マジックの分類
マジックを分類するとき、いくつかの分け方があります。 細かく分ける場合は「現象別」に分類することが多いのですが、「素材」(鳩、カード、コイン、ロープ等)、「難易度」で分ける場合もあります。それ以外に、観客とマジシャンとの「距離」、つまり観客とマジシャンがどのくらい離れているかで分類する方法もよく使われます。 「距離」による分類としては、マジシャンと観客の距離が近いものから順に、「クロース・アップ・マジック」、「パーラー・マジック」、「ステージ・マジック」とおおざっぱに3つくらいに分けています。 1.クロース・アップ・マジック:Close-Up Magic 観客とマジシャンが大変接近している場合です。マジシャンはテーブルを前にして座ったままか、立って演じます。一度に見られる人数は10名程度です。 喫茶店やレストランで同じテーブルに着いている人に見せるような場合が一般的ですから、マジシャンにとっても観客にとっても気軽に楽しむことができます。 バーのカウンターで見せてもらったり、レストランの席にマジシャンがやってきて実演してくれるようなもの(テーブル・ホッピング)も、クロース・アップ・マジックの中に入ります。 コンベンション(マジックの大会)などでは、クロース・アップ・マジックのコンテストやクロース・アップ・マジックのショーがある場合、マジシャンはテーブルを前にして演じますが、観客が100名を越えるような場合もあります。こうなると大変見にくくなります。これはコンベンションなどの特殊な場合ですので、普通は観客の数は10名以内が理想です。 デビッド・カッパーフィールドは数千名入る会場でカードマジックをやっていましたが、このときはステージに巨大なスクリーンを用意し、そこに映して見せていました。これはあくまで特殊で、例外的なことです。 クロース・アップ・マジックはマジシャンと観客が接近していることが条件なのですが、近ければよいというものでもありません。 昔どこかのコンベンションで、クロース・アップ・マジックのコンテストで「鳩出し」をやった人がいたそうです。いくら目の前でやったとしても、本来このようなものはクロース・アップ・マジックとは言いません。扱う素材がカードやコインのように、目の前で見ないことには現象がよくわからないものを扱う場合に限り、クロース・アップ・マジックと呼んだほうがよいでしょう。目の前で「人体切断」や「人体浮揚」をやったからといっても、それをクロース・アップ・マジックとは呼びません。 2.パーラー・マジック:Parlor Magic 日本では「サロン・マジック」(Salon Magic)と呼ぶほうが、今でもとおりがよいかも知れません。 「サロン」(Salon)も「パーラー」(Parlor)も、部屋の種類を表す言葉です。しかし日本の住宅事情では、どちらもあまり縁がない言葉でしょう。西洋の大きな屋敷には、客を招いてパーティなどをしたり、お茶を飲んだりする部屋があります。そのような部屋のことですが、今では「リビング・ルーム」(Living Room)や「シッティング・ルーム」(Sitting Room)と呼ぶほうが英語でも一般的になっています。 とにかく、元来はこのような場所で見せるマジックです。そのため扱う素材はある程度後ろからでも見えるようなものでないと適していません。テーブルは道具を置いたり、取ってきたりするためには使いますが、テーブルの上にカードやコインを置いて、そこで見せるということはしません。カードやコインを使ってもよいのですが、マジシャンは立って、後ろの観客にも見える状態で演じます。観客の人数は数十名程度が一般的です。 3.ステージ・マジック:Stage Magic 一段高い舞台があるような場所で演じるマジックです。 プロがステージで行うショーや、アマチュアでも発表会や結婚式では一段高い場所で演じることもあります。 ステージがあるといっても、観客が数十名しか入れない会場から、東京国際フォーラムのように数千名も入る会場まであります。これを同じものと見なすのは無理があるかも知れませんが、先の「パーラー・マジック」が元来個人の家やちょっとした集まりで演じるものに対して、こちらはそれより広く、最初から専用の舞台(ステージ)があることが条件です。 鳩をスカーフから出現させたり、手から数多くのカードを取り出すカードマニピュレーションなどがステージマジックの代表のようなものでしたが、最近は大がかりな道具を使い、舞台で人間を浮かしたり、自動車を消したりするようなものもあります。このような大きな道具を使うものは「イリュージョン」(Illusion)と呼ばれるようになっています。 ステージマジシャンの場合、一人で鞄を担いで世界中をまわっている人もいれば、数十名の専属スタッフと何トンという機材を持ち込んでステージを作るデビッド・カッパーフィールドやランス・バートン、フランツ・ハラーレイのようなマジシャンもいますから、それを「ステージ・マジシャン」という言葉で同じカテゴリーに入れてしまうのはちょっと無理があります。そのため最近は大がかりな道具を使うものを「イリュージョン」と呼んで区別するようにしています。 ざっと分類しましたが、このような分け方はマジック・ショップが出しているカタログなどにも使用されています。「クロース・アップ用」となっていれば目の前の少人数を相手にしたもの、「パーラー」あるいは「サロン」となっていれば宴会やちょっとした集まりに適したもの、「ステージ用」とあれば結婚式の披露宴会場のような相当広いところでも見せられることを示しています。 現象別の分類としては、ダリエル・フィツキー(Dariel Fitzkee)によるものを「ラウンド・テーブル」に紹介しておきましたので、興味のある方はお読みください。
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