マジシャン別Very Best集

Channig Polock

Dove Productions

 

鳩出し「奇術研究」

2000/11/27

最初に

「ダブ・プロダクションズ」、日本では「鳩出し」と呼ばれるマジックがあります。マジックをやっていない人でも、一度や二度は見たことがあると思います。

現象

ハンカチやスカーフから本物の鳩が出現します。出す数は五、六羽くらいが一般的ですが、十羽近く出す人もいます。

最後は出現した鳩のうち一羽を空中に投げ上げるとスカーフに変化して落ちてきたり、数羽をまとめて鳥かごに入れ、鳥かごごと空中に消してしまうこともあります。

最後に

ナイトクラブが全盛の1970年代まで、「鳩出し」はプロマジシャンの定番の出し物でした。不思議さと同時に華やかさもあり、まさにナイトクラブなどにはピッタリのマジックです。今でもランス・バートンをはじめ、多くのプロマジシャンがこれをレパートリーにしています。

歴史的に見れば、「鳩出し」はそれほど古いマジックではありません。1940年代にメキシコ人のマジシャン、キャントゥ"Cantu"によって広められ、アメリカ人のプロマジシャン、チャニング・ポロックが演じるようになってからブームになりました。ポロックの演技は1959年に封切られたイタリアの映画"THE EUROPEAN NIGHTS"、邦題『ヨーロッパの夜』で紹介されています。この映画を見た世界中のマジシャンが「鳩出し」をするようになり、中にはポロックの演技を完全にコピーしたマジシャンも数多くいました。

今でもアマチュア、プロを問わず大変人気のあるマジックですが、生き物を扱うだけにそう簡単には出来ません。使用する鳩は「銀鳩」と呼ばれるものです。普通の鳩よりも小型で色は白です。ライトがあたるといっそう鮮やかに見えます。以前は小鳥を扱っている店に頼めば簡単に入手できたのですが、最近はむずかしいという話も聞いています。

「鳩出し」で一番大変なのは、鳩の訓練です。マジシャンは日頃から鳩を指先にとまるようしつけ、とまり木で静止してくれたり、鳩が舞台の上にあるスタンドまで勝手に飛んで行ってくれるよう、調教しなければなりません。これはそう簡単なことではありません。遠くまで飛ばないためと、もし飛んでも円を描いて戻ってくるようにするため、羽根の一部を切る必要もあります。

結婚式やパーティで、ゲストとして来てもらうマジシャンに「鳩出し」をしてもらう予定になっていると言うと、会場の担当者からはあまりよい顔をされません。もし鳩が食事をしている人の席に飛んで行くと、それだけで驚く人も少なくありません。また、抜けた鳩の毛が料理の上に落ちたり、ひどいときはフンを落とすこともありますから、会場の担当者として断るのも無理はありません。

どれだけ訓練をしておいても、生き物のことですから、予測不可能なこともあります。何年か前、ある番組で松田聖子がシルクハットから鳩を出したとき、出現した鳩が死んでいたこともありました。それでなくても狭いところに閉じこめられているのに、スタジオのような暑いところで放置すれば、鳩が死んでしまうこともあるでしょう。

とにかく様々なハプニングが起きますから、起こりそうなことをすべて事前に予測して、対応策を考えておくことが不可欠です。アマチュアが趣味でやるには少し荷が重いマジックです。

技術的には一枚のシルクから一羽の鳩が出てくるのが基本です。二羽を同時に出す「二羽出し」や、シルクを使わないで空の手から出現させる「ベアー・ハンド・プロダクション」、手袋を空中に投げると鳩に変化するものなど、今では数多くのバリエーションがあります。

またピンクやグリーンの鳩を出現させるため、鳩を染めている人もいますが、これは意味のないことです。赤いハンカチから赤い鳩を出すことが「論理的」とでも思っているのでしょうか。それでなくても鳩出しに使われる鳩にはいろいろと制約を加えられていますから、染めるといった意味のないことはやめておいたほうがよいでしょう。鳩がかわいそうです。

1960年代のはじめ、『ヨーロッパの夜』を見たアマチュアマジシャンの中には、勝手にタネを推測して、随分と無茶なことをやっている人もいました。上着の内ポケットに鳩を入れておき、ハンカチの陰でそれを引っ張り出してくるといった常人では思いもつかないことを本気でやっている人もいたのです。このようなことを思いついたのは一人だけではなかったようです。昔、アマチュアのマジシャンが出演していたテレビ番組を見ていたとき、鳩が上着の陰から首を出しているのを目撃したときは信じられない気持ちでした。

日本では季刊誌、『奇術研究(No.49)』(力書房、1968年)で「はとのプロダクション」が特集されています。これで一般にも「鳩出し」の基本的なやり方が知られるようになりましたが、それまでプロから「鳩出し」を習おうと思えば、その頃で一羽につき一万円の講習料と言われていました。五羽出そうと思えば五万円です。当時の一万円は今なら十万円くらいのものでしょう。東京にはプロマジシャンも数多くいたため、一羽につき二千円くらいで教えているマジシャンもいたようです。

鳩がなるべくスムーズに出てくるよう、各人が工夫をこらしたネタを使っています。今では大抵のネタは公開されていますが、これだけは秘密にしているマジシャンも大勢います。やはりマジシャンにとってはそれだけ思い入れの大きいマジックなのでしょう。

参考文献:

Encyclopedia of Dove Magic - Marian Chavez ($25.00) ハンクリーで入手可能。

ビデオ:

Behind the Seams -The Inner Secrets of Dove Magic ($49.95)
Ian Adair Art of Dove Magic($29.95) どちらもL&Lで入手可能。


戻る 傑作選集 魔法都市入口へ

k-miwa@nisiq.net:Send Mail