リプレイ追補編
 この回はリプレイではなく、前回および前々回で未解決となっていた『真実の指輪』事件のその後について追補編として書いたものです。荷馬車襲撃事件では現金収入がなく生活費にも苦労していた一行ですがロイド追跡の依頼を無事に?果たしたこともあり、前回所持金が足りなくてできなかったことも今度はできるようになりました。

絵 ミステル「それでは自称魔法使いさん、賢者の学院に行って調べて来てください」

絵 ザイード「何を?」

 若干名、忘れている者がいるようですが彼らは商人ノエルの持ち物であった『真実の指輪』という文字が彫り込まれている魔法の指輪を手にしています。おそらくはこの指輪を狙って荷馬車は襲撃を受け、商人もその従者も殺されてしまい平穏な街道はちょっとした騒ぎになりました。一行はノエルたちの護衛を依頼されていましたが、指輪を盗み出したロイドとシェリナの男女を追いかけている間に荷馬車を襲われていたのですから、言ってみれば指輪は彼らが依頼を失敗する原因となったいわくつきの品でした。


 賢者の学院とは魔法を志す者たちが集う巨大な学問の府であり、その中でもオランの学院は大陸中に高名をとどろかせている学問の中心地であった。気難しげな顔をして敷地を行き交っている賢人や哲学者たちに比べれば、狩人としても魔法使いとしても新参であるザイードなどは卵の殻を付けたままの存在にしか見えないだろう。
 指輪の調査には一日程度の時間がかかるとして、翌日にもう一度学院を訪れた一行は昨日にザイードが通されていた部屋とは異なる、奥まった場所へと案内されていた。窓もなく防音がよく施されているらしい部屋の造りを見れば、そこが周囲にはばかる話をするために設けられた場所であることは一目で分かる。やはり昨日調査を受け付けていた者とは異なる、より年輩の男が現れると事態に困惑したような顔で話を始める。

絵 GM「学院の人が言うには、指輪の正体は『嘘発見』のコモン・ルーンだと言うことだ」

絵 ミステル「ほお。コモン・ルーンで『センス・ライ』とは珍しいですな」

 コモン・ルーンというのは専用の合い言葉を唱えることで、予め込められている呪文が発動する魔法の道具のことを指しています。魔法使いでない人間でも呪文を使うことができるという品ですが、専門の術者が使う魔法に比べれば威力が劣りますし精神力の消耗を減らすこともできません。それでも魔法の心得がない殆どの者にとって便利な道具であることは間違いなく、賢者の学院を中心に少なくない数が流通されています。
 ところがこのコモン・ルーン、作ってしまえば誰でも使うことができるので例えば『魔法の矢』や『解錠』といった呪文があまり世間に出回ると犯罪などに利用されないとも限りません。学院としては流通する種類や量にそれなりの規制を設けているのです。『嘘発見』の呪文は強力なので使用者の精神力を大きく削る上に、意図的な嘘をすべて感知してしまうという特異な効果もあってオランの学院では違法とは言わないまでもコモン・ルーンにすることに規制がかけられている品物でした。もちろん、魔法使いの全員が学院を通して研究を行っている訳ではなくその全容が把握できている訳でもありません。

絵 クロマ「個人的に『嘘発見』はあまり好きな呪文ではありませんが」

絵 ザイード「そうなの?」

絵 クロマ「『嘘発見』は所詮嘘を見破るだけの呪文です。私が人を騙すつもりなら嘘なんかつきませんから」

絵 ファラ「さすがファラリスの神官ですね」

 ちなみにファラリスとは欲望のままに赴くことを推奨している暗黒神のこと。クロマの発言やファラの評価の当否はともかく、商人が商談で使うとなればこれほど便利な品も少ないでしょう。学院としては指輪を買い取る用意があるとのことで、一行は前向きに善処できるように検討する旨を約束すると返事を保留していったん引き上げました。


 一行が『偉大なハゲタカ亭』の扉を潜ると、それを待っていたように大柄な主人が身体を揺すりながら近付いてくる。先日、依頼を果たしたばかりのリリーナから再び一行を指名して頼みたい仕事があるということだ。新興ながらオランでも有数の豪商であるという女主人の屋敷の門を潜ると、執事に案内された部屋では気品のある女性が出迎えてくれる。一揃えの茶がふるまわれた後で語られたリリーナの依頼は、先日ノエルの荷馬車を襲撃した犯人たちの一団を捕まえて欲しいというものであった。依頼そのものに不都合はなく、一行としては断る理由もないが何故彼女がそれを頼んでくるのか首を傾げる。

絵 GM「順を追って話すけど、まず彼女は貿易商ギルドという組織に所属している。で、そこのトップであるワインバーガーという人の雇った傭兵が今回の荷馬車襲撃事件の犯人だというんだ」

絵 ターナ「貿易商ギルド?」

 貿易商ギルドはオラン周辺の新興商人により作られた組織である。商売を保護するために独自の相互幇助の関係を保っているが、盗賊ギルドに上納金を収めようとしないので、ノエルのような昔ながらのオラン商人とは当然のように仲が悪い。商売敵とまではいかずとも武装中立のような立場にあった訳だがそこでちょっとしたいざこざが起こった。
 事の発端はノエルがワインバーガーを相手にかなりあこぎな商談を行ったことにあるらしい。氏は憤慨したがあくまで商売上のことではある。本来であれば矛を収めても良かったのだが、ノエルがことあるごとに自慢している指輪の正体が『嘘発見』のコモン・ルーンであるという噂が流れてきた。このあたり、前後の経緯は定かではないがあるいはノエルの部下が漏らしたものかもしれない。ワインバーガー氏は傭兵を雇い、指輪の正体を探って可能であれば手に入れられないものかと考えた。指輪は違法ではないが規制されているような代物であり、手に入れればどれほど役に立つか知れたものではないだろう。

絵 GM「だが氏の雇った傭兵たちはろくでもない連中で、勢い余ってかノエルを殺してしまった。しかも山賊の仕業にでも見せようとしたのか、荷馬車の人々を皆殺しにして火を放つとそのまま逃げてしまったんだ。氏には予想外だったのかもしれないが、これは貿易商ギルドにとっては大変な失点になる。そこで貿易商ギルド自身の手で犯人を捕まえる必要がある…と、ここまで話したところでリリーナさんが言うよ。『私がなぜ貴方がたを呼んだか分かりますね?』」

絵 クロマ「いずれにしてもワインバーガー氏の失脚は避けられない。すると彼に代わってギルドを主導する者が必要になるということですな?」

絵 ファラ「でもそれだと私たち口封じされちゃいませんか?」

絵 クロマ「良い指摘です。ですが彼女自身にも指輪を盗もうとした女性と旦那が一緒にいたという醜聞がありますから、いっそ事情を知っている私たちを抱き込んでしまいたいんでしょうな。仮に盗賊ギルドが先んじて犯人を捕らえてしまえば貿易商ギルドにはもはや打つ手がなくなりますから、彼女も悠長にしている余裕は無い訳です」

 少なくともリリーナは事件と直接の関係がなく、彼女自身も何ら法を犯している訳ではない。裁かれるべきは荷馬車を襲いノエルたちを殺した犯人たちである。もともと冒険者一行はノエルの商隊を護衛して、それが失敗していたことを思えば犯人を追う理由も充分にある。都合よく考えるのであれば、汚名返上の絶好の機会がやってきたということであろう。

絵 ミステル「すると我々のリスクはワインバーガー氏に恨まれることと、盗賊ギルドの心象が悪くなるかもしれんことですかな?」

絵 クロマ「そうですね。盗賊ギルドは根回しをしておいた方がいいでしょう。氏に恨まれるのは仕方ありませんが、それは善処して頂けるということでよろしいですな、とリリーナさんに言っておきます」

絵 GM「もちろん彼女は頷くよ。『協力して頂ける以上、こちらも貿易商ギルドのために全力でお助けをさせて頂きますわ』」


絵 ファラ「確かにこういう話に『嘘発見』は必要ないですね」

 ミステルにザイード、そしてファラの三人は盗賊ギルドへと向かいますがクロマは今更のように、ファリス神官が行く場所ではないと言うとターナと屋敷に残りました。その間にリリーナの夫であるロイドに話を聞くつもりのようです。
 先の事件からすっかり元気?になったらしいロイド氏はクロマやターナとあまり視線を合わせようとはせず、彼らが指輪を盗むことになった経緯を話しました。当人が言うには貿易商ギルドの仕事でオランを離れていた折り、旅先の酒場でシェリナという女性に誘われて仕事の悩みもありつい逃げ出してしまったとのことです。とはいえ二人とも路銀がなく、ノエルの馬車に乗せてもらうことにしましたが、その彼が見せびらかしていた高価そうな指輪を見たシェリナが金になるかと盗み出してしまいました。指輪の正体については見当もつかないが、あれだけ大事にしていたからさぞ高価なものだろうと思う、ということです。

絵 GM「『僕は盗みをやめさせようとして彼女を追いかけたんだけどね』とロイドは言っている」

絵 ターナ「どうコメントしてやったらいいでしょうか?」

 その頃、盗賊ギルドを訪れていたミステルたちは用意された一室に案内されていました。特に犯人について集められる情報を手に入れたいという理由の他に、第一の目的はそれを彼らが追うことを盗賊ギルドに了承させることです。盗賊ギルドにすれば自分たちの保護下にあるノエルを害した犯人を見過ごすことができない以上、誰かにこれを追わせる必要がありました。

絵 ミステル「私らとしては護衛の仕事を失敗させられた、その犯人を放置できんのですよ。できれば情報を売って頂けませんかね」

絵 GM「そういうことなら盗賊ギルドとしても犯人を見過ごすことはできないからね。手を貸すのはやぶさかではないよ。ただ君たちは貿易商ギルドのリリーナ女史と会っていたようだけど、そこのトップのワインバーガー氏はご存知かな?」

絵 ミステル「お名前だけは。ですが会ったこともない方ですからなあ」

絵 GM「それなら結構。盗賊ギルドも情報を提供するので、是非とも犯人を捕まえてくれたまえ」

 こうして、一行は荷馬車を襲った傭兵が戦士二人に魔法使いが一人、それに猛獣使いが一人の計四人だったという情報と彼らの人相書きを手に入れることができました。数日前にブラードへ向かう途中の街道でそれらしい数人が見かけられたという噂もありましたが、真偽は不確かでその後の行方も知ることができません。
 一行は逃げた傭兵たちをどうやって追いかけるかを話し合います。彼らは少なくともオラン官憲と盗賊ギルド、それに貿易商ギルドにも追われる身であってこのままでは行き所がない。あるいは『真実の指輪』を手に入れて、それを交渉の材料にしてリリーナなりワインバーガーなりに保護を求めようとするのではないか。だからこちらが指輪を囮にすれば誘き出すことができないだろうか、というクロマの意見にミステルが反対します。

絵 ミステル「悪くはない考えですが、それだと犯人がもしも高飛びしようとしていたら手遅れになりますな。襲われたら迎撃する、そのつもりでブラードまで追いかけた方が無難でしょう。まずは相手の立場で考える、次は相手がどう動いても対応できる行動を選ぶことが肝心です」

絵 クロマ「成る程。実に参考になります」

絵 ザイード「盗賊に色々教わってるよ?この神官」

 こうしてオランの東に構えられた大門を抜けた一行はブラードへ続く街道を急ぐ。しばらく進むと右に大きく湾曲し、海岸線を右手に臨みながら南へ伸びる街道の様子はつい先日、通りがかったときと変わるものではないし、彼らが人を追っているという事情も同じものであった。異なる点があるとすれば、今彼らが追っている者たちは隙あらば刃を抜いて切りつけてくる可能性があるということだったろう。
 石畳で舗装された道を多少の強行軍で進みながら、日が暮れる時間になれば敢えて街道を少し脇に逸れた場所で野営の用意を整える。相手が逃げているのであればこちらの追跡を隠すためであり、相手がこちらを狙っているのであれば人目を避けた場所をつくるためである。果たして三日目の夜、かすかに鳴る鎧の音を耳にしたザイードとファラは武器を手に近付いてくる数人の姿に気付いた。

絵 ザイード「来たよー、と叫びながら手近な人を蹴ります」

絵 ファラ「同じく蹴ってからマトックを構えて前進します」

 襲撃者の組み合わせは盗賊ギルドで聞いていた通りに戦士が二人と魔法使いらしい男が一人、それに革鎧を着た男と彼が連れている大きな黒犬が一頭。知識判定に成功したミステルはそれが戦闘用のウォー・ドッグであることに気が付きます。更に判定に成功したミステルは革鎧の男が命令を与える都度、黒犬の動きが機敏になることを見抜きました。
 双方が接近するためにファラとクロマの二人が前進して相手の戦士二人と対峙、ミステルは短刀を抜いて黒犬を押さえに向かいます。ターナは猛獣使いに呪文の届く範囲まで近付こうと前進、相手の魔法使いが呪文を唱えようとしている様子を見たザイードは杖ではなく長弓を構えました。

絵 ザイード「撃ちまーす!」

 魔法使いらしからぬ先制攻撃は問答無用に命中、一撃で相手の生命力を半分以上削りますが反撃の『眠りの雲』を抵抗できずに眠ってしまいます。このまま相手に自由を許せば面倒なことになりかねませんが、次のラウンドで先手を取ったのはターナです。

絵 ターナ「前進したから届きますね。『光の精霊』を魔法使いに」

 弓のダメージを受けていた魔法使いはこれで撃沈。このラウンドから接敵した戦士たちの攻撃はそれぞれ外れて、ファラが反撃の刃を受けますがダメージはわずか。ミステルは黒犬に切りかかりますがこれもかすり傷を負わせただけで終わります。更に次のラウンド、ターナが『混乱』の呪文を猛獣使いにかけるとこれが成功して黒犬に命令ができなくなりました。クロマの槌矛は外れ、ファラの戦槌は命中するとクリティカルして一撃で戦士を沈めてしまいます。
 これで流れは冒険者側に。ミステルの短剣がクリティカルした次のターンには駆け付けたターナが手にしていたロングスピアで突きかかって黒犬もダウン。残るは混乱したままの猛獣使いと戦士が一人のみとなって、相手は両手を上げました。

絵 ザイード「すーすー寝てます」

絵 ミステル「ほっときましょう」

 荷馬車を襲撃した傭兵たちの一行は縛り上げられるとオランまで連れていかれる。彼らのその後は定かではないが、多くの者に手をかけた罪を思えばおそらく刑罰が軽く済むことはないだろう。決して気分がいいとは言えないが、殺された人々の無念を果たしたことは間違いない。
 事件の発端となった『真実の指輪』はすべてが片付いた後で賢者の学院に引き取らせるつもりでいる。相応の収入にはなるであろうし、規制された指輪を持ち歩く利益も少ない。何より、指輪を見て事件を思い返すのもあまり楽しくはないだろう。

絵 クロマ「ではせっかくですので、売り払う前に『嘘発見』のコモン・ルーンを使ってから依頼人への報告にあがりましょう」

絵 GM「それではリリーナさんから感謝の言葉だ。
  『よく犯人を捕まえてくださいました。これで貿易商ギルドの面子も立つことでしょう』
   もちろん嘘は言ってないよ。


絵   『彼らは罪のない人々を殺した極悪人。私が責任を持ってしかるべき場所に引き渡します』
   やっぱり嘘は言ってない。


絵   『ワインバーガー氏には気の毒ですが、彼もこのような人々を雇った罪は免れないでしょうね』
   これも嘘は言ってないよ。


絵   『貴方がたも良かったですね。このままでは犯人の身代わりに刑場に送られるところでしたから』
   もちろんこれも本当だ」


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