魔法都市日記(25)
1998年12月頃
新年のご挨拶にかえて
「12月の日記」で、新年の挨拶というのも妙な具合だが、今年になって最初の更新なので、一緒にまとめてさせていただくことにする。
「マジェイアのカフェ&魔法都市案内」を開いてから2回目の正月を迎えた。97年の7月にオープンし、約1年半の間に作ったHTMLファイルが345枚になっている。この数が多いのか少ないのかよくわからないが、マジック関係のWEB SITEとしてはそれなりに格好が付いてきたのではないかと自分でも思っている。多少のばらつきはあるとは思うが、「魔法都市案内」は週に1,2回のペースでの更新を目標に続けて行くつもりなので、今年も御愛顧のほどよろしく。
昨年一年間で、マジック関係のメールだけで、往復書簡を入れると500通以上になっている。このうち、ひと月ほど前に始めた「スカーニーのトリック」には50名近い方から連絡があった。この50通というのも想像していた以上に多かった。何にせよ、反響があるのはうれしい。
何度かメールの交換をしている神奈川在住のO氏のトリックが、今年中に海外のビデオで紹介されるかもしれない。O氏が、ある外国の売りネタを触っているうちに、新しい使い方を思いつき、それを原案者に送ったらいたく感激して、紹介したいと言ってきている。私もO氏から頂いたビデオを見せてもらったが、なかなかおもしろい。このO氏はこれ以外にもいくつか優秀な改案があり、大変センスのよい方なので私も楽しみにしている。
某月某日
暮れから正月休みにかけて、12連休という空前絶後の長期休暇が取れた。この間に、今回初めて行ったレストランが何軒かある。大抵、ひとつかふたつ、そのような場でもマジックをやったが、それは後でまとめて紹介するとして、その前にレストランの紹介をしておこう。
ひとつは、神戸ハーバーランドのモザイク3階にある"Pom Pon Rouge"(ポンポンルージュ)。ここは知り合いの大学生から教えてもらった。
大学生くらいの女の子は、おいしい店や雰囲気のよい店の情報は的確に把握している。友人同士の口コミなどがその主な情報源だろうが、ガイドブックなどで捜すより、この年代の女の子に教えてもらった方が100倍くらい正確で、隠れた穴場などを知ることができる。
ポンポンルージュは、「フランスの家庭料理を気楽な雰囲気で食べられる」ことを売り物にしている。テーブルの上には箸まで置いてある。実際、箸で食べても全然違和感がない。料金も大変安く、二人でたらふく食べて、ワインを飲んでも、1万円でお釣りが来る。(笑)
また、ハーバーランドからの夜景を眺めるのであれば、絶好のローケイションなので、カップルで行くのであれば本当におすすめのスポットである。夜は夜景を楽しめるように店内はライトを落としている。テーブルの上にあるキャンドルの灯り越しに、向かいの女性をながめると5割増しくらいで美人に見える。(本当に!)
追加情報 2002/1/3:この日記を読んでくださった方から大勢問い合わせを頂きました。上記のポンポンルージュは、残念ながら現在すでになくなっています。デートスポットとしては、安くて雰囲気のある店でしたので、残念ですが、同じようなタイプの店がモザイクには何軒かありますので、探してみてください。
ハーバランドからの夜景はすばらしいが、この店の窓からは、上の写真のように、ブルーに輝いたメリケンパークオリエンタルホテル、赤いポートタワー、緑の海洋博物館などが闇の中に浮かび上がり、一層ムードを盛り上げてくれる。この夜景がついて、先の料金なのだから本当に安い。
この店に行くのは今回が初めてなので前日に予約を入れておいたら、窓際のよい席を確保してくれていた。年輩のマネージャーは大変感じのよい人で、この人の教育の成果だろうが、カジュアルな雰囲気の店にしては店の人もみんな感じがよく、きびきびしており、気持ちがよい。
もう一軒は、大阪のウェスティンホテルにある地中海料理の店「ステラマリス」。夜は古代都市ポンペイをイメージした壁画が落ち着いた雰囲気を醸しだし、昼間は自然光をふんだんに採り入れた明るい空間になる。従来のホテルのメインダイニングとはずいぶん異なる印象である。ここは南仏を中心とした地中海沿岸の料理が中心で、料金も一流ホテルのメインダイニングにしてはリーズナブルである。予算はワインにをどうするかで変わってくるが、二人で2万円から3万円。
このウェスティンホテルは、大阪駅から歩いて15分くらいの場所で、空中庭園のあるスカイビル隣にある。本当は宿泊するのをすすめたいくらい部屋がよい。来年のクリスマスに、どこかで豪勢に彼女とすごしたいと思っているのなら、ぜひどうぞ。私の場合、部屋は借りたのだが、初めから宿泊の予定ではなく、別の目的で借りていたので数時間利用しただけで帰ってきたのが心残りではある。(笑)
年末年始に4名の方とオフミーティングをしたのだが、全員、初めての方なので、ご覧に入れたのは私が最初に見せるマジックとして、いつも演じているものばかりである。タイトルだけ書いておくことにする。
1.「ドクター・ダレーのラスト・カード・トリック」
2.「アンビシャス・カード」
3.「カボーティング・エース」(オリジナルはドクター・ダレーであるが、私がやっているのは別ヴァージョン)カードマジック以外では、
1.スポンジのウサギ
2.ペン・スルーエニシング某月某日
上で紹介したウェスティンホテルと同じ敷地にあるスカイビル(空中庭園のあるところ)で、「人体の不思議展2」を見る。本当なら12月末で終わる予定であったのが、好評のため、99年2月末まで延長するらしい。
展示してあるものは、人体の各部位や全身のサンプルである。しかも、これが模型ではなく、すべて本物であるところがすごい。本物といってもホルマリンに浸けてあるのではない。ドイツの科学者が開発した方法で、細胞から水分を抜き、代わりに樹脂を入れて固めてある。臭いもなく、腐敗もしないそうだ。筋肉だけのもの、神経だけのもの、身体の各部分を標本のように開いたものなど、100以上の展示品がある。それがむき出しで立ててある。
すべて、生前から本人の同意に基づき、献体として処理されている。しかし、考えてみれば、この人たちはつい何年か前までは普通に生きていた人ばかりである。身体だけがこのように残っているのを見ると、人間の身体というのは器に過ぎないことが実感としてよくわかる。普通は死ぬと数日で身体が腐ってくるので、ものとしての身体は消える。そして肉体の消滅が死を意味すると感じるが、こうして身体は腐ることなくいつまでも残っているのを見ると、死ぬというのは、この身体を動かしていたエネルギーが身体から離れてしまっただけであることがわかる。これはプラスチックの模型をながめていても感じないだろう。
某月某日
高校1年生のY君が、自分で考えたトランプマジックを見せてくれる。彼はマジックの本など一冊も読んだことはなく、私が彼に何度か見せた程度なのだが、偶然、ある原理を発見し、それをマジックに仕立てた。彼の兄に見せたらずいぶん驚いたので、私にも見せてくれた。現象を再現してみよう。
トランプを一組取り出し、よく切り混ぜる。テーブルの上に、裏向きのまま横一列に広げ、観客に好きなところから1枚トランプを抜き出してもらい、覚えたら一番上に戻してもらう。トランプ全体をよく切り混ぜる。観客にトランプを渡して、好きなだけ切ってもらってもよい。私もここでトランプを渡され、「好きなだけ切ってください」と言われたが、少々とまどった。今までの経過からすると、「キーカードローケイション」の原理を使ったものだと思っていたので、好きなだけ切ってよいと言われても、「リフルシャフッル」や「ファローシャフッル」なんかで切ったらまずいのだろうと思い、普通、日本でよく行われている切り方、あれを「ヒンズーシャッフル」というのだが、それだけで切って、渡した。
Y君は受け取ったトランプを広げながら、一枚抜き出した。確かに、それが私の覚えたトランプであった。実はこの後すぐに種明かしをしてくれたのだが、私の予想とはまったく違った原理であった。おそらく2回やってもらったら原理がわかったと思うが、一度見たときはキーカードだと思っていただけに、見事に引っかかった。知識の量でいえば、私のほうが彼より100万倍くらいはあると思うが、それでも引っかかるときは引っかかる。(笑)
このとき一緒に見ていた他の人も、私が引っかかったことに驚いていたが、これは驚くことはない。自慢するわけではないが、私は本当によく引っかかる。実際は知っているはずのものを見せられてもしょっちゅう引っかかる。例えば、今から20数年前、日本ではまだほとんど知られていなかった外国のネタがあり、それをマニア相手によく見せていた。それから10年ほどして、日本のマジックショップでマジックを見せてもらったら大変不思議だったので買って帰った。家で袋を開けたら、なんと、私が昔よくやっていた例のトリックであった.....。(汗)
また、知人からあるカードマジックを見せてもらい、あまりにも不思議だったので、「どこで覚えたの?」とたずねると、数年前、私から習ったと言われ、驚いたこともある。とにかく、こんなことが頻繁にある。アルツハイマーの前兆と思うかもしれないが、20年くらい前からこんな状態なので、そんなこともないのだろう。
数多くの原理を知っていると、あるマジックを見せてもらったとき、すぐに何種類かの原理が思いつく。「あれだな」とわかってしまう。ところが、マジックは同じ現象でも、それを引き起こす方法は何通りもあることが珍しくない。そのため、最初の段階で「あの方法」と思いこんでしまうと、最後でそれではなかったと気づいたときびっくりしてしまうのだ。つまり、数多くの原理を知っていると、最後まで現象を見なくても、途中で予想が付くので、あとは先入観を持って見てしまう。このため、先のY君が考えたような大変基本的なものでも、「原理1」だと思って見ていると、実際にはそれが「原理7」であったりすると引っかかる。
中学生、高校生、大学生あたりの子にマジックはよく見せているが、自分で考えたものを見せてもらったのは初めての経験であったので、びっくりしたのと同時にうれしい。
某月某日
大晦日のテレビは、2局が「超能力」関係の番組をやっていた。世紀末にふさわしいのかどうか知らないが、31日の夜、年賀状を書いたり、部屋の片づけをしながらチラチラとながめていたが、あまりのあほらしさにあきれてしまった。それにしても、「超能力者」というのは忘れた頃に出てくる。
明治、大正にも超能力ブームがあり、当時は「透視」や「念写」が流行っていた。このようなブームが起きるとき、大抵、後ろに「善意の権威」がついている。帝大の教授や判事など、ある程度社会的地位のある人がお墨付きを与え、それが話を一層ややこしくしている。実際には帝大の教授や判事が「超能力」のタネを知っているわけでも何でもなく、ただのシロウトの一人にすぎないのに、世間というのは妙なところに影響をうける。
「超能力者」も、狭い範囲で評判になっている間はそれで食って行けるのだが、あまりにもメジャーになると、立場が危うくなってくる。どこかでボロをだす。明治、大正の頃評判になった二人の女性超能力者は、うっかりしたミスからネタがばれそうになり、二人とも自殺してしまった。それにともない、後ろについていた帝大の教授もインチキ超能力の片棒を担いでいたことの責任から、大学を辞めている。アメリカでも、100年ほど前、霊を呼べることを売り物にしていた姉妹が、後年、あれはすべてウソであったと告白している。ある程度、良心の残っている「超能力者」であれば、世間に向かってウソをつき続けることに耐えられなくなるのだろう。
今回も、この手の番組によくありがちな、わけのわからない学者をよんできて何やら測定させていた。K氏の脳波を測定し、「スプーンが切断されるとき、左脳と右脳のアルファー波が均等に強く出ている。このとき力が最も強く発揮されるようだ」と言っていた。このような間抜けなコメントをまじめな顔で言っているのを聞くと、滑稽というより、気の毒になる。アルファー波の研究の前に、手品の研究でも先にやれと言いたくなってしまう。こういう学者がいるから、「アブセント・マインド・プロフェッサー」のネタが尽きることはないのだろう。
スプーンが切断される瞬間に、もし本当にアルファー波がそろって強くなっているのなら、それはそのとき「超能力者」が一番リラックスできているからだ。マジックは、常に観客が見ていることと裏でやっていることの間にはギャップがある。いつも観客より先回りをして何かをやっている。スプーンが切断される場面で言えば、実際の切断寸前の状態に持って行くのはその数分前ですべて終わっている。後はいかにもったいをつけて、数分間引っ張るか、それだけのことであり、スプーン曲げをやっていて一番おもしろいのがこの瞬間なのだ。緊張する部分など何もない。全部シゴトは終わって、あとはスプーンの首をちょいと振って落とすだけのことなので、何の緊張もない。リラックスしているから集中もできるので、アルファー波が出ているのだろう。(笑)
今回も、マジシャンの立ち会いはなかった。これは「超能力者」が拒否したに決まっている。明治の頃から「超能力者」が決まって言うせりふに、「超能力に不信感をもっている人がいると集中できないから退席して欲しい」というのがある。そりゃ手口をみんな知っている人がとなりにいたらやりにくくってしょうがないだろう。
今回の番組を見ていると、日本人のK氏もユリ・ゲラーも、小さな子供を十数名使っていた。触れ込みは、「子供のパワーをもらう」ということだが、所詮ミスディレクションのために利用しているにすぎない。あれだけ周りに小さい子供たちがうろついていたらミスディレクションには事欠かない。
ユリ・ゲラーの「新ネタ」としては、赤ダイコンの種子(1個はゴマ粒の半分くらいの大きさ)を袋から出し、それを10名ほどいた子供の手のひらに乗せて行く。乗せる個数は一人、数十個程度。ユリ・ゲラー自身の手には100個以上乗っていただろう。そして念を送るとタネが発芽するというのをやってくれた。私は手のひらのタネが全部発芽するのかと思ったら、ユリ・ゲラーの手のひらにあった100個くらいの1個だけが数ミリ芽を出していた。(笑) 言うまでもないと思うが、この1個も、「今」、発芽したものではない。本当に1,2分の間に、超能力で芽を出させるというのなら、1個だけタネを皿の上でも置いて、公明正大に、発芽してくる瞬間を見せて欲しいものだ。
デイブ・スペクターが、「子供たちのタネは発芽しないの?」と突っ込んだら、「みんなができるのなら、私がわざわざこの番組のために呼ばれた意味がない」とか言っていたが、これじゃ、子供に種を配ったのは、ミスディレクションのためと言っているようなものだ。
本当はこんな話題すら、ここで取り上げるつもりはなかったのだが、オウム事件以後、しばらくなかったこの手の番組が、またここに来て増えていることが気になる。事件直後は、ある程度自主規制していたようだが、もうほとぼりが冷めたと思っているのか、テレビ局はまた盛んにやり始めた。
「スプーン曲げ」に関しては、ラウンドテーブルでも以前書いたものがあるので、興味のある方はお読みいただきたい。
マジェイア