VRS第十三回大会-VIRTUAL STRIKE BACK XIII-
電脳仮想空間「LIveNetworK」に接続する。この世界で、人型汎用機による対戦格闘競技、VRSことバーチャル・ストライク・バックを開催するメリットはいくつかある。実際の機体を製造する必要がないために、参加チームが費用を大幅に削減してテストを行うことができる点が第一だが、実際の機体を製造することにいくつかの問題がある場合に、それを仮想空間上だからこそ行える場合があることだ。
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Aブロック第一戦 UNKNOWN vs Dice-traveler
今大会も参加は6チームで、AB両ブロックを突破した機体が優勝決定戦に進出する。とある番組企画から始まったはずのHDYLWは、気がついたらうっかり継続していて、塩大津みひろも、時として巡業に行った先で芸人ではなくパイロットとして見られることがあるのだが
「芸人じゃなくてアイドルだって言ってるー!」
「それよりガーッと行ってパーッと散ろうよ?」
「散れと申したか!?」
などと製作陣からは要求されたりもするのだが、基本的に機体のセッティングはサイコロを振って決めるという企画当初からのルールは崩していない上に、みひろ自身が粘り強く守勢に強いタイプだから、派手に散るという絵面が期待しづらいという事情はある。ならば相手に期待するしかない。幸い、相手は「あの」ザ・ピットである。
「えーと。敵さんがワイヤーフレームで表示されてるのはアリなの?アリなんですか?」
コクピット・ブースに座ったみひろが呟いたように、モニタに映っている機体は昔のコンピュータゲームのように枠線だけで表示されていて、機体名すらUNKNOWNとされている。開始早々に遠距離から放たれた光条が襲いかかって、それがロックオンレーザーであることが知れる。
反撃するDice-travelerは、ランサーフォースの光の槍を突き刺す。二撃目が直撃してUNKNOWNの装甲に光が舞うが、すぐに機体の中心にエネルギーが収束して、ジェネレータの数値が爆発的に大きくなる。言われるまでもない、緊急システムVM-AXが起動する現象だ。
「負けて落ちれば泥ぉー!」
意訳すると、こちらが押しているからこのまま押し切るという意味のつもりだったが、選択肢そのものは間違ってはいない。一撃目の交錯で、こちらの倍近いダメージを叩き込まれたがそれでもDice-travelerが優勢にある。ブロックが成功すれば充分に勝機があるとそのまま二撃目を撃ち合った瞬間、コクピット・ブースがもう信じられないというような光と振動に包まれた。しばらく通信が繋がらなくなり、静かになって、さらにしばらくしてから、開いた扉からみひろが転がり出てくる。
「なんでシミュレータに被弾時の衝撃までシミュレートされてるわけ?」
「シミュレータだからな」
UNKNOWN(7分判定)Dice-traveler -2vs-32
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Aブロック第二戦 Dice-traveler vs ホームランボール
一発勝負となれば、刻むヒットではなくホームランを狙う!北九州漁協がアストロシリーズで培ったノウハウと、高校野球ト*カルチョで稼いだ資金を注ぎ込んだホームランボールである。
「厳密にはブロック代表を決めるから一発勝負ではないキュ?」
「構わないさ」
相手は初戦と落として後がないDice-travelerだが、神代進の視線はもっと遠く場外フェンスの向こうを向いていたから、優勝したらボールにサインをして漁協に飾られる予定となっている。
まずは速攻を仕掛けたDice-travelerが、バットをかざす予告ホームランのポーズを無視してランサーフォースを突き刺してみせる。遠慮も容赦もなくもう一撃。だがホームランボールも黙ってやられてはおらず、強烈なピッチャー返しを打ち返すとライナー性の反撃を命中させる。
「そのサインボールを番組プレゼントにしてやるー!」
膠着状態から、こつこつとランサーフォースを当てて削っていくDice-travelerに、ホームランボールもしっかりと装甲でブロックしてみせる。両者が守勢に強いタイプだから、地味な削りあいになるのは覚悟の上だが、ホームラン狙いの北九州にも、いい画が欲しいHDYLWにもあまりおいしい展開とは言い難い。
均衡が崩れたのは15分、ホームランボールの予告ホームランが今度こそ命中して、反撃こそ受けたがリードに成功する。このまま逃げ切る、あるいは優位を保ったまま削りあえば勝利が見えてくるが、開始20分で勝負に出たDice-travelerが、接近してフレイムフォースを弾かれながらランサーフォースを打ち込む積極攻勢で一気に逆転に成功。残り時間をそのまま逃げ切って、見事な勝利。北九州漁協は一度は優勢に立ちながら思わぬ逆転負けを喫してしまった。
「認めたくないものだな」
「つまり過ちキュ?」
Dice-traveler(30分判定)ホームランボール 11vs7
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Aブロック第三戦 UNKNOWN vs ホームランボール
ザ・ピットのメカニックとして登録されているウォルフガング卿は、実際には彼が指示を出しているだけで機体の開発も整備も他の人員にすべて任せている。彼はオーナーとして、彼が望むものを作らせているだけだった。
「フランシスは素体としては優秀だ」
パイロットと機体を直接接続するシステムには、批判する声もなかったわけではないが、義肢の延長であるとしてそのまま採用されている。むしろ問題となったのは、人間と人工知能AIを直接接続するシステムにあったはずだが、その議論は置き去りにされたままになっていた。
仮想空間上に、ワイヤーフレームで表示されているUNKNOWNには必要最低限の機体情報しか設定されていない。それは外見を設定することが彼らに不要だったからではなく、外見を設定しない必要がかれらにあったからだ。フォルムだけを見れば、不格好な人間めいた姿をしているのは常のことである。
「プレイボール、キュ」
積極的に、UNKNOWNからロックオンレーザーの光条が放たれるが、ホームランボールは被弾しながらピッチャー返しを打ち返す。防御と反撃で粘りながら、大振りの予告ホームランを狙うホームランボールは名前そのままのコンセプトで一撃必殺の好機を狙う。
降り注ぐロックオンレーザーだが、通常時の出力は決して高いわけではなく、ボールの装甲に弾かれる。だが手数で押すUNKNOWNは、わずかな優勢を保ちながらひたすら攻勢を続ける。双方の損害が積み上がったところで緊急システムVM-AXが起動、この時点でわずかに押しながらもUNKNOWNが優勢なまま。放たれたロックオンレーザーのほとんどをホームランボールは弾いてみせるが、命中した一撃の衝撃に耐えられずに起動停止。ザ・ピットがAブロックの突破を決めてみせた。
「悪くない。パイロットを回収してきたまえ」
UNKNOWN(9分機動停止)ホームランボール 10vs-4
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Bブロック第一戦 サラ vs ねころけっときっく
三人娘が役割を入れ替わることで、チームの色を変えてくるのがレギオンの特色である。VR大会とはいえ、これまで三人の全員が大会を制覇した実績を持っていて、実力にも疑いはない。相手が「あの」TeamK.K.ねころけっとであっても、怯む必要も恐れる必要もないが、もともと彼女たちにそうした感覚は不要だった。
「恐れるなら、旦那を七人も殺した悪魔つきの姫が恐ろしいわね?フレンド・シャルロット」
「七度も求婚される姫はよほど魅力的だったに違いないのよ」
彼女たちが乗る機体、サラは散弾で相手を止めて一撃必殺を振り下ろす様が、むしろアスモデウスを想起させる。まともに正面から殴り合えば、これに匹敵することは難しいが、ねころけっとは正面からすべてを避けてしまう機体だからまさに巨象と毒蜂の一騎打ちになるだろう。
接近して、力任せにアームド・アームズを振り回すサラだが、ねころけっとはこれを避けながら、ねこじゃらしを振り回す。威力は比べるべくもないが、フラクタルな動きで猫すらも誘惑するねこじゃらしは、ごくわずかでもサラの装甲にかすり傷を与えることができる。命中したところに、打ち込まれたエネルギー塊が継続ダメージを与える追加効果がねころけっとの狙いである。
「殴るしかないなら、殴りなさいな。振り回すだけなら扇風機にもできるわよ」
「気楽なアドバイスをありがとう。文句は相手にぶつけるわ、マイ・フレンド!」
豪快に振り回したアームド・アームズが、ようやくねころけっとを捉えると、機体ごと吹き飛ばしそうな一撃が、無いに等しい装甲に打ち付けられる。だが超軽量超高速機のねころけっときっくは、機体ごと吹き飛ばされてダメージを逃してしまうと、機体名の由来である空間を直接蹴ることによる方向転換を見せて、ふたたびサラのふところに飛び込んでねこじゃらしを振り回す。
「予定では三発まではだいじょーぅぶだぜ!」
結局、サラの有効打はこの一撃だけとなり、他はすべて避けきったねころけっときっくが、彼らの真骨頂ともいえる展開で快勝。レギオンとしては、相性の悪い難敵を相手に、穴に落とされる結果になった。
ねころけっときっく(17分機動停止)サラ 28vs0
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Bブロック第二戦 サラ vs アナザーバイソン1
迷いのない攻撃のセンスで、若いながら本大会でもタイトルを手に入れたことがあるゲルフ・ドックが久々に登場。仮想世界とはいえ愛機と同設定をされている、アナザーバイソン1を起動させる。遠距離砲戦主体のスナイパーだが、多弾頭の砲撃を距離を問わずすべて当ててくる精度は芸術を超えて曲芸の域に達している。
「相手は接近して殴り合い上等できます。近づかれたら不利。ではもしも近づかれたら?」
「気にせず弾をぶっ放せ?」
「イグザクトリィ(そのとおりでございます)」
出撃前の、ジアニ・メージとのやりとりは半ば精神集中のためのルーティンぽいところもある。何も考えずにひたすら攻勢、彼はそのほうが強いのだから、オペレータのメージは彼にその力だけを発揮させることが仕事である。相手のサラは初戦を落としているとはいえ、一撃必殺の攻撃力でも、殴り合いに耐える分厚い装甲でも、本来なら正面から殴り合ってよい相手ではない。
「フレンド・シャルロット?相手はその気よ。わずかの躊躇もせずに殴り倒しなさい」
「了解よ!フレンド・アンジェラ」
両者の宣言通り、接近戦から始まった殴り合いはアナザーバイソン1が不利を承知でハンディバルカンを撃ち放すが、サラはまるで気にしたふうもなくアームド・アームズを振り回してバイソンの装甲に叩きつける。さらにもう一撃、この二撃だけでバイソンの装甲の半分を削ぎ取ってみせた。それでも撃ち合いを選択するアナザーバイソンだが、どうせ後退しようにも、彼らの機体にはそのための機動性能すら積んではいない。
「はい!復唱」
「気にせず弾をぶっ放す!」
豆鉄砲を承知で、至近距離から打ち込まれる弾頭が多少でもサラの装甲を削るが、その間に三撃目のアームド・アームズを被弾。もう一撃受ければ機動停止しても不思議はなく、相手はといえばまだ損害率五割未満の状態に抑えている。
「はい!今こそとっておきの作戦!」
「気にせず弾をぶっ放すぅー!」
絶妙のタイミングで、中間距離に離れた瞬間にデュアルバルカンが命中。さらに後退してムラクモオロチ・改二の一斉射撃が全弾命中して、この攻撃で戦況をひっくり返したアナザーバイソン1が逆転勝利。スタイルを貫く強さを見せつけた。
アナザーバイソン1(9分機動停止)サラ 11vs-7
VIRTUAL STRIKE BACK XIII Bブロック第三戦 ねころけっときっく vs アナザーバイソン1
ひたすら攻撃して相手を沈めるアナザーバイソンと、すべての攻撃を回避してみせるねころけっととの対戦。勝者がそのままブロックを突破して優勝決定戦へと駒を進めることができて、状況も両者のコントラストも、これほど分かりやすい組み合わせは少ないだろう。
「わかってんなてめーら。短期決戦で俺らに勝ちはねー」
「長期戦なら?」
「勝てるかもしれねーし負けるかもしれねー」
などと山本いそべが豪語するのは不利を宣言しているのではなく、こんなメガドライバーズカスタムでも勝ってみせますよという決意の表明でしかない。昨今、AIパイロットによる自動操縦を模索しているTeamK.K.で、いよいよ投入されるNii-NXは右脳型OSのNii-REDと左脳型OSのNii-BLUEが並列稼働する最新型OSとなっている。
これで高速かつゆらぎのある反応を実現する。オペレータ役のいそべは、REDとBLUEが対立したときに仲裁というか裁定をするのが役割で、彼女のコンソールには赤と青の2つのボタンだけがあるという思い切った仕様になっていた。
「わかったなてめーら。この世に安地なんてもんは存在しねー」
「All Right.」「All Left.」
雨のように降り注ぐ、アナザーバイソンのムラクモオロチをかいくぐりながら、空間を蹴って跳躍するねこきっく改で一気に至近距離に出現すると、ねこじゃらしを振り回す。これで先制して、そのまままとわりついて削るのが彼らの目論見で、いろいろな攻撃はすべて避けてしまえばいい。
空間を文字通り跳び回りながら、10分間に二度の攻撃を命中させる。時間が経過して、アナザーバイソンのジェネレータが出力を落とす様子まで、Nii-REDとNii-BLUEの理性と感情が完璧に理解してみせる。開始13分過ぎ、アナザーバイソンのハンディバルカンを被弾するが、この世に完璧がありえないことも「彼ら」は想定済みだ。
「ヤロー、ヘドブチ吐カセヨートシテルゼ。READY?」
だが推力を落としながらも、アナザーバイソンは砲撃の手を緩めないから、ねころけっとはすべて避け続けなければならない。19分に再び被弾。それでもねころけっとの優位は変わらないが、アナザーバイソンの降り注ぐ砲火も変わらない。いよいよ激しくなる攻勢にREDとBLUEが双方危険を認識すると、いそべが重々しく決断する。
「あ。てめーらこれ詰んだわ」
開始26分に痛恨の被弾。それで逆転されて、そのまま押し切られてしまう。あと5分のところで、勝利を目前にしたねころけっとは無念の敗退。勝利を得たアナザーバイソン1が優勝決定戦へと向かう。
アナザーバイソン1(30分判定)ねころけっときっく 21vs13
VIRTUAL STRIKE BACK XIII 決勝戦 UNKNOWN vs アナザーバイソン1
開始前から、ある種の緊張感が漂っているのがわかる。Bブロックでは、久々に登場したゲルフ・ドックとアナザーバイソン1は、彼ららしい多弾頭砲撃による距離を選ばない攻勢で、押されながらも二度の逆転勝利を見せて堂々と優勝決定戦進出を果たしていた。
対するザ・ピットも、SPT機らしい破壊力を見せてAブロックを勝ち抜いている。パイロットのフランシス=ヨハンナは、本戦と同様にコクピット・ブースに収容されているが、公開されているメンバー表を見ると、常はヨハンナ=フランシスと登録されているオペレータ名まで、UNKNOWNとなっていることに気づかされる。
「UNKNOWN、出撃します」
常と同じく、平静ではなく無感情なフランシスの声が流れる。緊張感は彼女から漂っているのではなく、むろん、常と変わらぬ攻勢を試みようとするゲルフやメージからのものでもない。砲撃戦主体のアナザーバイソンと、緊急システム発動時のザ・ピットの機体の双方が発する高火力同士の激突に対する、期待と怯みを覚えている観客たちが、モニタ越しに緊張感を伝えているだけだ。
彼らには共通の認識がある。対戦はすぐに決着するだろうと。
先手を取ったのはUNKNOWNだった。未だ出力は低いが、放たれたロックオンレーザーの光条がアナザーバイソンの装甲を叩く。これが呼び水となって、両者が砲門を開くとロックオンレーザーとムラクモオロチ改二の光条が戦闘フィールドを埋めて、視界が輝きに満たされる。
結果もモニタ越しに示された数値によってわかる。わずか一撃の交錯でバイソンが被弾率五割超、UNKNOWNに至っては被弾率八割超。尋常な威力ではないが、これでUNKNOWNの緊急システムが起動して、直結式AIがフランシスの脳にダウンロードされる。
「解放しろ!(解き放て!)」
誰の声ともつかない叫びが響く。次の瞬間、先ほどに勝る光が世界を埋め尽くすと、両機体のコクピット・ブースがブラックアウトして機動を停止した。損害値から結果を判定、UNKNOWNが勝利を収めたことが、優勝の栄冠を得たことが知れる。勝者のブースからは何のコメントも得られず、パイロットがブースごと回収されたことも、ザ・ピットの陣営ではこれまでと変わらない。
「よい結果が出た。次回はこのシステムを採用する」
UNKNOWN(3分判定)アナザーバイソン1 -15vs-25 ※UNKNOWNが優勝
−結果−
ー順位ー機体名ーーーーーーーー機体ーパイロットーーーーーーーオペレーターーーーーーーメカニックーーーーーー
優勝 UNKNOWN ドラ フランシス=ヨハンナ UNKNOWN ウォルフガング卿
2位 アナザーバイソン1 イプ ゲルフ・ドック ジアニ・メージ ザム・ドック
3位 ダイストラベラー 7F 塩追津みひろ 不治村P 熟死野D
3位 ねころけっときっく 斑鳩 Nii−NX 山本いそべ 山本あんず
5位 サラ 7F シャルロット・RO アンジェラ・RO バーバラ・RO
5位 ホームランボール イプ 神代進 サイボーグフリッパー 伝説の船大工源さん
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