2005/3/14 記
2010年1月6日 追記
クロースアップマジック
前田知洋&ふじいあきら
日時:2005年3月8日(火曜日)
会場:ホテル阪急インターナショナル
6階宴会場 「瑞鳥」の間
出演:前田知洋/ふじいあきら
一回目:食事 17:00〜 ショー18:15
二回目:食事 20:15〜 ショー21:30
料金:19,000円
3月8日の夜、大阪梅田のホテル阪急インターナショナルで、前田知洋さんとふじいあきらさんが出演されるディナーショーがありました。
前田さんとふじいさんは私の大好きなマジシャンです。このお二人のマジックが同時に見られるのであれば、これを見のがす手はありません。しかし一人19000円と結構な値段なので、家族4人で行くとなるとちょっとした出費です。少し迷ったのですが、先日娘が高校に受かったこともあり、その合格祝いという口実を思いつき、うまく切り抜けました。マジック関係のイベントに行くのは2年ぶりです。
今回のイベントは午後5時と8時15分からの2回公演です。前半の1時間が食事、その後の1時間ほどがステージマジックとクロースアップマジックという構成です。私が行ったのは8時15分からの部です。
家を出たのは7時過ぎですが、会場は大阪駅から歩いて10分程度の距離ですので、8時前に着きました。開演までまだ少し時間があるため、控え室に案内されました。しかし待っている間、飲み物ひとつ出ないことに少々むっとしました。ここでちょっとした軽い飲み物でも出してくれたらうれしいのに、それがなくて残念です。
このホテルは、バブルの頃にできたと思いますが、外見上の豪華さでいえばリッツ・カールトンと並び、大阪ではトップクラスにランクされています。しかしサービスや従業員の気配りはいまひとつです。居心地の良いホテルというのは、客がそっとしておいてほしいときは静かに見守り、求めたときには瞬時に反応してくれて、こちらが望んでいることを提供してくれます。目には見えないこの種の気配りは、マニュアルだけの訓練では無理なのでしょう。ホテル全体の雰囲気というのは、トップから現場のスタッフにいたるまで、どれだけサービスということの本質をわかっているかにかかってきます。宴会のときだけバイトや臨時のスタッフを寄せ集めていては、いくら外見が立派でも、すぐに底が見えてしまいます。
ホテルに対する不満はさておき、話を戻します。
8時20分過ぎになり、控え室から宴会場に移りました。会場に入ると前方にステージがあり、10名座れる円卓が15席ありました。1回で約150名ですから、2部構成で300名。このチケットが発売後わずか数日で完売したのですから、昨今のマジックブームは私が想像している以上のものかも知れません。
これまでマジック関係のイベントというと、観客の7、8割はマジシャンというのが常識でした。しかし今回のイベントではマジシャンらしい人はあまり見かけません。おそらく1割か2割弱くらいのものでしょう。私の座ったテーブルも10名のうち、うちの家族4名以外はすべて若い女性です。
クロースアップマジックは観客の目の前で演じるため、一度に大勢の観客にマジックを見せることはできません。そのため、クロースアップマジックを中心とした大きなイベントは営業面からみても採算が合わないことが多く、これまでほとんど開催されたことがありません。
それにしても前田さん、ふじいさんの集客力はたいしたものだとあらためて驚きました。昨年のふじいさんのテレビ出演回数はいったいどのくらいになるのでしょう。毎日どころか、日によっては一日数回テレビで見かけることもありました。また前田さんもテレビだけでなく、様々なパーティなどから出演依頼があり、ご活躍のようです。
今回、クロースアップマジックをディナーショーの形式で見せるため、ホテル側もいろいろと工夫を重ねたのだと思います。食事の後、お二人のステージマジックがあり、その後でテーブルホッピングをしながら各テーブルを回って見せるというアイディアはなかなかのものです。できることならお二人ともすべてのテーブルに来ていただけたらうれしかったのですが、ひとつのテーブルに来てもらえるのは、ふじいさんか前田さんのどちらかだけというのは少し残念でした。まあこのことは事前に知らされていましたので、仕方がないとあきらめていました。
食事をしているとき、隣に座っていた中学生の息子が、ステージ中央に「鳥かご」が置いてあることに気づきました。「鳩でも出すの?」とたずねられたのですが、前田さんもふじいさんも、これまで「鳩出し」をされたという話は聞いたことがありません。私も何が始まるのかわからず、いぶかしく思っていました。
食事が終わるとステージに司会の女性が現れました。いよいよです。会場全体が前方に注目しました。しかし驚いたことに、ふじいさん、前田さんの前に、女性3人によるステージマジックがあると聞かされ愕然としました。それでなくても時間があまりないのに、お二人の前に、名前も聞いたことのないマジシャンのショーを見せられるなんて正直うんざりです。
実際そのようなことはパンフレットにもホテルのサイトにも書いてありません。予約の電話をしたときも、担当者と何度か話しましたがそのような説明は一言もありません。前座を使うのであれば、そのことははっきりと明記しておいてもらいたいものです。
現れた3人の女性マジシャンは音楽に合わせ、はち切れそうな笑顔で踊りながら演じているのですが、ディナーショーというより、ヘルスセンターの宴会場かと思うような雰囲気です。「鳩出し」、「ジグザグガール」、フラフープを使った「リンキングリング」、「人体交換」など、実際は20分から25分くらいであったのかも知れませんが、私には永遠の時間に感じました。
「つぎのマジックが私たちの最後のマジックで〜す♪」
これを聞いたとき、思わず拍手しそうになりました。
彼女たちの名誉のために一言断っておきますが、ショー自体はそれなりに楽しめるレベルでした。しかし先ほども言ったように、前田さん、ふじいさん以外のマジシャンが出演するなどとはまったく聞いていなかったため、やはり文句のひとつも言いたくなります。
彼女たちの後、やっとふじいさんと前田さんがステージに現れました。お二人の顔を見た瞬間、観客一同、大喝采です。みんな同じ思いで見ていたのでしょう。お二人がステージ演じられたマジックの詳細については、これからご覧になる方の楽しみを奪うことになるので差し控えます。
ステージも終わり、いよいよクロースアップマジックの時間になりました。
私たちのテーブルにはふじいさんが一番に来てくださって、みんな大喜びしていました。今ではすっかりおなじみになった、口からトランプを出す、ふじいさんのあの芸は何度見ても笑わずにはおれません。昔の林家三平師匠は舞台に出てきて、おでこに手をやっただけで観客は大爆笑していました。ふじいさんの芸も、観客が条件反射で笑ってしまうくらい日本中に知れ渡ったということでしょうか。
つかみの芸の後、ふじいさんにはいくつかのカードマジックも見せてもらいました。うちの息子も、最近自分でカードマジックを練習し始めているのですが、ふじいさんの演じるパームやセカンドディールは、完璧なミスディレクションとあわさって、みごとにひっかかっていました。これは息子には大変新鮮で、あらためてふじいさんのうまさや、ミスディレクションの重要性を再認識したようです。
ふじいさんが去った後、10分ほどすると前田さんがこちらのテーブルに近づいて来ました。これはひょっとすると何かの間違いかサービスで、ふじいさんと前田さんの両方のマジックが見られるかも、と期待したのもつかの間、先ほどの女性マジシャンの一人が横から突然飛び込んできて、「みなさん、こんばんは!」とやってくれました。前田さんは急停止して、隣のテーブルに行ってしまいました。
この女性マジシャンが見せてくれたのは「ヒンズーヤーン」です。細かく切った糸が復活する例のマジックです。夫婦は私のところしかなかったため、どうやらターゲットになったようです。 このマジックは私も好きで時々演じています。 それを知らないふりをしながら、驚いているように見せなければならないのは少々つらいものがありました。ちょっと気になったのは、最初に使った糸は60センチくらいしかなかったのに、復活した糸は1メートルくらいありました。これはどう考えてもおかしいでしょう?それとも、復活しながら同時に糸が伸びるという現象がプラスされていたのでしょうか。
しかしずたずたに切られた「赤い糸」が復活したとき、妻はずいぶん喜んでいました。おまけに大事そうに紙に包んで持って帰り、家でも額に入れて飾っているくらいですから、よほどこのマジックが気に入ったようです。
この間、前田さんは私たちのテーブルを飛ばして、両隣で演じておられました……。とにかく時間が押していたため、ご無理を言って来ていただけるような状況ではなかったのです。
前田さんの後を係の人が「タリホー」のサークルバックが1ダース入った箱を持って追いかけていたのが印象的です。テレビでもよく演じておられるように、まっさらなデックの封を切って、そこから始め、終わったとき、カードケースにサインをしてプレゼントしておられました。娘が前田さんのファンなので、ホテルに来る途中、わざわざサインペンを買って、私が持っていたタリホーのエースにサインをしてもらおうと待ちかまえていたようですが、これもできなかったため、残念がっていました。
10年近く前から、ふじいさんと前田さんとは直接何度かお会いして、存じています。そしてその頃から、僭越な言い方になりますが、このお二人であればどこに出しても恥ずかしくないと思っていました。昨年のマジックブームという後押しがあったことは事実ですが、ここまでお二人がメジャーになったのは、マジックがただうまいからといった技術的なことだけではありません。お人柄や、目に見えないところでの膨大な練習や研究、それもマジックだけでなく、自分の演技にプラスになると思えば周辺領域にまで手を広げ、研究しておられたことがここに来て一度に花咲いたのでしょう。チャンスというのは普段から万端怠りない人のところにしか来ないものです。
現在、若いマジシャンやアマチュアの方の中には、このお二人を目標にしている方が少なくないと思います。そのような方々にわかっていただきたいのは、マジックの巧拙だけではこのお二人のようにはなれないということです。どこがその他大勢のマジシャンと違うのか、そのあたりのことをしっかり研究してみてください。
★ホテルへの要望。今回参加して感じたホテルへの要望をあげておきます。
(1) 飲み物を早くから作ってカウンターに置いてあるため、食事の途中、特に30分をすぎてから持ってきてくれたような飲み物は、中の氷がとけて水っぽくなっていた。
オレンジジュースやジンジャーエールはグラスの中で上と下では色が違うくらい薄くなっていた。つまり、飲んでも味がなく、炭酸も抜けてしまっていた。これには子供達もがっかりしていた。
(2) 食事が終わってデザートが出てくるまでの間に、テーブルの上に落ちているパンくずを掃除して欲しい。丸いテーブルの2座席分が、マジシャンのスペースとして空けてあった。食事のとき、飛んだパンくずを係員がへらのようなものですくい取ってくれたらすぐにきれいになるのに、ほったらかしのため、客が気を遣ってパンくずを掃除していた。こんなことは私にとっては初めての経験であった。
ふじいさんが私たちのテーブルに着いたとき、カードを広くスプレッドするその場所にパンくずが落ちていた。それに気づいたふじいさんはご自分でテーブルの上のくずを取り除いておられた。
クロースアップマジシャンにとってはテーブルがステージである。係員が事前にそのあたりを片付けておくのは当然のことである。観客が見ている中、俳優がステージの上にほうきやちり取りを持ってきて、自分で掃除をしてから芝居を始めるなどということはありえない。また私たちにとっても、そのテーブルはマジシャンを迎える場所である。そこが散らかっていることは、きたない部屋にお客様を迎えるようなもので、いたたまれない。
まあ、ふじいさんのキャラなので、このようなこともさりげなくおこなっておられた。ほんの数年前まで、もっとひどい状況でマジックを見せておられたと思うので、この程度のことはまったく苦にもならない様子ではあった。しかしスタッフは気配りをしていただきたい。
(3)丸いテーブルに10人がけであったが、マジックの演技の都合上、二人分の席が最初から空けてあった。これはマジシャンがカードなどを広げるためのスペースだが、それを作るために全体を詰めてセッティングしてあり、隣との間隔が驚くほど狭くなっていた。下の写真でもわかるように、隣の席のナイフとこちらのフォークが重なりそうになっている。隣の人に肘があたりそうになったり、無意識にナイフ、フォークを取りあげると、隣の人のを取りそうになったりして、気を遣いながら食事をしなければならなかった。
これは後でわかったことだが、私は10人がけの席を二人分の空白を作るため、全体に間隔を詰めている思ったら、この丸いテーブルは普段は12人がけだそうだ。ということは、このホテルでは、結婚式などの宴会では、12人座らせているらしい。
ディナーショーのような形式でクロースアップマジックを見せるとき、最初からスペースを作っておくより、食事が終わってから一度テーブルの上を片付け、そのテーブルにいる人に少しずつ詰めてもらえば演技ができるくらいのスペースは作れるはずである。1時間の食事の間、ずっと狭い思いをさせるより、このほうが良いのではないか。
いろいろと要望を述べたが、ホテル阪急インターナショナルには何の恨みもない。これは純粋に要望のひとつと受け取ってもらいたい。もしまたこのような形式でクロースアップマジックを見せるイベントがあるときは、参考にしていただけたら幸いである。いずれにしても、今回のような企画を実現していただいたことに対して率直にお礼を申し上げたい。
ショーが終わったのは11時です。個人的にはもう少しマジックを見たかったことや、ホテルの対応には不満があったものの、一緒に行った家族の者はあらためて前田さん、ふじいさんのファンになっていました。
最後の挨拶で、ふじいさんが「昔はこのようなテーブルホッピングの仕事が多かったが、今はテレビの仕事が多く、テーブルホッピングはしばらくやっていなかったのでエネルギーの入れ方を忘れてしまい、想像していた以上にきつかった」と話されていたのが私には感慨深かった。ほんのつい数年前まで、大半のクロースアップマジシャンがマジックだけでは食べて行けなかったのだから隔世の感がある。
十数年前、日本にはクロースアップマジックだけを見せることで食べていけるプロがいなかった時代に、前田さんやふじいさんがレストランでテーブルホッピングをするところからスタートされている。それがお二人の原点なのだが、今ではその方面の仕事は減り、テレビ等のメジャーな仕事が中心になっているのはうれしい反面、少しさみしい気もする。昔から存じ上げている私としては、お二人のマジックが以前のようにもう少し気楽に見られる場があればと、つい願ってしまう。
前田さんとふじいさんはキャラも風貌もまったく違っている。お二人のことを知らない人が見るとミスマッチとも思えるような組み合わせかも知れない。それが今回、お二人のコラボレーションがディナーショーという形で実現したことは、日本の奇術界にとって画期的なできごとであると思っている。
<ちょっとした間違い探し>(2010/01/06)
ここまでお読み頂き、何かおかしな画像があったことに気づかなかっただろうか。これを書いてから、すでに5年近く経っているが、画像についてご指摘を受けたことは一度もなかった。人間というのは見ているようで見てないものだというサンプルとしてそのまま載せておいたのだが、どなたからもご指摘がなかったので、先日、知人にあらためて見てもらった。しかし気づかなかった。
このページの最初にあった画像である。これは当日テーブルの上に置いてあった。裏があの画像で、表はハートのエースがデザインされ、当日の料理が紹介されている。トランプの形をした「お品書き」である。そのときの写真の一部なのだが、先日、この現物を友人に手渡し、よく見てもらった。しかしいくら見ても、まったくわからない様子であった。
種明かしをすると、英語の「マジック」という文字、このスペルが間違っている。マジックをやっている人なら、Magicという文字はいやというほど見ているはずである。あまりにも知りすぎているため、頭の中で自動的に修正してしまうせいだろうか、気がつかない。
あまりホテルのことを厳しく言いたくはないが、「一事が万事」という言葉が示しているように、一見、些末なことのように思える部分にこそ、その本質が露呈されてしまう。ショーのタイトルを間違えるというのは、いくら何でもひどすぎる。
★追加
一緒に行った妻が、今回は珍しく感想を書いてくれました。マジックのショーなどほとんど行ったことのない者が感じたこととして、私とはまた違った面からの感想になっていると思いますので、興味のある方はお読みください。
魔法都市の住人 マジェイア