クオス首脳部に宛てた書状


当書状はバスキアより派遣されるトラッドノア調査員イーダ・カールソン及びニコ・カールソンに持たせ、その内容をクオス王城及び軍首脳部に伝えるものである。また当書状で提案される内容については、クオス、バスキア間の友好同盟に基づき、十全に実施される事を要望する。

A.バスキアよりコーア砦へガンナー兵団250人の派遣を受ける件について、可能な限りその構造や技術、有効な使用法を調査解明し、クオスの技術と為す事。クオスの軍人としては自軍の技術力を向上させる機会を十全に生かす事は当然の発想で、寧ろそう思わない方が不自然である。同時にバスキアで採掘用に使われている火薬の技術など、有用な興行技術についても順次研究を進めるべし。

B.上記のバスキアからの協力に対し、クオスから感謝と友好の証として可能な数の兵団をバスキアへ派遣、当地の防衛や警備に協力する事。情報ではコーア砦から撤退した800人程の兵がいるそうだが、そちらをバスキアの警護用として割り振る事も可能であろう。その際指揮権については、当面ルスカの指揮下に入るようにすれば余計な指揮官を派遣せずにすむし、こちらでバスキア警備隊の指揮下に入ることなども可能であろう。いずれにしても、この派兵はバスキアの好意に対する礼として、神聖クオス王国の名誉においても早急、確実に実施する事。

C.クオスよりバスキアに派遣する兵団について、魔法妨害の影響による回復呪文などの魔法効果の減少については、対陣する敵軍も同様の条件であり、医療兵団を有するバスキア軍と本来防御戦術に優れるクオス軍との協力、さらに魔法妨害に攻撃魔法も影響を受ける事を考慮すれば、これらが有利に働く点は変わらない。僧兵より寧ろ重装歩兵などが適任か。

D.前線コーア砦に派遣されるガンナー兵団に対し、僧兵と歩兵、ガンナーの協力による有効的な戦術を確立する事。防御戦術の強化、回復呪文の有効利用、後方からのガンナーによる射撃により、守備力に関しては極めて強力な戦法が確立される筈であり、帝国に対する防衛力を飛躍的に強化する事ができるだろう。また、これらの強化についてはあくまで防御力の重視を図っており、他国への侵攻ではなく専守防衛を目指している事を内外に知らす事で、政治的な正当性を主張できる筈である。

E.バスキアからの調査員であるカールソン兄妹、また、同使節であるウォズニ氏に対し、クオスでは可能な限りこれを厚遇、協力する事。トラッドノア帝国に奪われた黒柱石の追跡に協力し、同時に帝国へクオスから複数の調査員を送る事も忘れない事。密偵の成功率を高める為には複数の独立した潜入を同時に行う事は鉄則である。黒柱石追跡部隊に対し、連絡及び協力用にクオスの人間を何名か同行させ(人選は委任する)、同時に帝国及びイトリエールにクオスからの調査員を送り込み、帝国のみならずイトリエールの情報も収集する事。

F.個人的見解としては、帝国への調査員を潜入させるに際し、クオス西方より海路(大渦島を迂回して湾を直進)を通り、イトリエールから北方に向かうルートを推奨する。潜入の安全性に関しては最も期待できる反面、要する時間においては問題が生じる為、この場合は大渦島の人魚の協力を得る事が必要と思われるが、いずれにしてもこの件に関しては最終的にカールソン兄妹らの判断に委ねるべきか。黒柱石追跡部隊の帰還については前線コーア砦ルート、砂漠ルート、バスキア方面ルートが考えられるが、いずれの場合もクオスでの受け入れ体制は整えておく事。

G.イトリエール潜入部隊についても複数用意し、動向を探ると共に同国に反帝国感情を煽るよう工作する事。可能であればイトリエールと帝国が敵対し、帝国に侵攻するようになれば最高だが、目的としては両国が万が一にも協力し、結ばれる可能性だけを排除できれば充分である為、術策などに類する事はなるべく行わない事が賢明。密偵に王からの書状を持たせる等してイトリエール首脳部と接触し、クオスはバスキアと協力して、イトリエールと南北から帝国を挟み撃ちにする用意がある、と伝えるだけでも充分な効果が期待できる。この場合は両国間の同盟などより、帝国の驚異に対抗する為、共通の目的を潜在的に有し協力する体勢を整えるだけで良いと思われる。

H.上記イトリエール潜入部隊に関して、可能であればそのまま東方に移動、孤月への潜入を図り、同様に反帝国感情を煽るよう工作する。但しこちらは過大な期待をせず、不可能であると思われればあえて実施する必要はない。帝国東方の自治領他を牽制できれば良いが、不可能であれば孤月については別に対処を考える。

I.今後戦乱が拡大するにつれて、戦災による避難民が増大する可能性があるので、砂漠周辺から海岸線沿いの草原を中心に開拓を進める計画を立てると効果的である。当面は生産力と国力の増強を図り、将来的に避難民の受け入れ体制を整えていけば、他国に対して人道的にも政治的にも圧倒的な正当性を主張できるだろう。

J.本来トラッドノア帝国自体が地勢的に守りに弱い所がある為、将来的に包囲さえ整えば二国、三国の同時進攻によって充分これを討つ事が可能である。この時にクオスの回復力と防御力、バスキアの銃兵と魔法耐性力が融合されていれば、圧倒的優位に立てるだろう。

クオス神聖王国軍情報部大佐ウイリアム・ルスカ記

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