書名 | クラシック・マジック事典2 タネも仕掛けもあるマジック |
編者 | 松田道弘 |
出版社 | 東京堂出版 |
価 格 | 3,400円(税別) |
ページ | 255ページ |
ISBN | 4-490-10623-8 |
分類 | クラシック・マジック |
2003年4月26日
★最初に
東京堂出版から『クラシック・マジック事典2』が発売になりました。昨年発刊されました『クラシック・マジック事典』(松田道弘著)の続編にあたります。
サブタイトルが「タネも仕掛けもあるマジック」となっているように、今回は「ネタもの」を中心に集めています。売りネタや、何らかのギミック(タネ・仕掛け)を使うものです。また今回の特徴として、複数の執筆者がそれぞれ得意分野を担当している点も新しい試みとしてあげられるでしょう。僭越ながら私も三つ書かせていただいています。私自身の原稿も入っているため、お知らせするのは宣伝じみて多少気が引けるのですが、他の執筆者のマジックはどれをとっても珠玉の作品ばかりですので、私の担当分はさておき、ご紹介させていただくことにします。
私にとりましては、今回クラシック・マジックを見直すよい機会になりました。昨今の情報が氾濫している時代にあって、真に価値あるもの、自分にとっていとおしむことのできる作品を整理できたことは大きな収穫でした。このような機会を与えていただいた松田さんには大変感謝すると同時に、あつくお礼申し上げます。
★執筆者と内容紹介三田皓司
「サムチップ」
サムチップの基本的な使い方から、お札の入れ替わりなど、サムチップを使った代表的なマジックが数点紹介されています。たったひとつのギミックを使うだけで、多種多様な現象を作り出せるのですから、マジシャンの必需品となっているのも当然のことでしょう。
赤松洋一
「トリック・コインの紹介」
シェル・コイン、ダブルフェイ・スコイン、フォールディング・コイン、マグネティック・コイン、フック・コイン、シガー・スルー・ハーフ、スタック・コイン、コイン・ボックス、コイン・プロダクション等。海外では精巧なギミック・コインが作られています。さまざまなギミックコインの紹介と、赤松氏が実際に演じておられる手順も解説されています。
フォールディングハーフを使った、ガラスビンの中にコインが飛び込むマジックなど、細かいハンドリングまで解説されていますので、ぜひ一度、しっかりマスターした上で、一般の方に見せてください。このマジックを見せたときの観客の反応に、あなた自身が驚嘆するに違いありません。
六人部慶彦
「シリンダー・アンド・コイン」のムトベ・バージョン
ジョン・ラムゼイの原案になる「シリンダーとコイン」のムトベ・バージョンです。
このマジックは、この本の中で紹介されている数あるマジックの中でも最高レベルの難易度でしょう。六人部氏の演技を実際に見たことがない人にとっては、解説を読んだだけではこのようなことが本当にできるのかと疑うかも知れません。しかし生の演技を見れば難しいことをやっているなどとは微塵も感じられません。コインが一枚ずつ消えていったかと思うと、突然筒の中から現れたり、コルクの下から現れたりするだけです。
習得するには相当な練習量が必要ですが、六人部氏のリテンション・バニッシュなど、数多くの技法と共にミスディレクションなども学べますので、意欲のある方はぜひ挑戦してみてください。
三輪晴彦
「小さくなるトランプ」
日本に昔から伝わっている「小さくなるトランプ」です。数枚のトランプを手の中でもんでいると、だんだん小さくなっていき、最後は完全に消えてしまいます。
「カラー・チェンジング・ナイフ」
小さなポケットナイフの色が変わるマジックです。
カラー・チェンジング・ナイフのスタンダードなセットはレギュラーナイフが1本、ダブルフェイスが1本という組み合わせになっています。この基本セットできるルーティンと、もう少し凝った組み合わせで演じる二つの手順を紹介しています。これはフレッド・カップスやルイス・ギャンソンのアイディア、高木重朗氏から教えていただいたナイフのすり替えなどを組み合わせて作った私の手順です。
「エッグオンファン」
扇子の上で、花びらのひとつを弾ませているとだんだんふくれてきて、玉子のような形になります。それを取りあげてからグラスに打ち付けて割ると、本物の玉子になっています。
扇子の選び方や、玉子をスティールする方法などを詳しく解説しています。
ふじいあきら「インビジブル・スレッドの研究」「フローティング・ビル」「ホーンテッド・デック」
ふじいあきら氏といえば、「ウルトラマン」の人形が飛び回るマジックを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
インビジブル・スレッドは、実際に使うとなると様々なトラブルや、気になる部分があり、自信を持って演じるまでにはかなりの試行錯誤が必要です。そのポイントを惜しげもなく教えてもらえるのですから、マニアなら見逃す手はないでしょう。
また応用編として、プロタッチの「フローティング・ビル」や「ホーンテッド・デック」も解説してくださっています。これも必読です。
紀良京佑
「ポケット・リング・ルーティン」
使用するリングはごく一般的な4本リングのセットです。それなのに、はじめて紀良氏にこの手順をみせてもらったときはどうなっているのか見当もつかないほど不思議でした。
リンキング・リングは一般の人でも原理だけは知っている人が多いため、ディーラーの人が売り場で演じていると観客からツッコミが入ります。「切れ目がある」とか、「右手で持っているところがあやしい」といった声が聞こえてきます。しかしそのような人でも、しばらく紀良氏の手順を見ていると、自分の知識では解決できないとわかり、一層驚きます。
観客にあらためてもらったり、実際に手でリングを持ってもらったりしながら、自由自在に貫通現象がおきます。
赤松洋一2「ボール・マニピュレーション」日本では「シカゴの四つ玉」と呼ばれているマジックです。
赤松さんが演じるときの基本的な現象は次のようなものです。
1.何もないところから1個のボールが現れる。
2.1個のボールが増加して、いつの間にか4個になる。(四つ玉の演技)
3.1個のボールを捨てても捨てても次々とボールが現れる。(シングル・ボール・プロダクション)
4.両手に8個のボールが現れる。これを捨てると、また8個のボールが現れる。(八つ玉の演技)現象は大変わかりやすく、本格的な手順でありながら、習得するのに難しすぎるということはありません。また状況によっては第2段まででやめておいたり、8個のボールの出現も1回だけにするなど、融通が利きますので、一度マスターとしておくと重宝すると思います。
小谷純司
「エッグ・バッグ」
空の布袋から玉子が現れたり、消えたりするエッグ・バッグ(袋玉子)の手順です。
このマジックはうまく演じると大変観客にうけるため、レパートリーにしているプロマジシャンは少なくありません。しかしアマチュアマジシャンにとっては意外なくらい難しいマジックです。難しい理由のひとつは、このマジックは観客とのやりとりが中心になるため一人では練習ができないということがあります。もうひとつは、このマジックを演じているプロマジシャンの大半がコメディ仕立ての演出でおこなっているため、真似しようとしても、演者のキャラクターによっては適さない場合もあるからです。
小谷さんのエッグバッグは、これまでの一般的なものより、技術的には少し難しい面があるのですが、見た目の不思議さは格別です。おもしろいだけでなく、本当に玉子が消えてしまったり、再び現れたりします。また最後にはウイスキーの入ったショットグラスが袋から現れ、これも驚きます。この手順ならコメディのようなものが合わない人でも、十分実演可能だと思います。
前田知洋
「カード・イン・レモン」
観客から借りたお札や、取ってもらったトランプがレモンから出てくるマジックがあります。本物のレモンを目の前で切ると、そこから出てくるのですから観客の驚きはただごとではありません。いくつかマジックを見たあとでも、このマジックだけは後々まで印象に残っているくらいインパクトがあります。
今回前田さんが解説してくださっているのは、デック(一組のトランプ)が突然レモンに変わるなど、これまで、この種のマジックではあまり見かけなかった意外性もあります。この部分だけでも観客は十分驚きます。さらに、どこにも切れ目のない本物のレモンをナイフで二つに切ると、中から、自分が先ほど選んだトランプが出てくるのですからこのマジックをはじめて見た人にとっては一生忘れられないくらいものになるでしょう。
編者の松田道弘さんも「バニッシングとバニッシャー」ほか、今回取りあげられているマジックに関する興味深い読み物を数点書いてくださっています。
★最後に小野坂東さんには、デジカメで撮った私のわかりにくい画像をみごとな挿絵にしていただきました。小野坂東さんの挿絵が入ると、中身まで格調高く見えてくるから不思議です。
また今回編集を手伝ってくださったIBM大阪リングの三田皓司さん、福岡康年さんにはお礼の申し上げようもないほど、いろいろと教えて頂きました。執筆者はみなさんお忙しい方ばかりですので、その中で原稿の催促、下読み、校正など、雑多な調整役をこなしていただきました。三田さんは松田さんの原稿をチェックするのには慣れておられるでしょうが、今回はいつもの数十倍、お疲れになったと思います。
また個人的には神戸のSさんには写真撮影のモデル、原稿の下読みなどお世話になりました。とにかく大勢の方々の協力のおかげで、無事に日の目を見ることができました。
最後にちょっとだけ宣伝です。
ある程度マジックをなさっている方であれば、この本の内容がどの程度のものか、想像できると思います。買っておいて絶対に損のない本ですから、ぜひ早い目に購入されることをお勧めします。東京堂出版はつぶれることはないと思いますが、本はいつ絶版になるかも知れません。もし絶版になれば、数年後には定価の10倍くらいの値が付くかも知れません。実際、10年ほど前に、私も一部書いている『夢のクロース・アップ劇場』(社会思想社)は定価2800円の本が3万円で取引されているそうです。筑摩書房から出ていました松田さんの「遊びの冒険シリーズ」も絶版になった後、大勢の方々の後押しがあり、他の出版社から復刊されましたが、一度絶版になると入手するのは難しくなります。今回のシリーズは1,2ともそろえておくことをお勧めします。