マジシャン紹介
1998/9/16記
東京生まれのアマチュア・マジシャン。日本奇術界の大功労者、大恩人であり、日本が世界に誇る碩学。国立国会図書館に勤務するかたわら、1950年代初頭から海外のマジックを精力的に紹介し、日本中で講習をしておられた。
当時出ていたマジックの専門誌、『奇術研究』(力書房、季刊誌)や『奇術界報』(日本奇術連盟、月刊)にも毎号、海外の傑作奇術を精力的に紹介してくださっていた。今と違い、洋書が簡単に手に入らない時代でありながら、日本でマジックをある程度本格的にやっている人のほとんどがダイ・バーノン、トニー・スライディーニ、エド・マーローといった大御所のマジックを知っているのはひとえに高木氏のおかげである。
数多くのマジッククラブの顧問や講師を努め、週末には毎週のように、どこかのマジッククラブで教えておられた。世界的に見ても、その博学ぶりは他を圧倒していた。知識、実技の両面で、これだけ精通している方は海外にも見あたらない。数十年にわたり、日本マジック界のスタンダードであった。レパートリーも広く、クロースアップマジックからステージまで、何でもこなしておられた。
戦前の銀座は今とは違い、夜になると店は閉まり、かわりに屋台が並んだそうである。そのような中に、大道で手品のタネを販売する手品師がいた。高木氏は子供の頃、そこに足しげく通い、教えてもらったことがマジックに興味を持つようになったきっかけだそうである。常にその道のプロから直接教えてもらうのをモットーとしておられた。これは後年、海外に出かけるようになってからも同じであった。
海外の有名なマジシャンはマジシャン相手のレクチャーを行うが、数十名が対象の一般的なレクチャーでは実際のところ、細かい部分や本当に重要な点はカットしたり、秘密にしていることが多い。そのことも高木氏はよくご存じであったから、相手が承諾してくれる限り、いつも個人的に習っておられた。スライディーニなど、「レクチャーのときはこう言ったけれど、本当の秘密はこれだよ」と、このときこっそりと教えてくれたりしたそうである。何の分野でもそうだが、「コツ」や「極意」と言われる部分は、その価値がわかる人にしかわからない。教える側も、この人ならわかるだろうと思う相手にしか話さないものである。「猫に小判」と思う人には本当の秘密は教えてくれない。
日本ではプロ・アマを問わず、高木氏に教わったマジシャンは数知れない。氏に何かを質問すると、こちらが期待していた数倍の情報が返ってくるのが常であった。いつもご自分が興味を持ち、マスターしたマジックや技法を惜しげもなく教えてくださっていた。まさにマジックの講師が天職と言ってよい方であった。
オリジナルも数多くあるが、「表からは見えない部分」でのオリジナル技法や、ちょっとした改案が多いため、一般には目立たないかもしれない。
個別のトリックとして比較的よく知られているものとして「ワンカップルーティン」がある。これは木製のカップ一つとボールを使う。海外でも好評で、70年代後半からよく研究しておられた。現象は普通の「カップ・アンド・ボール」をカップ1個でおこなうようなもの、あるいは「チョップカップ」のようなものであるが、最後のクライマックスがかわっている。大きなボールが出た後、カップを観客に渡すと、カップには穴が開いていない。つまり、むくの木の固まりになっている。私はこれをはじめて見せていただいたとき、「最後に木の固まりをロードするのですか?」と間抜けな質問をしたら大笑いされたのも今となっては懐かしい。後日、大阪にお見えになったとき、わざわざお持ちいただき、プレゼントしてくださったのが写真のカップである。
1981年に、高木氏の奇術活動40年を記念した会が開かれた。そのとき、参加者に配られたパンフレットには興味深い資料があるので、一部、抜粋して紹介したい。時代は1980年代初頭であることを考慮してお読みいただきたい。
持っている奇術用具類のほんの一部
カップ・アンド・ボール 約20組
リンキング・リング 約30組
四つ玉 段ボール箱2箱
カード 未使用デックが常時6ダース 消費量 :1週間に2デック
パケットトリック 数知れず
奇術文献 約7,000冊(雑誌類は除く)ビデオデッキ 7台
ビデオカセット(マジック関係のビデオが約180本)ビデオに関してはあまり多くないと思うかも知れないが、当時は現在のようにマジックのビデオやDVDは市販されていなかった。、マジックのレクチャービデオが売り出されたのは80年代中頃からである。この180本は、TVで放映されたものやプライベートに撮影されたものが大半である。
蔵書 約3万冊(平積みにすると、東京タワーの3倍!)
愛しいクロース・アップ・マジック.....ベスト5
1.コイン・アセンブリー 2.コイン・スルー・ザ・テーブル 3.カップ・アンド・ボール 4.トライアンフ 5.ホーミング・カード激しく好きなステージ・マジック....ベスト5
1.リンキング・リング 2.ロープ・マジック 3.ポケットへ通うカード 4. 袋卵 5.四つ玉身震いするほど好きな外国人マジシャン....ベスト5
1.フレッド・カップス 2.ダイ・ヴァーノン 3.トニー・スライディーニ 4.マックス・マリニ 5.フランシス・カーライルジーンとしびれた映画 .....ベスト5
1.バルカン超特急 2.ガス燈 3.スティング 4.鳥 5.激突(テレビ映画)胸をときめかせたすてきな女優 .....ベスト5
1.「鳥」に出演した女優 2.淡路恵子 3.中島みゆき(歌手) 4.浜美枝 5.イングリッド・バーグマン心の支えの愛読書
1.歎異 2.プロスギオン 3.ダンマ・パーダ研究しているオカタイ学問 .....ベスト5
1.日本法制史 2.臨床心理学 3.唯識論(仏教哲学) 4.古代中国史 5.数理統計学ひたすら憧れる外国都市 .....ベスト5
1.ザルツブルク(オーストリア) 2.ビクトリア(カナダ) 3.ニューヨーク(アメリカ) 4.ウィーン(オーストリア) 5.グラナダ(スペイン)思わず唾を飲み込むお勧め料理 .....ベスト5
1.フィッシャーマン(魚料理・赤坂) 2.カフェド・ニース(フランス料理・赤坂) 3.慶楽(中華料理・有楽町) 4.大多福(おでん・浅草) 5.逢楽屋(トンカツ・上野)不覚にも涙の出てしまう好物 .....ベスト5
1.トンカツ 2.イチゴ・シャーベット 3.カステラ 4.盛りそば 5.おでん(特につみれ)つい喉が鳴り、手が伸びてしまう飲み物 .....ベスト5
1.キリン・レモン 2.ワイン 3.梅酒 4.ジン・フィーズ 5.水(ジャンボ・ジョッキ入り)あまりうれしくない食物
1.ピーマン 2.ふき 3.ほや
高木重朗著作リスト
トランプの不思議(力書房,1956)
あなたは奇術師(力書房,1956)
マジック(マジックアイデアセンター,1966)
奇術を始める人のために(池田書店、1966)
エアロダイナミク・エーセス(立体社,1971)
カード奇術(鶴書房,1972)
手品・奇術・タネあかし(日本文芸社少年百科シリーズ5,1972)
トランプ奇術(ひばり書房,1973)
即席マジック(金沢文庫,1974)
奇術入門(池田書店,1974)
手品の研究(ごま書房,1975)
マジック・スクール(エルム,1976)
マジック入門(小学館,1977)
不思議の解剖(エルム,1976、二川滋夫、小野坂東との共著)
ロープ奇術入門(日本文芸社,1976)
カード奇術入門(日本文芸社,1977)
高木重朗の本(石田天海賞委員会,1979)
カードマジック事典(東京堂出版,1983)
コインマジック事典(東京堂出版,1986、二川滋夫との共著)
カードマジック入門事典(東京堂出版,1987、麦谷真里との共著)
ロープマジック(東京堂出版,1987) カードマジック(東京堂出版,1987)
魔法の心理学(講談社現代新書,1985)
トリックの心理学(講談社現代新書,1986)
大魔術の歴史(講談社現代新書,1988)
高木重朗の不思議の世界(東京堂出版,1992、高木氏の死後、カウフマンの"Amazing Miracles of Shigeo Takagi"を翻訳したもの))海外で出版されたもの
Amazing Miracles of Shigeo Takagi(Kaufman,1990)
Magie au Japon Special-Sigeo TakagiI(Mad Magic, No.20)
Owanto to Tama-Japanese Cups and Balls(レクチャーノート)
Sigeo Tkagi's One Cup Routine(Jeff Busby)
Sigeo Takagi's Coin Assenbly(Jeff Busby)
Sigeo Takagi's Coin Routine(Jeff Busby)
Sigeo Takagi's Coin Routine2(Jeff Busby)翻訳は雑誌に掲載されたものを入れると数百はあるでしょう。単行本になっているもので目に付くものだけ紹介しておきます。
天海のカード・マニュピュレーション
サイ・エンドフィールドのカードマジック
ルポールのカードマジック
現代カード奇術1
ロープ奇術 トランプの活花
スライハンド・マジック
サイ・エンドフィールドの奇術
ジョン・ハーマンのカード・マジック
魔法都市の住人 マジェイア