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「種明かし番組」について(2)

 

2001/4/20


「種明かし番組について(1)」を掲載したところ、予想していた以上の反響があった。メールだけでなく、アマチュアマジシャンやプロマジシャン、メーカーの方にも直接話をうかがうことができた。テレビでの「種明かし問題」をどのように捉えるかは立場によって大きく異なっている。いくつかのご意見を紹介してみたい。

まず最初に、マニアと言われる人の意見である。この人達は、マジックショップなどで今も市販されている道具を種明かしの材料に使われたことに憤慨していた。

具体的には「超オフレコ! Mr.マリックの超魔術徹底解剖スペシャル1」でやったものとしては「気化する水入りコップ」があり、2回目のものでは、「Rope」がそうであった。せっかく高い金を出して買ったのに、テレビで種明かしをされたのでもう使えないと怒っている。「Rope」は、最近日本のショップでは見かけなくなったが、昔購入したものを現在も愛用している方は少なくない。「気化する水入りコップ」に関しては今でも日本の某メーカーが販売している。私もこのことは気になっていた。もしメーカーがMr.マリックに種明かしをすることを許可しているのであれば、それは買ったものに対して背信行為である。

話が少しそれるが、パーソナルコンピューターが普及し始めた1980年代後半、市販されているゲームソフトにはコピー防止のプロテクトが掛けられていた。当時、ソフトはフロッピーディスクで販売されていたため、丸ごとコピーしようと思えば簡単にできたのであるが、特殊なフォーマットを使い、コピーできないようになっているものもあった。しかし鍵を掛けたらそれを破ることを商売にしている人が出てくる。どれだけ特殊な仕掛けをしようが、ひと月もしないうちにそれを破るソフトが販売されていた。

掛ける側も破る側もそれなりの専門的な知識がいるのだが、当時大阪の日本橋で偶然知り合った高校生は、某ゲームメーカーから相当額の金をもらい、ソフトにプロテクトを掛けていた。東京までグリーン車で往復して、週に1度くらいの割合で打ち合わせに行っていた。しかしこの高校生のひどいところは、会社からかなりの額の金をもらっておきながら、自分でかけたプロテクトを破るソフトを作り、別ルートで販売していたことだ。どこをどうすればはずれるのか自分が一番よく知っているのだから、これほどラクなことはない。二重スパイのようなことをやって稼いでいるのだから、何とも効率のよい商売であったはずだ。しかし悪事は長続きせず、2,3年後、このことはメーカーにばれて、告訴騒ぎになったと聞いている。

もしマジックのメーカーが、タネを一般の人に高い金で販売しておきながら、その裏で、種明かしをするマジシャンに了解を与えているとしたら、これは放ってはおけない。種明かしをする側がメーカーになにがしかの金額を支払っているかいないかは問題ではない。そのマジシャンとの付き合いで、無償でOKを出したとしても購買者にとっては裏切り行為である。

断っておくが、「気化する水入りコップ」に対して、某メーカーとMr.マリックの間で何か事前の了解があったのかなかったのか私はまったく知らない。メーカーとしても、あれが宣伝になり、売り上げが伸びたのなら黙認するだろう。売り上げが落ちたら警告するかも知れない。いずれにしても、当事者の懐が暖かくなれば鷹揚な態度をとり、売り上げの減少につながると思えば何らかの行動に出るという、それだけのことでしかないのだろう。「金持ち喧嘩せず」のつもりなのかどうか知らないが、購入者や純粋にマジックを楽しみたいと思っている人のことなど、端から眼中にはないのだろうと思っている。もしあるというのなら、そのメーカーとMr.マリックは昔縁浅からぬ関係にあったはずだから、一言くらい何らかの意思表示でもするべきだろう。とは言え、「気化する水入りコップ」自体、そのメーカーのオリジナル商品でもないから、黙認するしか仕方がないのだろうか。もしそのメーカーが独自に考案し、売り出している製品をあの番組で種明かしされたら、放ってはおかないはずだ。

次に多かったのは、私が前回の「1」で書いたことと本質的には同じ主旨のものであった。そのようなメールの中から、典型的なものをひとつだけ紹介させていただく。


私は小さい頃から、サーカスが大好きでした。両親といっしょに見に行ったサーカスは、それはそれはワクワクして、本当に楽しいものでした。その中で、女の人が檻の中でトラに変わるマジックがありました。はじめてこれを見たとき、本当の魔法だと思いました。

でもある日、購読していた新聞に、檻の中の人が一瞬のうちに動物に変わってしまうマジックの種明かしが図解つきでしてありました。

「あ〜、見るんじゃなかった!」

新聞を読んだことをとても後悔しました。その場でビリビリに破ってしまったくらいです。本当にくやしくて、悲しかったです。私がずっと大切にしていた夢を勝手に破る権利が新聞にあるのかとうらみました。

それから20年ほど、その芸は楽しめずにいました。

ふたたび、やっとおもしろくなったのは「シーク・フリード&ロイ」を見た時でした。

でもいまでも多くのサーカスやマジックで、昔からの方法で美女が動物に 変わるマジックが行われています。シーク・フリード&ロイがやっているような 高価なもの??は、なかなか使えないと思います。

新聞やテレビのような、誰が目にするかわからないところで、種明かしなど 絶対して欲しくありません。  (掲載許可済み)


テレビにおける「種明かし番組」で、私が危惧しているのは今のメールにあったことに尽きている。前回の「1」で私が指摘したのも、まさにこのことであった。このことは何度強調してもし過ぎることはないと思っている。

さらにあの番組から1週間ほどしたとき、マジシャンのステージを企画・演出しておられるS氏と電話で話す機会があった。そのとき次のように言われた。

「マジェイアさんの周りには確かにあの番組をつまらないと感じる人が大勢いらっしゃるのでしょう。でもあの種の番組を肯定するような人の周りには、同じくらいの割合で、あの番組を面白いと歓迎する人がいるものです」

確かにそうなのかも知れない。しかし私が腑に落ちなかったのは、なぜ私の周りの人は10人中9人まで、つまり9割の人があの番組を不愉快だと言っているのに、あの番組を肯定する人の周りには、同じくらいの割合で、種明かしを喜ぶ人がいるのかということであった。ここのところが、さっぱりわからなかった。

しかし、さすがに演出などを手がけておられるだけあり、ひとつ私がまったく気がつかなかったことを指摘していただいた。

「普段から素敵なマジックを見せてもらっている人は、タネのことなど詮索しないものです」

この言葉には驚いた。まったく想像もしていなかった。

「マジックそのものを楽しめている人は、種明かしなど要求しないものです」 とも言われた。

そうなのか……。

自分のことをいうのは大変気恥ずかしくて、言いにくいのだが、私が一般の人にマジックを見せたとき、タネのことを聞かれたことなど、ほとんど記憶にない。何かのきっかけで、私のほうから種明かしをしようとしたら、「タネは言わないで」と拒否されたことは何度もある。

私のことはさておき、一般的に言っても、本当によいマジックを、それなりの人が、それなりの場所で、それなりの雰囲気で見せたとしたら、確かに観客はタネの詮索などしないものである。マジック自体が不思議で、とても楽しいものなら、観客はタネのことなど知りたいとは思わない。そのことは私も経験上よくわかる。普段から生でマジックを見て十分楽しめているのなら、先の番組のような形で種を暴露する行為は夢を壊すものでしかないのだろう。皮肉なことだが、私が普段マジックを見せている人たちのほとんど全員が、あのような低俗な種明かし番組に対して拒否反応を示してくれたのは、私自身にとっては二重の意味でうれしいことである。

マジックを愛好している者として、あの種の暴露番組に対抗するためには、対外的な面と、マジシャン個人の問題の両面から対処していく必要があるのだろうと思えてきた。対外的には放送局や、その種の番組に出演したマジシャンに何らかの意思表示をすることも必要なのだろうが、個々のマジシャンの問題としては、「よいマジックを見せること」が最も重要なことなのかも知れない。声高に圧力云々と言うよりも、マジシャンは、自分自身がやっていることを見直すことの方が先決なのだろうと思えてきた。

またまた話がそれるが、マジックを始めてしばらくすると、レパートリーも増え、自信もついてくる。そのため、観客に対してつい挑戦的になってしまう。また観客を楽しませるためと言いながら、実際は自分自身の優越感のために他人を利用しているだけの人も少なくない。

初心者の頃は、ただがむしゃらにやっていたため、それはたとえ下手であっても観客は好意的に見てくれるものだ。しかしあるときから、観客はマジックを見ることに拒否反応を示し始める。マジシャンの態度やメンタリティにカチンとくるものがあると、観客もタネを見破ってやろうと、身構えて、挑戦的になってくる。

中級の入り口あたりにさしかかった頃、大抵の人は、このあたりでマジックを見せることの難しさに気づき始める。

マジックの難しさは、決して指先のテクニックなどではない。そのようなものは、ジャグリングと比べれば、百分の一も不要である。そうではなく、本当の難しさはもっとメンタルな部分にある。目の前にいる人にマジックを見せるとき、その人がマジックを好きなのかどうか、不思議な現象を楽しめる人なのか、さらに、自分が今マジックを見せることで、その人との関係をどうしようと思っているのか、このあたりのことが明確にわかっていないことには、予想外の反応が返ってきて戸惑うことが少なくない。自分はよいマジックを見せているつもりであっても、実際はうっとうしいと思われているだけかも知れないことに気がつかない。

テレビでの種明かし問題を個々のマジシャンが自分の問題として捉えるなら、まず最初に考えなければならないのは、自分自身がどのようなマジックを見せているのかといったところに行き着いてしまう。

しかしまた、あの番組を見て、マジックを覚えた子供が何人かいることも事実である。マジシャンを増やすという意味では、あの番組も多少は「貢献」したのかも知れないが、同時に、あの番組を見てしまったために、マジックがつまらなくなってしまったという人を大勢作ってしまったのも事実である。このまま行けば、マジックを自分でやる人以外は、マジックを見るのも嫌いという人ばかりというおかしな事態にならないとも限らない。マジシャンの数を増やすことがマジックの普及になるとは私は思っていない。普及という意味なら、マジックを見るのが好きという人を増やすことこそ第一に考えなければならないことのはずである。そのような点からも、先のような暴露番組はどう考えてもまずい。

立場によって、この種の番組に対する反応が変わってくるのは仕方がないとしても、私自身があの番組を見ていて気分がよくなかった理由は次のようなことかもしれない。

1.自分で考案したネタでもないものを使い、そのタネを暴くという主旨で作られていたこと。

 もしこのようなことをしたいのであれば、そのマジシャンが独自に考案したオリジナルな原理、現象のものでやれと言いたい。

2.主演していたタレントに、番組を正当化する、もっともらしいセリフを言わせていたこと。

「これはマジックの世界では常識のようなものですから、今ではこのようなことをやっている人はいません。もっとすごいことをやっています」

すぐれたマジックほど原理はシンプルなものである。昔から伝わっているクラシックと呼ばれるマジックは現象の鮮やかさからは考えられないほど裏でやっていることは単純なものである。古くからあるから、勝手に暴露してもよいということにはならない。

★追加情報

最近、今回のMr.マリックの番組や、マスクト・マジシャンがやっているような後味の悪い番組が増えてきてどうなることかと心配していたが、「種明かし」を扱ったものでも、大変楽しいものが作られた。この4月から始まった「マジック王国」(テレビ東京系)がそれなのだが、ナポレオンズの司会で、基本的なマジックを教えながら、ゲストのマジックを楽しめる大変楽しいものである。関西方面ではテレビ大阪で、木曜の午後6時30分から30分番組として放送されている。昨日は第3回目の番組があり、前田知洋さんがゲスト出演されていた。うわさの「食パンのマジック」を見ることができた! 大変楽しくて、不思議!! スタジオにいる子供達の顔をアップになったとき、文字通り、目が点になり、あまりの不思議な現象に、声も出ないといったようすであった。

この番組のスポンサーは任天堂である。任天堂とマジックがどうつながっているのか詳しいことは知らないが、今から3、40年前、任天堂は「デバノのライジングカード」を販売していた。ゲームウォッチやファミコン以後、任天堂は大きな会社になったが、昔は花札やトランプを扱う京都の小さな会社にすぎなかった。その頃からマジックとのつながりはあったので、ひょっとすると、会社のトップにマジックの好きな人がいらっしゃるのかも知れない。

それはさておき、「マジック王国」はここ数十年、テレビでは久しく見かけなかったタイプの番組である。子供を対象にしているが、おとなでも楽しめ、これからマジック始める人にとっても役に立つ番組になっている。

「魔法都市日記(52)」 にも今回の「種明かし番組」についての関連記事があります。

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魔法都市の住人 マジェイア


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