マジシャン紹介
Doug Henning(1947-2000)
2000/8/20 記
カナダ生まれのステージ・マジシャン。
6歳のとき、テレビで「美女の人体浮揚」を見たのがきっかけでマジックに興味を持ちました。その後、近所の図書館からマジックの本を借りてきて独習し、14歳のとき友人のバースデイパーティで演じたころにはレパートリーの数も増え、相当自信もあったようです。その頃地元の新聞に広告を出すとたちまち人気を博し、プライベートパーティ等でマジックを見せる機会も増えました。
高校を卒業後、一時期医者になることにも興味があったようですが、マジックへの思いには勝てず、医者への道は早々に見切りを付け、マジシャンになるための勉強を本格的に始めました。大学でもらっていた4,000ドルの奨学金で、ダイ・ヴァーノンやスライディーニなどに会うため、アメリカに旅行に行ったりしていました。
大学を出た直後、自分でデザインしたイリュージョンのショーを実現させるために、銀行から5,000ドル借りました。これは彼にとってはギャンブルであったことでしょう。「スペルバウンド」と名付けられたこのショーは、ロックの音楽をバックにマジックが演じられた最初のものになりました。このショーを見たアメリカのプロデューサーの口利きで、ミュージカル、「マジック・ショー」(1974年)をブロードウェイで公演しました。これは4年半続き、当時のブロードウェイで最長記録を塗り替えるほどの人気がありました。
1975年からはNBC放送でマジックの特別番組が作られ、それからは年に一回、スペシャル番組が恒例になりました。この頃から世界的に知られるようになり、日本にこの番組が紹介されたときも大きな反響を巻き起こしました。
まず一番特筆すべきことは、それまでのマジシャンのイメージを一新させたことです。燕尾服にシルクハットというスタイルから、Tシャツにジーンズ、髪も当時世界的に流行っていたヒッピーの人がやっていたようなスタイルで、とにかく、それまでのマジシャンのスタイルとはまったく違うものでした。使う音楽もロックで、それにあわせて飛び跳ねながら不思議な現象を見せてくれました。
しかし、いくら服装のスタイルが斬新であっても、それだけで人気が出るほどこの世界は甘くありません。ステージで演じられるマジックも、飛び切り不思議なものばかりだったのです。「人体切断」にしても、基本的な原理はよく知られていますが、マジシャンが見ても不思議で、いったいどうなっているのかわからないようなものが多かったのです。ハンカチから鳩を出すマジックは観客も見慣れていますが、Tシャツのままで、スカーフから大きなオウムなどを出されたら、これはやはり驚きます。
ダグ・ヘニングのこのようなスタイルは、マジシャンをめざしていた若い人に大きな影響を与えました。彼よりも9歳若いデビッド・カッパーフィールドも大きな影響を受けた一人です。普段着のような衣装でステージに立ち、ロックの音楽に合わせて飛び跳ねている姿を見ていると、マジシャンと言うより、近所の元気のよいお兄さんがマジックを見せてくれているといった気楽さがあったのかも知れません。
数々のオリジナルマジックもあります。年1回ある、テレビのスペシャル番組のために、最初の7年で演じたものとして、ブロックの壁を通り抜けたり、彼自身がサメに変わるもの、白い馬と黒い馬を一緒にするとシマウマに変わってしまうもの、4トンもある象を消したり、「インドのロープ」と呼ばれる古いマジックをアレンジしたものなどがありました。この番組はエミー賞を一度受賞し、7回エミー賞の候補にもあげられています。
ディズニーランドのパレードや、マイケル・ジャクソン、アース・ウィンド・アンド・ファイアーなど有名なミュージシャンのコンサートでもマジックの手法をつかった演出を手がけたりしています。今でこそ多くのミュージシャンがコンサートでマジックを取り入れていますが、このようなことを最初に始めたのもダグ・ヘニングです。
若い頃からヨガや瞑想にも興味があり、菜食主義者でもありました。インドにのめり込み、マジックよりも「本物の魔法」に関心が高まった時期もあったようです。ここ数年、またマジック界に戻り、ディズニーランドをしのぐ規模の遊園地を作る構想に積極的に参加していました。会場のいたるところにマジックの仕掛けがあるアミューズメントプレイスです。彼のことですから、きっと実現させてくれると期待していたのですが、今年(2000年)の2月、肝臓ガンのため、52歳の若さで突然亡くなりました。
日本には1979年11月来日、新宿コマで由実かおる主演で、堺正章がマジシャン役をやった「マジックと私」を監修しています。その後、1987年9月にも来日。著書は"Houdini: His Legend and His Magic"(1977年、チャールズ・レイノルズとの共著)があります。
魔法都市の住人 マジェイア