「すぐにバレる」とお嘆きのあなたに

 

1999/3/30

マジックを人前でやってみせると、すぐにタネがバレてしまうと嘆いている方がいます。

特に、マジックを始めてまだ間のない方が、手先の技術を必要とするマジックを家族や親しい友人に見せると、大抵バレてしまいます。相当長くマジックをやっている人でも、家の者や古くからの友人には見破られてしまうと嘆いているマジシャンはいくらでもいます。

なぜ、家族や古くからの知人はあなたのマジックを簡単に見破ってしまうのでしょう。

最初に言っておきますが、「家族に見破られる」と言っても、これの前提として、家族以外の、普通の人に見せた場合はマジックとして成立していることが条件です。誰に見せてもバレるようなものは、ただヘタだからバレているにすぎません。(笑)今問題にしようとしているのは、一般の人に見せたら十分通用している(と本人が思っている)技法等でも、家族や友人には通用しない場合のことです。思い当たる人は大勢いるはずです。(笑)

家族にマジックを見せたらバレるという場合、大きく分けて、二つの理由があります。

ひとつは、明らかに練習不足から来るものです。

マジックの本やビデオで覚えたばかりのものや、購入したばかりのネタをすぐ誰かに見せたくなる場合があります。このようなとき、近くにいるのは大抵家族や友人ですから、十分練習もしないまま見せてしまいがちです。ところが、このような状況で見せると、ほとんどの場合、失敗します。いくら簡単そうに思えるマジックでも、ある程度は練習が必要です。カードマジックなどで、少し長いルーティンのトリックなど、ひどいときは解説書を読みながら見せている人もいますから、これではうまく行くはずがありません。これは論外としても、大なり小なり、マジックを永くやっている人であればあるほど思い当たるはずです。(笑)

とにかく、今のような状況で見せると、技法を使わない簡単なものでもバレてしまうのは無理ありません。これはただ単純に練習不足から来ているだけですから、もう少し練習してから見せれば大丈夫です。

今回、ここで取り上げたかったのは、今のように練習不足から来ているものではなく、一般の人に見せたら大抵うまく行っているマジックなのに、家族や友人に見せたらバレる場合のことを問題にしたいのです。

なぜ家族や友人には、簡単に見破られてしまうのでしょう。その最大の原因は「緊張」です。家族に見せるのだから緊張などしないと思うかも知れませんが、技法を行うとき、普段使わない筋肉に力が入ります。精神的にも肉体的にも「緊張」します。

緊張が表に現れる原因は、ひとつはメンタルなもの、もう一つはまだ十分練習が出来ていないために、手などに余計な力が入ってしまい、それが原因で、普段の手つきとは違っているからです。

後者の例として、自動車の免許を取り立ての頃を思い出してください。ハンドルを異常なくらい強く握っていたはずです。車から降りたら、手が痛くなるくらい力を入れて握っていたと思います。しかし、乗っている時間に比例して、手から力は抜けてきます。無駄な力を入れなくても、必要なとき最小の力でハンドルが切れるようになってきます。ゴルフやテニス、その他どんなスポーツでも、慣れるにしたがって余計な力は抜けてきます。

マジックでも同じです。初対面のマジシャンと会ったとき、その人がどのくらいの腕前かは、極端な話、マジックを見せてもらわなくても、トランプを持っている手つきを見たら大抵わかります。2,3枚カードを配ってもらったり、シャッフルしている動作を見れば、ほとんどわかってしまいます。

話が少し逸れましたが、つまり、手に余計な「緊張」があるため、普段のあなたの手の形や、普段の動作と違うため、気づかれてしまうのです。これは家族のように、普段のあなたの動作を見慣れている人であればあるほど、敏感に感じます。むしろ本人は普段の自分の動きなど意識していませんから、少しくらい変わったところで気がつかないのですが、家族や友人のように、普段のあなたを知っている人は、少しでも不自然な動きや手の格好をすると、すぐに感づきます。

緊張は指先だけに現れるとは限りません。使うのは指先であっても、何か怪しげな技法を行うとき、「鼻の先がピクッと動く」、「咳払いをする」、「手で鼻をこする」、「眼鏡にさわる」、「声が突然大きくなる」といったように、その人特有の癖を出す場合もあります。このような動作も、普段のあなたのことを知っている人であればあるほど、すぐに気がつきます。

マジックがバレないためには過剰な緊張を表に出さないことが必要なのです。練習不足から来ているものであれば、もう少し練習を重ねれば余計な力が抜け、緊張も取れてきます。メンタルなものは、ある程度場数を踏んで、観客はどの程度まで注意深く見ているのか、またどの程度まで大胆にやっても大丈夫なものなのか、つまり、観客の注意力と、こちらの厚かましさのバランスをどうするか、この辺りに集約されてしまいます。慣れてくると、相当あつかましいことをやっても、観客は気がつきません。

ひとつ具体的な例をあげましょう。

「スポンジのウサギ」という有名なマジックがあります。これの一般的なルーティンでは、最後に子供が数匹産まれます。初心者の人にとっては、この子供をスティールしてくるところが大変難しく思えるようです。

しかし、実際は全然難しくありません。子供のウサギを入れておく場所も、靴下のところや、その他様々ですが、普通は上着のポケットに入れておけば十分です。観客が現象に驚いている間に、そこでマジックは終わったという雰囲気でリラックスし、ポケットに手を入れ、堂々とパームしてくればよいのです。素早くする必要もありません。マジシャンが、もうマジックは終わったという雰囲気を出せば、観客もマジシャンの手元に注目しなくなります。そのタイミングを見計らって取り出せば、ポケットに堂々と手を入れて取り出してきてもバレることなどありません。

次に、ダイ・ヴァーノンの言っている、"Be natural""Be yourself"を忘れないことです。いくら緊張が取れても、ある技法をするときだけ、普段のあなたの動作と違う動きをすれば、観客は気づきます。例えばスライディーニのマジックをやるときなど、ビデオで彼の動きまでコピーして、マジシャンの前で演じたら形態模写としてのギャグとしてはウケるでしょう。しかし、家族や友人の前で、あの動きをコピーして演じたら、返ってくる反応は、「大丈夫?」という不安そうな顔でしょう。あなたに何か悪いものでも憑いたのかと思って、心配するでしょう。

「自然である」ためには、普段のあなた自身の動きに近づけることが必要なのです。

家族に見せてもバレないようになれば、あとは誰に見せても大丈夫です。

魔法都市の住人 マジェイア


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