「ムトベ・パーム」に関して
2000/8/10
「ムトベパーム」というのは、大阪在住の歯科医師、六人部慶彦(むとべ よしひこ)氏によって考案されたコインマジックの技法です。「魔法都市日記(No.44)」でこのパームについて触れましたら、読んでくださった方からメールをいただきました。いったいどのような技法なのかというお問い合わせです。
私の場合、六人部君が今から20年近く前、この技法を考案したときから見せてもらっています。また同じ大阪奇術愛好会のメンバーでもありますので、ずっと昔から見てきました。六人部君も今から数年前まではコンベンションなどにもよく出かけていましたので、実際に彼から見せてもらった人も大勢いらっしゃるはずです。そのため、ある程度マジックをなさっている方でしたら、だいたいどのようなものかご存じだろうと思っていたのですが、1995年以降くらいから始めた方ですと、ご存じないかも知れません。
これまでに数多くの伝説があるムトベパームですが、実際にムトベパームを見たことがないと、何がどのようにすごいのかわからないでしょう。現在、文献でムトベパームを勉強しようと思えば、『夢のクロースアップ・マジック劇場』(松田道弘編、社会思想社、1992年、2,913円、ISBN-4390501887)に六人部君自身が解説しているものを読むしかありません。
ビデオでは"Stevens Magic Emporium"から出ていますThe Magic of Japan(Vol.45)くらいでしょう。このビデオは沢さん、厚川さん、根尾さん、ヒロサカイさん、ジョニー広瀬さんも出演してます。この中で六人部君は"3 Coin Assembly"を演じていますが、「ムトベパーム」の解説はありません。実際の演技では「ムトベパーム」を使っていますので、どのように見えるかはわかると思いますが、解説のときはその部分は省かれています。
「ムトベパーム」の特徴は、カードの「テンカイパーム」と同じように、パームをした状態で指が自由になる点です。「テンカイパーム」のコイン版と思ってよいかも知れません。カードとコインでは紙と金属、長方形と円形など随分差がありますので同じようには出来ませんが、上の写真のように、右手にパームをした状態でも、ほぼ完全に手の甲を伸ばして、指を開くこともできます。クラシックパームですと、手の甲が少し丸みを帯びてしまいますし、サムパームでは親指がピタッと人差し指の線とくっついた状態になります。ムトベパームではその欠点が克服できます。ただ、決してオールマイティではありません。別の欠点もあります。ひとつは難しいことです。それとどうしても手の形や指の長さの関係などで、やりにくい人もいます。もうひとつはよほどうまくやらないと、パームをする瞬間、流れが止まってしまうことです。そのため、どのようなマジックのどの部分に使うかをよく検討した上で使わないと、かえって不自然になってしまいます。
以上のような欠点を承知した上で、興味のある方は練習してください。