-STRIKE SIRIES V-
幼い頃も今と同じように、立派なだけの広い部屋で一人だけの時間を過ごしていたように思う。窓枠から差し込んでくる光はただただ明るくて、外の景色すらも思い出すことはできず部屋はいつも光と影でくっきりと分けられていて世界には白い場所と黒い場所の二つが存在した。それは今も続いていたが、自分がいつも黒い場所にいることを彼ははっきりと知っている。光の中にいるのは、いつも、ヨハンだった。
『目が覚めたか?フランツ、あと600秒でブースに入るぞ。準備したまえ』
『Ja』
仮眠から覚めて、フランツは叔父の通信に応答するとすぐにプログラムにある通りに神経機能を活性化させる運動を始める。300秒で意識を明晰にして残りの時間で出立の準備をしながら心拍数を66未満に抑える。こういった競技には初めて参戦するが、シミュレータと同様にやればいいと叔父は言っていた。そして必ずこう加えるのだ、お前は才能がないのだからすべてヨハンに任せろ、と。
事実だから仕方がなかった。自分にない良いところをすべて持っているのがヨハンであり、叔父がウォルフガングの家に汚らしい子供を引き取った理由も自分ではなくヨハンがいたためだった。養子に迎えられてもフランツはウォルフガング家の一員ではなくヨハンの付属物でしかありえない。
人類が宇宙空間に足を踏み入れるようになった、この時代でも昔からの慣習や文化は存在するし人間がそれを完全に捨てる理由もなかった。宗教は何千年経っても人々を導いているし、ウォルフガング家も幾度かの戦火に巻き込まれながら今でも貴族として扱われていた。もちろん現代では貴族といえど法的特権はなく税金も払わなければならず、無為に資産を受け継ぐのではなく稼がなければいずれ貧していくしかない。だが現当主のテオドールは辣腕といってよく、未来的な人型汎用機をこのような大会に参加させるだけの資金力を今でも持ち合わせていた。
『システム起動終了、アラームなし』
『よろしい。接続を開始しろ』
これに接続するたびにフランツは鎖に繋がれた気分になるが、彼の意見になど叔父はもちろんヨハンも耳を傾けたりしない。「魔王」のコクピットにはシステムの正常可動を確認するための計器類やディスプレイモニタが存在するが、いわゆるメインスクリーン的なものはどこにも存在しなかった。それらの情報はすべて機体と直接接続したフランツの脳に直接投影されて、ヨハンの声も彼自身の声であるかのように頭の中に聞こえるからスクリーンなど必要ないのだ。
『緊張なんてするんじゃあない。どうせフランツが僕の足をひっぱらないことなんてできないんだから』
ヨハンの言葉は嘲弄ではなく単なる事実だった。ヨハンはAIではなく、フランツ自身のパーソナルデータを投影したもう一人のヨハン=フランツである。それが霊魂なのか、多重人格なのか、あるいはそれ以外の何かなのかは大した問題ではない。彼は確かに存在して「魔王」を扱えるのがフランツではなくヨハンである、それが唯一の事実だった。
パイロットと機体を直接接続するシステムは、使いこなせば演算機やセンサーを自分の脳や五感であるように用いることができるが、パイロットが犯すわずかなミスも忠実に反映される。そしてヨハンはフランツのように失敗することがないしプレッシャーに支配されることもなかった。性格は決してよいとはいえないがそれはフランツの性格でもあり、彼にヨハンのようなことができれば彼もきっとヨハンのようになっていたに違いないのだ。フランツの役割はヨハンに肉体を提供すること、そしてヨハンの邪魔をしないことだけが彼には求められていた。
『まったく、なぜお前たちは逆ではなかったのだろうな』
そう言われることをフランツ=ヨハン・ウォルフガングは心から恐れているが、叔父もヨハンもそう考えていることを彼は知っている。だからフランツはただ『Ja』とだけ答え、言われた通りのことをやっていればいいのだ。
ストライク・シリーズ一日目 = Days 1st =
前大会優勝を果たしたジムと彼のチームにはバカンスが与えられて、チケットまで支給されたが支給されたということは行き先も指定されて「ゆっくりとそこで過ごせ」ということらしい。辺塞寧日なしとは言うが、彼らは軍に所属しても別に前線にいるわけではなく、有給休暇くらいくれてもよいではないかと言いたいところだがむしろ飛行機を降りてこれが休暇なら詐欺だったと思いなおす。
「だってここ何もないじゃん!」
オーストラリアの辺地に設けられた施設では農地開拓の試験開発が行われており、荒れ地を開墾するための大型重機に混じって実践投入された汎用人型機械フレームも配備されている。汎用機であるからには軍事用だけではなくインフラ開発に用いることも可能だが、大型のドリルやスコップを装備した機体を見てジムは嫌な予感を覚えた。まさかとは思うがこの農地開拓用に改修されたGMに乗れということか、ストライク・バックの舞台は宇宙空間だというのに。
そして気がつけば彼は農地開拓用ランドGMのコクピットでカメラスクリーン越しに宇宙空間を眺めている。この機体を宇宙仕様に再改修してみせた、メカニックのジェガンをはじめとするスタッフの腕には頭が下がるが正直なところ改修に失敗してくれたら普通のジムに乗せてもらえていたかもしれない。
ともあれシリーズ開幕、前大会優勝チームの初戦は北九州漁協率いるこだわりの大リーグボール右1号。実は右利きだと言い出したらしく機体?番号が1号に戻されているがそんなことよりもせっかくGMとボールの対決なんだからもっとまじめにやろうよとか、そんなことを深刻に思うヒマがあったら与えられた機体で最高のパフォーマンスを発揮するのがパイロットのプライドというものだった。
癖のある機体を扱うときに重要なのは開始直後であり、シミュレータとも試験飛行とも異なる実戦の場に立ってどれだけ早く操縦に慣れるかが勝敗すら左右する。先んじたのはボールに乗る神代で実は右利きだったという大リーグボールがハーフスピードからの不可解な動きで襲いかかる。だが至近距離での攻防自体は望むところで、削り合いになれば動きは緩慢でも開墾用の重機を載せた機体ならではのパワーと装甲が生きるはずだった。
「こっちは岩盤も削る掘削機なんだよね!」
「水に弱いのは別の大リーグボールさ」
ドリルをまわしてスコップを振り上げ、両肩の装甲部には散水装置も取り付けたランドGMだが宇宙開発に散水機能は必要ないだろうと思う。一撃の破壊力に勝るボールは相変わらずハーフスピードで襲いかかるが、なぜかセンサーが複数座標を捕捉してしまう上にGMの反応も鈍く回避しきれない。だがそれならそれで、今の機体で戦える方法を選択するのがジムの真骨頂だった。スコップを構えて短く応戦、装甲を活かせば相手の攻勢を弾くことができる。
序盤で受けた損害に動揺せずゆっくりと戦況を立て直して15分過ぎには状況を逆転、大リーグボールは避けにくいが制球が悪く連続攻撃にも限界があるが、ランドGMは最後まで装甲の削り合いを続けて僅差の判定で勝利。ベテランを相手に粘り強さを見せたジムの手腕はさすがだが、だからこそこういう仕打ちを受けちゃうんだよね。
○ランドGM 02 (30分判定) 大リーグボール右1号 00×
○テータ 02 (14分停止) オーガイザー 00×
○バラクーダ 02 (30分判定) 魔王 00×
○太極師 02 (30分判定) トータス号氷の死刑台 00×
○MT拾参足す事の15號 02 (30分判定) メガロバイソン7 00×
○猫ろけっとR9RV 02 (30分判定) アスタコネヲ改 00×
レディ・マクベス 00
ストライク・シリーズ二日目 = Days 2nd =
今大会は各日程に1枠ずつ公式戦のないチームが存在する。2日目が初日となる女王ロストヴァの対戦相手は久々の復帰戦となるネス・フェザード、彼女曰く「気まぐれで無責任で身勝手な男」だが調子に乗ると無類の強さを発揮する。わざわざ彼のブースを訪れたのも会いたかったわけではなく復帰早々に痛い目に会わせることを詫びておくためだった。
「相変わらず古くさい機体が好きねえ」
「古い女には古い女の良さがあるものでね」
斑鳩系汎用機の外装はそのままにシャークマウスを描いた機体が昔ながらの戦闘機を思わせる。特徴的なのはゼロウイングを改修した背部の大型スラスターで、機体名のバラクーダもソードフィッシュの後継機としてこれ以上のものはないだろう。むろん対戦を前に両チームのパイロットが親しくするわけにはいかず、紙コップで珈琲を交わした際に公開窓から見た姿だけだが、この機体でこの男がどのような戦法を選んでくるかはすぐに知れることになる。対するロストヴァのレディ・マクベスは女王得意のバランス機で粘りながら相手を消耗戦に引きずり込むいつものスタイルだった。
先制したのはバラクーダ。中間距離から時空移動スラスターで超加速、一瞬で距離を詰めると熱フィールドを仕込んだ両腕のアクセルバイトで斬りかかる。とっさに回避を試みるがわずかに被弾、一撃急襲して離脱する動きはバラクーダの名にふさわしい、戦闘機乗りそのままの戦い方である。
「F.F.F.F.(Fair is foul, and foul is fair)!」
ネスの意図を理解した瞬間、ロストヴァは反応して一撃離脱するバラクーダを追尾してロックオンしたF4の一撃を命中させる。ほとんど神がかり的なタイミングで直撃すると、ないに等しいバラクーダの装甲を派手に削るが次の瞬間にはすべてのセンサーからその姿が消えていた。高密度の弾幕で迎撃する装備はレディ・マクベスには積んでおらず迂遠でももう一度索敵、捕捉するしかない。
バラクーダの武器はアクセルバイトの一つだけ、だがどの距離からでも時空移動で襲いかかるのであればロストヴァ得意の距離確保は意味をなさなくなる。時空移動からの急襲などという動きを制御することは熟達したネスの腕でも難しいが、互いが相手を捕捉できなければそれは必ずしも不利ではなかった。
「しかし、女王様はあれに当ててくるかね」
心中舌を巻くネスだが、ただ一つの戦い方を尖鋭化させたバラクーダのスリルが彼を虜にしつつある。乗り心地であれば彼が若い頃、軍で知り合った女にも匹敵するじゃじゃ馬ぶりだった。高速移動から一瞬で至近距離に出現、一撃離脱を狙うがレディ・マクベスも度々削られながら直撃だけは許さない。バラクーダ並みに扱いにくい女がどうやら目の前にはいるらしく、超高速でワンチャンスを狙う攻防はそのまま30分を経過、僅差を逃げ切ったロストヴァが勝利と同時に操縦竿に身を預ける。まったく扱いにくいのはどちらだと、通信回線が開くなら怒鳴りつけてやりたい気分だった。
○MT拾参足す事の15號 04 (30分判定) 太極師 02×
○レディ・マクベス 02 (30分判定) バラクーダ 02×
○アスタコネヲ改 02 (30分判定) ランドGM 02×
○トータス号氷の死刑台 02 (18分停止) 猫ろけっとR9RV 02×
○メガロバイソン7 02 (17分停止) オーガイザー 00×
○魔王 02 (30分判定) 大リーグボール右1号 00×
テータ 02
ストライク・シリーズ三日目 = Days 3rd =
今大会初出場となるチーム・ピットの「魔王」。人型の機体だが不自然に大きい肩部に貧弱な胴体がぶら下がって、顔にあたる部分は渋面をしたリアルな人間のマスクになっておりお世辞にも趣味がいいとは言えそうにない。大会初日はバラクーダに抑えられたものの、翌日は北九州漁協を相手に逃げ切り戦績は一勝一敗と参戦後初勝利もあげていた。
「うさんくさい機体だねー」
俺がそれを言うかねとランドGMのコクピットでジムはうそぶいてみせるが、映像で見た二戦とも地味な攻防のまま判定で終わっており優等生だが及第点以上でも以下でもなく、ここまでは長所も弱点もまるで窺えなかった。
こういう相手には積極的に動いて主導権を握るべしと、至近距離から仕掛けたジムはスコップで殴りかかると格闘戦を嫌った魔王が後退した瞬間にドリルの一撃、教科書どおりの攻撃で先制する。再びへばりつくと「煉獄」の火閃を受けながら岩盤も砕くスコップを命中、明らかに翻弄されている魔王は後退、そこに再びドリルを直撃させる。相手が戦い慣れていないことを確信したジムはプレッシャーをかけるべくロックオン精度を上げてからスコップで殴打、農地開拓機ならではの破壊力で装甲を歪めるが、その一撃で魔王のオペレータAIが緊急モードに移行した。
「システム=ヨハン起動、フランツの沈黙を確認」
「ふん、ようやく起動するか」
そう呟いて、メカニック扱いでブース内に腰を落ち着けているウォルフガング卿は評価プログラムを開始するだけであり、あとは彼のチームが組み上げた「魔王」の性能を見るだけだった。エネルギーが収束して出力が急激に上昇、それに合わせて魔王の渋面が笑顔に変わる様がむしろ禍々しく、対峙するジムの背に冷たい汗を流させる。
「おいおい、よりにもよってSPTですか!」
緊急モードに入ると同時に機体をオーバーロードさせるSPT、だがこれだけ博打要素の強い機体をあのパイロットで扱うことができるだろうか。肩部のスロットを解放して放たれる「鋼鉄」の軌跡が襲いかかり、直撃を受けるジムだがすかさず相対座標の再計算を行いロックオンを試みる。SPT攻略の基本は二つ、緊急モードに入らせないか、あるいは速攻で沈めるかでありランドGMの破壊力なら充分優位に立てる、そう考えて思い切った殴り合いをしかけるが別人のように精密な動きになった「魔王」は確実にランドGMのセンサーを外しながらロックオンを重ねていく。
「位相固定完了、目標捕捉。残念だね・・・Feuer!」
奈落の底から掴みかかる腕のように伸びた「鋼鉄」がランドGMに再び直撃、機動停止こそしなかったがこの一撃で戦況を覆した「魔王」がそのまま逃げ切って勝利。機体名にふさわしいインパクトのある姿を見せつけた。
○魔王 04 (30分判定) ランドGM 02×
○バラクーダ 04 (30分判定) 猫ろけっとR9RV 02×
○アスタコネヲ改 04 (30分判定) 太極師 02×
○メガロバイソン7 04 (06分停止) テータ 02×
○オーガイザー 02 (30分判定) レディ・マクベス 02×
○大リーグボール右1号 02 (30分判定) トータス号氷の死刑台 02×
MT拾参足す事の15號 04
ストライク・シリーズ四日目 = Days 4th =
シャル・マクニコルはかつて軽量機による近接格闘戦の第一人者として、雷光に例えられる「ブリッツ」の呼び名を得たこともあるが、長期の成績不振が祟り栄光も過去のものになって久しい。多くの後援企業が撤退して旧来のチームを維持することも難しくなり、今大会ではかろうじて獲得した新スポンサーの下で継続参戦が実現した次第である。確かに昨今は機体の大型化、多弾頭、高出力、遠距離戦が主流になっているが一方でそうではない機体が活躍して優勝をさらっている例も少なくない。まずは自分のスタイルを確立し、それを尖鋭化していくのは初心者もベテランも同じだろう。
「うん?さっきの人・・・」
「どうかしましたか?」
ブースに入る直前、考えごとをして気づくのが遅れたが対戦相手となるチーム・ピットのパイロットとすれ違ったように思う。線が細く驚くほど印象の薄い青年だったが、あれが先の試合で「魔王」を操縦していたならあまりにイメージとかけ離れていた。とはいえ曖昧な記憶にいつまでも関わっていられるほどシャルの立場は強いものではない。新チームは龍RONと仮称する中国系の小さな団体で、オペレータの夏秋蘭やメカニックのタオを含めて素人同然のメンバーであり至らないところはシャルがいちいち補わなければならない。忙しいことこの上ないが、家族的な感覚は久しく味わっておらず苦痛も苦労も覚えなかった。
機体は可変フレームの太極師。第一印象としてギミックが多く機体バランスもいいとは言えず、今大会で特徴を拾い上げて使える機能を残していくつもりでいる。同時に不慣れなオペレータをサポートしつつ対戦相手となる「魔王」の緊急モードをどこまで封じるか、検討すべき事柄は多い。
「太極師、出ます」
速攻は仕掛けずにまずは機体制御と距離確保に専念する。シャルの適正を見て装備を近接用に組んでいるが、縮地装置が活かせるならオペレータの誘導は不要であり献身的な秋蘭を別のサポートに専念させてもよいだろう。「魔王」は格闘戦を嫌って中間距離に下がろうとするきらいがあり、消極的な印象でプレッシャーを感じない。先にすれ違った線の細い青年のイメージそのままだった。
じっくりと時間をかけて戦況を構築、初撃を仕掛けたのは開始14分で至近距離から発勁を打ち込むと離れたところで火炎砲、再接近して発勁とわずか5分ほどで一気に「魔王」を追い込んだ。当然のように緊急モードが起動するがこの時点で開始20分を過ぎており、相手のセンサーに捕捉されたとしても残り3分ほどを耐えればいい。改心のタイミングで優位に立ったシャルはその後は互いに決定機がないまま安全圏を逃げ切ることに成功する。オペレータがパイロットを感心して迎えるのだから、まだまだ課題は多いがそれも悪くはなかった。
「ああいう戦い方もあるんですね」
「先は長い、そう思って上を目指そうよ」
○バラクーダ 06 (25分停止) 大リーグボール右1号 02×
○太極師 04 (30分判定) 魔王 04×
○オーガイザー 04 (30分判定) MT拾参足す事の15號 04×
○トータス号氷の死刑台 04 (07分停止) メガロバイソン7 04×
○テータ 04 (30分判定) レディ・マクベス 02×
○ランドGM 04 (30分判定) 猫ろけっとR9RV 02×
アスタコネヲ改 04
ストライク・シリーズ五日目 = Days 5th =
前大会では準優勝に終わったTeamKK。とはいえリーグ戦を一位通過した機体は評価もまずまずで、賞金も含めて資金的には息がつける結果だったらしい。一介の町工場としては開発コストがかさむのを承知で技術力を売り込み続けなければならず、堂々と自転車操業を宣言しながら今日も新兵装の開発に余念がなかった。
「安らぎが欲しいっすー!」
工房では宇宙開発向けに増員したチームKK+の学生くんが悲鳴を上げている。話によると今大会はレギュレーションぎりぎりの機体が数機申請されており、審査に時間がかかっているらしくクスノテックの機体も認可が下りていない。通らなければ使えないが、作らないと間に合わないから作っちゃえと開発を進めているのは安易に仕事を止められない町工場故の苦労である。もちろん進めたら進めたで改善指導にも対応する。直したらもちろん受け入れまで試験しないといけない。時間がかかる。さあどうしよう。そんな駆け込みでロールアウトさせた猫ろけっとR9RVだが、ここまで微妙に他チームの後塵を拝しているのは機体が間に合っても実戦稼働は別ものという当たり前の事情のせいだった。開発責任者の山本いそべが自ら操縦するとしても、新兵装を実戦投入するのはいつでも大変で、そのへんは彼らだろうが新チームで参戦するシャル・マクニコルだろうが変わらないのだ。
「まぐろけっとリリースぅ」
「速い、速いけど、遠い!」
自ら尾びれをぶんまわす航行型ミサイルを放つがシャルは落ちついて避けながら前進、火炎砲を放つとこれが命中して太極師が先制する。われ奇襲に失敗どころか先手も許した猫ろけっとだが、彼らの戦法は自分のペースに持ち込めるか否かにありそのまま中間距離を受け入れると今回の目玉、まるちぽーあどばんすを展開した。オペレータAIが自律コントロールする独立式人型兵装だが、一歩間違えれば集団戦になりかねず今回審査に時間がかかった理由である。
猫ろけっとがフォーメーションを組んで自律兵装を従える、だが指令は猫ろけっと自体が出さなければならない上にストライク・バックではレーダーによる通信が禁止されていた。いそべの反応速度がまるちぽーに伝わるタイムラグを考えると、ある程度離れると実戦レベルでは浮遊砲台と変わらなくなってしまう。
「あーんど、ふぉーすばれっとぉ!」
だからまるちぽーに援護させて本体がフォースフィールドを使った体当たり、それが今回の猫ろけっとの戦術で、ようするにコンビネーション込みで開発しないと実戦レベルとはいえないがコンビネーションはパイロットが即興で作るから勘弁な!でも試合を重ねれば慣れてきて精度も上がる。格闘戦狙いの太極師を「浮遊砲台」からの砲撃で牽制しておいてフォースバレットで削り、中間距離で「まるちぽー」からコントロールした一撃。これで戦況を支配した猫ろけっとがようやく会心といっていい内容で勝利を飾る。あとは応用が利くかだなーとはインタビューでのコメントである。
○バラクーダ 08 (26分停止) ランドGM 04×
○トータス号氷の死刑台 06 (13分停止) 魔王 04×
○テータ 06 (21分停止) MT拾参足す事の15號 04×
○アスタコネヲ改 06 (30分判定) オーガイザー 04×
○メガロバイソン7 06 (09分停止) レディ・マクベス 02×
○猫ろけっとR9RV 04 (30分停止) 太極師 04×
大リーグボール右1号 02
ストライク・シリーズ六日目 = Days 6th =
宇宙(そら)駆けるサムライこと無頼兄・龍波とオーガイザー。ここしばらく成績不振が続いて低空駆けるサムライという状態だが、元来の近接格闘戦スタイルに戻してから調子が上向きになってきた感はある。とはいえ今大会もここまで黒星先行、挽回したいところだが相手は首位を走るバラクーダとネス・フェザードだった。
「戦いは相手を選ぶものじゃないぜ!そうだろう、魂鋼よ」
「選ぶべきものはない、試すべき男があるだけだ」
破壊されれば機動停止に至る、装甲自体にAIが搭載されているのがオーガイザーである。一見して意味がないように思えるがAIが実際に可動部の補強計算をして装甲を強化していた。高出力よりも重装甲、一撃必殺よりも粘り強さでバラクーダの超加速戦を迎え撃つ。
先制は時空加速から至近距離に出現したバラクーダ。アクセルバイトの一撃を決めた次の瞬間には姿を消しており、この機体がここまで首位を走っている理由を無頼兄は一瞬で理解する。こんなものを捕まえることはできない、ならば足を止めて相手が出現した瞬間に拳を重ねるしかない。割り切った判断が功を奏したか、二撃目のアクセルバイトに合わせたガイ・ブレイカーが命中すると一瞬のためらいもなくラッシュ、ガイ・ブレイカーの乱打が連続命中してバラクーダの薄い装甲に大ダメージを与える。
「まぐれでいい気にならんように!」
釘を刺すように届いたオペレータの鬼姉、紅刃の声が無頼兄の無謀にブレーキをかける。オーガイザーは一撃必殺よりも粘り強さの機体であり、有利な状況だからといって自分を見失うのも男のすることではない。バラクーダの常軌を逸した加速が30分間も保つ筈がなく、わずかずつでもジェネレータの出力は低下していかざるを得ない筈だった。
「厳しいね、ここまで徹底されると」
「男はこだわりをなくしたら終いだぜ!」
超加速で出現するバラクーダの動きを無頼兄はほとんど認識できないが、ネス自身もこの機体を完全にコントロールはできず攻撃の精度は決して高くない。10分以上もじっくりと守りながら迎撃のタイミングを計り、再びアクセルバイトを受けた瞬間にガイ・ブレイカーを命中させる。これで相手は機動停止寸前、残り10分になるとネスもエネルギーを全解放するラッシュで最後の逆転を図るがこれを耐えればオーガイザーが逃げ切ることができるだろう。
逃げるのではなく耐えるのが男だとばかり、魂鋼を炎にさらして装甲をみるみる削られながらも直撃だけは避けることに決めた。迎撃が当たればその瞬間に勝負が決まるが、バラクーダもそれは許さずオーガイザーの装甲を咬みさこうと襲いかかる。序盤10分はラッシュで圧倒、中盤10分は守りながら一撃を決めて最後の10分は火だるまになりながらもひたすら耐え続ける。遂に時計の砂が尽きて、誇らしく立っていたのは魂鋼に守られた男の機体だった。
○トータス号氷の死刑台 08 (11分停止) テータ 06×
○メガロバイソン7 08 (18分停止) ランドGM 04×
○アスタコネヲ改 08 (14分停止) レディ・マクベス 02×
○オーガイザー 06 (30分判定) バラクーダ 08×
○魔王 06 (30分判定) MT拾参足す事の15號 04×
○大リーグボール右1号 04 (30分判定) 太極師 04×
猫ろけっとR9RV 04
ストライク・シリーズ七日目 = Days 7th =
中日を迎えて今ひとつ不本意な戦績の北九州漁協。破滅の音が聞こえた左腕を捨てて右腕に回帰したことが原因かもしれないが、もともと右利きが左投げや左打ちに転向するケースは決して珍しくはなかった。だが知らない人にはさっぱりわからないかもしれないジャイアント★スターのネタにも神代進は動じない。
「ハワイでは江川卓に間違えられてしまってね」
「キュ?」
だから知らない人にさっぱりわからないネタはどうだろうかと、サイボーグイルカのフリッパーもたしなめているような気がしなくもなかった。ともあれ圧倒攻勢と千変万化が魔球にも例えられる、それが大リーグボールであり今大会でも彼らのストロングポイントはいささかも失われてはいなかった。そして圧倒攻勢というのであればタイプこそ違えど彼らと双璧を為すのがメガロバイソンプロジェクトである。
「今回は機体仕様を戻したんですね」
「二歩下がったんで三歩進みます!」
天才オペレータ、ジアニ・メージが力強く宣言する通り、ここ数大会いまいち戦績が安定しなかった彼らだが本来の短期決戦スタイルに戻したことでここまで首位に並ぶ戦果を見せている。彼らに対抗するには彼らに勝る攻撃力か彼らを封じる防御力が必要だが、神代がどちらを選ぶかは聞くまでもないだろう。
開始と同時に両機が砲門を全解放、襲いかかるメガロバイソン7のアウトレンジブラスターに大リーグボールの160キロ横手投げが真っ向から立ち向かうと双方直撃。出力ではバイソン7が明らかに勝っているが、大リーグボールの勝機は「魔球」が通じるか否かにある。デーゲームに限定、連投はできないが短期決戦なら関係ない。
「これが蜃気楼の魔球さ」
「消える魔球とは逆の変化をするキュよ」
中間距離で揺れながら襲いかかる攻撃が、ハーフスピードなのに捕捉できず一撃が命中する。初日の対戦でジムも苦戦させられた不可解な魔球を嫌ったバイソン7はすぐに離脱してアウトレンジブラスターの連射、大リーグボールは剛速球を織り交ぜて緩急のある反撃を試みる。わずか3分で双方の損害が五割超、ここで両者が選んだのは彼ららしく更に攻撃を強めて正面から撃ち合うことである。160キロの剛速球とアウトレンジブラスターが続けて二度、ノーガードで直撃して観客すら圧倒された対決はわずか5分で決着。魔球の一撃で優位を得てそのまま押し切った北九州漁協が、派手な撃ち合いを制して巨人の勝ち星を手に入れた。
「予期せぬ第2のボールが来るキュ」
○バラクーダ 10 (25分停止) テータ 06×
○アスタコネヲ改 10 (30分判定) MT拾参足す事の15號 04×
○ランドGM 06 (15分停止) トータス号氷の死刑台 08×
○大リーグボール右1号 06 (05分停止) メガロバイソン7 08×
○猫ろけっとR9RV 06 (30分判定) オーガイザー 06×
○レディ・マクベス 04 (30分判定) 魔王 06×
太極師 04
ストライク・シリーズ八日目 = Days 8th =
蝶のように舞い蜂のように刺す。かのカシアス・クレイを讃えた高機動かつ一撃必殺のスタイルだが、さんくちゅあり謹製メカタウラスことMTシリーズは舞うことができても刺すことに課題があるというのが正直な現状だろう。今大会でも一戦を除けばすべて判定決着という戦績が堅牢な守備と決定力不足の双方を示していた。
「だからもっと遠慮なく刺しなさいよ!」
「あー、いやお嬢その発言は微妙な」
天宮あてなの発言ももっともだが、実のところイプシロン機でこれだけの防御力を見せている牛山信行の腕はもっと評価されていい。とはいえ「信兄ぃをおだてない」のが彼らチーム・さんくちゅありの暗黙の了解でもあるらしく、知らぬが当人だけであればちょっと気の毒ではあるかもしれない。そのさんくちゅありが用意するメカタウラス、正義は燃え立つ太陽の使者13+15号の相手はランドGM。前日の北九州漁協対メガロバイソンプロジェクトが最強の矛同士の激突なら、牛頭の巨人と連邦の汎用機の対決は難攻不落の盾同士が対峙する一戦である。両機とも隙を見せずにゆっくりと自然な流れで接近、防御力では拮抗しても相手は攻撃力も備えているからMT28号はわずかたりとも気が抜けない。
「気なんか抜いたらぶっとばーす!」
最近口が悪くなってきたオペレータを心配しつつ、近接格闘戦の距離から農地開発用のショベルとアームド・アームズが振り回されるがどちらも命中せず、空振りした返しの一撃を狙うという、こっそりとテクニカルな攻めを見せた牛山の攻撃もGMはしっかり弾いてみせた。至近距離で盾と装甲をがつがつとぶつけつつ、隙を狙った相手の一撃を更に弾いてみせる無骨な展開はむしろ地上戦時代の激突を思わせてここが宇宙空間であることが惜しくすら思える。
「これせめて月面でやったら売れますねえ」
「呑気なコメントしてんじゃなーい!」
メカニックの仔羊徳兵衛が気楽に評しているのも開始10分を過ぎてなお互いにかすり傷すら与えられない展開のせいだが、それだけ両機のパイロットは神経をすり減らす攻防を続けている。こうなるとわずか一撃が勝敗を分けることになるがようやく開始17分でランドGMのスコップがMT28号に命中、装甲をわずかに削ることに成功。先制したジムは無理な追撃をせず、隙すらも見せようとせずにこのまま押し切るつもりでいることは明らかだった。
展開は完全に長期戦の我慢比べ、開き直った牛山はワンチャンスに賭けて接近戦の削り合いを続けるが5分後、アームド・アームズの一撃が相手のシールドをくぐり抜けることに成功。だがここで牛山はあえて無理を承知の追撃を敢行すると二撃目の拳も命中、そのまま逃げ切ってテクニカルな攻防を制してみせた。
「信兄ぃ、もしかして優秀?」
○バラクーダ 12 (28分停止) トータス号氷の死刑台 08×
○大リーグボール右1号 08 (17分停止) アスタコネヲ改 10×
○魔王 08 (26分停止) オーガイザー 06×
○テータ 08 (28分停止) 太極師 04×
○MT拾参足す事の15號 06 (30分判定) ランドGM 06×
○レディ・マクベス 06 (11分停止) 猫ろけっとR9RV 06×
メガロバイソン7 08
ストライク・シリーズ九日目 = Days 9th =
リーグ戦終盤を迎えて、各チームが星を並べている状態で生き残りを図るにはまず上位のチームを引きずり下ろさなければならない。ありていに言えば上位のチームを直接対決で沈めること、この日のイハラ技研との直接対決を制することだが負ければ1位2位のチームにそれぞれ勢いを与える結果にもなりかねないだろう。
「そんなワタシたちがすべきことは!」
「攻撃は最大の攻撃!」
わかってきたじゃないですかと満足げなジアニ・メージに向けて、ゲルフ・ドックはスクリーン越しに拳を握ってみせる。小細工抜きの短期決戦がゲルフ得意のスタイルだが、特に攻撃力の高いチームを相手に思いきりのいい攻撃ができなかったとき、つまり自分のスタイルを貫けなかったときには守備のもろさがそのまま弱点になってしまう。メージはそれを理解した上で煽るのだがあるいは何となく煽りたいだけかもしれなかった。遠距離主軸で攻勢に優れるイハラ技研は得意距離も攻撃力の高さも被る相手だが、バイソンほど強引な攻撃はしない代わりに高い攻撃力を維持しながら他の要素でフォローを加えるのに長けたチームである。
「だから一気に持っていくか一気に持っていかれるか、ですね」
それは大味なのではなくファースト・アタックですべてが決まる、開始直後の一瞬に攻防が凝縮されていると思えばいい。機体仕様を7オリジナルに戻していたメガロバイソンは装甲で優位に立っている筈で、先手を取ることができれば圧倒的に優位に立てる筈だった。メカニックのザムは何を言われずとも彼らに合った機体を仕上げている。
「メカニックの仕事はメカが知っていてくれりゃあいい。乗るヤツはてめえが乗るメカに感謝するもんだ」
「はい!メガロバイソン7・ゲルフカスタム、行きます!」
そうして開始と同時に中間距離からデュアルバルカンを撃ち放すバイソン7、気合いも乗ったためらいのない一撃だが思いきり気負った攻撃でもあった初弾は完璧に狙いがあさっての方角を向いて宇宙のかなたに飛んでいく。開始直後の一撃、攻防が凝縮された一撃にちょっとだけザムとメージの白い目が通信回路を伝わってきたような気がしたが、ここでめげずにひたすら攻めるのが攻撃は最大の攻撃たるゲルフのスタイルである。
そのまま遠距離に移行してアウトレンジブラスターを今度はかすらせると三撃目でようやく一弾が直撃、四撃目で三発同時命中に成功した後は続けて直撃クラスを一気に同時命中、終わってみればバイソン7が得意の短期決戦で完勝を収めてみせた。
「こんな短時間で尻上がりに調子を上げるってスゴイですよ」「あー、まあいろんなモンに感謝しな」
「・・・スミマセン」
○バラクーダ 14 (29分停止) 太極師 04×
○メガロバイソン7 10 (06分停止) アスタコネヲ改 10×
○魔王 10 (14分停止) テータ 08×
○猫ろけっとR9RV 08 (30分判定) 大リーグボール右1号 08×
○レディ・マクベス 08 (30分判定) MT拾参足す事の15號 06×
○オーガイザー 08 (30分判定) ランドGM 06×
トータス号氷の死刑台 08
ストライク・シリーズ十日目 = Days 10th =
「危ないところだった」
SRI白河重工代表、狂わせ屋女史が呟いた理由はリーグ突破に可能性を残す現状に対してのものではなく、今大会新参のチーム・ピットがSRIの代名詞とも言うべき世紀末パワードトルーパーことSPTで参戦したことにある。もしも今回、トータス号がSPTに回帰していなければ大会唯一のSPT乗りの座を彼らに独占されていたところであり、独占するのはよいが独占されるのは狂わせ屋の名にそぐわなかった。パイロットのコルネリオ・スフォルツァにすれば乗るのは俺なんだけどと言いたかったかもしれないが彼の発言は求めていない。
首位を独走するネス・フェザードを除き、2位以下が混戦状態にあるため現時点でSRIを含む各チームにリーグ突破の可能性が残されている。そして彼らが上を狙うには現在2位にある3チームのうち、未対戦日を残している「魔王」を除くメガロバイソンとイハラ技研には誰かが必ず土をつけなければならなかった。この日、彼らの相手はそのイハラ技研であり、もちろん強敵だが究極的にはSPTは誰が相手でも勝つことができる機体なのだ。
「問題はそれが偏ってることじゃないのか?」
「偏らずに何のための狂わせ屋」
マイナスにマイナスを掛ければプラスとでも言いたげな狂わせ屋女史の正論?だが、SPTの真骨頂は機体バランスの悪さを承知の上でどうやって最大のパフォーマンスを発揮するかにあり、この機体にしか通用しない独自のバランスを追求する必要がある点では実のところ他と条件は変わらなかった。
ブリキの自動車、トータス号氷の死刑台は人喰い蛾をばらまいて距離制圧を図る。もちろんこれで白骨化はしないが不規則な動きからの砲火でアスタコネヲの装甲を削ると、続けての散発的な攻撃も命中させてトータス号が優位に立つ。だが先のメガロバイソン戦で圧倒されたとはいえ、アスタコネヲの破壊力も尋常ではなく相撃ち覚悟のムーンストライクが直撃して一撃で戦況を五分に戻された。続けて直撃、これもトータス号の装甲を派手に吹き飛ばすがピンチに陥ったときに真価を解放するのがSPTである。
「レイ!VM−AX起動!」
緊急システムの効果は三つある。一つは爆発的な破壊力を得ること、一つは圧倒的な加速性能を得ること、そしてもう一つはあの力が流れ込むことだった。交錯した吸血地獄とニッパースラッシュが互いに直撃、アスタコネヲの攻撃力は高いが、48時間に一度は血を求めるという吸血地獄の一撃はそれすらも上回って両機機動停止寸前。互いの攻撃力を考えれば確実に次の一撃で勝負が決まる、この状況で両者の選択はアスタコネヲに乗るテムウ・ガルナが回避攻撃、トータス号に乗せられているコルネリオが攻撃攻撃攻撃である。
アスタコネヲはトータス号の攻撃をかわした。もう一撃かわした。しかしもう一撃は命中した。この一撃がとどめとなり無念の機動停止、SRI白河重工がリーグ突破に望みをつなげる貴重な勝ち点を手に入れた。
○バラクーダ 16 (30分判定) MT拾参足す事の15號 06×
○メガロバイソン7 12 (07分停止) 魔王 10×
○テータ 10 (30分判定) 猫ろけっとR9RV 08×
○レディ・マクベス 10 (30分判定) 大リーグボール右1号 08×
○オーガイザー 10 (30分停止) 太極師 04×
○トータス号氷の死刑台 10 (06分停止) アスタコネヲ改 10×
ランドGM 06
ストライク・シリーズ十一日目 = Days 11th =
ストライク・バックに参戦する各チームには相性というものが存在し、例えばたびたび圧倒的な強さを発揮するクスノテックがSRIのトータス号には奇妙に分が悪いということが起こる。同様にそのクスノテックと、女王ロストヴァに対して異常な強さを発揮するのがコミューンであり、今大会でも両チームを当然のように撃破しておりリーグ突破にも未だ望みを繋いでいた。
「今さらスタイルを変えることはないさ。似合わないドレスを着て女が美しくなるものじゃない」
「苦手な相手を承知で勝つ可能性を考える、か」
意地でも深刻さを装おうとはしないメカニックのハイナーに、こちらは生真面目なノーティが考え込んでいる。彼らのスタイルを支える堅忍不抜はオペレータのシータによる精密な補佐に多くを負っていたが、それは深謀遠慮だが臨機応変ではなく短期勝負が得意な攻勢機には後手を踏まざるをえない。残り三戦、負けが許されない状況でその短期決戦が得意な北九州漁協を相手に攻略の糸口を掴まなければならなかった。
「だがいつもシータに頼るのも情けない、そう思うかい?」
珍しく悪戯気のある表情になったノーティの瞳がわずかに彩りを帯びる。おそらく博打になるだろうが、彼なりに作戦を考えたらしくここは若者に任せるのが無責任な大人の役目というものだろう。もともと彼は博打が嫌いではない。
大リーグボール右1号は蜃気楼の魔球を放つとこれをテータの死角から命中させ、同時に交錯したガトリングガンも落ちついて弾いてみせる。速攻を仕掛けながら堅牢な守りも見せる「要塞」神代はすかさず160キロ横手投げを直撃、もう一球も命中させてわずか3分でテータを追い込んでしまった。誰もが予想した短期勝負の展開で、このまま決まればそれはもはや仕方がない。
「短期勝負で攻撃の精度を上げる、一昨日メガロバイソンがやっていたね」
「やれと言われて、できれば誰も苦労はしない!」
文句を言われるのも当然で、短期勝負で先手を取られることを承知で「シータ・プログラム」を構築する。いつものスタイルを極短時間で実現させるという離れ業を狙うつもりでありまさしくそれができれば苦労はないのだ。だが狙わなければまぐれもありえず、失敗してもしょせんはパイロットの無能が原因である。回避に専念しながらデルタ・アタックを展開、想定ではシータの計算が完了するまで8分は必要だが4分、5分と経つうちにすでに行動予測の精度が上がり、死角から現れる蜃気楼の影もテータのセンサーに捉えられるようになってきた。
たとえ計算が不完全でも必要なだけの効果さえ発揮すれば何の問題もない。気がつけばデルタ・アタックの砲火が一方的に大リーグボールをたたき、堅牢な装甲がみるみる削られていくと途中で反撃を一度受けたものの一気に押し切って逆転勝利。難敵を相手に強引に自分たちのスタイルを貫いたテータが、リーグ突破に望みを繋ぐ勝利を手に入れた。
○バラクーダ 18 (30分判定) メガロバイソン7 12×
○アスタコネヲ改 12 (11分停止) 魔王 10×
○テータ 12 (19分停止) 大リーグボール右1号 08×
○レディ・マクベス 12 (30分判定) トータス号氷の死刑台 10×
○猫ろけっとR9RV 10 (30分判定) MT拾参足す事の15號 06×
○ランドGM 08 (30分判定) 太極師 04×
オーガイザー 10
ストライク・シリーズ十二日目 = Days 12th =
正直なことをいえば残り二日の日程、対戦相手が最も厳しいのがイハラ技研である。それは勝てば相手を直接蹴落とせるということでもあるが、どうせ全部勝たなければ生き残れないなら相手は楽なほうがいい。かようにパイロットのテムウ・ガルナは楽なことばかり考えている毛ボコリのようにもっさりした青年であるということだ。
「なに人のこと妙なナレーションしてんだよ」
最近どこぞの校長をクビになって暇を持て余しているらしい、白い納品業者を追い出してからコクピットに入る。災害支援にも活躍する双腕仕様機アスタコネヲ改、新作の重機だからとドカヘル姿で乗せられたがどうせ彼はツナギとTシャツとスウェットくらいしか着るものを持っていないという評判だった。一度おしゃれに挑戦してネルシャツとチノパンという禁断のスタイルで見事に失敗した経緯があるらしいがそれはそれとして、手賀沼の雄WDF謹製の機体といえば真綿で首を締める乗り心地で知られているが、今大会では「ぼっちに優しいストライクバック」をコンセプトにオペレータとメカニックのダブルAIを搭載したにぎやかな機体となっている。
「まあてきとうにやれや」
という自称ピディンを名乗るAIにすでに見下されているが、飼い犬が家族の序列を見極めるように自我を持った人工知能も人間の上下を見極めることができるのだ。つまりお前は下等だ。
「殴っていいかな?」
殴るならAIに八つ当たりなどせず対戦相手に正々堂々と立ち向かうのがパイロットのあるべき姿だろう。本当は別に恨みもない相手よりもたっぷりと殴りたい奴はいるのだが、それはそれとしてここで目の前の相手、テータを撃破しなければリーグ突破の目は見えてこなかった。相手は長期戦で調子を上げるチームであり、短期決戦でしとめなければならない程度のことはテムウも心得ている。だが開始早々に仕掛けたのは前日の北九州漁協戦で速攻への対応に慣れたテータの方で、デルタ・アタックの火線に巧みに誘い込まれたアスタコネヲが複数被弾して先行される。
「( ´_ゝ`)プッ 」
こんなところだけ機械っぽく顔文字で莫迦にしてくれるオペレータ画面を懸命に見ないようにしつつ、ムーンストライクを直撃させると一撃で戦況をひっくり返す。すかさずテータも反撃の砲火を命中させるが正面からの撃ち合いはテムウには願ったりで、相手が精密動作に移る前に一気に攻勢を強めると大口径ムーンストライクによる狙撃を一撃、二撃、三撃と連続命中させた。速攻による短期決戦は何も開始と同時に仕掛けるだけではない、改心のタイミングで決めた勝利にテムウ・ガルナの評価もただの毛ボコリさんからちょっとできる毛ボコリさんにランクアップしたに違いなかった。
○アスタコネヲ改 14 (07分停止) テータ 12×
○レディ・マクベス 14 (30分判定) ランドGM 08×
○メガロバイソン7 14 (08分停止) 太極師 04×
○猫ろけっとR9RV 12 (30分判定) 魔王 10×
○オーガイザー 12 (18分停止) トータス号氷の死刑台 10×
○MT拾参足す事の15號 08 (30分判定) 大リーグボール右1号 08×
バラクーダ 18
ストライク・シリーズ十三日目 = Days 13th =
最終日、決勝進出の一枠をすでに手にしているバラクーダはアスタコネヲと激突する。イハラ技研が勝てばリーグ突破に大きく前進、負ければむろん大きく後退するが、今大会を席巻しているバラクーダを止められなければしょせん決勝に出たところで結果は知れたものだろう。意地を見せてみろ。毛ボコリの。
「うーん、でもこの相性は」
オペレータよりもはるかに真面目なHFシステムが冷静に機体性能を評価するに、アスタコが勝つには高出力だが精度に難があるムーンストライクを二発は直撃させるしかないだろう。いっそ初手から仕掛けてラッキー・ヒットを狙う、そしてそれが開始早々に成功した。相撃ちにこそなったがバラクーダの出現と同時に迎撃したニッパースラッシュが命中して、命中したのは予備兵器のニッパースラッシュだったので残念なことに期待した破壊力は得られなかった。
「あー。えーと、確かに距離条件も厳しかったけどさ」
「・・・」
AIに莫迦にされた次はAIにフォローされてしまったたテムウはその後もバラクーダの時空移動を捉えきれないまま完敗。勝利したネスはわずか二敗で首位突破を確定させるが、その彼に土をつけたチームが後半戦六連勝でリーグ突破の可能性を残すロストヴァである。相手は新チームでぎこちなさがあるシャルと太極師、戦前評ではレディ・マクベス優位だが太極師は攻撃精度に不安がある一方守備力であれば互角に近い。
「ロストヴァ・トゥルビヨンを相手に削り合いをするつもりかしら?」
彼女の勝利とは圧倒的な力で相手を叩き潰すのではなく、神速で敵に触れさせないのでもない。拮抗して削り合い判定まで持ち込まれる、だが崩れないバランスと相手の弱点を突く容赦のなさで勝利だけを奪い取るのがロストヴァのスタイルだった。近接格闘戦が得意のシャルに正々堂々と殴り合いを演じるようなことを彼女はせず、散発的な砲戦で一撃を命中させる展開に終始する。太極師はレディ・マクベスを相手に削り合いを演じることはできた、判定に持ち込むこともできた、だが内容では完封されて一度の好機も与えられることがなく女王に膝を屈することになる。
これでメガロバイソンプロジェクトが勝利すればロストヴァと同率2位で決定戦を争うことになるが相手はあのクスノテックである。最後に難敵中の難敵を迎えるがゲルフカスタムに戻した最強の矛は最強の盾を貫く威力があった。
「骨はワタシが散骨してあげます!メガロバイソン7・ゴー!」
「行きます!」
だが無謀を承知の積極攻勢を図るメガロバイソンの機先を制したのは猫ろけっとで、緻密に展開するまるちぽーの隊列が張った弾幕に猪突猛進したバイソン7が正面から突入する。攻撃力も備える盾に迎撃された、最強の矛は機体だけではなくゲルフのスタイルもそれであり一歩も引かずに開放したデュアルバルカンからアウトレンジブラスターのラッシュが命中、強引に戦況を引き戻す。そのまま撃ち合いになるが砲火の雨にさらされながら耐えきったいそべが残り2分でまぐろけっとの一撃を命中させて逆転勝利。決勝進出最後の切符はロストヴァの手に渡された。
○バラクーダ 20 (30分判定) アスタコネヲ改 14×
○レディ・マクベス 16 (30分判定) 太極師 04×
○猫ろけっとR9RV 14 (30分判定) メガロバイソン7 14×
○テータ 14 (21分停止) ランドGM 08×
○オーガイザー 14 (17分停止) 大リーグボール右1号 08×
○トータス号氷の死刑台 12 (30分判定) MT拾参足す事の15號 08×
魔王 10
STRIKE SIRIES V ストライク・シリーズ優勝決定戦 = The Final = バラクーダvsレディ・マクベス
ネス・フェザードとロストヴァ・トゥルビヨンは彼らが若い当時、軍に所属していた頃からの知り合いだったと言われているが、後にロストヴァが軍を辞めて以降もネスの所属は変わっていない。ネスに言わせれば彼女はいつまでも軍に繋いでおけるような女ではなく、ロストヴァに言わせれば彼は軍にでも繋いでおかないと何をするかわからない男だった。
「人に渡せない席というものがあるのよね」
今大会、圧倒的な強さを見せたバラクーダに土をつけることができたのもロストヴァならではだが、だからこそこの男にもう一度勝つことの難しさも承知している。ストライク・バックには機体同士、チーム同士の相性というものが存在して十中八九結果が知れる対戦がある一方で勝敗が読めない組み合わせもあり、残念ながら彼らの関係は後者に類する。だがネスの立場であれば無類の戦果を見せるバラクーダでさえ、勝敗が読めないところまで持ち込まれる相手とも言えた。
バラクーダの特徴は時空移動スラスターを有効活用するために超高機動を選択した点にある。距離を選ばずに出現して一撃離脱、古くさい雷撃機を思わせるスタイルがいかにもネスらしい。これを追尾、捕捉することは至難の技だが好機があるとすれば開幕直後のわずかな時間帯であり、ロストヴァがリーグ戦で見せたようにワンチャンスを掴んでそのまま逃げ切るしかないだろう。彼女と彼女のレディ・マクベスにはその力があるが、だからといって何度もできれば苦労はしないのだ。
「OK・アブ?ステータスオールグリーン、勝負は最初の五分間よ」
「今日もじゃじゃ馬の機嫌は悪そうだ。会って早々の平手打ちは避けたいな」
互いに交わした会話ではなく、それぞれがオペレータとメカニックに呼びかけた声である。バラクーダの時空移動が本格的に稼働するまでの数分間、ロストヴァの勝機はそこにあるがこれをしのがれればネスが圧倒的優位に立つ。勝敗は読めず、だが比べるなら自分が不利にあることも彼女は理解していた。
両機が射出用のカタパルトに搭載される。無重力あるいは低重力下では、輪状の磁力レール上を加速させ続けることで高速を得ることが可能であり、観客に見せるためだけではなく効率的な打ち上げを実現するためのシステムである。パイロットがGを受けるのは速度ではなく加速度に対してだから、このような方式を用いず瞬時に最高速を得ようとすれば人間が保たない。だがそれを可能にしたのが時空間そのものを変形させて飛び越えるゼロウイング、バラクーダの超加速システムでありカタパルトから射出されたバラクーダの姿が次の瞬間には消える、人間もセンサーも時空間跳躍を認識することができないからそのように感じられる。
「でもね、キスを迫るなら近づいてくるわよね!」
出現を確認してから反応しては間に合わない、F4のワイヤーを空間一杯に伸ばして時空間の歪みを察知すると同時に相手が攻撃するタイミングを予測して反撃行動を開始しておく。最初でもなく、二度目でもなく、三度目のリリースが正確に命中して機体ごと吹き飛ばされた相手をそのまま捕捉して逃がさずレディ・マクベスが追撃、バラクーダが再び「消える」前にF4を直撃させて装甲の半ばを消し飛ばした。
「さあ、これでも魔女の予言を覆すことはできないのかしら!」
「女王様を口説くのに五体満足で済むとは思っていないさ」
ここまでで5分が経過、先手を取られたバラクーダがレディ・マクベスのセンサーを振り切って時空振動を開始したのもここからである。時間が経てば更に時空移動が高速化して、手に負えなくなるとしてもネス自身がそれを操れるとも限らない。両パイロットともに自分に人間の反応速度を超えた操縦を要求して、それを成功させることで相手を凌駕することを課していた。ロストヴァがバラクーダの時空移動を捉えるのであれば、ネスは空間が消し飛ぶ中でレディ・マクベスに攻撃を命中させなければならない。攻撃をアクセルバイトだけに尖鋭化しているのは他の方法で当てるなど不可能だからである。
時空移動を開始したバラクーダは中間距離から一瞬で間合いを詰めると、機体がすれ違う瞬間に一撃離脱する。雷撃機そのままの戦法だが戦闘機ならぬ人型汎用機は両腕のマニュピレータで機体の相対位置を補正することが可能だった。空間に出現して一撃、そのまま消える相手を捉えるどころではなくロストヴァをげんなりさせる。高速で一撃、追跡を図るも回避されて再び一撃、しかも上がり続けるスピードに対応しなければならなかった。
「まったく、男ってやつは落ち着きがない!」
「何ものにも縛られないと言って欲しいな」
時空移動と同時に衝突すれすれの空間を擦過、一瞬の方向転換を行い別の空間に消える。パイロットごと機体を揺さぶる、堪え難いほどの衝撃がネスの全身を沸騰させて神経の末端まで感覚が研ぎすまされていることが分かる。今の彼であれば超高速ですれ違いざま針の穴に糸を通す自信があった。
バラクーダの時空移動が最高速に達するまでおよそ10分、序盤にレディ・マクベスが奪った優位は未だ保たれておりあと一撃が命中すれば勝負は決するがネスはそれを許さない。頑なに抵抗する女王の反撃は空を切り続けてその間隙を雷が駆け抜けると残り8分で一撃、3分で一撃を加えてレディ・マクベスに逆転の芽を断ったところでタイムアップ。時空加速に悲鳴を上げる機体をゆっくりと落ちつかせたところで、勝ち誇るよりもむしろ戦いそのものに満足するネスの表情には最高の女を讃える敬意と賞讃の色が浮かんでいた。
「じゃじゃ馬娘に、乾杯」
「ろくでもない男に捕まる女に、同情するわ」
○バラクーダ(30分判定13vs6)レディ・マクベス×
優勝 ネス・フェザード バラクーダ 13戦11勝 /通算38戦22勝
準優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン レディ・マクベス 13戦08勝 /通算60戦38勝
3位 山本いそべ 猫ろけっとR9RV 12戦07勝 /通算60戦38勝
3位 ゲルフ・ドック メガロバイソン7 12戦07勝 /通算58戦35勝
3位 ノーティ テータ 12戦07勝 /通算58戦34勝
3位 テムウ・ガルナ 双腕仕様アスタコネヲ改 12戦07勝 /通算58戦24勝
3位 無頼兄・龍波 オーガイザー 12戦07勝 /通算58戦20勝
8位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号氷の死刑台 12戦06勝 /通算58戦24勝
9位 フランツ=ヨハン 魔王 12戦05勝 /通算12戦05勝
10位 神代進 大リーグボール右1号 12戦04勝 /通算59戦36勝
10位 ジム ランドGM 12戦04勝 /通算47戦28勝
10位 牛山信行 MT拾参足す事の15號 12戦04勝 /通算34戦13勝
13位 シャル・マクニコル 太極師 12戦02勝 /通算58戦16勝
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