VRS第四回大会-VIRTUAL SIRIES BACK IV-
 電脳都市「リンク」は幾つかの研究機関や企業がシステム開発のために用いていた、独自のネットワーク技術を基盤にして構築された仮想世界である。もともとは学術機関が作成した無償ネットワークをベースにして、クスノテック社が汎用フレームの駆動系開発に用いていたり、中本重工業が軌道レールシャトルの構造設計をするためのルーチンを付与したりと大小を問わぬ工業開発に広く流用されていた。
 ごく自然な成り行きとして、広範に用いられていたネットワークは気がつけば煩雑になり汎用性はあれどシンプルさが失われるという方向性に帰結する。これでは使いづらいとして、クスノテック社が中心となり独自に必要となる言語とルーチンだけを整理して組み上げ直したのが仮称「カスタム2」と呼ばれるネットワーク体系であった。この技術を基盤にして、基幹部のハードウェアと通信インフラストラクチュアを用意したのがWDF社であり、これらの企業が関わって構築されたネットワークがストライク・バック競技の研究開発に用いられるようになったことは当然だろう。

「社長ぉ、明日納品のシステムデザイン出来てるんですかー?」
「あるよー」

 現実に劣らぬ精巧なシミュレーション・システムはクスノテック社の自信作であり、機体の性能評価や特異な環境条件下における理論実験、宇宙空間における毛皮もふもふ感の再現試験、コクピット型端末機と連動したパイロット訓練用にと広範な用途に活かされている。これに加えて、仮想世界で試験を行うことで実機開発によるコスト圧迫を避けるという現実的な要求もあってクスノテック謹製のシミュレーション・システムは急速に発展を遂げていった。
 急速な技術力の向上と発展はいずれ標準化や定型化、共通化を求められる。これまでもストライク・バックに参加する多くのチームやメーカーが独自のシミュレーション・システムを開発や用意していたが、最終的にクスノテック・システムが生き残ったことには幾つかの事情があるだろう。シミュレーション自体の再現度の高さやシステム改修の容易さ等もその一因ではあったが、より現実的な理由としては権利面の問題がほとんど発生しなかった点が大きい。「遊びたい放題」をキャッチコピーにしたいクスノテック社はこのシステムを使用または流用するに際して、特にライセンス料も課金も求めなかったのである。面倒な契約条項が発生することを嫌ったのだという意見もあるが、仕様と技術体系のみ特許登録をしたらあとは公開扱いにしてしまっている。

 であれば「リンク」に採用されているシステムの改修がクスノテックに依頼されることは不思議ではない。そのクスノテック女子高生社長である山本いそべが、社員の声に無造作に投げ出した企画書には「リンク」における仮想自然環境の構築に関する幾つかの提案が記されていた。もともと宇宙空間を想定して開発されているVRS用のフィールドに、他の環境を用意してみようという試みである。本来、汎用機であるフレームを陸海空様々な条件下で稼働させるためのデータを収集するのが目的だが、応用ができるようになれば仮想世界でウインタースポーツを行ったり、深海探査機の実験を行ったりと様々な用途が発生するかもしれないだろう。


VIRTUAL SIRIES BACK IV Aブロック第一戦 昴・肆拾伍式vs猫ろけっとAM1
 バーチャル・ストライク・バック第四回大会は参加全6チーム、AB両ブロックに分かれて代表2チームによる優勝決定戦が行われることになる。まずはAブロックの開催に合わせて参加予定チームが「リンク」にアクセスすると、VRS競技場に入るがモニター上に展開されていく競技用フィールドの映像を見て参加者も観客も唖然とすることになった。

「須売流様、これって大丈夫なんですか?」
「水着を用意しとくべきだったよなあ」
「いえ、そうじゃなくてー」

 灯乃上むつらが呆然としているのも無理はなく、端末機に映し出されている競技用フィールドの映像は紛れもない水中戦仕様となっている。「セイレーン」と表示されているここがAブロックの舞台となるらしく、一部の重力および慣性法則やセンサー・ソナーの仕様が通常とは異なるが各装備を含めて実際の競技への影響は無さそうに思える。一通りのデータをチェックし終えると、道楽オーナー兼オペレータの清和須売流は気楽な返答を返しているがパイロットの緊張をほぐそうとしているのか本気で気楽なだけなのかは一見して判断し難い。
 とはいえAブロック最初の対戦、清和ストライクバックチームが挑む相手は強豪クスノテックである。パイロットとして昴・肆拾伍式に搭乗するむつらの不安は何も水中戦仕様のフィールドだけが原因ではないだろう。

 注水式のゲートが開かれると、両機がフィールド内へと射出される。メインスクリーンに映る一面の水と水泡が戸惑いを覚えさせるが、もともと宇宙空間でも肉眼で相手が見える訳ではなく、レーダーやセンサー情報が光学信号に変換されてモニターに表示されていることに変わりはない。画像情報と各種データ、そしてパイロットの五感が捕捉性能を左右する事情は環境が変わっても同じことである。
 射出された流れに従うように、互いが接近して至近距離に猫ろけっとAM1の姿を捉えた昴・肆拾伍式がスターセイバーで切りかかる。積極的な急襲によるオープニング・ヒットを狙った一撃だが立て続けの斬撃はむなしく空を切る。例え相手が目の前にいたとしても、無闇な攻撃は容易に命中するものではない。

「動きが悪い。水着の方がいいか?」
「す、すみませーん」

 半分程度は冗談だが、須売流の指示を受けてむつらも強引な攻勢を断念。ここで遠距離戦を狙いたい猫ろけっとAM1が離脱を図り、逃がすまいと撒布されたマキビシ機雷をごく当然のように回避すると四体の光学欺瞞ポッド、まるちぽーによるフォーメーションを展開する。水中を流麗に泳ぐ五匹の猫がどこか不自然に思えなくもない。
 昴・肆拾伍式のモニターに映し出される五体の猫ろけっとが一斉砲撃、欺瞞ポッドのデータから表示される映像は偽物だが各まるちぽーに搭載された魚雷は本物である。咄嗟に回避行動に専念した昴・肆拾伍式はこれを辛うじてだが全弾避けることに成功。

「へえ、やるじゃないの?」
「当然だろ。あれでうちのパイロットは優秀だよ」

 攻勢から守勢に自然に切り替えてみせた手腕に、SSBT専属メカニックのアルシオーネ・ビアズリーが感心すると須売流も軽い笑顔を見せるが、マイクは外しており誉め言葉はパイロットに届いていない。緊張を解くのは競技が終わってからである。

 攻守交代、再び接近戦を挑む昴・肆拾伍式はマキビシ機雷を撒布するとスターセイバーを振り回しながら急加速するが、至近距離でも水中戦でも常軌を逸した運動性能を見せる猫ろけっとには当たる素振りさえ見られない。だが昴の機体コンセプトはあくまで近接格闘戦による一刀両断であり、機雷撒布で動きを制限して接近戦に持ち込む本来の動きさえ実現できていれば最後まで好機があるだろう。猫ろけっとのまるちぽーは間接戦闘用のシステムであり、光学欺瞞ポッドによるごまかしが効かなくなる距離まで踏み込むのが昴の狙いである。
 開始10分、それまで完璧な回避行動を見せていた猫ろけっとAM1だがわずかに水中での姿勢制御が遅れるとマキビシ機雷を被弾、これがファースト・ヒットとなる。損害こそごくわずかだがバランスが崩れた一瞬を狙って昴・肆拾伍式が前進、懐に飛び込んだ昴・肆拾伍式がスターセイバーによる連続攻撃を敢行。近接戦闘で反撃能力を持たない猫ろけっとに粘り強く貼り付くと機体ごとぶつける勢いの攻勢に遂に一撃が命中、高出力の光エネルギーの刃が薄すぎる装甲に打ち込まれた。猫ろけっとのステータスモニターに異常を示すランプが灯される。

「欺瞞映像消失。まるちぽー再展開、れでぃ」

 猫ろけっとを操縦する人工頭脳、Mii3DSから送られたメッセージが画面上に流される。より人間くさい動きを実現すべく、戦闘・思考・理性・感情と複数化されたAI群だけあって処理能力にも演算性能にも自信はあるが、些か口調がぶっきらぼうに思えるのはむしろ「彼」の個性なのかもしれない。回避主体の超高機動機であるだけに、先制の不利に弱い猫ろけっとAM1としては戦況を立て直すべく思い切った急速離脱を図ると再びまるちぽーを展開する。
 一見して区別がつかない、五体の猫ろけっとがフォーメーションを組むと昴・肆拾伍式を包囲するかのように全方向からの攻勢。射出された複数の魚雷が立て続けに昴・肆拾伍式の装甲に命中すると鈍い爆発光が生じるが、木の葉隠れと称する光学欺瞞チャフを撒布して更なる追撃を阻止、双方ともに体勢を立て直す。

 既に開始20分。戦況は僅差ながら徹底した近接戦闘が生きている昴・肆拾伍式が猫ろけっとAM1のまるちぽーによる連携攻撃を巧みに阻んでおり、わずかに優位な展開を維持している。猫ろけっとは何としても距離を離してまるちぽー再展開を試みるべく、強引な離脱を図るがこれを予測したむつらは罠を張るようにマキビシ機雷を一斉撒布。機雷源の壁で猫ろけっとの行方を阻むと回避先を封じるかのように予測して機雷を撒布、強引さが仇となった猫ろけっとの装甲に被弾すると同時に遠距離砲戦への移行も失敗。そのまま時間切れとなり逃げ切った昴・肆拾伍式が清和ストライクバックチームに初勝利をもたらした。

「勝ちました!勝っちゃいましたー!」

○昴・肆拾伍式(30分判定)猫ろけっとAM1× 36vs21


VIRTUAL SIRIES BACK IV Aブロック第二戦 猫ろけっとAM1vsトゥーランドット
 三チームごとに二ブロックに分かれてのリーグ戦では、三チームが互いに対戦した勝ち星によって順位が決められることになる。星が並んだ場合は各試合の損害状況を合計した判定となるが、明確に数値化しやすい理由は必ずしも電脳世界における競技だからという訳ではない。実際のストライク・バックでもパイロットの安全を確保するために同様のシステムが用いられており、装甲が破壊されるか一定以上のダメージを受けると機体からの発信信号が途絶え、同時に両機体の武装が凍結される仕組みになっている。センサー装甲と呼ばれている、このシステムだけはストライク・バック開催当初から変更されておらず、損害を数値化できるために判定勝負も明快にできる仕組みである。
 その判定勝負で第一戦を敗退したクスノテックが第二戦ではチーム「レギオン」と激突する。ここで勝利を得ることができれば判定によるリーグ突破を狙うことは可能であり、超高機動機たる猫ろけっとAM1であれば被弾を最小限に抑えることで判定勝負を優位に持ち込むことも決して不可能ではないだろう。

「うーん?レギオンってもしかしてOBA系企業っすか?」

 いそべが言い放つOBAといえば言わずと知れた「女王」ロストヴァ率いる軍需企業系のチームである。ソードフィッシュほか同様のチームが幾つか存在しているが、民間中小職能集団たるクスノテック社とは異なりメンバーも軍人や候補生、または元軍人ばかりである。ストライク・バックで開発された技術や得られたデータがどのように用いられているかは考えるまでもないだろう。
 クスノテック社の機体コンセプトは可能な限り先鋭化した小型軽量フレームによる超高機動機の実現であるが、チーム「レギオン」は実践試験を名目にしてトータル・バランスを重視する傾向がある。このタイプは圧倒することが難しく、接戦になりやすいためにクスノテックとしては有り難くない相手である。

「フレンド・バーバラ。オー・ビー・エーって何かしらね」
「さあ?後で姉様にでも聞いてみたら」

 オペレータ端末で気楽そうな声を上げているシャルロットに答えるバーバラだが、軽口を叩き合いながらも視線はそれぞれの計器やモニターから離れず各パラメータの確認にも余念がない。能力も性格も異なる三人の娘がチーム内の役割を入れ替わる、独特のスタイルがチーム「レギオン」の特徴であり、生真面目そうなボブカットの黒髪美女バーバラの得意は精密な狙撃戦法だが、これに天真爛漫なシャルロットのナビゲートが加わると思わぬ個性を発揮する。舞台は再び水中戦仕様の「セイレーン」、猫ろけっとAM1に対するは東方の王女トゥーランドットである。
 至近距離から開始早々、トゥーランドットがシニョーレ・アスコルタを放つがこれは強引すぎて命中せず。すかさず離れてインクエスタ・レジーアの火線が伸びるが猫ろけっとは当然のように回避、反撃に射出されたまるちぽーすいれんの魚雷も回避される。水中戦では魚雷のような物理兵器は抵抗を受けやすい一方で弾道の制御や誘導が可能であり、熱兵器もエネルギー集束技術によって威力が減衰することはない。距離を離した猫ろけっとAM1はまるちぽーフォーメーションを展開すると魚雷発射、これを落ち着いて避けたトゥーランドットはタント・アモーレを撃つがこれも外れ。

「前進、前進、近づいてね・フレンド」

 どこかリズムに乗った調子で、通信回線からシャルロットの声が飛ぶ。狙撃手に平然と接近戦の指示を送るシャルロットだが、バーバラも当然のように機体を加速前進する。パイロットがオペレータの指示に疑問を持つ発想は彼女たちの間には存在しない。急速接近からシニョーレ・アスコルタを連続して発射するが、猫ろけっとAM1は至近距離で放たれた弾頭を入神の技量でかわしてみせる。
 ここまで双方損害がない状況が続くが、緒戦を落としている猫ろけっとAM1としては反撃を図るのであれば距離を広げなければならない。これに対してトゥーランドットは第一試合の展開を再現すべく、相対距離を至近に保つように張り付きながら攻撃の手を緩めようとはしない。ここまで開始10分、戦況こそ膠着しているが展開としてはトゥーランドットが優位と言えるだろう。

「みー、みー、みー、遅ぉーい!」
「受信、もっとがんばる」

 パイロットを務めるMii3DSの人工知能だが反応速度でいそべに劣る。健気にやる気を見せているのは増設した感情AIの成果であるが、複数AIによる並列処理をしてもなおタイムラグが出るのは仕方のないところだろう。ゲーマーたる人種を相手に、機械の反応速度が及ぶものではない。
 競り合いながら膠着する攻防は近接戦で隙を窺うトゥーランドットと得意距離に移りたい猫ろけっとAM1による相対距離の奪い合いが続いているが、相手の巧みなオペレーションのせいで猫ろけっとは思うように距離を離すことができずにいる。目の前で立て続けに放たれる砲火を回避してみせる技量はさすがだが開始14分、それまでの負荷が祟ったか一瞬回避行動が遅れた猫ろけっとAM1の隙をついて至近距離からのシニョーレ・アスコルタが着弾する。

「いつもの、ことだろー!?」
「受信、もっともっとがんばる」

 薄すぎる装甲に直撃を受けた機体を叱咤するようにいそべの声が飛び、Mii3DSもこれに答える。回避行動を主眼に置く猫ろけっとだけに爆発的な攻撃力には欠けており、引き離されれば逆転が難しくなるだろう。そろそろ余裕が無くなってきた猫ろけっとAM1は追撃を狙うトゥーランドットの砲撃を至近距離からかわしてみせると、相対速度と座標のわずかな差異を活かしてようやく距離を離すことに成功する。再展開したまるちぽーから魚雷を発射、これで牽制するがトゥーランドットは被弾しながらも構わず前進して連続攻撃を試みる。これを受ければ後がないとばかり、シニョーレ・アスコルタの砲撃もインクエスタ・レジーアの火線も確実に回避してみせた猫ろけっとは再び中間距離に移るとまるちぽーを展開、魚雷で牽制してからフォーメーションを展開して待望の遠距離戦に移行する。
 編隊を組んだ五体の猫ろけっとが五方向に離脱、一斉に解き放たれた砲火がトゥーランドットに襲い掛かる。ガン・アンド・ランというべく中間距離から魚雷による牽制と、遠距離砲戦でのまるちぽーフォーメーションアタックに翻弄されるトゥーランドットは防戦一方になりながらも、損害を最小限に抑えながら反撃の隙を窺っている。

「サテライトは、そちらだけの専売特許じゃ、ないわね!」

 リズムに合わせて踊るようなバーバラの指先が座標情報を送り、トゥーランドットの奥の手ネッスン・ドルマを稼働させる。相手の攻撃を逆計算して相対座標を算出、狙撃する自動反撃衛星の砲撃が猫ろけっとAM1を捉えると一閃した光条が装甲に届き、光の華を咲かせたところでタイムアップ。双方の損害状況が算定されるがまさかの引き分けとなり、これでクスノテックは無念のAブロック脱落が確定した。

△猫ろけっとAM1(30分判定)トゥーランドット△ 20vs20


VIRTUAL SIRIES BACK IV Aブロック第三戦 トゥーランドットvs昴・肆拾伍式
 Aブロック残る一戦、三試合目はチーム「レギオン」と清和ストライクバックチームの激突であり、勝利した陣営がブロック代表として優勝決定戦進出となる一戦である。SSBTとしては参加二大会目にして初の決勝戦進出のチャンスだが、相手は前大会優勝チームであり一筋縄では行かないだろう。

「起動試験異常ありません。さすがアルシオーネさんですー」
「はいはいありがとう。そろそろ時間よ」

 電脳世界であるからにはメカニックの作業も実際の機械や油にまみれる訳ではない。ことに大会中に被った損害の修復作業であれば、最初に設定した機体データの再読み込みをすれば済む話である。メカニックを務めるアルシオーネの注意も機体の修復ではなく、自分が調整した機体データが想定したポテンシャルを発揮できているかの検証作業に集中しているが、専門外のむつらにすれば不可思議なコンピュータを不可思議な操作で世話する手際に思わず感心してしまうようだ。
 メンテナンスの情景は仮想世界上に用意されている各チーム用のガレージ内部で行われており、メンバーはもちろん観客も見ることができるようになっている。機体の周囲をパペットが忙しなく動き回っているが、フォーカスすればメンバーや機体の詳細情報を映し出すこともできた。アルシオーネのパペットが手際よく動いているのに対して、自分のパペットがどうにもばたばたとして見えるのはデザインした人間のせいなのだろうと、むつらはオーナーの顔を思い浮かべている。

 昴・肆拾伍式はスターセイバーによる接近戦を主軸とする機体であり、パイロットのむつらも格闘戦に適性を見せていることはこれまでの試合で証明済みだ。対するトゥーランドットは全距離対応によるトータル・バランスを重視した機体であり、パイロットのバーバラはスナイパーとしての優れた実力を持っている。となれば反撃ができない遠距離戦を避けて接近戦に持ち込む、SSBTの作戦は当然これしかないだろう。
 相対距離は遠距離砲戦から開始、当然のようにトゥーランドットがタント・アモーレで狙撃すると昴・肆拾伍式は装甲で弾くように受けて被害を最小限に抑える。出会い頭は仕方がないとばかり、マキビシ機雷を撒布しながら接近を図る昴だがトゥーランドットは流れ来る機雷群を軽快に回避、再び距離を離してタント・アモーレで狙撃する。やはり損害こそ軽微だが、完璧にコントロールされた動きにプレッシャーを感じているむつらの様子に、通信回線を通じて須売流の声が響く。

「出力差はあるんだ。当てりゃどうにかなる!」
「は、はいー」

 たまには真面目に指示を出しているように聞こえる声に、思い切って機体を前進加速させる。普段はわりと気楽でいい加減に見えるし、実際にその通りなのだが須売流の指示は的確であるし、むつらも主人の言葉を信用しない理由はない。ネッスン・ドルマの反撃システムに警戒しつつ、マキビシ機雷を撒布しながら強引に接近した昴・肆拾伍式がここでスターセイバーの一撃、更に返しの一撃を振りかざして連続で命中させる。同時にトゥーランドットのシニョーレ・アスコルタも至近距離から放たれて双方相打ち、ここまで損害状況はほぼ互角。

「あら相打ちならラッキーよね?」
「了解。接近戦は避けるわ」

 トゥーランドットのコクピット端末では、シャルロットの意図を翻訳したバーバラが近接戦闘を避けるべく急速離脱を図る。させじと昴・肆拾伍式がマキビシ機雷を撒布するが、今度はトゥーランドットが多少の損害を厭わず被弾覚悟で強引に離脱するとタント・アモーレによる狙撃モードに移行した。高速移動による抜き撃ちであってもバーバラのターゲットは正確に目標を捉え、直線的に伸びる光条が昴・肆拾伍式の装甲に打ち込まれる。
 懸命に回避に専念、数弾をかわしてみせる昴だがこの状態になると反撃の目を断たれてしまう。マキビシ機雷を撒布しながら再接近を図るがトゥーランドットも誘いには乗らず、再び遠距離戦に持ち込まれてしまった。後は一方的な展開となり、タント・アモーレの連続狙撃で確実に装甲を削られた昴・肆拾伍式が遂に機動停止。序盤こそ互角の攻防を見せたが中盤以降に安定した実力を見せたチーム「レギオン」がAブロック代表の座を手に入れた。

○トゥーランドット(19分機動停止)昴・肆拾伍式× 18vs0


VIRTUAL SIRIES BACK IV Bブロック第一戦 尖閣諸島防衛超・タコボールマンvsチキンカレー大盛
 続いてBブロック3チームが登場、いずれも高出力を誇る攻勢機による激しい衝突が予想されている。第一戦となる最初の組み合わせでは北九州の漁場を守るべく立つ海の戦士、神代進が乗り込む尖閣諸島防衛超・タコボールマンが登場。1・2・V3ときたら次はマンだろうとばかり、何故か頭部の下半分には装甲がないところに海の男のこだわりを感じさせなくもない。対するは謎の貴族プルトニウム伯爵83世が駆るチキンカレー大盛。両者とも必要以上に個性的なチームであると同時に、それぞれがタイプの異なる超攻勢機でもあり短期決着が予想される組み合わせである。
 電脳空間「リンク」上に展開されているBブロック専用競技フィールドは変則の空中戦仕様となる「シルフィード」。疑似重力下だが地面が存在しないために無限落下を続ける環境であり、重力圏内において無重力を感じさせる特異な空間での対戦となる。

「これが印度剣であるッ!」

 双方が推進機構を全開にして突進、機体が触れ合う程の接近戦で装飾も鮮やかないんどのつるぎで先制を狙うチキンカレー大盛。これをタコボールマンは伝説の船大工源さんが鍛えた漁協メットで弾いてみせると、こちらも至近距離から対海犬ネットで絡め取る。双方が近接格闘戦による正面からの殴り合いを望んで遠慮も容赦もない。

「これが印度剣であるぅ」

 更に斬撃、双方ともかわすつもりがなく激しく装甲を削り合うが、わずかに不利を受けているのはチキンカレー大盛。互いに高出力超攻勢機という機体コンセプトは変わらないが、タコボールマンの要塞めいた分厚い装甲にチキンカレー大盛の攻撃が確実に阻まれていた。光学兵器は命中精度が高く、貫通すれば甚大な損害を与えるが装甲が厚い相手には不利を講じることがあり、であれば相手の攻勢を封じる必要があるが超攻勢機同士の対決でそれは難しい。更に対海犬ネットが直撃、双方の手数は同じにも関わらず堅牢さチキンカレーは追い詰められつつあった。

「当たったら攻める、避けられたら攻めるキュ?」

 コクピット端末に座る神代に指示を送る、超能力イルカフリッパーのオペレーションも状況を把握して更なる攻勢を指示。プルトニウム伯爵がこれに対抗するにはひたすら攻めつつ、同時に相手の攻撃をかわしてみせる妙技を披露するしかないだろう。未だ開始4分、起死回生の反撃を狙ってチキンカレー大盛が対海犬ネットを回避すると同時にいんどのつるぎを叩き込む。更に続けての斬撃、これも命中させるが堅牢なタコボールマンの漁協メットをどうしても貫くことができない。
 優位を見てそのまま攻勢を続けるタコボールマンは、コントロールが難しい対海犬ネットを巧みに振り回してチキンカレー大盛の装甲を確実に焼いていく。いんどのつるぎによる反撃も都度命中しているのだが、重装甲に任せて避ける素振りすら見せない制圧前進は神代得意のスタイルだった。圧倒攻勢からとどめとなる対海犬ネットを直撃させると、合計時間わずか7分でチキンカレー大盛が機動停止。漁場の戦士が幸先のいい勝ち星を獲得した。

○尖閣諸島防衛超・タコボールマン(7分機動停止)チキンカレー大盛× 27vs-3


VIRTUAL SIRIES BACK IV Bブロック第二戦 チキンカレー大盛vsアナザーバイソン1
 Bブロック三チーム目はアナザーバイソン1とゲルフ・ドックが登場。過去三大会すべて準優勝の戦績は彼らの実力を証明している一方で、あと一本の指が届かない状況がチームとしては歯がゆいところだろう。今度こそを期して優勝を狙っているゲルフは過去の大会で学んだ経験から自分の得意分野を活かすべく、ガレージに足を運ぶと機体方針の打ち合わせに余念が無い。

「大丈夫か?理屈は分かるが諸刃の剣だぜ」
「頑張りま・・・いえ、任せてください!使いこなしてみせます」

 ゲルフが頭を下げている相手は彼の祖父でもあるメカニックのザム・ドックである。もともと遠距離砲戦主体による積極攻勢が彼得意のスタイルだが、ゲルフの要望は更にバイソン1のジェネレータ出力を上げてより攻撃重視にシフトするというものであり、正面からの削り合いを前提にして装甲を強化するというものであった。攻勢を強化すれば当然守備は弱くなる、装甲を厚くすれば機動性が犠牲にされる、昔気質のザムにとっては博打要素が強くなるセッティングに不安はあるが、ここは孫というよりもパイロットの意気込みを受けたということであろう。奇しくも攻勢機が集まったBブロックで、更に攻撃特化をもくろむ作戦が吉と出るか凶と出るかは対戦相手と結果次第である。
 その対戦相手は近接戦闘主体の超攻勢機であるチキンカレー大盛。第一試合の敗戦で後がないプルトニウム伯爵83世は開始早々、得意の近接戦を挑むと積極果敢にいんどのつるぎを振り回して襲い掛かろうとする。迎撃するアナザーバイソン1も至近距離からハンディバルカンを抜き放つが、先制攻撃を狙う双方の一撃を互いにかわしてみせるという、超攻勢機同士の激突らしからぬ技量の見せ合いから両者の激突が開幕する。

 攻勢機の基本は速攻であり、相対距離を広げたいアナザーバイソン1は急速後退しながらグレネードマインボム・改を撒布する定石の動きで牽制。チキンカレー大盛も巧みな回避行動で機雷の海を泳いでみせるが、遠距離戦への移行を阻止するまでには至らなかった。すかさず攻勢に切り替えようとするゲルフのコクピット端末に、オペレータであるジアニ・メージの声が響く。

「チャンスです!今ならメガクラッシュ出ますよ!」
「了解、メージさん!」

 応えると同時に踊るような操作で複数の照準が重ねられると、軌道計算されたムラクモオロチ・改の光条がロックオンレーザー特有の弧線を描きながら襲い掛かり、チキンカレー大盛の装甲ただ一箇所に着弾する。同時着弾により集束したレーザーの破壊力を幾何級数的に増大させる、通称メガクラッシュ効果が発生してチキンカレー大盛の装甲を半ば以上吹き飛ばした。

「空を飛ぶ!空飛ぶいんどが町を飛ぶゥ!」

 一撃で追い詰められたプルトニウム伯爵は強引に反撃、直撃させるが損害は比べるべくもない。開始早々に圧倒的な優位に立つことができたアナザーバイソン1はそのまま押し切るべく更なる攻勢を試みる。逆転の望みに賭けて近接戦闘を狙うチキンカレー大盛の突進に合わせて弾幕を張るかのようにグレネードマインボム・改をぶつけると、被弾しながらも強引に至近距離に飛び込む正面からハンディバルカンを炸裂させる、二段構えの弾幕で装甲を削り一気に機動停止に追い込んだ。攻勢機同士の激突らしい派手な短期決戦は速攻から勢いのままに押し切ったアナザーバイソン1が快勝。

○アナザーバイソン1(5分機動停止)チキンカレー大盛× 34vs-2


VIRTUAL SIRIES BACK IV Bブロック第三戦 アナザーバイソン1vs尖閣諸島防衛超・タコボールマン
 一勝同士による激突となる、Bブロック代表を決める一戦は勝利したチームがそのまま優勝決定戦に進出する。アナザーバイソン1は多弾頭兵器による遠距離砲戦主体、尖閣諸島防衛超・タコボールマンは距離を問わない高出力重装甲を活かした制圧前進を得意とするいずれも超攻勢機であり、両者の対戦が正面からの削り合いとなることは間違いないだろう。

「メージさん。あれだけ装甲が厚い相手にムラクモオロチって通りますか?」
「難しいですねー。でも手数で勝負できるから遠距離なら悪くないですよ」

 攻勢機で優位に戦いを進めるためのポイントは二つ。一つは自分の攻撃力を封じられず特性を活かすことができるかどうか、もう一つは相手が同じ攻勢機だった場合にそれすらも凌駕して圧倒できるかどうかである。その意味でタコボールマンの堅牢な装甲が意外な効果を発揮することは先のチキンカレー戦でも証明されている。バイソン1としては正面からの撃ち合いを挑む以上は、これを克服しなければならない。
 開始早々、中間距離を確認したアナザーバイソン1は射出したグレネードマインボム・改を巧みに誘導して牽制すると、被弾を無視して接近を図るタコボールマンに向けてハンディバルカンを撃ち放して迎撃、先制攻撃に成功する。初手から押し切るべくそのまま攻勢を続行、再びグレネードマインボム・改を散布してこれをことごとく命中させるが、タコボールマンもクジラブラスターを発射すると高出力の光条が一閃、アナザーバイソン1の装甲に深々と突き刺さって一撃で戦況を五分に戻してしまった。手数ではバイソン1が遥かに勝るが、装甲に守られた頑丈さを考慮すれば一撃の破壊力ではタコボールマンが圧倒的に優位にある。

「クジラだけでなくイルカも害獣キュよ?」

 超能力イルカフリッパーの指示を受けて急速接近、動物保護海賊の襲撃すらものともしない近接格闘戦に持ち込んだタコボールマンは対海犬ネットを振り回してこれを直撃させる。先制されたことも構わず、強引な攻撃で戦況をひっくり返すと同時にアナザーバイソン1の損害率を一気に五割近くまで追い込む破壊力はタコボールならではだろう。
 予想していたとはいえ、圧倒的な攻撃力を前にしてバイソン1のコクピット端末ではメージの警告を充分に承知していたゲルフが手数で対抗すべく反撃を試みる。まずは距離を離してからグレネードマインボムを散布、接近戦を狙う相手の出足を止めると同時にセンサーを撹乱しつつ、更に距離が離れたところでムラクモオロチ・改を一斉射出。大蛇の首を思わせる六本の光条が弧線を描いて襲い掛かるが、タコボールマンを操る神代は海の戦士らしい巧みな機体制動によってこれを全弾回避してみせる。だがゲルフも構わず更に砲撃を強化すると、タコボールマンもムラクモオロチの牙を次々とかわしてみせるが完璧という訳にはいかない。数発が着弾すると少しずつタコボールマンの装甲を削り、再び戦況は五分に戻される。

「攻撃は最大の攻撃なのだよ」
「キュキュ!」

 コクピットで神代が言う通り、撃ち放されたメガ遺憾の意が仮想空間を一瞬で横断するとアナザーバイソン1に派手に命中して火花を上げるが、同時に放たれたムラクモオロチ・改の光条もほぼ相打ちの様相でタコボールマンに命中する。遠距離砲戦による正面からの撃ち合いは出力差でわずかにタコボールマンが優位、いったん相対距離を変えたアナザーバイソン1はグレネードマインボム・改を連続撒布するがやはりクジラブラスターによる反撃の砲火を受けてしまう。

「攻撃は最大の攻撃です!」
「了解!」

 奇しくも両チームで同じ指示が出ると、またも遠距離砲戦に移りバイソン1がムラクモオロチ・改を一斉発射する。これが全弾命中してタコボールマンの厚い装甲を打ち破るには及ばなかったが、反撃するメガ遺憾の意による損害を最小限に抑えて双方互角の状況まで引き戻すことに成功、すでに両機とも損害は大きく機動停止寸前となっている。
 ここまで開始12分、接近して放たれるグレネードマインボム・改とクジラブラスターが双方被弾、ダメージはごく軽微だがどちらもあと一撃が決まれば装甲が破壊されて機動停止は間違いないだろう。双方が自然な流れのまま接近、近接格闘戦の距離まで近付いたところでタコボールマンがとどめを狙って対海犬ネットを振り回す。相打ちになれば攻撃力の差で不利になるバイソン1はこれをぎりぎりのところで回避すると、至近距離からハンディバルカンを撃ち放ってこれが命中。僅差の攻防を制したアナザーバイソン1がタコボールマンをぎりぎりの攻防で沈黙させることに成功し、四大会連続となる優勝決定戦進出を決めた。

○アナザーバイソン1(13分機動停止)尖閣諸島防衛超・タコボールマン× 1vs-1


VIRTUAL SIRIES BACK IV 決勝戦 トゥーランドットvsアナザーバイソン1
photo photo  電脳仮想空間「LIveetwor」上で開催される、汎用人型機械による対戦格闘競技VRSことバーチャル・ストライク・バック。第四回大会の優勝決定戦は前大会と同カードとなる、メガロバイソンプロジェクトとチーム「レギオン」による対戦である。特にバイソン陣営はこれまでの三大会ですべて決勝戦まで進出しながらも準優勝に終わっており、今大会こそ初優勝の栄冠を手に入れたいところだろう。

「こちらは超攻勢仕様で相手が自動反撃システム付き。つまり・・・」
「は、はい」
「防御を捨ててひたすら攻撃する、だからこそ防御が重要になる訳です。分かりますね?」

 つい先程に攻撃は最大の攻撃だと聞いたような気もするが、メージのオペレーションに異論を挟んではいけないことをゲルフはこれまでの経験で充分に理解している。それは聞いたままの言葉では伝えきれずにいる彼女なりの理論があるということであり、何よりパイロットがオペレータの指示に疑念を抱けばその瞬間にチームは機能を失うのだ。

 三人で一チームとして登録する、ストライク・バックの編成ではパイロットの存在が大きい一方でメカニックやオペレータの重要性を無視することはできない。メガロバイソンプロジェクトでは狙撃手であるゲルフ・ドックに天才ジアニ・メージが効果的な攻撃指示を送ることで多弾頭砲撃の威力を増大し、更に正面からの撃ち合いを想定して職人ザム・ドックが機体セッティングを行う。
 一方で対戦相手となるチーム「レギオン」では、トゥーランドットに搭乗するバーバラはゲルフと似たタイプの正確無比の狙撃手だがオペレータのシャルロットは攻撃を活かす効果的な戦術を見極める目を持っており、メカニックのアンジェラも高速機動戦を想定した調整を機体に施していた。戦前評では火力に勝るアナザーバイソン1が優位に思われているが、トゥーランドットは安定性にこそ欠けるものの自動反撃システムの威力は侮れない。

「システム・コンタクト完了。モニター展開します、オヴァ?」
「重力度係数補正完了、こちらもオール・グリーンよ」

 各メンバーに割り当てられている端末機に接続すると、機体や競技フィールドの情報がモニター画面に浮かび上がる。端末機は専用ブース内に設けられており、腰を下ろしフードを閉ざしてしまえば実際のコクピットやモニター・ブースにいる感覚と何ら変わりはない。コクピット端末に至っては機体制動時の加重や被弾時の衝撃まで再現されるようになっている。オペレータ用の端末では機体や競技フィールド全体の状況確認が可能だが、メカニック用の端末ではより詳細な機体のパフォーマンスや負荷状況等を確認することができる。一般的にメカニックが競技中にパイロットに指示を送ることはないが、機体状況の把握を怠ることはないしオペレータとの連携は欠かせないだろう。
 仮想世界に浮かぶ対戦フィールド、優勝決定戦を行う舞台の名称は「バルキリー」。初期ストライク・バック大会を知る者には懐かしい地上戦仕様のフィールドである。カタパルトではなく如何にも入場口然としたゲートが開き、機体が射出されると雌雄を決する「闘技場」へと剣闘士が登場する仕組みになっていた。

 既に競技開始時刻間際、観客の殆どもVRS競技場へのアクセスを終えており数万を超えるパペットが観客席に並んでいる。本来その必要がなくとも、仮想空間ならではの演出が疑似体験を本物と違わぬ感覚へと変える。映画を思わせる視点から暗がりの格納庫が映されており、タイムカウントがゼロになると同時にゲートが開く。撃ち出された両機の姿が眩いばかりの競技フィールドへと吸い込まれていった。
 両機の先制攻撃は至近距離から。挨拶代わりに放たれたシニョーレ・アスコルタとハンディバルカンが命中し、双方が避ける素振りもなく正面から互いの装甲を削り合う。火力でも装甲でもアナザーバイソン1が優位だが、着弾と同時にトゥーランドットの背後に展開するネッスン・ドルマが反応すると相対座標を自動計算して報復の炎を吐き出した。派手なオープニング・ヒットだが損害はほぼ互角、ここで積極攻勢を決意したのは当然ゲルフ・ドックである。

「防御を捨てる!」
「ひたすら攻撃です、はい!」

 反撃を恐れずに短期決戦で押し切る、それはつまりメージのサポートとザムのセッティングを信じ、自分の作戦を信じるということである。強引に攻めるアナザーバイソン1は至近距離からハンディバルカンで攻撃、再びネッスン・ドルマの砲火に晒されるが気にした様子もなく足を止めたまま弾を撃ち放ち続ける。正面からの撃ち合いは自動反撃システムを持つトゥーランドットが手数で勝っているものの、火力と装甲の差でわずかにアナザーバイソン1が優位に展開。
 開始4分、ここまでの攻防で双方の損害状況は早くも五割超に達しており、短期決戦をもくろむアナザーバイソン1はここで一気に押し切るべく更なるハンディバルカンの連続斉射を敢行。これが直撃してペースを握ると同時に、トゥーランドットの自動反撃システムも座標計算が追い付かずに圧倒攻勢に対応しきることができず、砲火の波が一瞬途絶える。最初にして千載一遇の好機を得たアナザーバイソン1はここでグレネードマインボム・改を撒布しながら急速後退、一気に遠距離砲戦へと切り替えた。

「行けますよ!メガクラッシュなら反射しきれません!」
「了解!ロックオン・ファイア!」

 かけ声と同時に一斉射出されたムラクモオロチ・改の光条がまるでそれ自体意思を持っているかのような弧線を描きつつ、トゥーランドットの装甲に同時着弾する。六匹の大蛇に襲われた東方の王女も起死回生を狙ってタント・アモーレの狙撃とネッスン・ドルマの砲火を一点に集中させるが、メガクラッシュ効果により増幅された一撃がトゥーランドットの装甲も反撃も軽々と突き破って一気に装甲を破壊、機動停止に追い込んだ。モニターにノイズが生じるほどの破壊力を見せたアナザーバイソン1が、超攻勢機にふさわしい破壊力を見せつけてVRS初優勝の栄冠を獲得。

○アナザーバイソン1(6分機動停止)トゥーランドット× 12vs-16 ※アナザーバイソン1が優勝

−結果&短評−

 初優勝となるアナザーバイソン1。今大会では更に攻撃主体にシフトする戦術と機体を選択していたが、要所で活きていたのがむしろ装甲強化のセッティングである。特にチキンカレー大盛を封殺した対戦で顕著だったが、回避行動を無視した削り合いでは攻撃力の高さと装甲の厚さの双方が重要になるので注意。このあたりは自分の機体のコンセプトを明確にして、それに適したセッティングをしないと思うような実力が発揮できないことも多い。
 今大会では攻撃主体のチームがアナザーバイソン1にタコボールマンとチキンカレー、回避主体は言わずと知れた猫ろけっと、得意距離での優位を狙うのが昴・肆拾伍式でトゥーランドットは相手の苦手距離を狙うというタイプに分類できるだろう。昴・肆拾伍式vsトゥーランドット戦は距離の奪い合いが勝敗を分ける典型的な対戦となっていた。逆に装備を活かしきれていなかったのがチキンカレー大盛で、印度剣が装甲に弾かれ気味であったことや、ヨガの奥義を活かす機会に恵まれなかったことなど方向性を再検討してみるといいかもしれない。

−順位−機体名−−−−−−−−−−−−−機体−−パイロット−−−−−−−オペレータ−−−−−−−メカニック−−−−−−−
 優勝 アナザーバイソン1       イプ  ゲルフ・ドック     ジアニ・メージ     ザム・ドック
 2位 トゥーランドット        7楓  バーバラ・R・O    シャルロット・R・O  アンジェラ・R・O
 3位 昴・肆拾伍式          ドラ  灯乃上むつら      清和須売流       アルシオーネ・ビアズリー
 4位 尖閣諸島防衛超・タコボールマン イプ  神代進         超能力イルカフリッパー 伝説の船大工源さん
 5位 猫ろけっとAM1        斑鳩  Mii3DS      山本いそべ       山本あんず
 6位 チキンカレー大盛        イプ  プルトニウム伯爵83世 自称謎のインド人    自称謎のインド人

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