魔法都市日記(53)
2001年4月頃
この4月から仕事が猛烈に忙しくなった。昨年、一昨年は少しゆっくりしたいと思い、仕事をセーブしていた。今年は久しぶりに本気でやろうと決めたら、ひと月ほどの間に仕事が倍に増えて、あっと言う間に4年前の状態になっている。ホームページを作り始める前の状態である。短期間にこれだけ増えると、以前のペースを思い出すまでにひと月ほどかかってしまった。そんなこんなで4月は精神的、肉体的にくたくたになっていた。
息抜きをかねてユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に遊びに行くと、「スヌーピー・サウンド・ステージ・アドベンチャー」に、ルーシーの精神分析スタンドがあった。わらにもすがる想いで椅子に座ったが、5セント硬貨(約6円)なんて持っていない。しかし無料でルーシーからお言葉をいただけた。
精神分析スタンド 5¢
医師は「待機」中
「人生の秘訣は、強気と5セントを携帯すること!」 なのだそうだ。
ハーフダラーを常時携帯しているマジシャンは少なくないが、これからはネッコー(Nickel,5¢)もいるかもしれない。
某月某日
神戸の元町を上がったところにある神戸教会に、辻宏氏製作のパイプオルガンが設置された。それを記念して、はじめての演奏会が開催されたので行ってきた。
コンサート会場などにもパイプオルガンが備え付けられているところがある。音自体は、コンサート会場のほうが建物全体の音響効果を考慮して設計されているため断然よい。しかしパイプオルガンと教会という組み合わせは歴史的にみても密接に結びついているため、いちばんしっくりくる。今回のパイプオルガンはできたばかりなので、まだ全体に音が固い。何年かたてばパイプと木が馴染んで、しっとりと落ち着いてくるのだろう。
この後、ドイツパンが食べたくなり、三宮のフロインドリーブに寄る。ここは昔、吉田茂首相が、毎朝できたてのパンを飛行機で取り寄せていたことでもよく知られている。 黒パンにローストビーフをはさんだサンドイッチとコーヒーで遅い昼食を済ませる。
その後、東急ハンズにも寄ると、各フロアーで無料の手作り教室のようなものが開催されていた。パーティグッズやマジックのネタがあるフロアーでは、「南京玉すだれ」を作っていた。1時間で製作から演技まで教えてもらえるそうだ。一日に数回あり、定員6名でうち切るが、私が行ったとき、たまたま欠員が1名あったので入れてもらえた。
「南京玉すだれ」は竹と糸でできた普通のすだれのような形状をしているが、手で扱えるように小さくしたものである。江戸時代に日本で考案され、大道芸人や香具師が客を集めるときに使ったそうだ。にぎやかな囃子詞(はやしことば)と、次々といろいろな形を作ってみせることで、道行く人の足を止めていた。人が集まったところで物を販売する。
玉すだれの「玉」は小さいという意味で、「南京」は海外から伝わってきためずらしいものという印象を与える目的で付けられたようだ。当初、竹の数は36本であったが、その後関東では竹の長さが33センチ(一尺)のものを56本、関西では29センチの竹を44本使うものが主流になっている。 (左の写真は、講習会でもらった材料を使い、左半分が完成したもの。竹の数も20本と少ない)
南京玉すだれという芸は昔から知っていたが、これはマジックと曲芸の中間あたりに位置するのか、たまにマジックショップのカタログで見かけることはあっても、現物を目にすることはあまりなかった。それがここ数年前から、東急ハンズやキディランドのようなおもちゃ売り場でさえ見かけるようになった。このようなものが流行っているとも思えないのだが、どこかで隠れたブームにでもなっているのだろうか。
私が南京玉すだれを実際にやることなどこれから先もないと思うが、糸のかけ方や、基本的な演技だけでも知っていたら何かの役に立つかも知れない。どこかの講習会に参加して、本格的に習うとなるとおっくうになるが、1時間程度で作り方だけでも習得できればありがたい。
材料としてもらったものは竹の棒が20本、専用の糸、解説書である。添付されていた解説書には図入りで糸のかけ方、結び方が載っている。しかしこの講習会では少し違ったやりかたで教えているらしい。解説書にある方法が正式のものだが、それだと大抵の人ができないため、簡単にできる方法を開発したようだ。しかし教え方がうまくないため、一度や二度、見せてもらっても覚えられない。解説書にある図のほうがわかりやすいので、それでやってみることにした。
図を見ながらやってみると格別わかりにくいところもない。他の参加者がなぜこの絵を見て結べないのか不思議であった。実際にはこの本式の結び方のほうが手元の操作だけでできて、慣れれば早くできる。マジックの本で、解説書を読みながら指先を使うことに慣れているからできたのかも知れないが、簡易版などという中途半端なものを教えるくらいなら、最初から本式のものを教えたほうがよい。
時間は1時間と限られているので、はじめてやったものが時間内に20本の竹を上下全部結ぶのは無理である。残りは家でやることにして、すでに出来上がっているサンプルを使って演技指導をしてもらった。
一番簡単なものは「釣竿」である。これは手元に数本の竹を持ち、残りの棒を前に投げ出すと釣竿のように伸びてくれる。その他「鳥居」「万国国旗」「鯛」「富士山」などを練習した。「鯛」は上下のバランスが難しく、少し練習がいる。
プロが使っているような道具は完成品が1万円で販売されていた。最近は色が付いたものや、透明なアクリルの棒にキラキラと輝くテープで装飾したものまで出ている。色が付いたくらいではたいした差はないと思っていたが、実際に見ると、見た目の華やかさが随分違う。これなら若い女の子がやっても楽しい芸になるかも知れない。これまでは南京玉すだれをやっているグループといえば、大抵おじさんやおばさんと決まっていた。若い人でこれをやってみたいという人は見たことなかったが、これなら隠し芸として、若い人も増えるかも知れない。もうすでに、増えてきているのかも知れない。そうじゃないと、このような講習会など開くこともないはずだ。
某月某日
I.B.M.大阪リングの例会に出席する。ゲストとして女性が6名お見えになっていた。この中の 4名は今回が初めての方であった。
ご覧に入れた順番は、三輪、ファーガソン、松田、赤松、福岡、三輪で、全体で40分程度になった。私だけ最初と最後の2回させてもらった。
ファーガソン氏(上の写真)は先々月、大阪リングに入会されたカナダ出身のアマチュアマジシャンである。突然お願いしたが、うまい具合にスケッチブックを使ったネタを二つ持って来ていたので、それをやってもらうことにした。
出演者と観客の相性もあるのだろうが、今回はショー全体が大変うまくいったと思っている。翌日、今回初めて参加してくださった方から感想のメールを頂いた。それを読ませていただいても、私が感じたことと同じことを感じてくださっていたので、大変うれしかった。
メールの内容を手短に言うと、最初、例会の会場として使っている部屋に入ったときは、何とも殺風景なところだと思ったのだそうだ。ところが出演者の大半がマジックを始めて40年以上という人ばかりのせいか、前に出てきただけでその人独特の空気が漂っていて、その空気に魅了されたとあった。
私のやったものは別にして、松田さんの「ポーカー・デモンストレーション」、赤松さんの、コインボックスを使った一連のオリジナル・ルーティン、福岡さんの「シックス・カード・リピート」や上の写真にある「ティルト」、ファーガソン氏のカラフルなマジックなど、マジックの現象そのものも、私から見てもどれも楽しめるものばかりであった。しかし、今回初めてマジックをご覧になったかたが、そのようなことよりも、出演者の雰囲気のことを好ましく感じてくださったことは、マジックの現象を評価していただいたことよりも何倍もうれしいことであった。
話がそれるが、「魔法都市案内」は約4年近く続けてきて、言っておきたいことは大体言ったつもりであった。しかしここに来て、そうも言えなくなってきた。最近マジック界全体に地殻変動が起きている。これはインターネットの普及とも密接に関係している。ひとつ例をあげると、「種明かし問題」がそうである。他にもいろいろとあるが、一度行くところまで行けば、趣味としてのマジックのあり方、個人がどのように自分の趣味とつき合っていくのかを考え直すよい機会がやってくると思っている。
某月某日
something interestingの中で「月刊カリヨン」を紹介したところ、創刊時からの執筆者のお一人である渡部寛厚氏からメールをいただいた。渡部氏は現在もマジックを続けておられるようで、以前から「魔法都市案内」を読んでくださっていたそうである。インターネットの普及率が上がっているため、このようなことがよくある。 大変うれしいのだが、うかつなことは書けない(汗)。
日本語のような特殊な言語を使っていても、それを凌駕するほどの影響力をインターネットは持っている。月に4、5通の割合で、海外からもメールをもらう。つい先日もデンマークの人からもらった。日本語は読めなくても、写真や英語のタイトルを見れば、ある程度マジックをやっている人なら内容が推測できるからかも知れない。英語で読めないのかというメールをもらうことが年々増えているため、何とかしたいとは思っている。
某月某日
3月31日にオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパンに2度行ってきた。アメリカまで行かないと見られなかったものが、自宅から40分もあれば着いてしまう場所にできたのはありがたい。これだけ近いと、行こうと思えばいつでも行ける。しかし学校が春休みの間は混雑していると思い、しばらく見合わせていた。
4月も10日を過ぎた頃、平日と日曜に行ったら、どちらも拍子抜けするほど空いていた。会場内のどこを歩いても、看板やゴミ箱、車のナンバーまで全部英語で表示されている。エリアによっては、まるでアメリカの田舎町に来ているのかと錯覚するほど、のどかな雰囲気が漂っていた。これほど空いていたのは、4月の中旬まで、団体客を受け付けていなかったせいもあるようだ。
2度とも会場に着いたのは昼の12時少し前なのに、待ち時間は最高で30分のものが二つあっただけである。あとは待つこともなく、26ほどあるショーやアトラクションのすべてを楽しむことができた。
ゴールデンウィークに入ってからは団体客も解禁になり、連日大変な混みようになっている。中学、高校の修学旅行だけでも日に80校くらい来ているらしい。一番ひどいときは、道路がすべて人で埋まり、ラッシュ時の駅のホームと変わらないくらいの混みようであったと聞いている。
ストリート・パフォーマンスの一部をのぞいて、めぼしいものはすべて見ることができたが、それを全部レポートするのも面倒なので、順不同で私が印象に残ったものだけ、いくつか書いておきたい。
様々なアトラクションの中で、どれが面白いかは一概に言えないが、私の個人的な好みでは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド」、「ターミネーター2:3D」、「ウォーター・ワールド」がお薦めのベストスリー。その次のグループとしては「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」、「アニマル・アクターズ・ステージ」、「ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックン・ロールショー」、「モンスター・メーキャップ」などがある。
「E.T.アドベンチャー」や「ジョーズ」もそれなりに楽しめたのだが、ゴールデンウィーク以降のように、2時間以上待っても、もう一度乗りたいかとたずねられたら考えてしまう。
外にある特設ステージでも日に何度か音楽やダンスのショーをやっている。ストリート・パフォーマンスや、特定の場所でやっているショーもいくつかあるが、小さいイベントは、入場の際、会場の入り口でもらうその日のスケジュール表にも載っていないものもある。 このようなもので、どうしても見たいものがあるのなら、USJの案内所に電話でたずねると場所や時間を教えてもらえるようだ。
★ジュラシック・パーク・ザ・ライド (Jurrasic Park-The Ride)
ジュラシック・パークでは乗り物の最前列に座ることになった。本当ならどっさり水をかぶるところだが、一緒に行った友人が用意周到で、私の分までカッパをもってきてくれていた。ありがたいのだが、これが業務用の分厚いゴムでできたもので、このまま水の中に潜っても濡れないくらい丈夫なカッパであった。会場では薄いポンチョを200円で売っている。それで十分なのに、私たちだけがあまりにも大げさな格好をしているものだから、周囲の冷ややかな視線を感じてしまった(汗)。
コースの最後、研究所の中に入り、乗り物が上昇して行くと頭上にT-レックスが口を開け、目を光らせて現れる。みんなが一斉にそっちを向いて気を取られると、その瞬間、25メートル下に向かって落下する。T-レックスがミスディレクションになって、心の準備ができないまま突然落として驚かせるつもりなのか。
私は最前列に座っていたので下を見ると恐かったが、オープン以来、まだ誰も死んだ人はいないはずなので、とにかく手すりにしがみついていた。
着水した瞬間、上の写真のような水しぶきが上がるが、衝撃は見かけほどたいしたことはない。乗り物から降りると、自分の写っている写真がすでに出来上がっていた。モニターで確認して、気に入れば1300円で購入できる。T-レックスのどこかにカメラが隠してあるのか、カメラ目線で妙にばっちり写っていたが買うのはやめた。ゴムのカッパ姿があまりにも似合いすぎている。
★E.T.アドベンチャー (E.T. Adventure)
「空飛ぶ自転車」に乗る前に、係員に名前をたずねられる。最後に名前入りのカードでももらえるのかと思っていたら、E.T.が一人一人の名前を呼んでくれた(汗)。
薄暗い森の中を自転車で飛んで行くと、樹木のむせかえるような香りがする。場所によって匂いまで変えてあるようだ。お馴染みの名場面、月に向かって飛んでいくところでは、デビッド・カッパーフィールドのイリュージョン、"Flying"を思い出した。そう言えば、E.T.のテーマ曲も"Flying"というタイトルであった。
★マイアミ・スパイス (Miami Spice)
男性3人、女性4名のグループ。外にあるステージで日に何度かやっている。歌とダンスがすばらしい。男性も女性も、笑顔がみんな素敵で、それでいてセクシー。最後は客席からノリのよさそうな人をステージに上げて、一緒に踊っていた。
ストリート・パフォーマンスの場合、何らかの形で観客にも参加してもらうものが多い。このようなとき、手伝ってもらう観客の人選は難しいと思うのだが、さくらではないかと思うほど、みんな協力的である。これはステージの上から歌ったり踊ったりしている段階で、これはと思う人に目星を付けているのだろうか。ひょっとすると、年間フリーのパスポートなどもあるので、常連もかなりの率で含まれているのかもしれない。
★ジョーズ (Jaws)
会場の入り口に近づくと、ジョーズが逆さにつり下げられていた。ローマにある「真実の口」のライオンの前でも、日本人の行列は絶えることがない。USJではジョーズに頭や手を噛んでもらいたい人が大勢いるようで、常時100人くらい並んでいた。
「ジョーズが屏風に上手にジョーズの絵を描いた」という早口言葉を作ったら、会場内でジョーズを見かけるたびに反射的にこのフレーズが出てきて弱った。あんまり何度も言うものだから、一緒に行っていた友人から呆れられてしまった。
これも乗るまでに30分ほどかかった。しかし30分も並んだのは、ジュラシック・パークとこの二つだけだから、どうってこともない。
水の掛かる量はジュラシック・パークと比べたらたいしたことはないと思い、ここではさっきのカッパは使わなかった。しかし座席によってはジュラシック・パークと変わらないくらい濡れることもあるようだ。
アトラクション自体は、海面から炎が上がったり、船が大きく傾いたりすることはあってもそれほど恐くはない。
★ウォーター・ワールド (Water World)
映画の「ウォーター・ワールド」は興行的に失敗であったそうだが、アトラクションでは日米とも大成功している。映画での失敗分くらいは十分元が取れているのだろう。
小さい池の中を水上バイクやモーターボートが走りまわり、壁の向こうから飛んできた飛行機が着水するのは迫力がある。何かの間違いで客席まで飛行機が突っ込んでくることはないのだろうかと心配してしまう。たぶん、壁の向こうはジェットコースターのコースのようなものがあり、上から飛行機を滑らせてきて、最後にジャンプさせているのだろう。これなら位置エネルギーと運動エネルギーの関係だけで飛行距離も計算できるので、ほぼ正確に止まる位置まで調整できそうだ。もし飛行機自体のエンジンで飛び込んでくるのなら、何かのちょっとしたミスで客席にまで突っ込んでしまうこともあり得る。
客席の前方にいると、バケツで水をかけられたりもするので、濡れるのが嫌なら座る場所を考えたほうがよい。ここの水は決してきれいとは言い難い。ボートや水上バイクが走りまわっているためオイルも混ざっている。実際、掛けられた人の感想では相当に臭いらしい。自分からすすんで水を掛けて欲しい人は黄色いハンカチを持っているとねらってくれるという話も聞いた。もし側に座っている人が黄色いハンカチを振っていたら、透明なレインコートを頭からかぶって準備しておいたほうがよいかも知れない。水をかぶる可能性のあるアトラクションとしては、ジュラシック・パーク、ジョーズ、スヌーピーの急流滑り等があるが、ここの水が一番汚いと思うので、どうしても濡れるのが嫌な人は、座る席を考えるか、目薬、もしくは水中眼鏡でも準備しておいたほうがよいかも知れない。
絶対はずせないアトラクションのひとつではある。
★ターミネーター2:3D (Terminator 2:3D)
USJで一番感激したのがこの3Dの映画である。眼鏡をかけるとはいえ、今見ているものが映像なのか、実際にそこにあるものなのか区別がつかなくなる。スクリーンも大きく、現在のレベルではこれが3Dの動く画像としては技術的にも最高レベルなのだろうか。
最初、ステージの袖から本物のバイクに乗った役者が現れ、それが画面上のシュワルツネッガー扮する映像と変わる。途中で再び本物の役者がステージに現れるため、それが映像なのか本物の人間なのか、見ているだけではわからなくなってくる。
金属のかたまりがモコモコと形を変え、客席に向かって伸びてきたり、小さな空飛ぶ円盤のようなものがこちらに向かって飛んできたりすると、思わず体をのけぞらせてしまう。3Dの画像だから実際には顔に当たるはずはないと思っていても、もしひとつくらい本物の円盤が混ざっていて、それが顔に当たるようになっていたらと考えると恐ろしい。そこまでして観客を驚かせる仕掛けはしていないだろうが、あの凶暴なサイバー・ダイン・システムズのことだから、どさくさに紛れて一人くらい本当に抹殺するような仕掛けをしていないとも限らない。途中で何度か眼鏡をはずして、本当に映像なのか確かめてしまった。
映像だけでこれだけできてしまうのなら、マジシャンがやっているようなことくらい何だってできてしまうだろう。人を空中に浮かせることも、空中で人間を鳥に変えてしまうことも簡単にできてしまう。金属のかたまりが自由自在に形を変えるのだから、マジシャンがやっているような鉄のリングがつながったりはずれたりすることなど、どうってこともないにちがいない。
3Dの映像でマジックをやって見せたらどうなるのだろうと思っていたら、すでにそのようなものもあった。
USJの中ではないが、大阪の南港、WTCO(ワールド・トレーディング・センター・大阪)に「Mr.マリックの館」という見せ物小屋がある。入場料300円を払うと、3Dの映像で、しかもインタラクティブにマジックを見せてくれる。映画の中で、Mr.マリックが観客の思ったカードを当てたり、超魔術をやってくれたりするのだが、これが何ともつまらない。テレビで見ている「超魔術」よりも格段に面白くない。
マジックは「現実」の中で「幻影」を見せる。
3Dの画像は、「幻影」を「現実」であるかのように感じさせる。3Dの中でやっているマジックは、さらに「幻影」を見せる。つまり「幻影」からスタートして、「現実」−−>「幻影」と行くことで、結局元に戻っているに過ぎない。幻影の中で幻影を見せている。こうなると何のリアリティもない。夢の中で夢を見ているようなもので、少々不思議なことが起きたところで何の驚きもない。
話をUSJに戻すが、よくできた3Dの映像を見ていると、楽しみを通り越してついいろいろと考えてしまった。いったい何が「現実」なのか、「在る」とは何なのか。
「この目で見たから間違いない」と人は言う。英語でも"Seeing is believing."という言葉があるくらいだから、そう思うのは無理のないことなのだろう。何かが見えるということのメカニズムは、網膜に写ったものを電気信号として脳に伝えることでなりたっている。しかし人は寝ているときにも夢を見る。盲人も同じように夢を見る。とすれば、見るとはいったいどういうことなのだろう。
荘子は自分が蝶になって飛び廻っている夢を見た。あの蝶は幻なのだろうか。それとも昼間目を覚ましているときの自分の姿が、実際には蝶が見ている夢なのかもしれないと荘子は考えた。
夢を見ている当のものが、覚めれば、あっち、眠れば、こっち、要するにそういうことである。
『REMARK』(池田晶子 双葉社)
今、自分の見ているものが「現実」なのか「幻想」なのか区別がつかなくなったとき、それを見ている「私」という存在は一体何なのだろう。
★ブルース・ブラザーズ (The Blues Brothers)
野外にあるステージに、映画「ブルース・ブラザーズ」に似た二人組がパトカーでやってくる。映画の中で歌っていたものと同じ曲を歌い踊る。
★アニマル・アクターズ・ステージ (Animal Actors Stage)
鳥や動物が芸をするのだが、日本の「猿回し」の芸や、サーカスの猛獣使いとは違い、動物と人間が対等なのがよい。お互いがとてもフレンドリーなので、見ていても微笑ましい。中には時々言うことを聞かないのもいたが、人間だって気分の乗らないときもあるのだから無理もない。
行動心理学の学者が言っていたことだが、動物に何かの芸を仕込むとき、「飴と鞭」をやめて、徹底的に飴、つまりうまくできたら十分にほめてあげて、失敗したときはそのことは無視するという態度でやると、それまでよりも格段に短期間で芸をマスターしてくれるのだそうだ。恐怖心で動物をコントロールすると、動物も人間がすきを見せれば襲ってくる。そのような動物は、見た目にもいらついているのがわかる。アニマル・アクターズに出てくる動物はどれもみんな表情が穏やかなのがよい。 とは言え動物のことだから、予期せぬハプニングもある。本番中に、一緒に出演している鷹がインコを襲って、殺してしまったこともあったそうだ。
USJの中でも特に人気のあるものには「エクスプレス」というチケットを発行している。現在のところエクスプレスを発行しているものは「ジョーズ」「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド」「E.T.アドベンチャー」と、この「アニマル・アクターズ・ステージ」である。アニマル・アクターズは他の大がかりなアトラクションに比べると地味だと思うのに、意外なくらい人気があるようだ。
★バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド (Back To The Future-The Ride)
大きなスクリーンと、それと連動して動く乗り物の衝撃が強烈。ジュラシック・パークの乗り物は25メートル落下すると聞いていたので、あれが一番体にこたえるのかと思っていた。ところが意外なくらい落下の衝撃はなかった。このタイムマシーン、デロリアン号は、実際に動いているのは60センチ程度のことらしい。しかし溶岩が吹きだしている火口、氷河期の雪崩(なだれ)、恐竜が群れている間を、急上昇、急降下、急旋回しながら飛び交うとき、車体がかなり無茶な動きをする。
ジュラシック、・パークの25メートルの落下どころか、数百メートル、上昇したり落ちたりしているような気分になる。首や腰の悪い人は覚悟して乗った方がよい。知らないうちに足を踏ん張って、手はバーを強く握りしめていた。同伴者は二度と乗りたくないと言っていたが、私は絶対もう一度乗ってみたい。
★モンスター・メーキャップ (Monster Make-Up)
怪獣の顔を作る特殊メーキャップを見せるのかと思っていたら全然違った。もっとショーアップされていて、イリュージョンといってもよいマジックを最後に見せてくれる。
観客から選ばれた男女各一名に舞台に上がってもらう。女性の腕に大きな包丁をあてると、腕から血が噴き出す。これはトリックだとわかっていても、見ていてあまり気持ちのよいものではない。さらに強く押しつけると、ナイフが完全に腕に食い込んでいる。これはマジックショップでも販売されているナイフだが、あまり趣味のよいものではない。買ったところでこれを実演する機会もないので、私は持っていない。クロースアップで見せるのは無理だと思うが、ステージと客席くらいの距離があれば仕掛けの部分は全然見えない。欲しくなってしまった。
この後、男性を箱に入れて手足を縛り付ける。あとのことはあまり詳しく書くとオチがばれるので、以下省略。
★マジック&ジャグリング:(Magic & Juggling)パフォーマーはキシタカさん
「ジョーズ」の入り口付近を通りかかったとき、マジックをしそうな雰囲気の人が鞄から道具を出して準備をしていた。しばらく立ち止まって見ていると、アルミのカップを3個使ったジャグリングと、スポンジボールやロープのマジックを見せてくれた。はじめて見たときは15分程度の時間の中で、ジャグリングが7割、マジックが3割程度であったが、2度目に見たときはマジックのほうがジャグリングよりも多くなっていた。日によって出し物を変えているらしい。 白いバルーンで作ったスヌーピーは同伴者が欲しがるほどかわいい。
USJでは、このような街頭のパフォーマンスでも、レストラン等の中でやっているパフォーマンスであっても、必ずノートをもった係員が出演者のチェックをしている。客がどれくらい集まったか、どれくらい受けているかなど、細かいチェックがあるのだろう。人気がないとわかればすぐに首になるのだろうから厳しい。
★ハリウッド・マジック (Hollywood Magic)
週末や祝日の夜にやっている水上のショー(約20分間)。雨や風が強いときは中止になる。 名前にマジックとついているが、マジックのショーではない。
ハリウッド・マジックがあるときは、USJの中央にある大きな池の中に三カ所、特設のステージができる。観客とステージは30メートルくらい離れているので、よく見ようと思えば双眼鏡を持っていったほうがよい。
前半はミュージカルになっている。オリジナル曲や、「雨に唄えば」の曲に合わせてダンスがある。ユニバーサル映画はドラキュラ、狼男、フランケンシュタイン等、恐怖物には強いがミュージカル関係ですぐに思い浮かぶ曲といえば「雨に唄えば」くらいしかないのだろうか。
途中、レーザー光線や花火があったり、池の中を水上バイクが三台併走してカイトを揚げたりする。カイトが高速で飛び回るところなどこれまで見たことがないので、これは幻想的であった。これ以外にも、手の込んだ仕掛けがあるが、それは実際に見てのお楽しみということにしておいたほうがよいだろう。
このハリウッドマジックを見る場所が問題かも知れない。池のどこからでも見えるようになっているが、お薦めは、私が見た場所、つまりジュラシック・パークの前にあるディスカバリー・レストランの庭から見るのが一番見やすいのではないだろうか。ただしここから見るためには早い目に行って、場所を確保しないとすぐに埋まってしまう。レストランのテーブルに座っていては人のかげになって見えないので、池に面した壁に貼り付いて待ったほうがよい。池をはさんで反対側の岸のほうが広いが、そこでは前のほうの人はコンクリートの上に座らされる。これはつらいだろう。また座ったとしても、最前列の人以外は、池の中の様子は見えないかもしれない。
ショーが始まる時間が近づいてきたら、会場内のどこにこれほどの人がいたのかと思うほど池の周りに集まってきた。一時にこれだけ多くの人が池の周りにいるのなら、ハリウッド・マジックをやっている間は他のアトラクションは空いているかも知れない。昼間、どうしても見たいものがあったのに見逃したものがある人は、このショーが終わってすぐなら、比較的空いているかも知れないので、駆けつけてみるのもよいかも知れない。
レストラン関係
USJの中や、隣接しているシティー・ウォークの中には数多くの飲食店がある。ごく一部ではあるが、実際に入った店だけざっと書いておこう。
◆メルズ・ドライブイン (Mel's Drive-In)
50年代から60年代初頭のアメリカがそのまま残っている店。「アメリカン・グラフィティ」を見た人なら、映画に出てきたままなので懐かしいだろう。
Ford Hi-Boy Coupe(1932年)店の前には、映画の中で金髪の美しい女性が乗っていた車、1956年のFord T-Birdや、1932年の黄色いホット・ロッドFord Hi-Boy Coupe他、クラシックカーが6台が展示してある。
今から40年ほど前、おじが中古のキャデラックに乗っていた。当時のアメ車はとにかく大きく馬力があった。子供ならいっぺんに8人くらいらくに乗れた。これで六甲によくドライブに連れて行ってもらったものだ。この頃のアメリカでは、ガソリンは清涼飲料水よりも安かったのか、「燃費」などという発想はなかったようだ。走っていると、ガソリンタンクに穴が空いているのかと思うような減り方をすると、おじがよくぼやいていたのを思い出してしまった。
この店ではハンバーガーとオニオンリングを食べた。アメリカのハンバーガーやフレンチフライは、基本的に何も味が付いていない。日本で販売されているバーガー類はすでに味付けされている。それに慣れていると、この店のバーガーを食べると、何も味が付いていないので驚くかも知れない。店には塩、コショウ、マスタード、ケチャップ、バーベキューソース、マヨネーズなど、基本調味料が置いてある。それを使って、自分で好きなように味付けするようになっている。最初は面倒だと思うかも知れないが、決まった味を押しつけられるよりもこのほうがずっとよい。このようなシステムは、この店に限らず、アメリカから来ている他のバーガーショップでも同様である。
◆パークサイド・グリル (Park Side Grille)
ここは本格的なディナーも食べられる。値段もそこそこするので、バーガーショップのように気軽に入るのはためらうかも知れない。私が行ったときは午後の中途半端な時間であったので、お茶とケーキだけにしたが、それだけを食べた感じでも、料理もおいしいだろうという予感はした。時間のあるときにゆっくり食事をするにはお薦めの店のひとつ。
◆ルイズ・N.Y.ピザ・パーラー (Louie's N.Y. Pizza Parlor)
ピザとパスタの店。ピザの生地もおいしい。ワンピースが380円から480円くらいで食べられる。十分大きいのでこれをひとつと、パスタを頼めばそれで一食分くらいは済むだろう。安くておいしいという評判のせいで、いつも行列が出来ている。
◆スタジオ・スターズ・レストラン (Studio Stars Restaurant)
映画スタジオ内にあるカフェテリアのような雰囲気の店。カレー等の軽い食べ物と喫茶ができる。ユニバーサル映画に出演した歴代のスターが、ガラス絵や壁画になっている。
私が行ったときはどこの店も空いていたが、特にここは1割程度しか客が入っていなかった。随分きれいな店なのに、あまりにもガラガラで、これでやって行けるのか心配したが、それは杞憂で、今はどこの店も大変な混み具合になっているようだ。冷たい飲み物を注文したら、容器は縦に細長く、おまけに底のほうが上より小さいため、大変不安定である。お盆に乗せて運んでいたら簡単にひっくり返ってしまった。係員がすぐにやってきて、全部交換してくれたが、あの容器は不安定すぎる。容器のデザインを換えるか、ふたのついたものにしないとあぶない。
毎日かなりの人がひっくり返してるはずなので、店にとってもロスが多すぎるはずである。他の人はみんな慎重に運んでいるのだろうか。
ここに限らないが、日本では人気のあるセルフサービスの店の場合、先に席を確保してから注文をするのが慣例となっている。しかしUSJの場合、注文してからでないと座らせてくれない店が多いらしい。私が行ったときはどこの店も空いていたので問題はなかったが、今では席を確保することにも神経を使わないといけないらしい。
◆フィネガンズ・バー&グリル (Finnegan's Bar & Grill)
アイリッシュバーなので、アイリッシュコーヒーがおいしい。ここの名物は巨大なタマネギを一個丸ごと揚げた「オニオン・ブロッサム(上の写真)」(800円)。タマネギが菊の花のようになっている。一個丸ごと揚げてあると聞いていたが、たいしたことはないだろうと思い、これ以外にミートパイやその他2,3頼んだら、日本のものと比べると3倍くらいはある巨大なタマネギが出てきた。これは予想外であった。3,4人で行ったときか、これを頼んだら他の食べ物は軽いものにしたほうがよい。 中央にあるソースをつけて食べる。
ここではアイルランドの楽器を使った生演奏もあるので、聞きたい人は時間を事前に調べておいたほうがよい。
★フォッシル・フュエルズ (Fossil Fuels)
ジュラシック・パークのそばにあるカフェテラス。おやつに甘いものを食べたくなったらお薦め。温かいドーナツ生地の上に、ソフトクリームとストロベリーソース、またはチョコレートとバナナを添えたファンネルケ−キはいける。
以下はUSJの外、シティー・ウォークの中にある店。
◆青龍門
台湾家庭料理の店。東京には支店が数店あるのでよく知られているらしい。関西には今回がはじめて。店のインテリアは妙に凝っている。トイレの便器やエレベーターの入り口にちょっとした仕掛けがある。趣味のよい店とは思わないが、料理はどれもおいしくて、値段もリーズナブル。
店は5階にある。入るのはUSJの出口に近いところ、1階から直通のエレベーターで上がった方がよい。エレベーターの入り口に、上の写真のようなブタがいる。ここで合い言葉を言わないと扉が開かない。合い言葉は「山」と言えば、「川」と答えること……。
というのはウソ。忠臣蔵の討ち入りじゃないんだから。と言っても「オープン・セサミー」でもない。わからなければ係りのお姉さんが教えてくれるから心配無用。
◆KUA 'AINA
ハワイでは人気のあるバーガーショップ。大きさは日本のバーガーの倍くらいある。ここも自分で味を付けるようになっている。
◆風神雷神
中華の店。USJでお金を使いすぎて、財布の中が心配になったらここがよい。どれも安い 。
こうやって食べたものを書き出してみると、USJに2回行ったのと、オープン前にシティウォークに1回行っただけにしてはよく食べている。上に紹介したもの以外でも、ワゴンで売っている細長いカレーパン、キャラメルポップコーン、チュリトス(これはおいしい!)、アイスクリーム等……。ヒエッー、私は見ているか、食っているかしかやっていないのか……(汗)。
最近はインターネットや情報誌のせいで、事前に情報が入手できる。そのため、安くておいしいと評判の店はどこも大変な混雑ぶりである。しかし、もう少しお金を出してもよいのなら、混んでいるときでも比較的ゆっくり座って食事のできる店がある。上で紹介したパークサイド・グリルや、ロンバーズ・ランディングなどはお薦めである。
現在のところ予約のできるレストランとして、「フィネガンズ バー&グリル」「彩道」「パークサイド・グリル」「ロンバーズ・ランディング」がある。電話での予約はできないので、当日直接店に行って、時間を予約することになる。予約受付も店がオープンする30分前からなので、どうしても予約したいときは、時間を調べて、早い目に行った方がよい。(2001年5月18日現在)
レストラン以外で、これからUSJに行く人のために、現在のシステムでのいくつかのポイントを書いておこう。
まずチケット。これは絶対、JRの「みどりの窓口」で事前に購入しておくことを強くお薦めする。コンビニやホテル、旅行会社が手配してくれるものは「予約引き替え券」のため、これを持っていてもすぐには会場に入れない。USJの入り口で正規の入場券と交換してもらってやっと入れる。混んでいるときはこの交換のためだけに1時間以上並ばなければならないこともある。一番ひどいときは、入るまでに3時間近く待たされたそうである。これは不満が爆発しているので、早晩改善されることと思うが、今のところはJRのチケットを購入するのがベストだろう。
入場できる時間も、実際には予定よりも1時間から2時間くらい早く開けているそうだ。遠くから泊まりがけで来ているような人は、なるべく早く会場に行ったほうがよい。修学旅行等の団体客は正規の開場時間に合わせて到着するようなので、その前に入ったほうがよい。開場まで1時間くらい待ったとしても、そのほうが後のスケジュールがずっと楽になる。
入る前に、絶対これだけは見たいアトラクションを5つくらい、優先順位をつけて、事前にチェックしておいたほうがよい。入り口のゲートをくぐったら、一番見たいものに行く前に、2番目、3番目あたりのもので、USJが「エクスプレス・チケット」を発行しているものならその会場に行き、スタンプを押してもらう。時間が書いてあるので、その時間の少し前に行けば、それの待ち時間は最小限度で済む。このチケットをもらってから、一番見たいアトラクションの会場に行き、そこで並ぶ。それを見た後、エクスプレスの時間の関係で、他のアトラクションに行くか、エクスプレスのスタンプを押してもらったアトラクションに行くか決める。
★最後に
入場料は中学生以上が5,500円である。この料金で、私のように2回行っただけで全部のアトラクションが楽しめたら大変安く感じる。デビッド・カッパーフィールドのマジックはS席で12,000円。つまらないレクチャーでも5,000円は取られることを思えば、これは大変安い。しかし入場するまでに3時間待って、入ってからもひとつ見るだけで2時間半も待ったという人は、高すぎると感じるかもしれない。
マジックを見に行く人は、驚くために行くのだろう。ジュラシック・パークやジョーズのアトラクションを体験するために、2時間でも3時間でも平気で待っている人も驚きたいからである。これからのマジックショーは、驚きだけで勝負をするなら、USJやTDLのようなものには勝てない。マジシャンは、自分の芸や魅力をどうやってアピールしてゆくのか本気で考えないと生き残って行けなくなるだろう。
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「USJにドット・コム」(ここは民間のサイトだが、USJの情報が満載)