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「種明かし番組」について(1)

 

2001/3/24


1980年代の中頃から90年代初頭まで、日本はバブル景気に浮かれていたそうだ。そのせいか、世の中にもあぶく銭があふれかえり、金さえ出せば何でも許されると思っている連中がそこかしこにいた。何ともガラの悪い時代であった。

泡沫(うたかた)がいつまでも続くはずもなく、90年代に入るとバブル景気は突然終演を迎えた。しかし不況は予想外に長引き、今年ですでに10年になっている。これだけ続くと、今度は人間がさもしくなってくるのだろうか、金のためなら恥も外聞もなく、悪魔にでも喜んで魂を売るような連中が増えてきている。人の物だろうが何だろうが平気で売ってしまう。「泥棒にも三分の理(ことわり)」ではないが、この手の連中も、自分を正当化する理屈だけは一人前にこねている。「理屈と”こう薬”はどこにでも付く」というのは本当のようだ。

今回、私がテレビの「種明かし番組」について書いてみようと思ったのは、つい先日(2001年3月21日)、「超オフレコ! Mr.マリックの超魔術徹底解剖スペシャル2」(TBSテレビ)という番組を見たからである。この中でMr.マリックは10種類のマジックについて「種明かし」をやっていた。私自身、見ていてあまり気分のよいものではなかったが、この種の番組がどれほど放送されようと、実際のところ、私自身には何の実害もない。

昔から種明かし番組はあった。啓蒙的なものは別にして、食えなくなった手品師がごくたまに、テレビや雑誌でそのようなことをやることはあった。多少は後ろめたい気分があるのか、”こっそりと”という雰囲気でやっていたが、近ごろは恥も外聞もなくなっている。海外でも暴露だけを目的としたビデオが販売され、自分が儲かるのであれば他人のアイディアであろうが、マジックの世界で共通の財産として伝わっているものであろうが、お構いなしになっている。

テレビ局にとっては視聴率がすべてであり、高視聴率即善、視聴率の低いものは「悪」となるらしい。視聴率こそが何にも増して優先されることなのだろうが、それにしても彼らは恥という言葉を知らないのだろうか。

先の番組が放送された翌日、知人数名に感想を聞いてみた。すると、これは放っておくことはできないと思えてきた。今回私が感想を求めたのは、いずれも自分ではマジックをやらないが、見るのは好きという人である。このような人のうち、7名中6名までが、この番組が不愉快であったと言っていた。それに加えて、数ヶ月前に放送された第1回目を見たときに腹が立ったので、今回は見なかったという人が3名いた。合わせると10名中9名までが拒否反応を起こしていた。

この9名の人たちに共通している感想は、「マジックの基本的な原理をいくつか知ってしまったため、他のマジックを見ても以前のように感激できなくなってしまった」ということであった。今回の番組が犯した罪で最大のものが、このことだろう。この番組に拒否反応を示した人の意見としては、これに集約できると私も思っている。 付け加えるなら、マジックをパズルの謎解きのように見せるのもどうかと思うが、それはまあ、先のことに比べれば罪はずっと軽い。

今回、Mr.マリックが種を暴露したものの中には、原案者こそ不明であっても、現在も市販されているネタや多くのマジシャンに演じられているトリックがある。また、マジックの特徴として、見た目の現象はちがっていても、根本の原理を暴露してしまうと、その数倍、数十倍のトリックを暴露したのと同じことになる場合も少なくない。

書籍でもマジックのタネを解説したものはいくらでも書店の棚に並んでいるが、本の場合、種を知りたい人は当人の意志で購入し、それを読んでいる。しかしテレビというメディアはこちらの意志に関係なく情報を押しつけてくる。マジックのタネなど知りたくないと思っていても、現象の後に種明かしがあれば見てしまうだろう。種明かしのときだけチャンネルを変え、現象だけを見るということは大変面倒で、できるものではない。知人の中には最初の15分間見ただけでスイッチを切ってしまった人もいた。

世の中には種を知りたいと思う人もいるだろうが、種など知りたくないと思っている人も大勢いることをテレビ局はわかっていないのだろうか。

日本にはプロマジシャンの団体である「日本奇術協会」がある。今回の番組に関して、日本奇術協会の正式コメントはまだ出ていないが、過去の経緯から判断しても、協会がこの種の番組に異議を唱えるのは、ただ一点からの理由である。すなわち、協会員の生活権を脅かされるから、というときだけなのだ。舞台で演じているマジックを種明かしされたら、それは二度とステージでは使えないので、そのようなときだけ警告するということである。テレビ局に対しても、法的に争って勝つ見込みがあるのはこの一点しかないらしい。著作権の問題を絡めて法的に争っても勝ち目はないそうだ。

しかし、この種の番組を法的に規制することには、私自身は興味も、関心もない。また、プロマジシャンの生活権が脅かされるからという理由で、この種の暴露番組に異議を唱えようとも思わない。そのようなことではなく、世の中には、マジックを見るのが好きで、ただ純粋に楽しみたいと思っている人が大勢いるのに、その人達の楽しみを勝手に奪うようなことをしてほしくないと、私は言いたいのである。法的に規制する以前に、この種の番組に出演しているマジシャンや、番組を放送するテレビ局の人たちが、どれほど多くの人に不愉快な思いをさせているのか気づいて欲しい。

「求める人がいるから与えるのだ」という論理が正しいのなら、麻薬の売人だって同じことを言っている。

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魔法都市の住人 マジェイア


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