特集 祭りだ、祭りだ


◆祭りの匠、「手作り子どもみこし」を手がけて

   (社)日本DIY協会シニアアドバイザー 西沢 正人

 



 

祭りの匠(たくみ)、「手作り子どもみこし」を手がけて

 (社)日本DIY協会シニアアドバイザー 西沢 正人

 

 

 

 

現在まで2,000基以上の「手作り子どもみこし」を提供

 お祭りの季節ですね。

 わたしが携わった「手作り子どもみこし」が活躍していると聞くと、本当にうれしい。先日も声を掛けられ「まだ健在だよ。先生に教えてもらって丈夫に作ったからね」などと言ってくださる。やってきてよかったと思います。

 「手作り子どもみこし」というのは、担ぎたい、担がせてあげたいと思う人たちがみこしを手作りするためのもので、わたしたちはあくまでも手作りの手助けとして、原型の加工と組み立て前の部品や金具をキットにし、詳しい製作マニュアル本とビデオを付けて提供しているんです。ですから、基本構造以外の加工や塗装、飾り付けは作り手がそれぞれ自分たちで創意工夫をし、世界でたった一つのオリジナルみこしを作るというものなんです。

 わたしが「手作り子どもみこし」を考案・開発してからもう20数年になりますが、今まで国内は沖縄から北海道、外国ではトルコやギリシャ、フランス、アメリカのディズニーランドなど2,000基余りを提供してきました。中には完成みこしを持ってイベントに参加したこともあります。

 フランスにはフランスの子どもたちに担いでもらいたくて、完成品を持って行きました。最初担ぎ方が分からず戸惑(とまど)っていた子どもたちが、そのうち日本語で「わっしょい! わっしょい!」なんて掛け声が出るようになってね。楽しんでくれました。どこの国でも同じです。声を掛け合うようになれば、心が一つになっていくものです。

 大人のみこしは今までで1基だけ作りました。千葉の習志野市町内会の方々にどうしても作ってほしいと頼まれて。子どもみこしをそのまま大きくすればいいってもんじゃないし、約3か月掛かりました。

 

世界でたった一つ、自分たちのみこしを作ろう

 わたしは、もともと大工だったんです。30数年前に体を壊して、現在住む相鉄線の上星川の地に来てDIY(Do It Yourself=日曜大工)の専門店を開き、建築会社の顧問をするかたわら、DIY普及活動を始めました。DIYと言っても分かりにくいので、わたし流に「Dはどんな人でも、Iはいつでも、Yはやりましょう」と言って、手作りの楽しさを広めようと励んできました。そうした中から、このみこしが生まれました。子どもたちが参加でき、手作りの楽しみがあって、しかも地域社会のコミュニティ作りにも役立つものはないかと考えているうちに…ね。

 わたしは、下町育ちでお祭りが大好き。みこしを担ぐのが大好きでした。その楽しさを子どもたちに伝えたいじゃないですか。でも、みこしの原型ができるまでは大変でした。最初、たる型のたるみこしを作ったのですが、全くの失敗作ですぐ壊してしまった。いろいろと見て回りながら改良を重ね、今の形になるまで、たるみこしを含め試作が3基、3年掛かりました。

 手作りみこしが完成した年、神奈川県や新聞社などの後援を得て、「子どもみこしを作りませんか。部品は無料提供」と募集をしたら、町内会の子ども会や団地の自治会などから多数応募が来ました。うれしい悲鳴でした。

 そこで、「手作り子どもみこし製作指導会」を結成し、県内のいろいろな地域に製作指導のために通いました。組み立てや塗り、装飾部分の工夫などを町内会の人たちといっしょになって考える。飾り紐(ひも)や擬宝珠(ぎぼし=ネギの花の形をした飾り)なども市販品でなく、手作りできるように手助けするわけです。

 みこしのてっぺんに飾る鳳凰(ほうおう)を買う資金が無いからどうしようと相談されたこともありました。確かに鳳凰も市販されています。でも無理することはないんです。「残り紐などでわらじみたいのを作って竹べらを差し込むと、鳥らしく見えるでしょ」とヒントを出したり、「その年に完成しなくても、毎年少しずつ手を入れていくのも手作りの良さ」と言うんです。町内会の予算が少ないなら「廃品回収とかでお金を作るようにしたらどう?」とアドバイスをしたり。資金が少ない所はそれなりに工夫する、それが大事です。

 そして、無料提供した手作りみこしが一堂に会する「ちびっこ手作りおみこし祭り」をしました。1チーム30人の子どもたちによるみこしが20基、横浜市中区の伊勢佐木町商店街を練り歩き、大通り公園に集合するという企画で。色とりどりのみこしが「わっしょい、わっしょい」とやるわけです。付き添いの父兄なども参加しているから、それはにぎやかな祭りになりました。このイベントは、10年くらい続けましたね。

 手作りだからこそのユニークみこしも多いんですよ。

 小田原のチームは、小田原提灯(ちょうちん)風に飾りたいとなったんです。そこで、乳酸飲料の小さな容器を集めて塗料で色を付け、自分たちの名入り提灯で装飾したみこしを作ったんです。また、みこしの屋根下に幕のように金属の飾りがぶら下がっているのを「瓔珞(ようらく)」と言うのですが、ある幼稚園ではそれをビール瓶の栓で作った。栓を平らにたたいて穴を開け、銅線でつなぎ、金色のスプレーを掛ける。これで立派な瓔珞のでき上がり。手作りの味が出ているでしょ。地域には器用だったり、アイデア豊富なお母さんお父さんがいて、それぞれ独創的なみこしに仕上げています。これもみんなの知恵と協力があればこそ。保土ヶ谷区の町内会のにブルーのみこしもありました。ユニークですね。

神様にも、できばえにもこだわらない。それより人の「和」が大切

 本来、みこしは神様を迎えるために、扉が開くようになっています。うちのみこしは神様と関係無いから戸が閉まっている。神様が入れないんですね。だから神輿(みこし)と書かず、ひらがなで「みこし」としているんです。

 本当のみこしの良さは「わっしょい、わっしょい」と担ぎ手が心を一つにして担ぐことです。わたしはこの掛け声「わっしょい」を「和がいっしょ」ととらえています。つまり「和がいっしょ」と声を掛け合っていくうちに、乱れていた足元がそろってきて、心がいっしょになる。これが人の和、触れ合いです。今は人の触れ合いが少ない。声一つ掛けるだけで違うのにと思うんですがね。

 地域の子どもたちに日本の伝統であるみこしの良さを知ってもらうのも大切。それと同時に、この「和」を手作りする過程の中から自然に学べたらとも思うのです。親子の和 ─「きずな」を、地域社会の和 ─「コミュニティ」をもっと深めてほしい。

 手作りに参加した人に「みこしの裏に作り手の名を彫った銘板をはるといいよ」と勧めるんです。10年後、20年後、子どもにお父さん、お母さんが頑張って作ったと言えるものがある。それも親子のきずなのあかしです。

 大人が中心に作るのが多かったですが、子どもたちだけで製作したこともあります。泉区チームは、中学生くらいの子が集まって作った。飾り紐は縄をなえて作ろうとなった。けれど縄のなえ方が分からない。そこで、近所の農家のおばあちゃんに講習に来てもらった。最初は四苦八苦で、おばあちゃんの手取り足取りの教えでなんとかでき上がった。こうしたことから地域の人たちとの交流が生まれるんですね。地域の人たち、親子が協力して一つの物を作る喜び。いいでしょ。できばえのよしあしは関係無いです。

 それと、担いでいるとき、お年寄りの方がみこしが通ると手を合わせて「ありがたいね」と言ってくれたり、暑いだろうからと、氷水やお菓子を用意して待ってくれたり、その触れ合いもいいじゃないですか。

 

どんな人も、いつでも、物作りに挑戦しよう

 それと、みこしを手作りすることにより、その道具を知り、木を知り、自然を知ってほしいんです。

 みこし作りだけでなく、「自分でできる住まいの健康診断」という講座も開いて、マイホームの手入れや修繕方法などを奥さんたちに教えたり、子ども木工教室を開いています。

 幼稚園などに、「遊びや工作に」と、木の切れ端を時々持って行きます。切れ端ですから形も種類もいろいろですが、かえってそのふぞろいさが組み合わせによって、おもしろい造形作品にもなります。そのおもしろさを感じたり、自然の木のぬくもりというか感触になじんでほしいんです。

 講演や講座などで奥さんがたに「素材を知る努力をするように」と言うのです。例えば、まな板。昔からヒノキのまな板が良いと言われていますが、なぜだか分かります? 奥さんがたの中には、除菌剤などをわざわざ購入して殺菌する人がいますが、ヒノキのまな板ならサッと洗って晴れた日に日ぼしにすれば衛生的。もともとヒノキには自然の殺菌力がありますから。ヒノキ一つとってもそうでしょ。木だけでなく、ほかの素材でも性質などが分かっていれば、手入れや掃除のしかたも間違ったことをしなくなります。

 最近、「自分でするマイホーム改造計画」というテレビ番組などで、改修の様子がよく放映されていますが、わたしは以前から言っていました。専門家に任せるのもいいけれど、マイホームの手入れや修繕は自分でするのがいちばんとね。自分でやれば、愛着がわいてきて、家を大切にするようになります。初めからリフォームしようなんて考えなくていい。身の回りの棚や家具などの修理、ふすまや壁紙の張り替えなどから始めてみましょう。手入れが行き届いた家は気持ちの良いものですし、楽しいですよ。(談)

■西沢 正人(にしざわ まさひと)1924年生まれ。保土ヶ谷区上星川のウッドハウス(日曜大工センター)オーナー。日本DIY協会シニアアドバイザー。日用大工や住まいの手入れのアドバイザーとして、講演会の講師・テレビ出演等多数。「暮らしに役立つ日曜大工の知恵」(日本実業出版社)、「住まいの修理の手帳」(小学館)などの著書も。