『電脳手品師』について

 

 

1998年/7月/26日


この『電脳手品師』は、正直に言って、何ともコメントしにくいソフトです。ソフト自体は大変よくできています。しかし、これは色々な意味で、見せる側からすれば、やっていて楽しくないのです。誰かから見せてもらうのなら悪くないかもしれません。でも、少なくとも自分でやるとなると、全然おもしろくないのです。やはりマジックは自分の指先を使ってやらないことにはダメですね。観客にしても、コンピューターが、自分の覚えたトランプをどうやって当てたのか、その原理はわからないものの、コンピューターには「魔法」を使える能力はないことはわかっていますから、つい方法に関心が向いてしまいます。そのため、マジックではなく、パズルとしてとらえられてしまうのです。

「手品師は、魔法使いの役を演じる役者である」という有名な格言があります。観客にしても、マジックにはタネはあるとわかっていても、どこかで、人智を越えた不思議な力があるのかもしれないという期待があるとき、マジックはより一層説得力のあるものになります。しかし、コンピューターがマジックを見せたのでは、その部分は完全に落ちてしまいます。

このソフトはコンピューターの画面上でマジックを行うだけですが、将来、もっと精巧なロボットが現れ、それが実際にマジックをやるとしたらどうでしょう。それを見て観客は楽しめるでしょうか。ロボットが1枚のコインを左手に握って、しばらくしてから手を開くとコインが消えていたという現象を見せたとき、観客は驚くでしょうか。ロボットの手に、何か仕掛けがあるのだろうと思われたら、それはもうマジックにはなりません。観客にすれば、マジシャンも自分と同じ手を持っているのに、それでコインが消えるから不思議に見えるのです。極端な話、ロボットの手のひらに秘密の穴があって、そこからコインを吸い込んでしまって、コインを消す仕掛けくらい簡単に作れるでしょう。

いずれにしろ、昔の、「チェスをする自動人形」を見るような感覚でしか、「マジックをするロボット」を楽しめないと思うのです。いえ、実際には、それすら無理でしょう。せいぜい、江戸時代にあった「品玉人形」を見る観客と同じようなものではないでしょうか。

当初、このソフトは、これを買った人にコンピューターがマジックをやって見せてくれるのかと思っていました。ところが実際にはそうではなく、画面に現れるマジシャンを使って、観客にマジックを見せるソフトでした。コンピューターを使わないとできない原理や現象があるのならまだしも、実際にはコンピューターを使わなくてもできる現象がほとんどです。それなら何もコンピューターを起動しなくても、自分で実際にやって見せた方が早いのです。このあたりも、いまひとつ満足できない原因かもしれません。

じゃ、買わない方がよいのかというと、そうでもありません。それなりには楽しめると思います。ノートパソコンを誰かの前で使う機会がよくある人は、何かの折りに、ひとつだけ見せるということをやれば、コンピューターがマジックをやるという物珍しさもあり、結構ウケます。私なんか両方とも買いましたから、「わすれな草」のメダルも2枚あります。デュプリケイトコインで「コインカット」をやると楽ですよ。(笑)

 

魔法都市の住人 マジェイア


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