2001/1/8記
ポートピアニューイヤーズプラザ
マジックショー
出演:HIDE
日時:2001年1月1日−3日
会場:神戸ポートピアホテル
開演時間 12:30, 14:00, 16:30 (各回約30分)
神戸のポートピアホテルで、元旦から3日まで模擬店や各種ゲーム、それにいろいろな分野のパフォーマーが出演するイベントが開催されていました。宿泊客へのサービスと、少しでも人を集めたいという意図もあるのでしょうが、ショーは宿泊客でなくても無料で見ることができました。
ショーのひとつに、銀座のバー「香莉ん」(かりん)のマスター、HIDEさんが出演するマジックがありました。「香莉ん」は何度かテレビ等でも紹介されているので、HIDEさんのことを知っている人も多いと思いますが、テレビで見ただけでも大変感じのよい方だと思っていました。
マジックは午後12時30分、2時、4時30分の3回で、1回のショーはいずれも約30分です。私は最終日の一回目と二回目を見せていただきました。
ホテルの宴会場にバーのカウンターが準備されていました。バーマジシャンは日本だけでなくて、アメリカにも大勢います。しかし、それなりに有名なバーマジシャンにレクチャーやショーに来てもらっても、普段の実力の半分も発揮できないことが少なくありません。この最大の原因は、レクチャー会場などで使用するテーブルと、普段見せているバーのカウンターではあまりにも環境に差があるためでしょう。
テーブルの高さに差があるだけでもやりにくいものです。ネタをスティールしたり、処理したりするときも店とは勝手が違い、同じようにはできません。そのため、重要なレパートリーのいくつかは、実演できないことも多いようです。しかし今回のようにカウンターまで作ってあれば、ほぼ店と同じように見せることができるでしょう。
自分の実力が十分発揮できる環境を準備するのは当然と言えば当然のことなのですが、このような準備までして見せたバーマジシャンを私は知りません。今回も最初ホテルからオファーがあったとき、ステージマジックを依頼されたそうですが、HIDEさんのほうからバーのようなカウンターを準備してほしいと頼んだそうです。このことだけでもHIDEさんのプロ意識がわかると思います。
もうひとつ驚いたのは、各マジックにあわせて、音楽を決めていることでした。といってもずっと音楽に合わせて無言で演じるのではなく、適宜観客の反応を見ながら音楽を止めて話しかけたり、ボリュームを調整したりしていました 。
ステージマジックでは音楽のない演技は考えられません。しかしクロースアップマジックで音楽を使っている人はほとんど見かけません。これは場所の制約があるからでしょうが、これからはもっと積極的に取り入れてもよいのではないでしょうか。最近は小型のMDもあるので、たとえテーブルホッピングのようなことをやる場合でも、十分可能でしょう。音楽とマジックがうまくあえば、現象が一層引き立つものです。
マーティン・ルイスも「シガレットペーパーの復活」を演じるとき、映画「ペーパームーン」の中で使われている"It's Only a Paper Moon"という曲をBGMにしていますが、黙って演じるよりも格段に楽しいものになっています。
1回目と2回目のショーの間、HIDEさんと歓談させていただきました。
銀座にある現在の店はオープンして2年になるそうです。これだけの腕をお持ちなので、当然それまでもどこかの店でマジックを見せておられたのだろうと思っていたら、マジックを仕事として見せるのは、店がオープンしてからのことだとうかがい、大変驚きました。それまでは司会が本業であったそうです。
見せていただいたマジックはどれもすばらしいものばかりでした。とりわけカードマジックにはことごとくひっかかりました。いわゆる「テイクワン」タイプのマジックが多いのですが、「フォース」がすばらしい。カードをカウンターの上に裏向きにおいて、麻雀の牌をかき混ぜるような感じで両手でカードを乱雑にかき混ぜます。カードがごちゃまぜになった状態で、観客に一枚取ってもらうと、それだけでフォースされています。なんでこれでフォースが可能なのか信じられません。このような技法はこれまで見たこともなかったので、おたずねしたら、やはりHIDEさんのオリジナルでした。
マジックをする人間であれば、この辺りまでは質問してもよいが、これはたずねるのはまずいとわかる部分があります。このフォースにしてもおたずねすることはためらったのですが、あまりにも不思議であったのでついたずねてしまいました。マークトカードでも使用しているのかと思ったくらいです。
これ以外でも、マジックをやっている人にとってはどれも大変参考になるルーティンばかりでした。個別に触れることは差し障りがあるのでできませんが、2、3紹介させていただきます。
例えば「ビル・イン・レモン」では最後に切れ端が一致し、番号も一致していることを確認してもらうのですが、これにしても最小限度の準備だけで実演可能です。
トリネタとして見せていただいた「フローティング・ローズ」もすばらしい。
これは明るすぎるところでは演じにくいものです。といって、そのときだけ照明を落とすのも不自然です。しかしHIDEさんは、今月誕生日の女性にこのマジックを捧げるという演出で行うことで、この部分の不自然さを解消していました。つまり、キャンドルに火をつけるため、部屋のライトを少し落とすということで理由付けが自然になされていました。
さらに、照明が落ちているとフラッシュペーパーで作ったバラが燃える瞬間、目がくらむばかりの光になります。部屋全体が明るいと、フラッシュペーパーが燃えてもそれほどまぶしくありませんが、部屋のライトが少し落ちているだけで、随分とちがい、大変まぶしいものです。そのため、後の演技がしやすくなります。
とにかく一事が万事この調子で、どのマジックも細かいところまでよく考えられています。最初から最後までこれほど楽しいマジックを見たのは久しぶりでした。これだけ素敵で、参考になるものが満載のショーを無料で見せていただいて、申し訳ない気分です。
銀座の店では、2ドリンクと料理が2品ついて、7,000円程度の料金だそうですから、ぜひ一度ご覧になることをお薦めします。帰るとき、出口のところでもうひとつイリュージョンを見せてもらえるかも知れません。
バー「香莉ん」
住所:東京都中央区銀座7-3-7 ワールドギンザビル3F
電話:03-3574-7550
定休日:土曜・日曜・祝日
営業時間:8:00p.m.-2:00a.m.追加情報(2001/7/2)
店舗の都合で、HIDEさんは現在の場所での営業は6月末で終了されました。今年の10月中旬に、銀座の別の店で新規オープンされる予定です。「香莉ん」 という店自体は、今の場所で経営者が変わり、営業を続けるそうです。HIDEさんのマジックをご覧になりたい方はご注意ください。
魔法都市の住人 マジェイア