ストーリーのあるマジック
演出上の工夫:セリフ
適当なストーリーがあり、現象とうまく一致しているマジックを見せてもらうのはとても楽しいものです。ただ気をつけていただきたいのは、ストーリーが大切といっても、何でもかんでもストーリーをつければよいというものでもありません。 鬼瓦のような顔をしたいかついオヤジが、「あるとき王子様とお姫様がいました...」と切り出しても、見ているほうは興ざめか、気持ちが悪いだけです。 どのような物語を付けるかは演者のキャラクターや、観客の知性、好みも関係してきますから一概には言えません。そこがこのタイプの難しいところです。大人用、子供用、または女性と一対一で見せるとき専用のものなど、一つのマジックでもセリフだけは何とおりか前もって作っておくことも必要になるでしょう。 フレッド・カップスが演じていたマジックは、そのような意味でも大変よくできたものばかりです。大人の鑑賞に十分たえる演出になっています。 "Ring on Glass"は、観客から借りた指輪がカクテルグラスのステム(脚)の部分に入ってしまうマジックです。女性相手にお酒を飲む場で見せるのなら、これはとても自然な演出になるでしょう。 これ以外でも、"Gypsy Curse","Sidewalk Shuffle","Short Change Trick","Cannibal Cards"等々、現象とストーリーがよくマッチしています。 テンヨーの下村知行氏は昨年(1997年)第29回石田天海賞を受賞されました。その作品集『SERIFUWORKER』で、セリフを重視したトリックを数多く発表しておられます。このようなトリックのことを下村氏はしゃれて、「セリフワーキングトリック」と名付けておられました。ダジャレであることが引っ掛かりますが、まずまずのネーミングです。 この作品集に解説されているトリックは全編、セリフが重要な要素になっています。「セルフワーキングトリック」(selfworking Trick)はマニアにはお馴染みですが、「セリフワーキングトリック」というのは、私も今回初めて知りました。 マジックを行うとき、演出上の工夫は色々考えられます。なかでも、ストーリー、そしてそれを納得させるだけのセリフはマジックの練習以上に時間をかけて作り上げて行く必要があります。よくできた話やジョークは、マジックを数段、楽しいものにしてくれます。 マジックによってはストーリーを付けやすいものと、そうでないものがありますが、自分のペットトリックになっているようなもので、さらに気の利いたストーリーを付けることができたら、ますます愛着がわいてきます。 ぜひ、一つか二つでも、工夫して作ってみてください。
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