ニュースリリース

 

法務省の「人権擁護推進審議会」が「性的指向等」を積極的救済の対象とすることを検討
〜あなたもパブリック・コメントを書こう!締切は1月19日〜

 

 この年末、国・地方自治体の人権施策のあり方をめぐって、いろいろと大きな動きが起こっています。11月21日、東京都が同性愛者をめぐって人権問題があることを明記した「人権施策推進指針」を発表。国会では、人権に関する教育・啓発をすすめるための「人権啓発・教育推進法」が成立しました。11月28日には、法務省が設置した「人権擁護推進審議会」(人権審、会長:塩野宏・東亜大教授)が、「人権救済制度のあり方に関する中間とりまとめ」を発表しました。これは、人権問題の解決のために、政府から独立した人権救済機関を設けるという画期的な内容であり、マスコミでも大きく取り上げられました。この「中間とりまとめ」の中に、注目すべき記述がありました。「性的指向等を理由とする差別的とりあつかいについては、積極的救済の対象とすることを引き続き検討することとする」というのです。

 

<「人権審」とは?>

 この「人権審」とは何でしょうか。
 これは、1996年に成立した「人権擁護施策推進法」にもとづいて国(法務省)が設置した審議会です。人権審は、@人権啓発・教育施策について、A人権被害者の救済施策について、の2点について検討することになっており、このうち@についてはすでに昨年7月に答申を発表しています。その後人権審は、Aについて検討をすすめ、28日の発表にいたったものです。
 今回人権審が発表した、政府からの独立性を持った人権救済機関の設立というのは、たいへん画期的な内容です。この提案の背景には、次のような問題があります。

(1)犯罪被害者や医療被害者の人権、個人情報の保護、メディア報道と人権など、人権問題が複雑化・高度化し、これまでののシステムでは解決できなくなりつつある。
(2)人権擁護委員制度や、法務局(法務省の出先機関)での人権相談など、これまでの人権擁護システムが、実際の問題解決に役立っていない。
(3)国際的な人権法や人権システムの整備が進み、発展途上国をふくめ、すでに多くの国が政府から独立した人権委員会をもっている。

 

<「性的指向等」については「積極的救済の対象とすることを検討」>

 では、この人権救済機関というのは、どのような権限をもつのでしょうか。人権審「中間まとめ」では、人権救済機関が行う人権侵害への対処の手法を次の二つに分けています。

(1)「相談」および「簡易な救済」(あっせん、指導など)
(2)積極的な救済(調停、仲裁、勧告・公表、訴訟援助、裁定など)

 そのうえで、(1)についてはあらゆる人権侵害を対象とするが、(2)については、強制的な手法などもふくむので、どのような人権侵害を積極的救済の対象にするのかを確定しなければならないとします。その上で、(2)の対象となるものとして、「差別・虐待の被害者は、様々な事情により司法的救済や裁判外紛争処理制度を利用できない場合が多い」とし、「人種、皮膚の色、民族・種族的出身、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病を理由とする、社会生活における差別的とりあつかい」について、積極的救済の対象にすると述べています。
 同性愛者については、これとは別に、「性的指向等を理由とする差別的とりあつかいについては、積極的救済の対象とすることを引き続き検討する」としています。なお、「性的指向等」は、「性的指向(異性愛、同性愛、両性愛の別を指すsexual orientationの略語)のほか、性同一性障害、インターセックス(先天的に身体上の性別が不明瞭であること)等をふくむ」と定義されています。

 

<「人権審」は「性的指向等」を積極的救済の対象とみとめるべき>

 人権審が「性的指向等」を検討の対象として明記したことは高く評価できます。しかし、他のさまざまな差別について、積極的救済の対象とするとしながら、性的指向については「検討する」どまりなのは気がかりです。もし、「引き続き検討」した結果として、「性的指向等」が範囲にふくまれないという結論が出た場合、同性愛者は、自分の「性的指向等」を理由に差別を受けたとしても、人権救済機関に積極的救済をはかることができなくなってしまうかもしれません。
 同性愛者は、学校や職場でのいじめ・差別、住居差別、公権力による差別、マスメディアによる誹謗中傷など、様々な人権侵害をこうむっています。私人間の人権侵害も絶えません。また、同性愛者は、自ら名のり出れば、さらに強い差別にさらされる危険があるため、人権侵害にあったとしても、裁判を求めたり、公共機関に訴え出るなどということはなかなかできませんでした。その意味で、同性愛者への人権侵害は、まさに人権救済機関の積極的救済の対象とするにふさわしいと考えられます。
 人権審は、いまのところ、同性愛者の人権侵害の実態について、何の調査も行っていません。人権審はすぐに、これらの実態の調査を行い、「性的指向等」に関して人権救済機関の積極的救済の対象に加えるべきです。

 

<人権審にパブリック・コメントを!締切は1月19日>

 人権審はこの「中間まとめ」に関して「パブリック・コメント」を募集しています。意見募集期間は本年11月29日から来年の1月19日までとなっています。ぜひとも、「性的指向等」を人権救済機関の積極的救済の対象に、という意見を送って下さい。書き方などについては、別紙の「パブリック・コメントを書こう!」をごらん下さい。
 また、人権審は「パブリック・コメント」だけではなく、1月末に札幌(30日)、東京(29日)、大阪(22日)、福岡(23日)で開かれる公聴会の意見発表者および傍聴希望者の募集も行っています。こちらは今月22日までとなっています。これについても、各地で積極的に応募いただければ幸いです。

 


 

法務省にパブリック・コメントを書こう!
<いそがしい方・時間のない方用>

 

 「パブリック・コメント」は、法務省や人権審から、一般の人に向かって開かれたただ一つの公的なルートです。「パブリック・コメント」で多数意見をしめれば、法務省はその意見を尊重せざるを得なくなります。逆に、「パブリック・コメント」が少ししか集まらなければ、当局との交渉や国会議員を通じての働きかけなどをいくら努力しても、法務省は動かないでしょう。「パブリック・コメント」はそれだけ重要なのです。ぜひ、「パブリック・コメント」を出しましょう。

 

最低限の「パブリック・コメント」の書き方

 時間に余裕がなかったり、いろいろと読むのがおっくうだという方は、ぜひ、以下の論点を入れて簡単にパブリック・コメントを書いて下さい。そのまま出しても結構です。

(1)「人権擁護推進審議会」が11月28日に発表した「中間まとめ」を読みました。
(2)「中間まとめ」では、人権侵害を「差別」「虐待」「公権力による人権侵害」「マスメディアによる人権侵害」の4つに分けていますが、同性愛者に対する人権侵害はどこにもふれられていません。ただちに、同性愛者に対する人権侵害への調査、ヒアリングなどを行ってください。(「第2」についての意見)
(3)また、「人権審」は「政府から独立した人権救済機関」の設立を提案していますが、「性的指向等」については、「積極的救済の対象とするか検討する」としか書かれていません。同性愛者は、様々な人権侵害にさらされる一方で、裁判や公共機関への提起を行うのは非常に難しい状況にあります。ぜひ、「積極的救済」の対象の一つとして位置づけて下さい。(「第4の1の(1)」についての意見)
(4)また、「人権審」は「人権救済機関」とNGO/NPOの連携についてあまり積極的でないように見受けられます。既成の機関の衣替えでは意味がありません。具体的に問題解決にあたっているNPO/NGOとの連携を、もっと強く明記して下さい。(「第6の5」についての意見)

送信の方法は、以下の通りです。

<ホームページを活用する場合>

法務省のホームページ上の「意見募集様式」(http://www.moj.go.jp/PUBLIC/JINKEN04/mail01.html)を選んで下さい。
上のモデル・レターは、意見の論点としては、「第2」、「第4の1の(1)」、「第6の5」の3つを含んでいます。お手間でなければ、論点ごとに分けて送っていただくか、それぞれの論点を選んで同一文章を三回送って下さい。また、時間がなければ、「第4の1の(1)」に関する意見ということで、送って頂ければ幸いです。

<郵便・ファクスの場合>

以下の宛先に、お送り下さい。
法務省人権擁護局内「人権擁護推進審議会意見募集」係
郵送:〒100-8977 東京都千代田区霞ヶ関1-1-1
FAX:03-3592-7084

 


 

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人権擁護推進審議会の「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」に対する意見募集等について

「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」に対する意見募集要領

人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ

(特に性的指向についての記述はここ