムだからこそ完璧ではないシステムをフォローすることができる。

「追加指示、試合数分だけ用意した外装を毎回換装して披露することだって?あーはいはい!」

 それでもやってみせるのが宮仕えの辛いところだとぼやきながら、派手な砲撃を回避しつつ花吹雪の舞を披露、展開された反射エネルギーにスポットライトを被せる様は趣味的に過ぎるが楽しくはあった。打ち込まれた高エネルギーと反射エネルギーが乱舞するショーは長くは続かず、確実な狙撃で優位を保ったナデシコGMが最後の撃ち合いを同時に被弾するとわずかな損害差で判定勝利。機動停止していたためビーム帯をなびかせての華麗な勝利の舞いを披露することができず、装甲も派手に破られていたがどうせ次の試合には換装されるんだしもっさりした彼がそんなものを見せても誰も喜ばないだろうからこれこそジムにとっては会心の勝利というべきだったかもしれない。

「いやー、残念だよね!本当は勝利の舞いとか色々見せたかったんだけどさ」

アストロタコボールスリー06 (11分停止) 吉祥天女        04
聖人          06 (16分判定) テータ         00
オーガイザー      04 (30分判定) スペースキセキレイ   02
ねころけっとMTA鶺鴒 04 (30分判定) バラクーダ       02
なでしこGM      02 (07分判定) メガロバイソン7    04
DiceTravelerVer福助 02 (30分判定) 太極師         00


ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =

 そういえばエターナル俺は社長で女子高生だった山本いそべも気がつけば大学生になっていて、つまりTeamKKに本人も今更のように加わることができた。大学生活=24時間フレーム開発に携わる一方で、部室にあるFS−A1を起動してスペースマンボウをやり込む余裕はあるが華の女子大生としては浮いた話の一つもある訳ではない。

「社長!またこんなに部屋散らかして!」
「社長!そんなはしたない恰好で部屋を歩かんでください!」

 あさのときしだら学生メンバーはもちろん、最近では近くの町工場のおっちゃんたちも協力するようになってそろそろ地場産業ぽく雇用と技術を創出していないかしらんと思われる。機体はクスノテック試作型鶺鴒、超小型軽量フレームに可変ギミックを詰め込んだ三段変形する意欲作だが、ミリ単位の設計に苦労して大会当日のロールアウトになったのもいつものことだった。対戦相手はいそべ曰くエターナルOBA、ロストばーさん搭乗の吉祥天女である。

「殺すわよ?」

 相変わらず互いに相性が悪いのは両者の性格ではなく戦術が原因である。飛び交う蓮華散花を避けながらねこのしっぽを振り回して有線ジャミングを試みるがこれも回避されてしまう。妹が再設計して処理能力を向上させたオペレータAIのNii/FXが機体挙動を制御、人型からバランス重視の四つ足モードに移行して距離が離れると更に飛行型の空飛ぶぬこスタイルに変形する、そろそろパイロットいらずと思わせる性能だがいざ模擬戦をすれば所詮コンピュータはゲーマーに勝てないのが世の常である。
 距離が離れると同時にマグロケットを射出、弾速以上に判断の早さで相手を捕捉するとこれを命中させて、ダメージこそわずかだが先制攻撃に成功する。開始わずか2分で猫の毛一本分でも優位に立てばそのまま逃げ切る、それが彼らの戦術だが相手もそれを承知した上で超高速機動の猫を掴まえようとする。

「セブンフォースがかっこいいから作ったんじゃないぞ!かっこいいからなんだからね!」

 正面投影面積が下がる飛行形態で更に加速、機動用エネルギーをフォースフィールドにぶつけて空間を蹴る、ふぉーすダンパーで方向転換しながら隙あらばねこのしっぽで攪乱し、機体にも光学ステルス効果を施す念の入り用で完璧な回避を図る。ここまでやっても100%があり得ないのは対人戦闘ならではだが、そんなことよりも時間が経てばお肌が追い詰められるのはOBAさんの方だ。

「殺すわよ!」

 おお怖い怖いと心中では本当に怖がりながら外見にはおくびにも出さず、互いの攻撃を完璧に避け合うが残り5分で放たれた吉祥宝珠が命中、だが同時着弾したマグロケットも命中すると初手の優位を維持したまま最後まで逃げ切り、ねころけっとが薄氷の勝利を手に入れた。無論、彼らTeamKKにとって薄氷の勝利とは完勝と同じ意味を持っている。

「タンクモード?あれはいらない。オーガスタンクみたいになるだろー!」

アストロタコボールスリー08 (10分停止) オーガイザー      04
聖人          08 (09分停止) メガロバイソン7    04
ねころけっとMTA鶺鴒 06 (30分判定) 吉祥天女        04
スペースキセキレイ   04 (30分判定) なでしこGM      02
バラクーダ       04 (30分判定) 太極師         00
DiceTravelerVer福助 04 (30分判定) テータ         00


ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =

 コミューン陣営を支えているのは精密極まるオペレータとメカニックにあると言われていて、パイロットのノーティが自らそれを認めている。だが実践で彼らの腕を活かせるのがノーティであることにも誰も異論がない。メカニックのハイナーなどは自分のような品行方正な人間は同僚にもそれなりの品位を要求してしまうものだとうそぶいている。

「何しろ女の尻ばかり追いかける輩に機体をいじられては不安だろうからな」
「同僚の不安をよく理解しているようで結構だ」

 大会屈指の女たらしで知られるハイナーに呆れているのはシータだが、生真面目すぎる彼女をハイナーがからかっている側面があるらしいことはノーティも理解していた。実際にハイナーの整備にはミクロン単位の誤差も生じたことがないし、シータのオペレートは宇宙空間でセンチメートル単位の正確さを見せつける。
 戦況が膠着するほど力を発揮する、それが彼らへの評価だが同時に爆発力のある相手には遅れをとることが多いことを意味してもいて、今大会でもここまで勝ち星を得ることができずにいる。だが爆発力に欠けて戦況を膠着させることを前提にする、例えばTeamKKのねころけっとなどにすれば鬼門とも言える相手だった。

「そうだな、年齢はあと一歩だが胸と尻はまだ大いに足りていない」
「不要な通信は切れ!情報を送るぞ!」

 回線の向こうでこめかみに青筋を浮かべているシータの姿が想像できるが、ここからは彼女の指示が生命線になるのだから言われた通りにメカニックとの通信を制限する。ハイナーもそれを承知で遊んでいる筈で、後は酒でも飲みながら観戦に徹することだろう。
 超高速で機動、宇宙空間とは思えない鋭角的な方向転換を繰り返しながらセンサーの圏外を飛び回るねころけっとをどうやって捕捉するか。オペレータが予測する行動曲線から最善と思われるパターンを瞬時に選択して、それを正確に辿りながら的確な情報をオペレータに提供するのがノーティの役割である。計算を実践に完璧に落とし込むことさえできればチェスの一手のようにシータが好機を導いてくれるだろう。

「三手、二手、一手・・・捉えた!」

 まるでプログラムされた軌跡を再現するかのように、センサーを動かした先に先に出現したねころけっとを狙ってデルタアタックの砲火を集束させる。相手がマグロケットを撃ち放った瞬間に命中すると、こちらも被弾するがそれを承知で相撃ちになれば装甲の薄いねころけっとには優位に立てるだろう。それが最善ならば相打ちも辞さない、辛辣な戦術を平然と選択する冷徹さはこのコンビならではである。
 開始15分の相打ちで優位な状況を得ると再び膠着、ここからセンサー捕捉に専念すると残り7分から一気に仕掛けてデルタアタックを連続で命中させる。三体の攻勢ユニットを合えて集中させて使用して火力を得ると、装甲の薄いねころけっとを圧倒してそのまま逃げ切り。今大会待望の初勝利だが、内容は完璧に近い一戦。

「いや、よく働いた後は酒がうまい」

聖人          10 (09分停止) 太極師         00
メガロバイソン7    06 (05分停止) アストロタコボールスリー08
吉祥天女        06 (30分判定) スペースキセキレイ   04
バラクーダ       06 (30分判定) DiceTravelerVer福助 04
オーガイザー      06 (30分判定) なでしこGM      02
テータ         02 (30分判定) ねころけっとMTA鶺鴒 06


ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =

 前大会優勝したゲルフ・ドックとメガロバイソン7だが、今大会ではここまで三勝二敗と波に乗り切れず混戦に巻き込まれる中で上位を窺う状況となっている。破れて勝ち負けの星が並べば一歩後退は避けられず、ここは是が非でも勝利しておきたい。幸い対戦相手のテータは膠着戦では無類の強さを見せるが攻撃力勝負の短期決戦には脆い。つまり彼らが彼ららしい力を発揮できれば充分に勝利を望むことができる。

「前進、力戦、敢闘、 奮励!」
「忌避されるべきは卑怯、消極、逡巡!」

 よくできた、さあ行けとばかり通信機をたたきつけるが別に黒色槍騎士団ではなくそのときの気分で勢いがつけばそれでいいのである。わずかでも迷って判断と反応が遅れるくらいなら、下手なメガ粒子砲を数撃って当ててしまえというのがゲルフのスタイルだった。もちろんあくまでゲルフのスタイルだからオペレータのメージは彼を煽っているだけで彼女自身がそんな性格をしているわけではたぶんきっとすでにちょっとない。

「ヒャホハァー!37564ぃー」

 だからスラングはほどほどにしとけよと嗜める声もどこ吹く風とばかり、展開されつつあるシータの反射ユニットにも構わずムラクモオロチ改二の全砲門を開いてエネルギータンクが空になるほど光の竜を解き放った。集束する光条を反射板で受け止めるとそれを更に集束させて位相反撃を試みる、集束式デルタアタックの砲火がバイソン7を貫くがそれを放つために受け止めたエネルギーの質量が膨大にすぎて全システムの処理能力が麻痺するほどの奔流が荒れ狂う。パニックは双方の機体に平等に訪れると続くムラクモオロチの砲火はすべて明後日の方向へ飛んで行き、テータのデルタアタックは互いの相対位置すら見失って迷子になる。
 あり得ない状況からすぐに立ち直ったのはバイソン7だが、彼らにすれば立ち直ったというよりも最初から何も気にせず37564にしようというだけのことである。相対位置をセンサーで捉える、相手のセンサーを振り切る、少しでも優位な状況を構築して確実に勝てる要素を増やす。

「そんなメンドクセーことやってらんねー!」
「フッキング!フゥーッキィィィィィング!(ここはFU○KING村だよ)」

 こんなことを言いながらムラクモオロチのセンサーを全弾ロックオンしてみせるのが天才ジアニ・メージであり迷わず最大出力で撃ち放つのがゲルフのスナイプである。初撃の攻防を再現するようにテータの集束式デルタアタックの直撃を受けながら、まったく怯む様子もなく光の竜が暴れ狂うとエネルギーの奔流が競技用フィールドを満たして互いの機体を翻弄する。このわずか3分、二度の攻防でメガロバイソン7は装甲がきしみを上げるほどの損害を負っていたが、テータの装甲は耐え切れずに完全に機動停止するとエネルギーに流された機体がフィールド外縁部にごつりと当たり、その様子がモニタスクリーンに映し出されたところで戦闘終了の合図が灯された。

「アーイ・ウィィィィィィィン」

バラクーダ       08 (30分判定) 聖人          10
ねころけっとMTA鶺鴒 08 (30分判定) アストロタコボールスリー08
吉祥天女        08 (30分判定) なでしこGM      02
メガロバイソン7    08 (03分停止) テータ         02
DiceTravelerVer福助 06 (30分判定) スペースキセキレイ   04
太極師         02 (27分停止) オーガイザー      06


ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =

 大会の日程はすでに後半戦に突入している。ザ・ピットは前大会でパイロットを更迭、後任となるフランシスと専用機の「聖人」を投入して好成績を収めると、今大会でもここまで首位を保っている。ウォルフガング卿としてはまず満足すべき状況に思われているが、彼の目的が大会で好成績を収めることにあるのか、直結型AIの実用化にあるのかは誰にも分からなかった。

「手順三十八番。完了しました」
「宜しい。フランシス=ヨハンナ、システムを接続したまえ」

 出撃ごとに一言も違わず繰り返される言葉に、マニュアル通りの指示を与えるとシステム起動作業が実行される。前パイロットは能力は優秀だったが器としては不適格で、AIと自我が衝突を起こすとすぐに壊れてしまっていた。フランシスは予め自我を破壊することでAIを受け入れる領域を確保させていたから、ヨハンナに自由に振る舞わせることができるだけではなく彼女自身にも優れた処理能力を書き加えることが可能となっている。
 今日はよいデータが取れそうだと、卿が眺めているモニタには通常のメカニックブースとは異なる数値や情報が事細かに表示されていて、戦況を映す映像は隅に追いやられている有り様だった。この日の対戦相手はTeamKK、人工知能に勝る判断能力と反射速度を持つゲーマーと呼ばれる人種が操縦する機体である。フランシス=ヨハンナに適用されているAIがそれに対抗できるか、ウォルフガング卿の興味はそこにあった。

「手順九十九番、完了しました。戦闘開始します」

 カタパルトから射出される聖人だが開始早々にねこのしっぽに捕捉されると被弾、これで掴まえられたところで二本目の尾から追撃を受けるとマグロケットまで着弾させられる。ねころけっとには願ったりの状況で、ここからSPT機で逆転を図るならいっそ被弾し続けて緊急システムを作動させるしかない。だが聖人は加速しながら接近すると機械のように正確な攻撃を繰り返すだけで、ねころけっとに乗るいそべには8bit時代のゲームよりも単調に思えてしまう。
 大型スラスターで加速して接近、吊られた人型のマニュピレータが救済の剣を一振りする。これを繰り返すだけだが斬撃は精密で緊急システムが起動していなくても威力は充分に高い。はたして開始10分、ねころけっとの機体制御プログラムにわずかな誤差が出たところに合わせて、機械よりも正確な熱線が右手と左手から放たれると十字を切る。Nii/FXの処理能力よりも安定した動きを聖人のパイロットは実現することができた。

「フランシスはよくやっておるな」

 卿が満足そうに頷いている間にも、聖人は救済の一撃をかすらせてすでに戦況を覆している。ねころけっとも危険を承知でマグロケットを命中させると反撃を図るが攻撃力が足りずにそのままタイムアップ。緊急システムを使わずに直結式AIも起動されないままだったが、AI以上に人工知能めいたパイロットは表情ひとつ変えずに帰還するとマニュアル通りのシステム回収作業を実行する。シャットダウンと同時にフランシス=ヨハンナの接続が切断されて、コクピットモニタから表示が消えるとパイロットの瞳孔からも光が失われてそのまま自我が停止した。

聖人          12 (30分判定) ねころけっとMTA鶺鴒 08
メガロバイソン7    10 (04分停止) 吉祥天女        08
バラクーダ       10 (30分判定) スペースキセキレイ   04
DiceTravelerVer福助 08 (30分判定) アストロタコボールスリー08
オーガイザー      08 (30分判定) テータ         02
太極師         04 (30分判定) なでしこGM      02


ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =

 無頼兄・龍波とチーム龍波はこれまでリーグ戦では決して好成績を残しているとは言い難いが、今大会ではここまで善戦して中位に着けているしまだ上位を窺える位置にもいる。機械仕掛けの巨人が至近距離で格闘をするのが男のロマンだと信じて疑わない彼がつい自分に縛りをいれてしまうので、メカニックで姉の紅刃がこっそり装備しておいた中間距離用兵装の飛燕鞭がわりといい感じで機能しているのもあったかもしれない。無頼兄の売りはあくまで近接格闘戦でのタフな殴り合いにある、それはそれでいいのだが対戦相手はそれになかなか付き合ってはくれないのだから誰かがフォローをしてあげなければならなかった。これが優しい姉心というものである。

「だから期待に背いたら火あぶりですえ?」
「すんません勘弁してください」

 そのようなやり取りは忘れることにして、優勝戦進出の可能性を残すためにも一つずつ勝っていくしかない。対戦相手のバラクーダは直接対決で落とさなければならない上位陣の一角で、超加速の雷撃機だが裏を返せば至近距離ですれ違う瞬間に格闘戦を挑むことができる相手であり、無頼兄が男を試すには願ったりの相手である。この場合、それなら中距離でも捕まえればいいではないかという姉の言葉は彼の耳には届かないのであとで火あぶりにされてしまう。

「中距離でも捕まえればいいのではないか?」
「拳と拳で語り合うのがレッツ・マン・バトルってもんだぜ!」

 AI鬼刃にまで嗜められるが、今回のオーガイザーの兵装は拳ではなく男の剣ガイ・スゥオーードである。唇をすぼめるように発音するのがコツだが魂さえ込めていれば細かいことは気にしない。

「ガイ・スゥオーード!」

 せっかく中間距離から開始したのだが、姉が用意した飛燕鞭は忘れて接近すると男の剣を抜いて前進する。急加速して接近するバラクーダに大振りの一撃を見舞うと豪快に空振りするが、そのままの勢いで一回転してもう一度振り回した一撃が今度は直撃する。軽量のバラクーダの薄い装甲を完璧に捉えた斬撃が火花を散らし、勢いづいて大剣を振り回すもさすがに命中はしないがこれで初手から優位に立つことに成功する。
 その後も超高速で急襲を続けるバラクーダに迎撃を試みる展開がしばらく続くが互いに命中せず、だが開始14分にアクセルバイトの初撃が命中するとこれで相対座標を掴んだバラクーダの連続攻撃が開始される。攻撃しては離脱、再接近して攻撃を時空移動をしながら行いセンサーでも人間の反応速度でも捉えることができないのがバラクーダの雷撃戦である。一撃の威力こそ小さいが連続しての攻撃がオーガイザーの全身を咬み裂いて魂鋼の装甲を刻んでいく。

「男の装甲!魂鋼はこの程度では屈しないぜ!」

 無頼兄の叫びが無機質の装甲に聞こえた訳ではあるまいが、信頼に応えた魂鋼が耐えているうちに思いきり振り回したガイ・スゥオーードが連続命中。これで一気に逆転したオーガイザーが優勝戦線に踏み留まる貴重な勝利を獲得した。

聖人          14 (06分停止) アストロタコボールスリー08
メガロバイソン7    12 (02分停止) スペースキセキレイ   04
オーガイザー      10 (27分停止) バラクーダ       10
DiceTravelerVer福助 09 (30分引分) なでしこGM      03
太極師         06 (30分判定) ねころけっとMTA鶺鴒 08
テータ         04 (27分停止) 吉祥天女        08


ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =

 今大会、スタートダッシュに失敗したチームRONは五日目まで連敗した後に三連勝をしているが、わずかでも優勝戦進出の可能性を残すならすべて勝利した上で上位陣が星を落とすことを期待するしかない。ここまでチームPITが独走している状況で前日にはバラクーダが星を落としたこともあり、2位のメガロバイソンプロジェクトに土をつけることができれば混戦に引きずり込むことができるだろう。

「難しく考えても仕方がないな。苦手な相手だろうが勝つしかない、それだけだ」
「はい!シャル、さん」

 経験の浅い夏秋蘭を緊張させる必要もなく、コクピットで深く息をするとシャルは操縦桿を握り締める。自分で宣言した通り、メガロバイソン7は決して相性のよい相手ではないが長期戦かつ格闘戦に持ち込めば太極師の性能ならば拮抗することは不可能ではない。無論、彼らを相手にして長期戦に持ち込むことが難しいのは承知の上だ。
 開始と同時に格闘戦を挑む太極師だが、バイソン7は得意の遠距離でなくとも遠慮することはなくハンディバルカンを斉射する。これを連続で被弾するが構わず硬気功、この距離であれば優位に立てるとばかり続けて体当たり気味の拳を直撃させて機体ごと弾き飛ばした。

「シャル、さん!下がられます、気をつけて!」

 オペレータの指示に回避行動をとるが、中間距離に下がって放たれたデュアルバルカンを二発とも被弾。更に後退したバイソン7がムラクモオロチを放ったが、移動攻撃で狙撃が甘くなったところで百歩神拳での撃ち合いに出てこれを再び直撃させる。
 遠距離砲戦で主導権を奪いたいメガロバイソン7は更にムラクモオロチを移動攻撃、太極師も百歩神拳で迎撃して容易にペースを握らせない。ここから再び距離を詰めるとデュアルバルカンを被弾しながら格闘戦に移行、バイソン7を相手に削られるのは承知の上で接近戦を図るのがシャルの作戦である。

「縮地座標出ました!同時攻撃行けます」
「有り難う!」

 能力さえ発揮すれば秋蘭のオペレーションは局面を問わず太極師の助けになる。優位な格闘戦ならば相打ちを承知で積極攻勢、これが嵌って三たびの硬気功がまたも直撃するとバイソン7を追い詰める。だが太極師が受けたダメージも蓄積して戦況は安泰にほど遠く、バイソン7のデュアルバルカンを受けた状況は「不利ではない」といったところだろう。

「縮地攻撃!もう一度行けます!」

 スタイルを変えず近接距離の確保と積極的な格闘戦、最後の攻防で硬気功を直撃させた太極師がメガロバイソン7を相手の攻撃力勝負を押し切って貴重な勝利を獲得。連勝を維持して一縷の望みに賭ける。

DiceTravelerVer福助 11 (30分判定) 聖人          14
アストロタコボールスリー10 (13分停止) バラクーダ       10
吉祥天女        10 (30分判定) オーガイザー      10
ねころけっとMTA鶺鴒 10 (27分停止) スペースキセキレイ   04
太極師         08 (14分停止) メガロバイソン7    12
テータ         06 (25分停止) なでしこGM      03


ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =

 一勝できたら新曲出すよ、そう言われた塩追津みひろだがここまでリーグ戦5勝3敗1分と健闘どころか充分好成績を残している。もしかしてあと一勝したらハーフアルバムくらい出せる!?どころか残り2試合とも勝ったら優勝戦進出とか見えてくるんじゃないかしらんとかそしたらスペースマイケルジャクソンみたいに歌って踊れるアイドルにだってなれるかもしれないきゃあどうしよう。

「じゃあ優勝戦出れたらアルバム出すよ!スポンサーだって文句言わんでしょ」
「やたー!」

 不治村Pが力強く請け負ってくれるがつまり優勝戦出れなかったら出さないよという意味に取れなくもないがみひろは気付いていないようだ。とはいえスポンサー様がその気になってくれるためにも、俄然注目度が上がるだろう残り2試合を勝って好きな食べ物はオールレーズン、などですとかインタビューで答えなければならない。
 なにしろ自分たちでも信じられないくらいの善戦である。どうせまぐれに過ぎないでしょとか思って相手がナメてくれたら足をすくえるかもしれないではないか。いざとなったらこんなかわいこちゃん(自称)パイロットに手心を加えてくれたらありがたいなーとかうちの番組知ってるよね空気読めよ?とか揺さぶる手だって使えるかもしれない。実力以外にヒレツな手を思いついてしまうのは愛嬌だが、バーチャル戦でのネスさんみたいに優しい人だったらいいなーと思う。

「宜しくね」
「はい、お手柔らかにオネガイシマス・・・」

 よりにもよって女王とか呼ばれてるロストバさんが相手だよ手なんか抜いてくれねーよとげんなりするが、それはそれで開き直るしかない。腕に自信はないから動くのと避けるのに専念して当たればもうけ、それが彼女の戦法だがおかげで大崩れせずにここまでの戦績を残していた。
 中間距離なら多弾頭兵器のバスターフォースで数撃って当てるが狙えるかも。そう思って前進するが吉祥天女は思った距離なんか取らせてもらえずあっさり遠距離に離れられてしまう。右と左に浮いている宝珠が嫌だなーと思いながらミサイルを撃つがなかなか当たらず、とはいえ向こうの攻撃も命中しないので思ったよりもプレッシャーは感じない。行けるかもと思った矢先、相打ち気味だがミサイルを命中させてなんか優位に立ってしまうと嘘!もしかして私すげーかもとか思うがきっかり5分後に吉祥宝珠からの砲撃を受けて戦況を五分に戻されてしまう。

「ですよねー」

 めげずに撃ち合い、やはり互いに命中せずにプレッシャーを感じない攻防が10分ほど続いてようやく気付く。動くのと避けるのに専念して当たればもうけ、ロストバさんも同じ戦法とってるんだ!と思った次の瞬間にセーリングミサイルと吉祥宝珠の砲火が相打ち、残り5分で損害は双方互角という状況。
 残り時間もわずかでここまでどちらの攻撃もほとんど当たらず、本当は勝ってアルバムに前進したいけど引き分けなら望みはあるよねと思った最後の攻防、一瞬気を抜いたところに吉祥天女のワンショットが命中して終了間際の一撃で勝負を決められてしまう。唖然としたみひろだがそれで結果が覆ることもなく、紙一重の実力差を見せられることになった。

聖人          16 (17分停止) オーガイザー      10
バラクーダ       12 (30分判定) メガロバイソン7    12
吉祥天女        12 (30分判定) DiceTravelerVer福助 11
アストロタコボールスリー12 (11分停止) スペースキセキレイ   04
ねころけっとMTA鶺鴒 11 (30分引分) なでしこGM      04
太極師         10 (30分判定) テータ         06


ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =

 いよいよリーグ最終戦、この時点で単独首位に立っている聖人はすでに優勝戦への進出を確定させており、勝ち点で並んでいる4チームは勝利すれば2位に滑り込むことができるが、複数のチームが勝利した場合は更に決定戦を戦った後で聖人との優勝決定戦に挑むことになる。

「いずれにしてもすべて勝たなければならないということさ」
「キュ」

 一試合完全燃焼を掲げる神代進とアストロタコボールスリーはテータを相手にいつもの制圧前進、積極攻勢による短期決戦を試みるが、いつもは長期戦を狙うテータが思い切った撃ち合いに応じると防御無視で攻めるタコボールは高出力のデルタアタックを被弾してしまう。機先を制されて後手を踏んだところで更に反撃ダメージを重ねられて、追い詰められるとそのままデルタアタックでとどめを刺されて万事休す。リーグ中盤戦の足踏みが響いた北九州漁協はあと一歩が届かず脱落する。

「さて、今日はことのほか調子がいいところを見せようか」

 ライバルが足をすくわれる様を見てもネス・フェザードは特に気負う素振りもなくバラクーダで出撃。本人がうそぶく通りこの日は最高潮のコンディションを見せて、なでしこGMの花吹雪の舞をすべてかわしながらアクセルバイトの次元移動攻撃をことごとく命中させると少しずつ出血を強いてそのまま長期戦で相手を圧倒してみせる完勝劇を披露。リーグ突破の一枠を手に入れてみせた。これで上位陣の総崩れ待ちだったHDYLWとTeamKK両チームの脱落も決定。

「チーズよりも穴だらけに!」
「ハニカム!ハニカムにしてやんなー!」

 メガロバイソン7はそのねころけっとMTAを相手にしてムラクモオロチとデュアルバルカンで攻め立てるが、単発での大ダメージこそ与えるものの超高速機動力を相手にほとんどの砲撃を避けられてしまう。そのまま長期戦まで粘られるとマグロケットで地道に積み重ねられたダメージが蓄積して、最後は中間距離で動きを縛られたところにねこしっぽで撃墜、最後の最後で足を引っ張られる形で辛酸を舐めさせられる。

「ひいふうみい、全部勝たないといけない訳ね。なんて簡単なミッションかしら!」

 ロストヴァ・トゥルビヨンと吉祥天女は首位通過を決めている聖人と対戦、負ければもちろん脱落が決まるが勝てば優勝も見えてくる。移動と回避に専念する吉祥天女のスタイルでひたすら前進して斬りかかってくる聖人の攻勢を捌きながら反撃を図り、序盤に救済の重い斬撃を連続で被弾すると窮地に立たされるが中間距離を確保すると蓮華散花で攻撃、決して装甲が厚いとはいえない聖人に直撃させて戦況を逆転してみせる。対SPT戦の鉄則に従いそのまま膠着戦に持ち込むと残り5分でワンショットを決めて、これで聖人の緊急システムが起動するが時すでに遅くそのまま逃げ切ってリーグ突破とセミファイナル進出を決めた。

吉祥天女        14 (30分判定) 聖人          16
バラクーダ       14 (28分停止) なでしこGM      04
ねころけっとMTA鶺鴒 13 (30分停止) メガロバイソン7    12
DiceTravelerVer福助 13 (30分判定) オーガイザー      10
テータ         08 (11分停止) アストロタコボールスリー12
スペースキセキレイ   06 (30分判定) 太極師         10


STRIKE SIRIES VIII ストライク・シリーズ = Semifinal = 吉祥天女vsバラクーダ

photo photo  リーグ戦の全日程を終えて優勝決定戦に進出する一枠は1位のザ・ピットが獲得したが、もう一枠は同点で2位のロイヤル・ガードとNVフォースの両チームにより争われて勝利した側が最終戦、ファイナルに挑むことになる。今大会、両者のリーグ戦での直接対決はロストヴァ・トゥルビヨンが勝利しているが、気分屋のネス・フェザードがこのように勝ち上がってきたときの厄介さを彼女は充分に心得ているつもりだった。
 ストライク・バックでは大会中に他チームのメンバーと接触することが特に禁止されてはおらず、それで競技の公正が保たれるのかといえば、閉鎖された競技ステーションとフィールド内では機体にも管理システムにも人間にもすべて監視と記録がつけられているから容易に不正などできるものではない。更に宇宙技術の開発競争としての側面があることを思えばパイロットにも定時の検査が求められるから、例えばロストヴァとネスがラウンジでグラスを干しながら交わした会話どころか脈拍まで大会中の行動はすべて記録として克明に残されてしまうのだ。

「星々の中で見守られていると思えば風情がある。たとえそれが無粋なロギング・システムの記録だとしてもな」
「残念ね。これで女性の側にロマンチックな気分があればもっと風情があったでしょうに」

 昨夜の会話を思い出してそれぞれのコクピットで苦笑するが、他の状況であればいざ知らず優勝決定戦への進出を賭ける相手とグラスを交わしながらロマンスを語る阿呆はいない。ロストヴァの感覚では殴り合いを明日に控えたボクサーの調印式での会見のようなもので、グラスの代わりに拳を交わして挑発をしなかっただけ穏当であったと思っている。ネスにしたところで殴りかかられなくてよかったと半ば本気で胸をなで下ろしていたかもしれない。
 吉祥天女は女王ロストヴァの機体らしく、絶妙なコントロールで交戦距離を支配しつつ膠着戦に持ち込みながら装甲を削りに来る戦いを得意にする。対するバラクーダは時空操作ゼロ移動で瞬間的に距離を詰めることはできるが、人間の反応速度を超えた急制動でどうやって攻撃を避けて攻撃を当てるか、その矛盾を解決する答えを常に計算していなければならなかった。

「じゃじゃ馬の扱いには慣れているさ。何しろ虚空の向こうにもっと酷いじゃじゃ馬がいる」
「あら、誰のことかしら」

 いよいよ対戦開始、両機がカタパルトから射出されると同時にすかさず吉祥天女が距離を取り、右と左に宝珠を展開するとおざなりな砲撃をしながら相対座標の把握に専念する。次の瞬間、センサーから姿を消したバラクーダが一瞬で至近距離に出現するとアクセルバイトで咬みかかり、吉祥天女は後退しながら蓮華散花を放って迎撃を図るが構わず食らいついてきたエネルギーの牙に装甲を焼かれてしまう。再び距離を離すがすでにバラクーダの位置を見失っていて、先制された不利に構わず索敵範囲を広げて魚が網にかかるのを待つしかない。

「問題ないわ。いい女には男が自分から近寄ってくるものだから」

 その距離のまま展開されている吉祥宝珠が放火を放ち、間を置いてもう一度虚空に放火を放つ。これも当てるつもりではなく相手を誘うためで、複数のモニタと計器、そしてフィールドの「空気」に目を配っていたロストヴァが機体をわずかに降下させたその場所に出現したバラクーダのアクセルバイトが空しく宙を咬み裂いた。予測が当たったことにロストヴァ自身も心中で感心するが操縦桿を止める暇はない。
 先ほどと同じように後退して離脱、執拗に追いすがるバラクーダの牙をかわしながら懸命に後退するとゼロ移動で跳躍したバラクーダが再び接近、先ほどアクセルバイトを命中させたと同じタイミングで出現するのを予測して吉祥天女が蓮華散花で迎撃する。これが直撃してバラクーダの薄い装甲に火花が舞った。

「ち、やるねえ!」
「吉祥の舞よ?縁起がいいのだからそのまま踊っていなさいな!」

 ここまで戦況は互角だが損害の状況では吉祥天女が有利、一撃の威力でも装甲でも劣るバラクーダは手数で勝る必要があるが得意の格闘戦になかなか持ち込ませてもらえずにいる。無論ロストヴァがそれをさせずにいるのは明らかで、可愛くないねと思うがネスもロストヴァもこんな場所で可愛い女性など期待してはいない。
 再びゼロ移動から接近戦のルーチンを組む。こちらから懐に飛び込む以上、当てずっぽうで迎撃されるリスクは承知の上でそれすらも避けてみせるつもりで雷撃戦を挑む。急速接近と後退を繰り返しながら吉祥天女にアクセルバイトを擦らせると、すぐに遠距離に逃げられてしまうがバラクーダの加速はこの距離を一瞬で詰めることができる。再びアクセルバイトが擦過、それでもバラクーダがここまで蓄積させられた損害には及ばず果敢に攻撃を続けるしかない。

「女神様、たまには我が思いを受け取ってはいただけませんか」
「この殴り合いが終わったら考えておくわ」

 時空跳躍に三半規管が悲鳴を上げるのも心地よいとばかり、急加速と急制動を繰り返すバラクーダだがここまで試合開始から二十分が過ぎている。いざ勝てるとなればロストヴァは平然として回避と時間稼ぎに徹するに違いなく、ネスとしてはその前に戦況を覆さなければならない。踊るように接近、接近を繰り返して距離を離されるとゼロ移動をして至近距離に出現、この攻防そのもので時間を稼がれるが残り5分を切ったところでアクセルバイトの牙が吉祥天女に突き立てられた。会心と言える一撃、これで相対座標を固定すると勝負を決める牙を立てて食らいつこうとするが、バラクーダの顎が閉じる寸前に吉祥天女が急速後退して危険域を離脱したところでタイムアップとなる。判定は僅差、だがそれを逆転されず逃げ切ったロストヴァが優勝決定戦への進出を決定した。

「これで、あと一つ」

吉祥天女(30分判定27vs26)バラクーダ

STRIKE SIRIES VIII ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = 聖人vs吉祥天女

photo photo  直結式AIと称する聖人のシステムはパイロットのパーソナルデータを基にして構築した疑似人格「ヨハンナ」に補助をさせるだけではなく、緊急システム起動時にはパイロットにAIを直接ダウンロードすることで最大パフォーマンスを実現することができる。いわばパイロットの能力を解放するセルフコントロールの一環である、とはウォルフガング卿が強弁するところだが、この聖人を相手にロストヴァは前日のリーグ最終戦では緊急システムをぎりぎりまで起動させない対SPT戦の常套手段で勝利を収めていた。

「別に貴女が人形でも機械でも気にしないわよ。ただ勝利だけ頂ければそれ以外に興味はないもの」
「手順九十九番、完了しました。戦闘を開始します」

 挑発する声も通信回線に届いているが、フランシスは表情ひとつ変えず定められていた手順を正確に実行する。聖人は戦闘機じみた大型スラスターの下に人型の機械人形がまるで吊られたようにぶら下がった機体で、バランスが悪く小回りは効かないが人間なみの動きができる関節の可動域を活かした格闘性能を発揮する。
 対する吉祥天女はロストヴァの真骨頂である、戦況を膠着させての長期戦でわずかな優位を狙うスタイルを徹底して今大会ここまで勝利した8戦もすべて判定決着となっている。長期戦で攻防の回数が増えれば結果は安定するから優位を保てば勝率は上がる、だが白刃の上で血まみれのダンスを踊り続けるプレッシャーが尋常である筈がなく、それを平然と実施してのける胆力こそロストヴァが女王と称される所以だった。

「お人形さん、来なさいな」

 言いながら操縦桿を握る、両者の攻防はシンプルなものである。聖人は急加速で接近しながら格闘戦を狙い、吉祥天女は中間距離に展開する蓮華散花で捕捉と狙撃を図る。自らの交戦距離では相手に反撃能力がないから一方的に攻めることができるから、優位な距離を奪い合いながらどれだけ確実に好機を掴めるかが勝敗を分けることになるだろう。聖人は果敢に攻めるが隙も大きく装甲でも劣り、吉祥天女は安定しているが隙が皆無ではなく決定力には欠けていた。
 両機がカタパルトからフィールドに打ち出されると、点在する障害物をかいくぐりながら相対距離を把握する。まずは中間距離を得た吉祥天女が蓮華散花を展開するが、銛のように撃ち放たれた射撃が二発、両方とも空を切る。すかさず加速接近した聖人が両腕からエネルギーの剣を放出する救済でなぎ払うが、これも吉祥天女を捉えることはできず宙空を切り裂いた。

 しばらく距離の奪い合いが続くが、効果的な交戦距離を確保する能力ではロストヴァが圧倒的に勝っていて蓮華散花が縦横に駆け巡ると聖人を追い込んでいく。開始11分、膠着した撃ち合いから吉祥天女が蓮華散花を命中。これを直撃させて先制すると同時に優位に立つと戦局が一気に動き出す。
 直撃どころか被弾したことすら意に介さず聖人が加速して接近、両腕から放出される救済のエネルギーが二つの尾を引いて大振りで切りつける。装甲を派手に削られた吉祥天女はすかさず距離を取って蓮華散花、模様を描くかのように飛び交う軌跡が聖人を捉えると正確な狙撃が四方から撃ち込まれた。これが連続で命中して聖人の装甲が削られると同時に緊急システムが起動する。フランシスの手首と首に埋め込まれているコネクタを介して直結型AI「ヨハンナ」が侵入すると、解放されたパイロットの表情が激変して、無表情だった聖人の顔が激しく慟哭する。

「任せな!アタシがひっくり返してやるよ!」
「言ってくれるわね!」

 この時点で開始からちょうど15分、緊急システムの起動には充分に早い時間で逆転は充分に狙うことができるが損害率は吉祥天女がおよそ25%に対して聖人は75%と双方の被弾数がそのまま差になって現れていた。この状況でロストヴァが狙うのは一気呵成に沈めることでもなければ逃げ回ることでもなく、戦況を膠着させながら優位を保つこと、つまりこれまでの方針を変えずに維持することである。
 中間距離を保ちながら蓮華散花を放つ、ただし攻撃の精度を上げるのではなく一方的に攻撃ができる交戦距離の確保を重視する。直撃すれば一撃、運がよくてももう一撃受ければ沈められてしまう聖人だが、コクピットの「ヨハンナ」もこの状況で動じることはなくフランシスの最大パフォーマンスで機体を制御する。常の人形めいた姿からは想像がしづらいが、フランシスの真骨頂は野蛮な近接格闘戦において最大限に発揮される。

「鬱陶しい、いつまでも逃げ切れると思うな!」
「逃げないわよ?だって貴女を串刺しにしてあげるのだから」

 吉祥天女の機体制動にはわずかの隙もなく、この相手から距離確保を狙うのはリスクが高過ぎる。だが「白刃の上で血まみれのダンスを踊り続けるプレッシャー」はヨハンナ=フランシスには存在しなかった。当たれば終わりの狙撃に晒されながらひたすら好機を窺い続けた聖人は開始23分、全身を蒼く輝かせながら一瞬で加速すると放出するエネルギーをそのまま集束させた救済の一撃を叩き込む。これで一撃、後退を図る吉祥天女をもう一度捉えて急加速から救済で切り付けると再び直撃、これで双方の損害率が並ぶと至近距離から再加速、全身から放たれるエネルギーを一本の剣にした一撃を直撃させて女王を沈黙させた。
 これでザ・ピットがSPT機では初の栄冠を獲得。戦闘終了と同時に手順に則ったシステム終了プログラムが実効されると、ヨハンナは沈黙してフランシスの機械的な応答だけが通信回線を流れる。

「戦闘終了。緊急システムシャットダウン、機体回収処理に移ります」

聖人(26分停止11vs-4)吉祥天女

優勝  フランシス=ヨハンナ   聖人             13戦10勝  /通算49戦27勝
準優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン 吉祥天女           13戦08勝  /通算98戦60勝
3位  ネス・フェザード     バラクーダ          12戦07勝  /通算74戦35勝
4位  山本いそべ        ねころけっとMTA鶺鴒    12戦06勝  /通算96戦56勝
4位  塩追津みひろ       Dice-traveler ver福助   12戦06勝  /通算12戦06勝
6位  ゲルフ・ドック      メガロバイソン7       12戦06勝  /通算96戦59勝
6位  神代進          アストロタコボールスリー   12戦06勝  /通算95戦53勝
8位  シャル・マクニコル    太極師            12戦05勝  /通算95戦37勝
8位  無頼兄・龍波       オーガイザー         12戦05勝  /通算94戦37勝
10位 ノーティ         テータ            12戦04勝  /通算94戦47勝
11位 テムウ・ガルナ      スペースキセキレイ      12戦03勝  /通算94戦41勝
12位 ジム           なでしこGM         12戦01勝  /通算83戦43勝

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