マジシャン紹介

マット・シューリエン

Matt Schulien (1890-1967)

Matt Schulien

 

1999/11/8 記


アメリカの伝説的バー・マジシャン。父親がドイツからの移民で、シカゴに定住後、バーを始める。マットは1930年頃からレストランやバーの客にマジックを見せることを始め、人気を博しました。彼の店は、長い間、シカゴ近辺のマジシャンのたまり場にもなっていました。レストラン&バーは、マットの死後、息子のエドワードとチャールズによって引き継がれ、今もシカゴのIrving Parkで、"Schulien's"という名前で続いてます。

彼がどのようなマジックをやっていたのかは、THE MAGIC OF MATT SCHULIEN (Philip Reed Willmarth著、Magic,Inc.1959年)で知ることができます。

マジック以外でも、店に来ている客を驚かすことが好きで、数多くのいたずらをしています。ショーが始まる少し前からラジオで音楽を流していると、突然臨時ニュースが流れてきました。町のある一角が火事で全部焼けたというニュースを流すのです。客席にはその一角に住んでいる人がいることを確認した上でのいたずらです。実際は、マットが隣の部屋からアナウンサーの口調で、「実況」しているだけです。家が丸焼けになったと聞かされた人があわてふためいて出て行こうとするのを、常連と一緒に楽しむという、度が過ぎるようなこともよくやっていました。しかし、それも憎めない彼のキャラクターのせいで、問題にはならなかったのでしょう。

近年、「バー・マジシャン」や、レストランで各テーブルを廻りながら、マジックを見せてゆく「テーブル・ホッパー」もすっかり定着しました。しかし、元来、このような仕事があったわけではありません。昔はバーのマスターやバーテンダーの中に、たまたまマジックの好きな者がいた場合、カウンターの客に簡単なマジックを見せたのが始まりです。バーのような席と、マジックは確かに合います。マジックは大人の遊び、人為的に作り出した幻想を楽しむという洒落た芸ですから、観客がよければ、このような場にはとてもよくマッチします。今ではマジックを見せるバーやレストランは各地にできていますが、当時は珍しいものであったでしょう。

マット・シューリエンは1930年頃から亡くなるまで、約40年間、シカゴの自分の店でマジックを見せていました。シカゴは、マジックに関してはニューヨークと並んで、特別な町です。歴史的に見ても、数多くのマジシャンが活躍しています。E.マーローも、この店にはよく来ていたようです。

マットのマジックは、トランプを使ったものが大半を占めています。それもバー・マジシャンによくある、「フォース」を使った「テイク・ワン」(1枚トランプを取ってもらい、それを当てる)タイプのものがほとんどです。ある意味、ワンパターンなのですが、そのため、「出現」には様々な工夫を凝らしています。観客のトランプを、どこから取り出すかには、独創的なものがありました。

マットがやっていたもので、最も有名なものとしては、テーブルにかけてある布の下から観客のトランプが出現する、"The Card Under The Tablecloth"でしょう。これは観客にトランプを1枚取ってもらい、サインをしたもらったトランプが、テーブルの中央、それもテーブル全体を覆っているテーブルクロスの下から出現するというものです。テーブルの上に、スプーンで水をかけると、白いクロスの下から透けて、客のカードが見えてきます。クロスの下からカードを取り出すと、間違いなく、客のサインのあるカードです。これは、近年、やはりシカゴで活躍しているユージン・バーガーも演じています。

他には、トランプ一組を壁に向かって投げると、1枚だけが壁に押しピンで張り付いてしまうものもあります。これも「マットのトリック」ということで、他のマジシャンは演じることを遠慮していたくらい、よく知られたマジックです。

それ以外に、コップの上に一組のトランプを置き、上から叩くと、インデックス(数字の書いてある部分)だけがちぎれて、コップの中に、落ちてくるマジックもよくやっていました。これは、マーローのビデオを見ているとき、偶然、シカゴ紹介の中で、店を継いでいるマットの息子が店でやっていました。やはり、オヤジのレパートリーは、数多く、継いでいるようです。

今なら問題がありそうな演出もあります。透明なグラスを日本の軍艦に見立てて、上からトランプをグラスめがけて、バラバラと落とします。トランプ1枚1枚が爆弾です。グラスを見ると、中に小さく折り畳まれたトランプが入っています。これが命中した爆弾です。そのトランプを開くと、客のカードです。これなど、太平洋戦争の最中や、直後にはよくうけたのでしょう。

ざっと2,3紹介しましたが、これ以外にも、「テイク・ワン」のものでも、色々と演出には工夫を凝らしています。繰り返しであっても、客を飽きさせないサービス精神はたいしたものです。決して上品とは言い難い人ですが、愛される人物であったとは間違いないでしょう。

役に立つアドバイスもしてくれていますので、それは「マット・シューリエンのアドバイス」として紹介しておきます。

魔法都市の住人 マジェイア


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