マジシャン紹介
トニー・スライディーニ Tony Slydini (1901-1991)
Tony Slydini (1901年-1991年) イタリア生れ。 20世紀を代表するクロースアップマジシャンのひとり。1930年にアメリカに移住。ニューヨークで自分のマジックスタジオを持ち、ショーやレクチャーを中心に活動していました。
クロースアップマジックにおけるミスディレクション(注:観客の注意を、マジシャンにとって見られると都合の悪い方向からそらせる技法)を徹底的に研究しました。それと「ラッピング」と組み合わせることで、オリジナルの技法やマジックを作り出しました。
少し大げさとも思える体の動きや視線の移動を使いますが、その分、”秘密の動作”(secret move)を行うときのミスディレクションは強烈です。 彼のマジックを本で読んでタネを知っていても、目の前で見せられるとひっかかるくらい強烈なものでした。
彼の体の動きや観客に話しかけるタイミグなどは、他人がコピーしようとしてもできません。やってできないことはないのですが、あまりにも彼独特の動きが多いので、一般の人が真似をすると、大変不自然なものになってしまうのです。典型的な「一代名人」でした。
日本で昔から最もよく知られている彼のマジックは、"Papaerball over the Head"でしょうか。(日本では「紙玉のコメディ」として知られています) これは日本でも何人かのマジシャンがテレビでやっていたこともあり、一般の人にも比較的知られています。 マジシャンの間では、スカーフををいくらしっかり結んでも、すぐにほどけてしまう「スライディーニ・シルク」や一連のコインマジックがよく知られています。
スライディーニが世界的に知られるようになったのは、N.Y.のタネン社が出した「スターズ・オブ・マジック」のシリーズの中で、"Cigarette Miracle","Flight of the Paper Balls","The Art of Using the Lap as a Servant"等が出版された頃からでしょう。 マニアの間では、コインマジックの名手となっていますが、実際には、シルク、タバコなどのマジックを彼自身は好んで演じていました。
私が個人的にスライディーニのマジックで最も好きなのは、「モンゴリアン・クロック」です。 トランプを12枚テーブルの上において時計の文字盤のような形を作り、心の中で思ってもらった時刻を当てるというものです。
セルフワーキングのような簡単なトリックですが、マニアでもはじめてみるとひっかかるくらいよくできていますし、一般の人に見せても、なぜ、心の中で思っただけの時間がわかるのか、大変不思議がります。本としては、『アンコール』("Slydini Encores")に、私個人は最も思い入れがあります。 20数年前、私がマジックの本を本格的に読み出したとき、スライディーニには、「ワン・コイン・ルーティン」という、たった一枚のコインだけを使って演じるマジックがあることを知りました。しかし、どこにも解説されておらず、ビデオもなかった時代ですから、どのようなものなのか、想像すらできませんでした。そのマジックがこの本に解説されていると知り、早速注文して、読んだのがつい昨日のようです。
この中でコインを消す技法として、「リボルブバニッシュ」も解説してあり、わくわくしながら読みました。
この本の中で解説されている別のトリッ"Sweet Salt"も一風変わった即席マジックです。テーブルの上にある食卓塩が砂糖になってしまいます。この『アンコール』を今あらためて手に取ってみると、表紙もすっかり色あせしています。 スライディーニも91年に亡くなっており、私がこの本を初めて手にしてからでも20年以上も経ったのかと思うと、"Sweet Salt"というより、ほろ苦い感慨もわいてきます。
日本には1978年と1980年に来日しています。
魔法都市の住人 マジェイア
書籍紹介
Magic of Slydini(Unique,1960)
- The Best of Slydini and More(Tannen ,1976)
- The Magical World of Slydini(Tannen, 1979)
- Slydini Encores(Slydini Studio, 1966)
- The Slydini Approach to Misdirection
- The Slydini Production Silk Routine
- Slydini Card Technique
- Slydini Color Changing Silk Routine